「よっ……と。到着ね」
「ここが……。すげぇ、強い力がひしひしと伝わってくるぜ……」
スキマを通ると、そこには巨大な城があった。護はその城から放たれる威圧感に冷や汗を流している。
いや、護だけではない。霊夢やリオといったこの場にいる全員が、その威圧感に押されかけていた。
「こ、このくらいでビビッてたら話にならないわよ!」
「そ、そうだぜ! 進まないと異変は解決されないぜ!」
しかし、霊夢と魔理沙はなんとか耐えて、護たちに喝を入れる。
「護さん。行きましょう!この奥に、黒幕がいるんです。私たちで……倒しましょう」
「……あぁ! 行こう!」
早苗の励ましによって、護はなんとか立ち直る。そして、ミラボレアスのいる城の奥へと進んでいった。
「…………来たか」
天井がなく、暗雲が見える一室。そこには、不気味なほどの黒い髪と金色の瞳を持つ男がいた。ボロボロのマントを羽織っていて、それ以外で身に着けているものは腰蓑くらいだ。
「お前がミラボレアスか!」
「いかにも。我が名はミラボレアス。この城の主であり、幻想郷を我が物にせんとする者でもある。ボレアスとでも呼んでくれたまえ」
「……いくつか聞きたいことがある。お前はモンスターを率いることが出来るほどの存在のはずだ。だが、この城にはどこにも居ない。どこへ行った?」
道中、人と化したモンスターに出会うことは無かった。体力を消耗することなく来れたことは良かったが、逆に不安にもなる。
だが、ミラボレアスから発せられた答えは意外なものだった。
「この城にはもう居ない。我が全て逃がしたのだから」
「逃がしただと?」
「我らの目的は『モンスターの繁栄』。ただのモンスターだけでなく古龍すらも打ち破った貴様らだ。例え襲わせたとしても、突破されることが目に見えている」
「次は私よ。モンスターの繁栄って言ったわね? すでに幻想郷は小型モンスターが棲みついてるし、時々だけど大型モンスターなんかも見えるわ」
霊夢が警戒しながら、質問を投げかける。なぜ神々が住むこの地を狙うのか? なぜ人間を滅ぼそうとするのか? 気になって仕方がなかった。
「……人間は、力を手にすれば増長し、静かに自然を破壊していく。我々は、力を手にした人間によって、住処を追いやられたのだ!」
「何だと?」
「はるか昔、我々は人間と共存していた。モンスターが人間を食らい、人間はモンスターを倒してその日の糧とする。そのようにして調和が取れていたのだ」
しかし、とボレアスが続ける。
「産業革命と呼ばれる時が訪れたのだ。人間は、簡単にモンスターを殺せる道具を作り出した……。そこの小童が、まさにその遺産よ!」
「僕が……!?」
ナナシを指さす。
「人間は次々と数を増やし、その腹を満たすためにモンスター達を殺していった。それだけならまだ良い。しかし奴らは! 娯楽のためだけの殺戮を始めていったのだ!」
「護……」
「耳が痛い話だぜ……。似たような歴史を歩んでるからな。外の世界は……」
白斗と護が、顔をしかめる。自分たちがいた世界でも、絶滅危惧種が金のためだけに殺されたり、人間の生活の豊かさと引き換えに、生物の住処を追いやっていた。今はそれを何とか解決しようと努力をしているが、長い時間がかかる事は明らかだった。
だからこそ、ボレアスの言うことは、人間の罪を述べられてるような、耳が痛くなる話だったのだ。
「それだけではない。人間は、やってはならない事をやってしまったのだ」
「やってはいけない事……?」
「人間は、モンスターの鱗、甲殻、角に臓器とあらゆるものを使い、偽りの命を作り上げたのだ! それだけでは飽き足らず、その偽りの命をもって我らを滅ぼそうとした! 我らへの最大の侮辱である!」
「命を……作り上げるですって!?」
「おいおい……。そんなの、神の領域だぞ……!」
「イコール・ドラゴン・ウェポンのことか……」
霊夢と魔理沙が驚き、ナナシは顎に手を当てて記憶の中から該当する名前を見つけ出す。
護たちは一瞬驚いたものの、すぐに拳を構える。
「……なるほど。人間を恨む気持ちは分かる。住処を失ったから代わりの場所を求めるのも理解できた」
「ですが、私たちはこの幻想郷で生きているんです! そう簡単に渡すものですか!」
「滅ぼさせはしねえ!」
ボレアスは一瞬目を見開いたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「くっはっはっは! 良いぞ! 恐怖に抗うその瞳! 幻想郷は我らモンスターの繁栄の場所となるか、それとも貴様ら人間が手にするか! 良いだろう!」
ボレアスの頬に黒い鱗が浮かび、凄まじい威圧が放たれる。
「我が名はミラボレアス! この名が意味するは『運命の戦争』! 賭けるは幻想郷! 全力で来るが良い!」
「くたばりやがれぇ!」
白斗がティガレックスの爪で飛びかかる。
「ふん!」
ボレアスが右腕を振るったとたん、白斗は大きく横へ吹き飛んだ。
「がぁぁぁぁ!?」
「白斗! てめぇ!」
魔理沙が光弾を一斉に放つ。愛しの人が吹き飛ばされたことによる猛攻撃。そこへ加勢するかのように、リオと霊夢もミラボレアスに挑んだ。
「斬り捨ててくれる!」
「人間の情におぼれた愚か者がぁ!」
「なにっ!?」
リオが緑桜剣で斬りかかる。しかしその斬撃は弾かれた。皮膚を斬ったにもかかわらず、だ。
「油断しないで、リオ!」
「相手は龍を率いるほどの存在。おそらく見た目が人間と同じなだけです!」
「その様な剣など、我には無意味!」
ボレアスは、「ふっ」と不敵な笑みを浮かべる。しかしその状況を破るかのように、巨大な熱線がボレアスを焼いた。護による『マスターファイアー』だ。
「むうぅ!?」
「俺たちがいるって事、忘れるなよ? やれ、ナナシぃ!」
「了解! 吹っ飛びな!」
ナナシが右腕をガンランスに変化させる。そして、鎧化した護を踏み台にして飛び掛りながら、砲撃をおみまいする。
そこへ早苗が……
「『グレイソーマタージ』!」
とどめと言わんばかりにスペカを放つ。星を描くように放たれた光弾は大きく広がっていき、ボレアスはそれを避けきれずに被弾した。
「この小娘がぁぁぁ!」
ボレアスは背中から翼を出し、大きく羽ばたいて早苗やリオ、霊夢を吹き飛ばした。
「「きゃあっ!」」
「早苗!」
「くっ! 霊夢!」
護は早苗を、リオは霊夢を抱きかかえるようにして、城壁に叩きつけられるのを防いだ。
しかし、ナナシはボレアスに首を掴まれていた。手を掴んでジタバタと抵抗する。
「がっ……! 離……せ!」
「貴様の力は私にとって忌々しいものだ。先に葬り去ってくれる!」
ボレアスは指先で火炎弾を作ると、超近距離でナナシにぶつけた。急いで、防具であるアーティアXメイルを展開するが、リオとは比べ物にならない熱さが襲う!
そこへボレアスが息を吹きかける。すると、その息吹が炎に変わった!
「うあああぁぁぁぁっ!?」
「死ねぃ!」
そしてナナシを遠くへ投げ飛ばす。ナナシは城壁に叩きつけられた後、崩れた瓦礫に埋まった。更にボレアスは手の平に炎を溜め始めた。何をする気なのか察しがついた護たちは、顔が青くする。
「まさか!? やめろ!」
「ふんっ!」
「やめろぉぉぉぉぉ!」
「嫌ぁぁぁぁぁ! ナナシさぁぁぁん!」
無慈悲にも、その炎はナナシが埋まっている瓦礫へと放たれた……。
全員は、怒りと悲しみに包まれた。目の前で仲間がやられた。目の前の事に呆然とするが、そこから立ち直り、ボレアスに攻撃しようとしたのは、白斗だった。
「てめぇぇぇ! よくもナナシを……! ガアアアァァァァァァ!!」
白斗は『音壊の波紋』を発動し、轟音で吹き飛ばそうとする。しかしボレアスは少し怯んだ程度だった。
そこへ、ボレアスに追撃をするように影夜と霊夢が飛ぶ。
「これなら……」
「どうかしら!」
その瞬間、ボレアスの周りをナイフと針が包み込んだ。ドドドドド!という音を立てて、ボレアスに突き刺さる。しかし……。
「その程度か?」
「「なぁっ!?」」
なんと、
驚く二人をよそに、護が上から襲い掛かる。グラビモスの重さを活かしたパンチを、ボレアスの顔面にぶちかます!
「くらえ!」
「断る!」
腕をグラビモスの甲殻で覆った護は、素早い連続パンチを繰り出す。ボレアスも抵抗するが、後ろから背中を斬りつけられた。
「ぐぅっ!? ……なるほど、ナルガクルガにブレードか!」
「ガルルルルル……」
そこには目を紅く光らせ、ブレード状の腕を出している影夜の姿だった。
不利な状況だと悟ったボレアスは、翼をゆっくりと広げ、人差し指で空を指した。
「終わらせてくれるわぁ!」
その時、ゴゴゴゴという音が空から聞こえてきた。全員が不審に思い、上を見上げる。
「おいおい……嘘だろ?」
「ちょっと、これは洒落にならないわよ……」
護たちの目の前には、巨大な隕石が迫ってきていた。ボレアスは飛びながら、護たちを見下ろす形で高笑いをする。
「はっはっはっは! 人間どもよ、これで粉微塵になれ!」
そして、辺りは巨大な光に包まれた。