東方竜人帳   作:G大佐

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2017年11月7日 大規模編集


レミリアvsゴア・マガラ

 曇天の下の、紅魔館の屋上。そこでは火花が散っていた。黒蛾の鋭い爪と、レミリアのグングニル。この二つが時につばぜり合い、時に甲高い音を立てて弾く。そんな攻防が繰り返されていた。

 

「あなた、大きな図体をしてる割には良い動きするじゃない」

「館の主に褒められるとは、光栄ですね!」

 

 黒蛾の爪が、レミリアの顔を貫こうと迫る。だが、少し顔を逸らすことで顔面が串刺しになることを免れた。さらに手の平に魔力を込めて光弾を作り、黒蛾の腹に当てる。至近距離での攻撃だったこともあり、少しは効いたようだ。

 

「む……」

 

 顔をしかめた黒蛾は、バックステップで距離を離すと同時に手の平から黒い霧を放つ。それを危険な物だと察したレミリアは霧を吸わないように、腕で顔を覆う。

 

「くらえ!」

「っ!」

 

 黒蛾が指を鳴らした瞬間、あたりに大爆発が起こる。そして煙に包まれるが、バサバサバサという羽音がまだ戦いは続いてることを告げていた。

 煙が晴れると、無数のコウモリの群れが一つの形となりレミリアの姿に戻る。その光景に、黒蛾は目を妖しく光らせた。

 

「やはり、幻想郷の住民は只ではやられないか……」

「ふっ。影夜たちを警戒するあまりに、私たちを侮っていたようね。……本当に叩き潰したくなる」

「……良いでしょう。やってご覧なさい」

 

「叩き潰せるなら、な」

 

 その瞬間、額から角が、尻からは尾が、背中から膜の生えた腕が現れる。そしてそのまま、レミリアを叩き潰さんと振り下ろす。

 突然の変貌に驚愕したレミリアだったが、すぐに飛び退くことで直撃は免れた。だが、目の前には人間の腕を振りかぶっている黒蛾の姿が。

 

「っ!?」

「ラァ!」

 

 レミリアの頬に拳が沈み込む。そのままゴロゴロと転がり、あともう少しで屋根から落ちるというところで止まった。何とか立ち上がるも、黒蛾が距離を詰めてくる。

 

「ハアアァァァァッ!」

「影夜に比べれば、貴方はまだ遅いわ!」

 

 コウモリの群れとなって攻撃を避けると、空中で元の姿に戻る。紅の光弾を放つが大したダメージにはなってないようだ。

 ならば次の弾幕は……そう考えた瞬間、ガクンと膝をついてしまう。

 

「ぐっ……! 力が入らない……!」

「ふふ、効果が出始めたようだな」

「効果……ですって…………?」

 

 黒蛾の足元には、黒いガスのようなものが円状に広がっている。それと同じものが、レミリアからも噴き出ていた。

 

「ふっ……ぐっ……!」

「私の身体から噴き出る『狂竜ウイルス』は、感染した者に脱力感を与え、自然治癒能力を低下させる。やがて理性すら抑えられなくなり、狂暴化する……」

「やってくれるわね……」

 

 レミリアは歯を食いしばりながらも立ち上がる。だが、まだふらついているところを黒蛾は見逃さない。膜の生えている腕で素早くレミリアを掴むと、握る力を強くしていく。

 

「ガ、アアァァァァァァァ!」

 

 ギチギチギチという嫌な音が鳴り始める。恐らく、そのまま握りつぶすつもりだろう。身体からさらに濃い狂竜ウイルスを噴き出しているあたり、『狂竜症』の発症を早めようとしてるのも分かる。

 

 

 だからこそ、黒蛾は分かっていなかった。500年生きてきた吸血鬼を狂暴化させる事は、どれだけ恐ろしいかを。

 

 

 先ほどまで悲鳴を上げていたレミリアは、急に黙ったかと思うと、体をコウモリの群れに変えて脱出する。そして素早く元に戻ると、美しさを無視した容赦ない弾幕を放った。

 そんな彼女の赤い目は、より赤く輝いていた。

 

「ふっ!」

「むぅっ!?」

 

 弾幕によって怯んでいる隙を突いて、鋭い爪で黒蛾に傷をつける。腕で素早くガードしたものの、肉を抉られた。

 

「(ぐっ……! 狂暴化させたのが、かえって仇になったか!?)」

 

 だが、彼は思い違いをしていた。レミリアは完全に理性を捨てたわけではない。彼女はウイルスの『理性を失わせる』効果を利用して、吸血鬼としての本能をほんの少しだけ開放したのだ。

 本能を開放するということによって、ウイルスによる脱力感を克服した。だから素早く動けるようになったのだ。……最も、ダメージを負っていたためほぼ無意識でやったことだ。運も良かったのだろう。

 

「クククッ! 体が軽いわ! 全身が羽になったような気分よ!」

「調子に……乗るなぁ!」

 

 手の平から黒い球体を作り上げると、迫りくるレミリアに投げつける。だが彼女はそれを片腕で払うと、驚いて固まっている黒蛾の角を掴んだ。

 

「ぐぬぅっ!? は、離せ!」

「そこが弱点みたいね? さっきのお返しよ! 受け取りなさいな!」

 

 掴む力が徐々に強くなっていく。弱点を握られる痛みによって、背中から生やした腕を動かすこともままならない。

 やがて黒蛾の角はビキビキと音を立てて……ついに握りつぶされた。

 

「うぐおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

「っ!」

 

 最後の抵抗と言わんばかりに、口を大きく開けて噛みつこうとしてきた。だが、レミリアはすぐに避ける。

 黒蛾は距離をとられると、今度は黒い球体を何発も放ってきた。辺りが黒い霧に覆われる。レミリアは、また狂竜ウイルスに感染するわけにはいかず、動けなかった。

 そして、霧が晴れた時には……すでに黒蛾の姿は無かった。

 

 

 

「…………逃げられたわね」

 

 黒蛾が去った影響か、ねずみ色の空から光の筋が何本も刺してくる。屋根からピョンと飛び降りて優雅に着地する。すると、咲夜と美鈴が駆けつけて来た。二人とも目立ったケガは無いが、やはりモンスターの群れには苦戦したのだろう。所々、服が破けていた。それにも構わず、咲夜が日傘を開く。

 

「お嬢様、こちらに」

「ありがとう。ところで、貴女たちが来たということは、紅魔館の周りも大丈夫ということね?」

「はい。美鈴が一気に片付けてくれましたので」

「何言ってるんですか! 咲夜さんの能力もなかったら危なかったですって!」

 

 変なところで遠慮しあう二人である。そんな様子に心の中で苦笑を浮かべながら、レミリアは館を見る。

 

「……フランの方も、影夜たちが何とかしたみたいね」

 

 その言葉には、皆が無事であることを喜んでいるような感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷の誰も知らない場所に、巨大な古城がある。

 

 その古城の中でも一際大きな部屋に、玉座に腰掛ける男がいた。部屋が暗いせいで、詳しい容姿を見ることは出来ない。

 そんな男の前には、膝をつき頭を下げている黒蛾がいた。

 

「……以上になります」

「ゴア・マガラ……いや、黒蛾よ。ご苦労だった。幻想郷の奴らにダメージを与えることが出来たのは大きいぞ」

「ありがとうございます。しかしこれで、幻想郷の連中を、より一層警戒させてしまったかもしれません」

「構わん。不具合というのは必ず起こるものだ。今はその怪我を治せ」

「はっ!」

 

 黒蛾は翼を外套に変化させて、部屋を去っていった。それと同時に、御伽噺に出てくるような魔女服を着た女が現れる。

 

「……オオナズチか。どうした?」

「他の者達は、いつでも出ることが出来ます。いかがなさいますか?」

「……出撃させるのは誰でも良い。だが、次は地底を攻めようと思う。良いか?」

 

 オオナズチは丁寧に礼をして、目の前の男の名を口にした。

 

「かしこまりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………ミラボレアス様」

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