白斗と影夜が、フランの放つ弾幕を避けながら走り出す。
「そぅら、こっちだ!」
白斗が前に飛び出して、狙いが自分に来るように誘い込む。フランは相手を倒すという本能に従って動いているため、当然、白斗に注意を向けた。
だが、それも狙いのうち。後ろから気配を消していた影夜が蹴りを放った。
「申し訳ございません!」
「グゥゥッ!? 影夜ァ!」
フランは、白斗へ攻撃しようとしたところを邪魔されたからか、怒りの形相を浮かべて影夜を睨む。
「そこぉっ!」
「ギッ!」
ナイフでフランの首に架かっているネックレスを破壊しようとするが、彼女は腕を交差してそれを防ぐ。そのせいでフランの腕から血が流れるが、吸血鬼の再生能力ですぐに傷は塞がった。
影夜は、そうだと分かっていても辛いものがあった。いくら再生できるとはいえ、痛みは消せない。仕えるべき者に刃を向けるのは、抵抗があった。
「影夜ぁ! ボウっとしてんじゃねえ!」
「っ! す、すいません……」
「ったく……こっち来い!」
白斗は影夜の襟をつかんで無理やり走り出す。
「逃ガサナイ!」
「いいや、逃げさせてもらうぜ! スゥーッ…………ガアアアアァァァァァァァ!」
「グギャアァッ!?」
「うぐぅっ!?」
追撃をかけようとするフランを、白斗は、自分の武器である大声を利用して近づかせないようにした。そのあまりの破壊力に、影夜もダメージを受けてしまう。
フランの動きが止まった隙を見て、近くの物陰に隠れた。
「ふぃーっ。何とかなったかな……ん? どうした?」
「白斗テメェ……! 俺の能力になってるモンスターは爆音に弱いんだよ! そこん所考えろ!」
「おー悪い悪い」
目を赤くして怒る影夜だが、白斗は気にしていない様子。むしろヘラヘラしていた。
「そんだけ怒れれば十分だな」
「あぁ?」
「お前、まだ躊躇いがあるんだろ?」
「っ!」
影夜は体を一瞬だけ震わせると、俯いてしまった。白斗は「やはりな」と小声で呟く。
「お前の気持ちは、俺にはよく分からねえ。俺はお前じゃないからよ。だけど、あの子のネックレスを壊さないとヤバい。それは分かる」
「ですが……」
「あの子を傷つけずにネックレスを壊す方法でもあんのかよ?」
「……いえ、ありません」
白斗は溜息を吐くと、影夜の胸倉を掴む。
「だったら、ウジウジしないでやるしかないだろうが! ネックレスの力で苦しんでるのは、あの子なんだぞ!」
「私には、お嬢様と妹様に拾われた恩がある。その恩を刃で返すなどできるわけがない!」
「じゃあ従者は主にただハイハイ言ってりゃ良いのか!? ふざけんじゃねえ! 主がヤバくなったら助けるのが従者だろうが!」
「お前に私の何がわかる!」
「躊躇ってることが分かんだよ! お前がやられて悲しむ奴のことも考えろコノ野郎!」
影夜は、歯をギリギリと鳴らしながら考え込む。白斗に言われて一瞬だけ頭に血が昇ったが、すぐに冷静になれた。彼は考える。
影夜の頭の中には、レミリアやパチュリー、美鈴に咲夜、そして小悪魔の笑顔が浮かぶ。そしてその中で足りない笑顔。それはフランだ。
…………本当にそうだろうか? なぜか納得がいかない。自分が思い浮かべたい本当の光景とは何だろうか?
「……………………」
「ヤット追イツイタ!」
「クソッ! やるしかないか!」
レーヴァテインを振りかざして床を砕くフランに、白斗はパチンコ玉をポケットから取り出す。玉に電気を纏わせて思いっきり投げた。だが、フランはそれを打ち返してしまう。
「おぉぉぉ!? 嘘だろ!?」
打ち返した先にいた魔理沙が慌てて避ける。その様子に、白斗の動きが一瞬だけ止まってしまう。
「魔理沙ぁ!」
「ソコダァッ!」
「がっ!?」
フランが吸血鬼の力で白斗の腹を蹴る。
「あっ……ガァッ……!」
「……っ!」
呻く白斗を見た影夜は決心したのか、目を赤く光らせて能力を発動する。
「今助けます!」
影夜が走り出すと、フランがそれを見つけて攻撃する。だが、彼のスピードの前では無意味だった。
影夜は横から迫るレーヴァテインをジャンプして避け、ナイフを投げる。それはただのナイフではなく、純銀のナイフだった。
「ガァッ!?」
「今だぁ!」
蹴りが勢いよく放たれる。が、それを片手で封じられてしまう。フランの表情は今までにない恐ろしさがあった。
「影夜ァァァァァァァ! モウ許サナイ! ぐちゃぐちゃニシテヤル!」
「あいにく、私は死ねません! 白斗さん!」
「ッ!?」
フランが振り返った先には、体から青白い稲光を放ち、大きく盛り上がった腕でパチンコ玉を投げようとしている白斗がいた。
「充電完了だぜ…………。覚悟しろよ嬢ちゃん!」
「ヒッ! デ、デモ飛ンデシマエバ…………」
「逃がさない!」
影夜が、ナイフでフランの太ももを突き刺した。その痛みによって動きが止まった。
「だらっしゃぁぁ!」
「キャアアアアアアア!?」
ディオレックスの怪力で投げられたパチンコ玉は、恐ろしい威力を持ったままフランに命中する。影夜は着弾寸前に回避したため、巻き添えにならかった。
「ア……ガァ…………」
「よし、これで……」
フランは膝をつき、ボロボロになっていた。影夜はネックレスを破壊しようと近づく。
だが、フランが小さくニヤリと笑ったのを、白斗は見逃さなかった。
「影夜ぁ! 逃げろぉ!」
「っ!」
「アハハハハハ! 死ンジャエェェェェェ!」
瞬時に出されたレーヴァテインが、影夜を飲み込んだ。白斗も、援護に駆け付けた魔理沙とパチュリー、小悪魔も、その瞬間を見てしまった。
「嘘でしょ……」
「影夜…………さん……」
「マジかよ、おい……!」
小悪魔にいたっては涙があふれる。自分が惚れた相手が、炎に飲み込まれてしまったのだ。これほどまでに悲しいことがあるだろうか。
「ギャアアァァァァァ!?」
「っ!?」
突如、フランの叫び声が響いた。俯いていた顔を上げると、フランの後ろからナイフでネックレスを壊した影夜がいた。
「影夜!? ど、どうして……」
「危なかったですよ。あの時素早く逃げていなかったらどうなっていたことやら……」
「素早く……? まさか、炎に飲み込まれたのは」
「残像、ということ!?」
魔理沙とパチュリーが驚きの声を上げる。
「ア……ガァ……グガアアアァァァァァ!!」
全身から黒い煙が放たれる。煙が晴れると、フランはぱたりと倒れてしまった。
影夜が慌てて駆け付ける。
「妹様!」
「大丈夫だ影夜。気を失ってるだけだよ」
白斗がすぐに容態を確かめて、影夜を安心させる。
「にしても、ハラハラさせやがってこの野郎!」
「私だって、本当に危機感を抱いたんですからね!?」
「火事場の馬鹿力ってやつかい、全く……お?」
「小悪魔さん……」
救急箱を持った小悪魔が、影夜に近づいてきた。白斗は雰囲気を察したのか、気づかれないようにこの場を去る。
「こんなに傷だらけになって……。お薬、塗ってあげますね」
「え、いや、これくらいなら能力の副作用で自然に……」
「いけません! 小さな傷が命取りになることもあるんですから!」
「は、はい……」
モンスターの能力の影響で、影夜たちモンスター能力者は傷の治りが早い。その事もあって断ろうとするが、小悪魔の勢いに負けてしまった。大人しく手当てを受けることにする。
「(私がやられて悲しむ人……。小悪魔さんは、私を……?)」
自分が理想とする光景。それは、家族当然である紅魔館の全員と一緒にいることだ。だが何故だろうか。小悪魔が悲しそうに治療している今の顔を見ると、自分まで悲しくなってくる。
いつからだろうか。小悪魔のことを意識することが多くなったのは。
「(あぁ……。もしかしたら私は……)」
自分の気持ちに、気付き始めた影夜だった。