「消し炭となりなさいな」
「っ!」
霊夢に灼熱の炎が襲いかかろうとしていた。それを見ていたリオは、手の平に炎を溜め込む。
「霊夢、スマン!」
爆音と共に、霊夢の身体は大きく吹き飛ぶ。リオが火球を放ったのだ。これによって霊夢は軽いやけどを負っただろうが、エンプレスの炎によって消し炭にならずに済んだ。一方でエンプレスは忌々しげにリオを睨む。
「ふうん? その炎……貴方、リオレウスね? どういうつもりかしら?」
「俺は人間を気に入ってしまってるんでな。ましてや霊夢にはそれなりに恩がある。ここで死なせるわけにはいかない」
「そう。貴方には炎は無意味ね……。それなら、爪で引き裂いてあげるわ!!」
エンプレスが、爪でリオを引き裂こうとする。リオは静かに緑桜剣を構えた。
しかし!
「おりゃああああ!」
「ぐうっ!?」
エンプレスに何かがぶつかった。見ると、緑髪の幼い少女……キスメが桶を使って体当たりをしていた。その隙に、ヤマメがリオたちの元へ駆け寄る。
「リオ、霊夢! 大丈夫かい!?」
「俺はどうって事ないが、霊夢がヤバイ。離脱させないと殺されるぞ」
「だったら、ここはアタシ達に任せな」
勇義が現れる。近くでは、パルスィがナナシの傷を診ている。
「あんたも結構危ないんだろ? 少し休んでおきな」
「……スマン」
リオは勇義の肩を借りて、その場から離れる。ヤマメも霊夢を背負って戦線離脱した。
エンプレスはリオ達を追おうとするが、ナナシ達の弾幕によって行く手を阻まれた。一方でパルスィは、ジト目でナナシを睨む。
「一人で古龍……だっけ? それに挑むなんて馬鹿じゃないの?」
「……ごめん」
「謝るのなら、もっと私たちを頼りなさい! 私たちだって伊達に長生きしてないわよ」
「……うん!」
二人は、それぞれ片手を前にかざして再び光弾を放つ。だが強靭な鱗を持つエンプレスは、片手で薙ぎ払う。
「数が増えたくらいで勝てると思うな!」
「無論、そのつもりさ!」
ナナシは腕を片手剣にして、エンプレスを斬りつける。彼女は瞬時に甲殻で腕を覆うが、痛みが走ることに変わりは無かった。
そこを追撃するようにパルスィが鋭い蹴りを放つ。彼女も妖怪。人間より強い力で出される蹴りは痛いものだ。
「くっ!もうこうなったらヤケクソよ!」
辺りに赤い粉が撒き散らされる。ナナシは急いでパルスィの手を引く。すると、エンプレスの周りが爆風に包まれた。
「あれって……自爆?」
「違う。あの爆発に耐えられるほど強いか、何か工夫をしてるかどちらかなんだけど……」
エンプレスについて考えている二人だったが、この時の二人は気付いていなかった。自分達の周りに
「あっははははは! 吹き飛びなさい!」
「「っ!?」」
その瞬間、熱風と衝撃が襲い掛かってきた。二人の思考は混乱に染まる。
「(どういうこと!? 確かにエンプレスの近くで爆発したはず!)」
「(ここまで爆風が届くなんて……ありえないわ!)」
地面に叩きつけられる二人。そこへ二つの影が降り立った。
「ナナシ、パルスィ! 無事か?」
「加勢します!」
護と早苗だ。全速力で飛んできたものの、今度はイーオスの群れに妨害されそうになったのだ。それらを討伐した二人は無事に到着し、こうして加勢することが出来た。
「遅いよ護!」
「いざと言うときに限って良い所取りなんて、妬ましいわよ」
「すまねえな。さて、と……。あの際どい恰好してる女が敵だな?」
「幻想郷のためにも、倒させていただきます!」
「ちぃ! 次から次へと……。鬱陶しいのよ!!」
エンプレスは更に熱の力を強める。口からは炎が溢れ、爪も更に鋭くなった。
「こうなったら全力よ! お前ら全員殺してやる!」
「全員散開!」
辺りに黄色い粉が撒き散らされる。ナナシは叫んで離れるようにする。離れたと同時に再び爆発が起こった。
これでナナシは確信する。
「やっぱり! 黄色い粉のときは遠距離に、赤い粉のときは近距離で使い分けてるのか!」
「ならば、今がチャンスね! 妬符『グリーンアイドモンスター』!」
パルスィが緑色の光弾を撃ちながらエンプレスへと近づいていく。ナナシは彼女を援護しようと走り出した。
更に護と早苗も、スペルカードを構えながら一気に近づく。
「図に乗るなよ人間風情がぁ!!」
怒りに染まったエンプレスは、最大級の炎を吐き出した。このままでは全員が消し炭になりかねない。
しかし、早苗は結界を張ることで、護は鎧化をして身を守った。ナナシも片腕を盾に変えてパルスィと自分の身を守る。
「怒りに染まった奴ほど、攻撃が大降りで隙だらけになるってモンだ」
護がエンプレスの顔面にアッパーをくらわせる。妖怪の山で鍛えられた一撃は中々のダメージだ。それにモンスターとしての怪力も加わればとんでもない威力だ。
さらに早苗が、青色の光弾を地面に放ち土煙を起こす。これでエンプレスの視界を封じた。
「あぐぅ! まだ…………だぁ!」
「(しまった! 油断した!)」
エンプレスは翼で土煙を晴らし、護に対して連撃を繰り出す。古龍の鋭い爪は容赦なくグラビモスの甲殻を削っていく。
早苗が近づこうとするが、赤い粉を撒き散らして牽制される。いつ爆発を起こすか分からないのだ。
「まずは貴方からよ!」
「がっ……はぁ……!」
「護さん!」
「貴女も邪魔ぁ! 吹き飛びなさい!」
護はとうとう連撃に耐え切れず、彼女の右ストレートを受けてしまった。早苗が急いでエンプレスに一撃を入れようとするが、振り向きざまに放たれた回し蹴りで、大きく吹き飛ばされた。
護と早苗は気を失って動けない。殺されてはいないものの、二人はエンプレスに敗北した。
「さあ、残るは貴方たちよ。あぁ……! これでテオの仇を取れる……!」
ゆっくりと、恍惚とした表情でナナシ達に近づくエンプレス。しかしナナシの目には諦めの色が見えない。
右腕を変化させた。先端がランスのように尖っている。左腕には謎の紋様が浮かび上がっている。武器ならば盾の役割をしている部分が、ナナシには結界と言う形で現れてるのだ。
エンプレスは走りながら、爪に力を込める。
「さあ、私の悲しみを思い知れぇぇぇぇぇ!」
「結界、展開!」
腰を低く落として結界を展開する。そして右腕のランス状の腕を突き出す!
「ぐあああ!? こ、これがミラボレアス様の言っていた、龍殺しの武器の力ね……!」
「(ミラボレアス!? 何だその名前は……。寒気がする……)」
「ナナシ、ぼうっとしちゃ駄目!」
パルスィは、ナナシが一瞬だけ動揺したのが分かった。すぐに声をかけて反撃に移るようにする。
我に返ったナナシは更にランスを突く、突く、突く!
「がっ! ぎっ! うぐぅっ!
「これはおまけ!」
「ごはぁっ!?
さらにランスの先端から砲撃が放たれる。ナナシが変化させている武器は、見た目はランスのようだが、ランスとはちょっと違う。
砲撃機能を兼ね備えた武器…………ガンランスである。名は『デオス・オシリス』。太古の武器である。
「な、なぜ……? 人間に扱われるだけの武器が……なんで…………!?」
「背中ががら空きよ!」
「パルスィ、これを!」
「っ!」
エンプレスは、あまりにも強すぎる攻撃によって、軽い混乱状態になっていた。そのせいで大きな隙を許してしまう。ナナシがパルスィに、常備しているモンスター解体用のナイフを投げ渡した。そしてパルスィは、そのナイフで背中を斬りつける!
「ぎゃあああああああ!」
「今よ!」
「これで終わりだ……! 『竜撃砲』!!」
大きく仰け反ったところを、ナナシは最大の砲撃である『竜撃砲』でトドメを刺す。
エンプレスの目の前は真っ白になる。それと同時に、最愛の夫……テオが微笑んでいた気がした。
「あなた……。あぁ……愛しい人……。私も貴方の元へ……」
ガンッ!という音が、部屋に響いた。暗い王室のような場所で、『あのお方』と呼ばれる男……ミラボレアスが震えていた。
「ナナ・テスカトリまでやられたというのか!? 何という……何という成長速度……!」
予想外だった。ここまでモンスター能力者が強くなっているとは思わなかった。
完全に甘く見ていた。強大な力を持つモンスターをかなり失った今、このまま隠れて攻撃しても無駄だろう。ミラボレアスはある決断をした。
「……ナズチ。いるか?」
「ここにおります」
「お前も分かってると思うが、この城には結界を張っていた。他の者達に居場所を探られない為だ」
妖怪の賢者と呼ばれる八雲紫ですらミラボレアスを探せないのは、この城に張られている結界が原因だ。遠い昔に、人間の書物を読んで真似をしてみた結果得ることできた、特殊な術。幻想郷の中でも遠い辺境の地にあることも相まって、今まで見つからずにいられたのだ。
「しかしこのままでは、戦力を失うばかりだ。そこで一か八かの賭けだが……」
「この城の結界を解く。モンスター能力者も、幻想郷に住む者も、本格的に攻撃するぞ」