図書館から埃が舞い上がる。しかし、掃除による穏やかなものとは違って、爆音と共に舞い上がっている。パチュリーと小悪魔は結界を張っているが、影夜と白斗の二人は狂竜化したフランのターゲットになったのか、逃げることしか出来なかった。
「アハハハハハハハ! モット遊ボウヨ!」
「冗談じゃねえ! まともにやり合ったら、腕の一本二本じゃ済まないぞ!」
「けどどうするんですか!? 吸血鬼である妹様の方がスタミナは上ですよ!?」
彼女の目はいつにも増して赤く輝き、口からは黒っぽい煙が見える。これが、狂竜症の特徴である。
彼女の右手にある炎の剣『レーヴァテイン』が、時々振り下ろされる。床が大きく抉れるその様子は、喧嘩に明け暮れていた白斗すらも震え上がらせた。
「どうして普段は大人しいフランが、今回は暴れてんだ!?」
「分かりません! 今はとにかく対処法を考えるしかありません!」
「モウ、逃ゲナイデヨ~」
「「っ!!」」
いつの間にか二人は追いつかれていた。フランはニタァと笑みを浮かべながら、巨大な光弾を作っている。
「エーイ!」
可愛いかけ声とは裏腹に、凶悪な威力の弾が放たれる。影夜は覚悟を決めて目を瞑る。
だが、強烈な痛みと衝撃が来ることはなかった。
「影夜! 白斗! 早くこっちへ!」
「パチュリー様! 小悪魔さん! 魔理沙さん!」
そこには、結界を展開しているパチュリーがいた。彼女の結界を補強するかのように、魔理沙がさらに魔法をかけている。
影夜と白斗は結界の中に飛び込む。
「た、助かりました……」
「にしても、アイツどうすんだ? このまま暴れられたら、この紅魔館もタダでは済まなくなるぜ」
フランは、レーヴァテインを結界に何度も叩きつける。力任せとは言えその一撃は強力。パチュリーの腕が震えてきていた。
その腕を支え、更に自身の魔力を流し込む小悪魔だったが、ふと、ある物を見つける。
「影夜さん、白斗さん! ペンダントです!」
「あぁ? ペンダントだぁ?」
「はい。妹さまは、ああいうのを着けた事がありません。それに、あのペンダントから怪しげな光が発せられています! 様子がおかしいのは、アレが原因かと!」
影夜がフランを見ると、首に見覚えの無いペンダントが着けられていた。そこから光だけでなく、僅かながら黒い粉のようなものまで見える。小悪魔の言う通り、原因はペンダントだ。
「白斗さん、協力して欲しいことがあります」
「お、奇遇だな。俺も頼みたいところだったんだ。一緒に言ってみるか。せーの」
「「あのペンダントをぶっ壊すのに力を貸せ」」
「白斗! 結界がそろそろ限界だぜ! 私もキツくなってきた!」
魔理沙が汗を一筋垂らしながら叫ぶ。一方で、二人は顔を見合わせて頷くと、結界の外に出た。
「お嬢ちゃん! 俺たちはこっちだぜ!」
「さぁ、鬼ごっこと行きましょう!」
朗らかに笑う二人だが、影夜の手にはナイフが、白斗の頬にはティガレックスの鱗が浮かび上がる。戦う準備は出来てるようだ。
その事を察したフランは、ニタァと笑みを浮かべる。
「良イヨ。壊レナイヨウニ頑張ッテネ♪」
走り出した二人を追いかけて、フランは地面を蹴った。
空が暗雲で覆われている紅魔館の屋根。太陽が見えなくなったことによって、レミリアは外を歩く事が出来た。だからこそ、図書館から聞こえる爆音の元凶を睨みつける。
「今まで大人しかったあの子が、突然暴れだしたわ」
彼女の視線の先にいるのは、黒い外套を着た男だった。髪は黒色だが、所々に紫色の部分が見える。男の瞳は髪に隠れてよく見えないが、口角が上がっていることから、その感情を察する事ができた。
「貴方よね。フランをおかしくしたのは」
「私は、きっかけを与えたにすぎません。受け取る受け取らないは彼女の意思だ。どんな物かも警戒せずに狂竜結晶を手に取った彼女に、非はある」
「……あの子の純粋さと、内に秘めている狂気を利用したのね。良い事が聞けたわ」
レミリアの手から、真紅の槍『グングニル』が現れる。一方男のほうも、口角をさらに吊り上げ、手の爪を鋭くする。
「私の名前は
「レミリア・スカーレット。貴方の名前を覚える気は無いわ」
爪と槍が、激突した……!
紅魔館の門前では、咲夜と美鈴が小型モンスターを相手に戦っていた。
「くっ! 数が多い!」
「咲夜さん、後ろ!」
「っ!」
美鈴の叫びを受けて、後ろから襲い掛かるランポスを斬る。目を赤く光らせて涎を垂れ流していたランポスは、血も一緒に噴出して絶命した。
一方で美鈴も、同じく目を赤くしているランポスにアッパーをくらわせる。見た目は人間でも、彼女は妖怪だ。ランポスはその一撃を受けると、口から泡を吹いて痙攣する。
「おかしいわね。普段はお嬢様の気配を察知して、この館には襲い掛からない筈なのに……」
「…………」
「どうしたの、美鈴?」
「紅魔館の屋根……誰かいます」
美鈴は、能力の関係上、相手の気配を感じ取る事に長けている。たった今、紅魔館の屋根に大きな気配を持つ存在を感じ取った。
だが同時に、レミリアの気配も同じ場所から感じた。恐らく、迎え撃つ為に外へ出たのだろう。
「咲夜さん。お嬢様の気配も感じました。だとしたら私たちは……」
「えぇ。ここにいる敵たちを倒すのみ」
二人は、拳とナイフ、それぞれの武器を構えて、小型モンスターの群れへと突っ込んでいった……!