東方竜人帳   作:G大佐

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2016年3月11日、大規模編集


龍殺しの剣vs炎の矛

 旧都のから遠く離れた場所へナナシ達が向かうと、先に店を出て行った炎溶が岩に座っていた。彼はナナシとパルスィの姿を見つけると、岩から立ち上がって睨み付けた。

 

「どうやらオマケがいるみたいだが……まぁ良いだろう。二対一でも構わん」

「その慢心が、君の命取りになる」

「オマケ呼ばわりした事、後悔させてあげるわ」

 

 ナナシは自らの腕を『破龍剣【邪絶一門】』に変化させた。その時に発せられる赤黒い稲妻を見ると、炎溶は舌打ちをする。

 

「龍殺しの剣……! その忌々しい力、消えてもらうぞ!」

「それだけは御免だね!」

 

 炎溶は掌から炎の渦を作り出す。その渦は最初こそ激しく燃えていたが、やがてそれは炎を纏った剣となった。その剣を強く握ると、切っ先をナナシたちに向けた。一方でナナシ達も、ごくりと唾を飲み込むと自らの腕と足に力を込めた。

 

「この剣が貴様を焼き殺す。そう宣言しよう」

「やれるものなら……」

「やってみなさい!」

 

 炎の熱、龍殺しの稲妻、嫉妬の光弾がぶつかり合った!

 

 

 

 

 

 ナナシが地面を蹴って破龍剣で斬りつけようとする。だが、炎溶の炎剣で防がれた。その際にナナシは苦痛で顔が歪む。彼は身体を武器に変える事が出来るのだが、それでも自分の身体の一部・・・皮膚とほぼ同じなのだ。炎剣の熱は、痛覚を与えるのに十分すぎた。炎溶はすかさず、脇腹に蹴りを入れて吹き飛ばそうとする。

 

「焼けろぉ!」

「させないわよ!」

 

 緑色の光弾が炎溶の腕に直撃する。いきなりの攻撃に、炎溶は体勢が崩れそうになった。その隙を逃がさず、ナナシは身体を斬りつける。

 

「があああぁぁぁ!?」

「まだまだ! 『包囲陣・水冷ノ型』!」

 

 腕が元に戻り、炎溶の周りに魔法陣が現れる。そこから水色の弾丸が一斉に襲い掛かった。炎溶の身体から、どんどん熱が奪われていく。

 ナナシは考えていた。相手は炎を使ってくる。これは体内の熱を放出する為だったりすることが多い。だが、元は熱い所に住んでいたモンスター。ならば、身体を急激に煮やされる事が弱点なのではないか? 結果、その目論見は当たった。炎溶はうめき声を上げている。

 

「ナナシ! 油断しちゃ駄目よ!」

「ぐぐぐ、水冷弾を放ってくるとはな……。ならばこうだ! 『鎧化』!」

 

 フラフラと立ち上がると、身体から橙色の粘液状のような物を出し始めた。それは炎溶の胴体を、腕を、足を覆っていく。その怪しくどこか美しい光景に、ナナシ達は目を奪われた。

 橙色の粘液が身体を覆いつくすと、やがて無骨な黒へと変色していく。炎溶は大きく鼻から息を抜くと、ゆっくりと目を開いた。

 

「鎧化完了。やはりこれを身に纏うと落ち着く」

「な、何だか知らないけど、行くわよ!」

 

 パルスィは掌から光弾を作り出して、炎溶に向かって放つ。しかし……

 

「ふっ!」

「……え?」

 

 鎧化した腕を振るった瞬間、光弾はあっさりと弾かれてしまった。パルスィは驚いた。自分の妖力を多く注いで撃ったつもりだったが、こうもあっさり弾かれてしまうとは……。そのショックで少しだけ動きが止まってしまう。そこを見逃さなかった。

 

「貴様は邪魔だ!」

「ガッ!…………カハッ」

「パ、パルスィぃぃぃぃ!」

 

 パルスィの腹に、炎溶の拳が打ち込まれる。身体中から空気が抜けていき、目の前がグラグラとする。聞こえるのはナナシの悲鳴。感じるのは無力感。申し訳なさを感じながら、パルスィの意識は沈んで行った。

 

 

 

 

 

「お…………おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 ナナシは初めてキレた。いつも自分を支えてくれるパルスィを、目の前の男は邪魔者扱いをした。彼女が目を閉じる前の表情が、とても辛そうだった。目が語っていたのだ。

 

「役に立てなくて、ごめんなさい」と。

 

 そんな表情にさせた炎溶に、そのきっかけを作ったかもしれない自分に、ナナシは怒ったのだ。

 身体中から妖力がたぎる。辺りにバチバチと龍属性のエネルギーが溢れ出す。

 

「ぐっ。こ、このエネルギーは……!?」

「僕は許さない! 自分を…………そしてお前を!」

 

 ナナシは妖怪の瞬発力を生かして、炎妖との距離を詰める。そして腕をハンマーに変えた。

 

「『ラヴァ・コア』!」

「ゴブゥッ!?」

 

 ハンマーの重さで殴られた衝撃は尋常ではない。視界が一瞬白くなった。さらに、ハンマーから発せられる熱によって、胴体の鎧が少し柔らかくなってしまった。

 

「図に乗るな! 弱いくせに出しゃばったあの小娘が悪いのだ! 貴様の怒りは間違っている!」

「………………」

 

 否定できなかった。妖怪と、大自然の中を生き延びてきたモンスターとでは格が違うかもしれない。だが……

 

「お前は、パルスィの攻撃を食らってるよね? 僕だけに夢中になっていたばかりに、オマケ扱いしていた彼女の攻撃を受けた。弱者と侮っていた存在に、お前は攻撃を受けていることを忘れてないよな!?」

「グッ……! 黙れぇぇぇ!」

 

 炎溶は身体中の熱を掌に集中させて、太いレーザーを放つ。俗に言うアグナレーザーと言うやつである。ナナシとパルスィに向かって、一直線に進むレーザー。

 だが、ナナシはパルスィを抱きかかえて跳んだ。そして足を鎧に変えて、頭を蹴り飛ばす。

 

「ラヴァ・コアの炎やレーザーの熱で溶けたということはお、前の鎧は溶岩だな? なら……これでどうだ!」

 

 ナナシは左腕でパルスィを抱きかかえ、右腕を変化させる。その武器の名は、ガンランス『オベリスク』。砲撃機能がついた槍という、古代に作られたとは思えない機能を持つ。

 彼は右腕に妖力を溜め込み、エネルギーを溜める。そして炎溶に向かって槍を向けると、それを放出する為の『溜め』に出た。それを見た炎溶は、目を見開く。

 

「待て! まさか、放つというのか!? 『アレ』を!?」

「ご名答だ! 吹き飛べ、『竜撃砲』!!」

 

 その瞬間、身体を抉られるような痛みと衝撃が炎溶に襲い掛かった。身体中の鎧が剥がされ、そのまま背中から地面に叩きつけられる。

 

「ば、馬鹿な……アグナコトルと呼ばれ恐れられた俺が………そんな馬鹿な……」

 

 彼は信じられないといった様子でナナシ達を睨み付けた後、そのままガクリと首を横たえた。そして、そのまま動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

「グスッ……グスッ…………」

「泣かないでよ、パルスィ。相手が強すぎただけだって」

「だってぇ……!」

 

 ナナシの住む小屋で目を覚ましたパルスィは、自分がナナシの足を引っ張ってしまった事に泣いていた。

 ナナシは慰めていたが、それでも自分は呆気なく気を失っていたことに無力感があった。

 

「二対一で行けると思ってたのに、殆ど一対一になってたんじゃ意味無いじゃない……」

「いやいや、僕だって引き止めておけば良かったんだってば。そうすれば、怪我すること無かったんだし……」

 

 話は平行線である。パルスィが自分が無力だったからと言えば、ナナシが自分が止めておけばこんなことにならなかったしパルスィは悪くないと言う。

 この現状を遠くから見ていた勇義たちは苛立っていた。

 

「あ~、じれったいねえ! お相子ってことで良いじゃないか!」

「二人は変なところで強がってますからね。しかも今回は命をかけた戦いだったから、なおさら譲れないのでしょう」

 

 勇義はさとりの言葉に、「早く終わる事を祈るしかないのかねぇ」と呟いて杯の酒を一気に飲み干す。

 すると、ナナシの言葉によって変化が見られた。

 

「最初に僕がやられそうになったとき、パルスィは炎溶の攻撃を逸らしてくれたでしょ? あれが無かったら、僕は一瞬でやられてたよ」

「うぅ……でもそれだけじゃ……」

「それだけ? 僕には十分過ぎるよ! しかも水冷弾を撃った後、実は安心しきってたんだ。奴の弱点は水だって事が分かったからね。でも、パルスィが油断しないでって言ってくれたから、気を引き締めることが出来たんだ。全然無力なんかじゃないよ!」

「……本当?」

「うん。本当本当」

 

 すると、パルスィはしばらく俯いた後、何も言わずにナナシに抱きついた。

 

「わぷっ!? パ、パルスィ!?」

「~~~~~~っ!!」

 

 声にならない声を上げて、身長の事もあってナナシの髪に頬ずりをするパルスィ。その顔は嬉し涙で濡れていた。

 一方ナナシは、顔面に当たっている双子山に顔を赤くしていた。柔らかくて女性特有の匂いが漂っていて、頭がくらくらしそうだった。

 その時である。尻にあった固い板の感触が無くなった。不思議に思ったナナシが下をチラリと見ると、たくさんの目玉があるスキマが真下にあった。

 

「え?…………うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「え?」

 

 よくある悲鳴と共に、ナナシはスキマへ落ちて行った。大きく前かがみになっていたパルスィはそのまま倒れて、地べたに這いつくばってしまう。

 

「あ~、あれって……」

「八雲紫の仕業ですね」

 

 遠くから見ていた勇義とさとりの声が、大きく聞こえた。

 

「……パルパルパルパルぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 そんな橋姫の怨嗟が、地底に響いた。

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