愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◇→主人公
◆→眷属コウモリ
◆
クイーン・セドナ号。大陸間を行き来し、多くの物資を輸送する有名な商船。
そんなクイーン・セドナ号には、新天地を目指して密航する冒険者たちが後を絶たない。
「ようあんちゃん、見掛けない顔だな。冒険者かい?」
一人の船乗りが、冒険者の出で立ちをした男に話しかける。
冒険者たちは完全なる密航者である。だがしかし、乗組員たちから彼らは、公式では無いにしろ黙認、あるいは半ば公認された扱いを受けているという。
「この船に乗ったってことはあんちゃん、ノースティリスに行くんだろう? へっ、冒険者様と言うのはわかんねえなあ。何だってあんな無法地帯に」
この船の行先はノースティリス。
不思議なダンジョンが乱立する、数多の冒険者を魅了してきた土地である。
当然と言えば当然なのだが、冒険者が集まる土地の治安はすこぶる悪い。その地が彼らの中で高名であればあるほど、その影響はより顕著となる。
この乗組員の反応を見れば、彼の地がどれ程のモノかは想像に難くない。
「まあ、何はともあれ同じ船に乗ってんだ。アンタもこの船の中の家族みてえなもんさ。ノースティリスまで、まあ、ゆっくりしてけや」
そう言って、男たちは互いに会釈し去っていった。
……さて、情報は一通り集まりましたし、主の元に行きますか……。
自前の黒き翼を羽ばたかせ、暗い闇夜に眠る我が主の元へと向かうのだった――。
◇
やあやあ、諸君。こんな泣く子も眠る夜更けにこんばんは。それとも、暖光の降り注ぐ真昼間だったりするのかな? それじゃあこんにちは、だ……!
我の名は、そう! 偉くて気高くてとても強い夜の帝王にしてヴァンパイア!
ウルチヤ・デュッツ・ギュテオン様だ……!
……まあ、気軽にウルチヤ様と呼びたまえ。
ただいま我は、クイーン・セドナという名の商船に乗っている。何でも、どこかの国の貴族の名だとか? ふふん、高貴な我の乗る船に何とも相応しい名だろう。
「キィッ!」
……ふむ、この声は我の眷属である魔界コウモリが帰って来たようだな。
我は、訳あってここを動けないからな! 情報収集を眷属のコウモリに任せていたという訳だ。
我、賢いであろう? ふふふ。
「キーッ!」
ああ、ハイハイ。今蓋を開けるから……。よっこいしょっと。
ガコッという音がして、古めかしくも気品さのある……気も若干する、横長の木箱が開いた。
……はい、入っておいで。おー、ヨシヨシ。情報は手に入ったか。
「キーィ、キーッ」
ふむふむ。
「キーキーッ」
ふむ。
「ィーッ、キィーッ」
なるほどね。大体分かった。……多分。
つまりは、冒険者いっぱい夢いっぱい。無法地帯で胸いっぱい! という訳だね。
「……キィ……」
……おい、そのジト目を止めろ。不敬であるぞ。
何だか、日に日に眷属からの尊敬の念が消えていっている気もするが、まあそんなことは些細なこと! 昔馴染みのコウモリ一匹、まあどうってことは無い。
……ふっふっふ。なんてったって、そう! ノースティリスでたくさんたくさん! 可愛くてキューティクルな眷属を作って、一城築いてやるのだからな!
「キィー……」
……えっ、キューティクルはくるくるしていてキューティーって意味では無い……?
……おっほん、そんなの当然知っていたさ!! ジョークだよ、じょ・お・く!
全く、失礼しちゃうなあ……!?
……はあ、こんな融通の効かないコウモリなんかより、カワイイカワイイ眷属ちゃんたちとイチャイチャしたいなあ……。
まあ、そりゃ?
我は最高にカッコよくて最高にクールで最高にカワイイ純黒の支配者ウルチヤ様だから?
眷属なんてす〜ぐ集まっちゃうけど? だからこそ、可哀想だけど選りすぐりをしなくちゃいけないな〜。
と・う・ぜ・ん! 我が眷属ちゃんはみ~んな! 最高にカワイイモンスターな美少女ちゃんに決まりだね!!
「……ぃーっ……」
……おい、そこ。呆れるな。超音波で溜息つくな。
……まあいい、おい。まだノースティリスまでには時間が掛かるんだろう? それならそれまで、我は長い眠りにつこうと思う。
……だって寝たらすぐ着くんでしょ?
貴様も、早く我と同化したまえ。耳元でキィキィ鳴かれては眠れんしな。
「キィキィ! キィキィ!」
ハイハイ、分かったから早くしろ。眠れんだろうが。……なーに、心配は要らん。荷物として運ばれるからその時には起きれるさ。
……えっ? なんでわざわざ荷物の中で過ごしてるのか?
……はあ、貴様ホント……学がなってないなあ……。
いいか? 高貴な吸血鬼たる者、乗船する時は棺桶や箱の中に入り込み荷物に紛れろと、そう習わなかったのか?
あの、時をも支配した伝説の吸血鬼だってそうしていたんだぞ? 常識ぞ?
「キィ……」
なっ!? 常識がなって無いとはなんだ!?
貴様ほんと……ほんとっ……!
……まあ、いい。眷属にも寛容なのが良き夜王の素質というモノだ。許してやろうじゃないか。
……しかし、あの作品は名作だからホント一回でいいから読んどけって……!
人間からの成り上がりにしては、まあまあかなりよくやっていたし……。
まあ? 我は純血で高潔で清潔で、あと完全無欠なホンモノの吸血鬼ウルチヤ様だから? やっぱ我こそナンバーワンだけどね!!
……あっ、黙って入って来るな。せめてリアクション返せ。
……はあ、まあいいか……。コイツとの付き合いも長いし、……殆どボク、……おっほん、我自身みたいなモンだしコイツ……。
多少の無礼は、ちゃんとね。まあ……なんだ……。
……眠いし寝よう。おやすみ、愚かな世界。
そしておはようの時にはこんにちは、我がカワイイ眷属たち。
◇
……えっ、あの吸血鬼の乗ってた船、確か最後沈んでたって……?
……いや、まあ……別に大丈夫でしょ、多分。
というか、宿敵が船に乗り込んでた、とかならともかくよ? この平和な商船クイーン・セドナ号が沈むワケ無いでしょうが〜。
全くもう……お前は昔っから心配性だなあ〜?
◆
――数時間後、我が主を乗せたクイーン・セドナ号は沈没した。