愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◇
…………うっ……うう……。
……頭が、くらくらする……。
身体も熱くて……なんだ、……今度はどんな景色が……。
「……キィ……」
浮ついた頭で次なる景色を待っていると、聴き慣れた、金切り声が控えめに響く。
その声で、思考が現実に戻される。
――ああ、そうか。今まで、夢を見ていたのか……。
「…………うっ、うう…………ぬぅ……」
……何とか、重たい目を開くと、見慣れてきた洞窟の天井が目に入る。
どうにかして身体を動かそうとするが、身体は思うように動かなかった……。
「……ぬぅ……身体が、キツいな……ボク、どうしていて……」
「キィっ!!」
頭が痛くなるくらいの声を上げ、眷属のコウモリが飛び込んで来る。
……どうやら、心配を掛けてしまったみたいだな……。
「……おぉ、よしよし…………ボクは大丈夫だぞ……たぶん」
身体が熱っぽくて、頭がくらくらして、力が入らない……。
……これは、風邪でも引いたのかな……。
……そういえば、遭難して酷い目にあったし、良い環境で寝られなかったし……挙げ句の果てに雨の中爆走したなぁ……。
さっきまでの夢の中の古い記憶から、現実の中の比較的新しい記憶を思い起こす。
「……どうやら、お前にも迷惑を掛けたようだな……すまなかった……」
スリスリと、頬にすり寄る眷属に、そっと謝罪の言葉を掛ける。
「………………」
……が、その言葉は無視されてしまったようだ……。……今は、そんなことより休め、ってことだろうか……。
……まあ、その通りだな……。
もう少し、ゆっくりしようかな……。
「キィ……」
あいつが、瓶に入った水を引っ張って来た。
「……これ、ちゃんとした水じゃないか……どこで見つけて……いや、……ありがとう」
「……キュィ……」
コクっコクっ……コクン……。
「…………んっ、おいし……。本当にありがと、ボクの大事な大事な、……家族……」
「……キィッ」
あいつに、そう呼び掛けると、急にボクの懐に入ってきて、ボクと同化をしようとする。
「おいおい、今のボクに入ってきたら、風邪が移るぞ……?」
「キィッ」
……それよりも、伝えたいことがあるらしい。
……そう、だな。ボクも、懐かしいものを思い出して話したいこともできたし、それも良いかもな……。
「……おいで」
そうボクが言うと、優しい家族の暖かさは、ボクの胸の中へと入って行くのであった……。
◆
我が主ウルチヤ様が熱を出し倒れ、幾日か……。
うなされる我が主を見つめながら、精一杯の看病をして過ごす中、遂に我が主が目覚めた。
「……おいで」
我が主へと、私の想いを……謝罪を、心を、気持ちを……伝える為に、我が主と同化した。
◆
「…………どうやら、随分と……ボクの為に、尽くしてくれたみたいだな……」
……いえ、眷属として……当然のことですよ。
「……ふふっ、ボクはとっても嬉しいよ」
我が主の暖かな微笑みに、なんだか胸がキュッとなるのを感じる。
「……もう、なんだよその感情〜……」
私にも、よく分かりません……。
いえ、……それよりも、はい……。
私は、ウルチヤ様に謝らなければいけないことがあります。
「…………どうしたんだ」
……私は、気恥ずかしさから……素直に、我が主への忠誠の心を、……想う気持ちを、伝えられませんでした……。
それと、私の普段の言動の所為で、……私は貴方様に、あらぬ心配を掛けさせてしまいました……。
「……あぁ……ボクが、頼りない主で、慕われてないって考えてたこと……?」
……はい……。
……その所為で、我が主を落ち込ませ、そして無茶な行動に走らせてしまいました……。
「……えっと……、その……雨の中走ったのはボクがバカだっただけというか……」
……いえ、良き主とあろうとしての行動だったのは、よく理解しています……。……だからこそ、私は貴方様にちゃんと、素直に気持ちを伝えれば良かったのです……。
……ウルチヤ様……、ウルチヤ様は……私の、良き主ですよ。
心から、慕っております……。
「…………えへ、……そっか……そっかぁ…………それは、よかったぁ……」
胸を抱きしめ、心の底から嬉しさに溢れる我が主……。
「…………ボク、ね……。……さっきまで、夢を見ていたんだ……」
…………夢、ですか……。
「……うん、懐かしい記憶だったよ……お父様が居て、ママが居て……そして、人間に襲われて」
……………………。
「…………ボクは、あの時……お父様の、誰からも理解されることの無い、独りで偉大な吸血鬼としての生き方を、否定したんだ……結局、ね。人間も、眷属も……そして、ボクすらも……誰も付いて来なかったから……」
我が主は、どこか寂しそうな表情をした……。
「……だけど、それと同時に……自分という存在を強く持ち続け、守り続け、責任や運命から最期まで逃げなかったその生き様を……。……そして、命を懸けてボクを救ったその姿を……理由は分かんないけど、最高にカッコいいって思ったんだ」
純粋で凛々しい瞳で、我が主はそう語った。
「……そして、ママは……ボクを心から愛してくれていたけど、……最期は、ボクではなくお父様の元へと、行ってしまった。……ボクは、今までの愛を信じられなくなったんだ」
……でも、ちゃんと、守ってくれましたよね……。
「……ああ、……ママは、最期にボクに暖かさを遺してくれた。そして、その暖かさは……身体を燃え尽くす太陽からボクを守って、そして……暖かな陽射しとして、今もボクの身体を包み込んでくれている」
ええ、きっと……そうですね。
「ママが最期に、ボクじゃなくてお父様を選んだの……きっと、ボクに飛びっきりを遺してボクを守って、……そして今度は、ずっと孤独だったお父様を救いに行ったんだと思うんだ……。ちゃんとしたことは分かんないけど、ママはボクもお父様もどちらも、飛びっきりに愛してたから……」
……私は、最期のお二人は……寂しくなかったと、私は思いますね。
「……そうだね。ボクもそう思うよ。……それに、ボクのことを二人とも、ずっと見守ってくれるって、言ってたし……」
ええ……そうですね……。
「……ふふっ、話がちょっと逸れちゃったな。……ボクは、ボクはね……お父様みたいにカッコよくなりたいし……ママみたいに、暖かい人にもなりたいんだ」
胸に手をやり、瞼を閉じて想う我が主……。
「お父様の偉大さは、カッコよさは……ボクの目指すモノになった……。……勿論、お父様はヒドいことをしてたし、あんなんじゃああいう末路になっても、文句は言えないと思ってるけどね」
ハハ、と我が主は乾いた笑いを零す。
「……でも、だからこそ、……ボクはボクなりに、偉大でカッコよくて、……そして、お父様と違って皆から好かれる……最高の吸血鬼になりたいんだ」
銀髪の後ろ髪に触れる我が主のその表情は、理想を追い求める強き者の表情であった。
「……そして、ママは……心から家族を愛し、愛する者の為に、どこまでも尽くしていた……。ママの暖かさと優しさは、ボクに今も残り続けて、ボクを守ってくれている……」
心から嬉しそうで、そして安心しきった顔で言葉を紡ぐ我が主……。
「……ボクはね、その暖かさを、……家族を誰よりも愛し、愛する者にどこまでも尽くし、そして守り抜く……。そんな優しい暖かさを、……今度はボクが、眷属たちに……ボクの家族たちに、与えたいと思ってるんだ」
東雲色の前髪に触れる我が主のその表情は、愛に生き愛する者を守り抜く優しき者の表情であった。
「…………うん、だから…………お前が、ボクを心から慕ってくれているって、言ってくれて……ちゃんと、ボクはお父様みたいにカッコよくて、ママみたいに暖かくなれた、って……思えたんだ……」
……ウルチヤ様は、まだまだな所もいっぱいありますし……カリスマは全然ですし……カッコいいとは、中々見えないですけど……。
「んなっ……!?」
……でも、そうやって……自分の理想を必死に追いかけるその姿は……私は、とても好きですよ。
そして、……我が主の優しさも、……暖かさも、感じておりますよ。私は好きです。
「えへへ……そうか……? ……うーん、でもまだまだ、もっとカッコよくて、暖かくならないと、眷属たちも付いて行きたがらないハズ……!」
……そうですね。ウルチヤ様なら、もっともっと、より良い主へとなれる筈です。
皆から慕われる、良き主に……。
「ふっふっふっ、当然であろう! なんてったって我は、偉大で寛大な夜を統べる吸血鬼、ウルチヤ様だからなっ!」
……まずは、その調子乗りな所を……いえ、そこもまあ、愛されポイントになるかもしれませんか……。
「そうなのかー? うーん、そこら辺はよく分からないなあ……。……でもまあ、お前が言うんだったら、きっとその通りなんだろうな!」
……いや、これは私の直感で、別に根拠とかはありませんが……。
「いーや! お前が言うんだから間違いない! なんてったってお前は……ボクの一番目の、大切な眷属なんだからなっ♪」
飛びっきりの暖かな笑顔で、我が主は声高らかに言った。
…………ズルいですね、我が主……。天然ジゴロの才能があるんじゃないですか……?
「……む? どういうことだ……?」
……いえ、分からないなら別に良いです。
「なんだー!? そう言われると気になるんだが!?」
勝手に心でも読めば良いじゃないですか!
「風邪の頭じゃよく分かんないんだよ! 分かりやすく説明しろー!!」
――熱を出してても元気な我が主と、またいつも通りの戯れをしながら、暖かな時間を二人で過ごす。
ああ、この暖かさが、我が主を永遠に包んでいてくれ、と。私はただただ、そう願い続けるのであった。
◆
「…………あっ、所で……眷属コウモリよ」
……はい、なんでしょう……?
「……お前の言った言葉は、……あの、伝えてくれたお前の想いはその…………告白的な……?」
頬をほんのりと染め、我が主は上目遣いで尋ねてくる……。
…………うっ……。
「…………おい、早く返事をせんか」
………………。
…………私は性別不明ですしー、ウルチヤ様とは長く同化してるので、そういう感情も何も無いですよ。……たぶん。
「…………そっか、……うん、たぶん……そうだろうなっ! だってお前、殆どボクみたいなもんだし!! アハハ、なのにあんな微妙なラインのこと言ってバーカでー!!」
……ば、バカとは何ですかバカとはー!!
…………あの、…………はい……。
…………………………。
「……………………」
………………。
「…………あ、あの……」
………………えっと……な、なんでしょう……。
「…………あ、いや……なんでも……」
…………そう、……ですか……。
「……………………」
………………。
――その後も我が主の熱が冷めるまで、このちょっとギクシャクな距離感は続いていくのであった――。