東方竜人帳   作:G大佐

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2016年1月24日、大規模編集


雷撃の咆哮vs黒角竜の咆哮

「ドラァッ!!」

 

 白斗が石を投げ飛ばす。外の世界にいた頃はその場にあった鉄パイプなどを武器としていたが、この幻想郷では石ころでも十分な武器だ。なにせ、ティガレックスの怪力を使って投げ飛ばしているのだから。投げた石ころはプロ野球選手もビックリな速度で風を切り、着弾した土を抉った。大きな土煙が上がる。

 ディアロはその光景を、余裕そうな顔で避けつつ驚いていた。

 

「(まさか、アイツの能力をここで見れるとはね……)」

 

 白斗は石ころだが、自分がまだ人の姿に化ける術を持ってなかった頃に戦った戦友は、巨大な岩を軽々と投げて人間を下敷きにしていた。ディアロはそれを思い出し、なんとなく血がたぎるような心地がした。

 

「(轟白斗……。まさか、アンタは……!?)」

 

 ディアロはある考えが浮かんだ。人間の考え方の一つに、死んだものは別の何かに生まれ変わるというものがあった。もしそれが本当ならば、目の前にいるこの人間は……

 

「なに余裕ぶっこいてんだコラ!」

「……上等じゃないか!」

 

 すぐに考えるのをやめた。自分が「主」から受けた命令は、脅威となるモンスター能力者を始末すること。たとえ戦死したアイツであっても、その前世の記憶は朽ち果てているだろう。だから、今は全力でぶつかる。

 白斗とディアロの拳がぶつかり、地面に亀裂が入る。白斗は肌にびりびりと来る衝撃に、警戒を強める。女だからといって侮ると、痛い目にあう。すぐに彼女の手首を掴んで中へ放り投げた。

 

「そぉら!」

「ぐうっ!?」

「魔理沙、行ったぜ!」

「サンキュー、撃ちやすい角度だぜ! 『マスタースパーク』!!」

 

 白斗がディアロを後ろへ放り投げるのだが、その後ろ側にはミニ八卦炉を構える魔理沙がいた。そこから極太光線がディアロを包み込んだ。

 その勢いはすさまじい物だった。魔理沙も手加減はしなかった。これまでの弾幕ごっこで使ってきたのは、せいぜい煤で汚れたりする程度の低い威力だった。だが今放ってるのは違う。相手の命も奪うような高威力だ。おまけに魔理沙の十八番。結構期待できた。

 ……だが、そうはいかない相手と言うのがモンスターだ。

 

「フシュゥゥゥゥゥ……。中々やるじゃあないかい」

「嘘だろ!?」

「これだけのモンを放ったんなら、あんたも吹き飛ばされる覚悟があるようだねぇ? 恨むんじゃないよ!」

 

 マスタースパークはディアロの肌を少し焼いただけであって、大ダメージは与えられなかった。魔理沙は驚きのあまり動く事ができない。その事に気付いた白斗はすぐに駆け出し、大きく息を吸い込む。

 

「魔理沙、逃げろ! ゴアアアアアアアア!!」

「あぐぁぁっ!?」

 

 ティガレックスの咆哮は、時に物凄い大ダメージを与える。彼の叫びはディアロの皮膚を震えさせ、さらに痛みを与えた。魔理沙はその隙に耳を塞ぎながら、箒に立ち乗りして逃げる。

 白斗は、腕を交差させて身を守っているディアロの腕に渾身の蹴りを放った。彼女の足は地面を強く擦って土煙を上げる。それによって、草が生えていた場所が土色に変わった。

 

「ぬぐぅぅ……。さすが『あのお方』が危険視するだけあるね。凄いじゃないのさ。あぁ、全く最高だよ!」

「さっきも言ってたな。『あのお方』ってのは一体誰だ? お前のボスか?」

「はははっ。そんなの言う訳ないじゃないか」

「そうかよ。だったら……力ずくにでも吐いてもらうぜ! 魔理沙!」

「準備完了だぜ!」

 

 ディアロの周りに魔法陣が浮かび、発光し始めた。どうやら白斗とディアロが軽く話している間に魔理沙が準備をしていたようだ。

 だがディアロは慌てる様子が無い。白斗は、無意識に拳を握り締める。すると彼女は深く息を吸い込み始めた。

 

「スゥゥゥゥ…………ギャアアアアアアアアアアン!!」

「うがあっ!?」

「は、白斗と同じ!?」

 

 いきなりの大声に、二人は耳を塞ぐ。それによって魔理沙の魔法陣は消えてしまった。その隙にディアロは魔理沙に詰め寄る。魔理沙の身体が硬直から解き放たれた頃には、ディアロの拳が腹に叩き込まれていた。

 腹から息が抜かれていく。声を発したくても、身体の方が悲鳴を大きく上げているため声が出ない。魔理沙の身体は宙を舞った。

 

「魔理沙ぁぁ!! ディアロ、テメェ!」

「恋人より自分の心配をしな」

 

 ディアロの赤い目が白斗の顔面を狙う。拳が風を切るような音を立てて振るわれる。……が、バシンッ!という音を立てて防がれた。ディアロの目が驚愕に染まる。

 白斗の腕には、黄色と青が混ざったような鱗が生えていた。だが妙だ。その腕からバチバチと青白い光が発せられているのだ。

 

「あんた、その腕は……」

「もう喋るな」

「グフアアァァッ!?」

 

 肌を焼くような感覚と共に走る痛み。白斗が映っていたはずの視界が、気付けば草原になっていた。さらに腹に衝撃が走り、口の中に酸っぱい物が込み上げてきた。そこへ追い打ちをかけるようにアッパーカット。

 

「吹っ飛べ」

「があああっ!?」

 

 白斗の周りに石ころが浮かび上がり、一斉にディアロの身体を傷つけていく。これは今まで白斗がやったことの無い技だった。石ころに含まれる鉄分が、白斗の能力で発生した雷に反応して浮かび上がったのだ。そこまではいいのだが、それを一斉に同じ方向に飛ばすのは至難の業である。

 なんと、白斗は無意識のうちにやってのけたのだ!

 

「ガハッ! あ、あんた……どこにそんな力が……」

「恋人の……それも命を宿す腹に攻撃を入れられるのを見て、ぶち切れねえ男はいねぇ! 『音壊の波紋』!」

「舐めんじゃないよ!」

 

 轟竜と黒角竜、二つの咆哮がぶつかり合う。

 

「ゴガァァァァァァァァァ!」

「ギャアアアアアアァン!」

 

 肌がビリビリと震えるが、すかさず白斗は動き出す。だが、それと同時にディアロも動いていた。

 

「うぉらあっ!」

「ウラァッ!」

 

 相手の顔面に向けて拳を放つ。そして顔面を捉えたのも同時だった。所謂クロスカウンターである。

 

「………………」

「………………ぐふっ」

 

 ディアロが後ろに倒れ込んだ。白斗は拳を引っ込める。

 

「魔理沙!」

 

 そして気を失ってる魔理沙のもとへ駆け寄って容態を確認する。彼女は気を失ってるみたいだが、もっと詳しく診てもらわなければならないだろう。

 

「とりあえず、永遠亭へ」

「逃がす……かよ…………」

「!!」

 

 ボロボロのディアロが、白斗を睨んでいた。皮膚は焼け焦げ、胸と股を隠しているだけだった布は隠すべきところを隠せている状態なのが奇跡と言っていいところか。

 片足を引きずりながら拳を構える姿は弱々しい。振りかぶった拳は白斗にポスリと音を立てながら当たるだけで、大したダメージにならなかった。

 

「止めときな。お前、大した傷を負ってないように見えて、中身にかなりダメージが行ってるはずだ。ただ死ぬだけだぞ」

「アタシはねぇ……アンタに比べたら遥かに年上なんだよ。ガキんちょが生意気言ってんじゃ……ないよ……」

「命が惜しくないのか、お前は!?」

「はっ! 人間に情けを掛けられるくらいなら、最期まで立ち上がって死ぬことを選ぶね! 『あのお方』の命令を果たせなかったのが心残りだけど……さ」

 

 ついにディアロが倒れた。口から血反吐をぶちまけて、大きく咳き込む。だがその表情はとても誇らしげな笑顔だった。

 

「轟白斗、覚悟しときな。ここはアタシ達が繁栄するにはもってこいの場所……。『あのお方』によって、この世界はモンスターの楽園になるんだからねぇ」

「なに?」

「『あのお方』は凄まじい。アンタでは勝てないだろうねぇ。アッハッハッハッ………ガハッ!」

 

 ディアロは血を吐いて、目を開けたまま絶命した。ただ風が吹く音が、白斗を包んでいた。

 

「……やばい事になりそうだな」

 

 そう呟くと、白斗はディアロに背を向けて、永遠亭に向かって走り始めた。

 

 

 

 

 ディアロの死体がある草原に、一人の女がいた。紫色のローブを身に纏い、魔理沙が被ってるような大きな魔女帽子は、女の目を外側から見えないようにしている。彼女はディアロの顔に手をかざすと、そっと目を閉じさせた。女は寂しげに呟く。

 

「これでまた、優秀な同志が逝ってしまった……。だが、これも我らモンスターのため……」

 

 女は、ディアロの側に花を手向けると、そのまま景色に溶け込むように消えていった。

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