~護と早苗~
妖怪の山の雪も融けはじめ、少しばかり風が強い季節になった。護は、自分の部屋で本を読んでいた。
「グラビモスは睡眠ガスも使うのか……」
読んでいたのは、リオのいた世界で言う『モンスターの書』と呼ばれるものである。これには様々なモンスターの特徴が記されており、護は偶然にも、自分の能力である鎧竜・グラビモスについて書かれた本を手にしたのだ。
ちなみに、影夜や白斗といったモンスター能力者たちも『モンスターの書』を香霖堂から買い取った。他の者達も今頃は読んでいる頃だろう。
「護さ~ん。お昼ごはんですよ~」
「ん? ……あぁ、もうそんな時間か」
襖から早苗がひょっこりと顔を覗かせて、昼時を告げた。どうやらずっと本を読んでいたようだ。
返事をした瞬間、肩に痛みが走る。思わず顔をしかめた。
「うっ!
「もしかして、肩こってますか?」
「そのようだな。イタタタ……」
「それじゃあ、肩を揉んであげましょうか?」
「……え?」
護は少しだけ躊躇った。というのも、どこか年寄り臭い感じがしてしまうのと、ここのところ早苗とデートする機会が全く無かった為、早苗に触れた途端に顔がにやけてしまいそうだったからだ。
しかし、肩が痛いのは事実。ここは甘えることにしよう。我慢することは良くないだろう。多分。
「それじゃあ、お願いするかな?(頼む。理性を保ってくれよ、俺)」
「はい!」
そっと肩に手が添えられる。ゆっくりと自分の肩が揉まれていくのだが、力加減が丁度良い。痛過ぎず、力が弱いわけでもない。自然と気持ちの良い溜め息がこぼれる。
「あ~~~~。やべぇ、とても気持ち良い」
「クスッ。本当に疲れてたんですね。肩がバキバキになってるのが分かりますよ?」
「凄い幸せだ……こうして、恋人に肩を揉んでもらうのは夢にも思わなかったし」
「えっ、そんな……。いきなり嬉しいこと言わないでくださいよ~」
早苗は、突然『恋人』と言われて頬が緩んでしまった。言葉では否定しているものの、声のトーンや話し方で、照れているのはバレバレだ。
「(……可愛いな)」
護の部屋は火鉢のおかげで暖かくなっていたが、それ以上の暖かさを、早苗と護は感じていた。
『神奈子~。春だね~』
『そうだな。どうやらかなり早く、守矢神社にだけ春が来たようだ』
神奈子と諏訪子は、そんな光景を暖かく見守っていた。
~白斗と魔理沙~
いくら冬が終わりに近くなってきたとはいえ、魔法の森の中に家がある以上、まだ寒さはあるものだ。
魔理沙は自室で、あるものを作っていた。あともうちょっとで完成である。
「…………よしっ!完成だぜ!」
魔理沙は自分の手にある『ソレ』を見て、満足したように頷く。かなり上出来なようだ。頬が、にへら~となってしまう。
そこへ、コンコンとノックする音が聞こえた。
「魔理沙ー? 大きな声出してどうしたー?」
「っ!? な、何だよ白斗かよ~。ビックリさせんなよな~」
「へへっ、悪い悪い」
ドアの隙間から部屋を覗くのは、恋人である白斗。普段は明るく喋り、馬鹿のように見えて実はしっかり者という人間。
魔理沙は、だらしない顔をしてないか不安だった。だが、どうやら顔までは見られていないようだ。心の中で安堵の息をつく。
「それじゃあ……そろそろ行こうか?」
今日はとても良い星空が見えるという。今晩は、魔理沙イチオシの穴場へ行く事になっていた。
だいぶ暗くなってきた頃。ランタンを手に、白斗は周囲を警戒しながら魔理沙の後を付いて行く。モンスターは魔法の森にも現れる。少しでも警戒して損はないのだ。
「よ~し。ここだぜ、白斗!」
「……おぉ~。これは……すげぇな…………」
そこには大きな切り株があった。年輪を見ると、かなり樹齢の高い木だったのだろう。光を遮る物を失ったその場所には月光が射し込み、幻想的な雰囲気を作っていた。
「よっと。今日はここに腰掛けて、冬の天体観測といこうぜ?」
「そうだな。よっと」
二人で座ってもまだ余裕があるほど、その切り株は大きかった。動物たちも冬眠してるため、たった二人きりである。外の世界にも、こんなに素晴らしい星空を見れる場所は少ないだろう。白斗は静かに興奮していた。
しかし、今はまだ雪が残る季節。しかも夜なので寒い。白斗はブルリと身体を震わせた。
「寒いな…………」
「おっ、そうか? じゃあ……これを巻くか?」
魔理沙が取り出したのは、白いマフラー。しかし見てみると、かなり長い。二人くらいなら軽く包めそうなほどだ。
実は、最初に魔理沙が作っていたのはマフラーだったのだ。しかも二人で一緒に巻きつけるタイプのを、白斗に内緒で作っていた。いきなりこういうサプライズをすると、白斗は顔を赤くする。その反応が見たかったのだ。
「これ、まさか手作りか?」
「おう! 一度で良いから作ってみたかったんだ。こういう……恋人っぽいのを」
いつにも増してモジモジしてる魔理沙を見て、白斗は正直ドキドキしていた。寒さのせいか照れてるせいか分からないが、頬が赤くなっている。、今日の魔理沙はかなり可愛い。
そんな白斗はマフラーを首に巻くと、右腕で魔理沙を抱き寄せた。そして、余った分を魔理沙の首に巻きつける。
「俺のために作ってくれたんだろ? ……とても、暖かいぜ」
「……ありがとう」
二人は、互いの温もりを感じながら冬の星空を眺めていた。