幻想郷は、少々肌寒い秋となっていた。それでも時々暖かい日がやってくることがあり、白斗と魔理沙はそんな天気の中をゆったりと歩いていた。というのも、キノコ採集したりする魔理沙と、片づけをした庭で畑作業をしている白斗は、デートする機会が少ない。せっかく恋人になれたというのにこれでは勿体無い。
そこで白斗が勇気を振り絞って、魔理沙を誘ったのだ。
「今日さ……デートに行かないか?」
そして今は広い平原に来ている。草は薄茶色となり、風が吹くたびに乾燥した草がサワサワと爽やかな音を立てていた。
二人はそこに小さなシートを敷いて、バスケットに入っていたサンドイッチを頬張っていた。
「やっぱ、外で食べる料理は最高だな!」
「白斗って、外で食べるの好きだよな~。確かに美味いけどさ」
魔理沙は、眩しい笑顔でサンドイッチを頬張る白斗を見つめていた。
「(こんなに良い笑顔をするなんてな)……)」
ずっと前に、白斗はポツリと自分の過去を呟いてくれた。
気付いたら持っていたというモンスターの能力。彼の母親は白斗を化け物扱いをし、息子に対して話すらもしなかったという。周りからも放置され荒れる日々に手を差し伸べてくれたのが、護だったのだ。
「(力を持ってるからって避けるなんて、それでも親かよ……)」
魔理沙は、普段の白斗は優しい人間だということを知っている。笑うこともあるし、自分が恐怖で足が竦みそうになった時は励ましてくれた。それを知っているからこそ、白斗の親に対して良い感情を持っていなかった。
ずっと前にその事を話したら、苦笑しながら「もう良いんだ」とは言っていたが。
「ん? どうした?」
「え? いや、なんでもないぜ!」
「そうか。早くお前も食えよ。全部食っちまうぜ?」
「おいおい、それは駄目だぜ!」
慌てて残りのサンドイッチに手を伸ばす。もう、さっきの嫌な感情は消えて無くなっていた。
「ふい~、食った食った」
「よく食べるよなぁ、白斗って」
「そうか?」
白斗は首を傾げているが、実はかなり食欲が増えている。これは、能力による副作用かもしれない。
能力の元となっているティガレックスやディオレックスは、とても獰猛な性格だ。能力を使うということは、モンスターの力を借りているようなもの。本能みたいなのが白斗自身に影響してるのだろう。
魔理沙はあまり自覚が無いように見える白斗に苦笑してたが、白斗は気にせずに空を眺めていた。
……魔理沙の膝枕で。
「なぁ。膝枕しなくても良いんじゃないか?」
「いや、全然違う。好きな人の膝ならなおさら、な」
チュッ♡
「んぅ!?」
白斗は魔理沙の顔を引き寄せて、軽くキスをする。突然のことに一瞬固まったが、すぐに顔を赤くした。
「ちょ、いきなりすぎるぜ!」
「最近はこうやってイチャイチャしてないし、別にいいだろ?」
少しだけ欲情したような笑みを浮かべて、魔理沙を見つめる。その表情に、魔理沙も顔が熱くなる。
だが、やがてその表情は消え、周囲を警戒し始めた。
「白斗?」
「……何か来てる。魔理沙、戦いの準備しとけ」
モンスターの本能が告げている。ヤバイ奴が近づいていると。すると、地響きのような音が聞こえてきた。それも段々大きくなってくる。
「これは……下だ! 飛べ、魔理沙!」
魔理沙が箒で飛び、白斗はバックステップで離れる。
すると、そこから何かが凄まじい音を立てて飛び出してきた。その影が着地すると、土煙が晴れてきてその姿があらわになってきた。
乱入者の招待は、なんと女性だった。黒い髪をしており、サラシのような布で胸を隠していて、ホットパンツを履いていた。そして……角とハンマーのような尻尾が生えていた。
「ちっ! あともう少しだったのによぉ」
「……何モンだ、てめぇ」
さっきまでの雰囲気とは一変、白斗は少しばかり殺気を出していた。地面を拳一つで穴を開けたのだ。モンスターである可能性が高い。
目の前の女は前髪をかき上げると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「アタシの名前はディアロ。といっても、『あの方』から授かった名だけどね」
「『あの方』……?」
「デート中のところ申し訳ないが、アタシらの計画の為にも死んでもらうよ! 轟白斗ぉ!」
ディアロは前へ屈むと、猛スピードで突進してきた。そのスピードは、例えるならばダンプカー。もし当たったならばその角で串刺しにされるだろう。
だが、白斗は動かないっ! 一体どうしたというのか?
「白斗! 何で動かないんだよ!? いつもだったら避けるだろ!」
「安心しろよ魔理沙。俺だって伊達に喧嘩してきたわけじゃないんだぜ?」
その瞬間、ディアロの動きが止められた! 魔理沙は、白斗が避けずに腕を伸ばしている理由がすぐに分かった。
「なっ……!?」
「お前みたいな突進してる奴の動きは、俺はもう何度も見てるんだよぉっ!」
「つ、角を掴んでる! その判断力も凄いが、あのスピードを完全に停止させてるなんて! 白斗の能力であるモンスターはどれだけ怪力なんだ!?」
何と、白斗はディアロの角を掴んで完全停止させていたのだ! そのまま彼女の腹に蹴りを入れて距離を離す。すぐに体勢を立て直して睨むディアロだったが、白斗は首を鳴らしながらゆっくりと近づく。
「せっかくのデートを邪魔されて、俺は今最高に機嫌が悪いんだよ。というわけで……俺の八つ当たりに付き合ってくれよな?」