愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◆
「復活したぞー!!」
洞窟に叫声が高々と響き渡る。
ここ数日間、高熱を出して倒れていた我が主。雨が降りしきっていたのもあってここの所はずっと寝たきり生活が続いていたのだが、雨も上がり熱も引き、我が主は完全復活を遂げたのであった。
「ふっふっふ……血液が無くなった時はどうなることかと思ったが、餓死することで事なきを得たな!」
いつもより若干
……餓死は事なきじゃないですよ……。
……というより、血液が無くても食事はできるのに、ウルチヤ様が血液無いとご飯食べたくないとかワガママ言うから餓死するハメになるんでしょう?
「くっ……ワガママとは何だ……!? 吸血鬼が食事時に血液飲まないでどうする!? 血液飲まない吸血鬼とか吸血鬼じゃないであろう!?」
迫真の表情と勢いで誤魔化そうとする我が主。
……でも正直、我が主のやっていることは駄々こねる子供と変わらないですよね。
「なっお前この前なんか良い感じに忠誠誓ってたじゃん!? なのに
ウルチヤ様への忠誠と親愛は確かな物ですが、それはウルチヤ様自身の未熟さも含めての物なので。
貴方様の全てを想うが故の、子供扱いですよ。
「なんか難しそうに言ってるが、要は我は子供っぽいとシンプルに思ってるってことだろう!? ……ま、まあ……我の全てを……ってのは、嬉しく無い訳でも無いが……」
怒りの声を上げながらもテレテレと頭をかく忙しない我が主。その顔の赤さはどちらが故か……。
……しかし、この数日間だけで何回餓死したと思ってるんですか貴方は……。
……正直、吸血鬼がどうこうという絵空事の為だけに飢えて死にゆく主を見るのは辛いです……。
「うっ……あぅ……」
苦言にも似た素直な心を吐露すると、我が主は一瞬自責の表情を浮かべ、俯いた。
「……それは、……すまない……。眷属に心配を掛けてしまうのは、……良くないとは、思う……。……でも、――」
――が、しかし。
その頭を上げ再びその表情を見せた時、我が主の瞳には強き覚悟が宿っていた。
「――我は、偉大なる吸血鬼という理想に生きると、この銀髪に誓ったのだ……!」
銀の後髪をはためかせ、我が主は言葉を紡ぐ。
「……故に! 我はこの命を幾つ懸けてでも、理想は、こだわりは……絶対に貫き通す! それが我の生きる道だ!!」
黒きマントを翻しその手を高らかに掲げ、威風堂々たる表情でそう宣言した。
――凛々しき表情とそのお姿は、まさにカリスマ溢れる夜の皇帝そのもので――。
――きゅるるるる……。
「…………あっ……。……〜〜〜〜っ!!」
我が主の空腹を告げる音色とともに、その凛々しい表情が真紅に染まっていく……。
……我が主、ひとまずヴェルニースで食事としましょう……。貴方様のお好きな乙女の血も吸えますから……。
「……そ、それもそうだな! さあ行こほら行こ、ヴェルニースへ!!」
果実のように耳まで真っ赤にしながら、我が主はわざとらしくズンズンと歩き出す。
……そんなに赤くなって、また発熱でもしましたか?
「〜〜〜っ! うるさいぞこの……えっと、……眷属っ!!」
顔をさらに赤らめて涙目のまま、苦し紛れに叫ぶ我が主。……眷属は悪口ではありませんよ。
……さ、また餓死する前に血で腹を満たしましょうね。
「……うぅ……そうだな……。早く血を吸って、小腹満たしたら……試食パンでも食べよ……」
なんとも貴族らしからぬことを呟く我が主。……貧乏ここに極まれり。
「お金ないもん……働けるほどの力もないし……」
……まあ、魔物討伐なんてしたら討伐されるのは我が主でしょうし、アイテム納入依頼ができるほどの財力も無いですし、配達依頼をするには移動時の食料が無いですからね。
「……詰みでは?」
……まあ、なんとかなりますよ。きっと。
「適当だな!?」
……所で、小腹満たしたら血液じゃなくて良いんですね。
「当然であろう。我、貴族ぞ? 我はとてもグルメなのだよ。……それに、あまり血を吸いすぎても乙女が可哀想だろう? ふふっ」
女性をもてなすようなキザな顔で語る我が主。
……いや、別にそんな謎の気遣いをしても、やってることは最低なままですからね? 気取っても意味無いですよ。
「…………ぬぅ……」
……それに、本音は違うでしょう? ほら、素直な心で叫んでください。3・2・1。
「…………美味しい物をいっぱい食べたいです!! 血液だけ食べても満足できないから普通にご飯食べたいです!! ……あ、あと今無性にペペロンチーノが食べたい……とても食べたい……」
……まあ……はい。そうですね。
涙目でぶっちゃける我が主の姿を見て、何とも言えなくなり、そして適当に言葉を濁した。
「せめてリアクション取れよ!?」
そんなことより、吸血鬼がペペロンチーノなんてニンニクたっぷりなモノ食べて良いんですか? 吸血鬼的に。
「ニンニク料理は美味い。それはこの世の真理だぞ? 吸血鬼がなんだ貴族がなんだ臭いがなんだ!? 我はこの世の真理を味わうのだ!!」
高らかにそう宣言する我が主。その姿は非常に俗物であった……。
……そういえば、パン屋でパスタも売ってましたね。もしかしたら、そこでペペロンチーノを食べられるかもしれませんよ。
「むっ!? それは本当か!! それなら行くぞさあ行くぞ!! いざ行かんヴェルニースのパン屋さん!!」
空腹も忘れテンション爆上げでヴェルニースに走り出す我が主を、私は生暖かい目で見守るのであった――。
◆
――モキュモキュ。
「……試食パンおいしい……おいしい……」
モキュモキュ……。
デイウォーカーであるにも関わらず、灰にでもなったかのような表情で試食パンを口にする我が主。
……お金、足りませんでしたね。
「……お金……ほしい……ししょくパン……おいしい……」
哀れな我が主に幸あれ……。
「……うぅ、ぐすん……」
◆
「雨だァーーーー!!」
ヴェルニースからの帰路に雨に降られてしまう。
我が主は流水が大の苦手なので、勿論雨も非常にめちゃくちゃ苦手である。
「むっ!? わが家やヴェルニースよりも、そこの洞窟の方が近いか……! ひとまずあそこに逃げ込むぞ!」
我が主の目指す洞窟、そこには何か不思議な力が感じられ、一際異彩を放っているのだが……。
「ワァぁん、雨嫌いーー!! ヤダぁ!! ヤダぁ!!」
……雨から逃れることに必死な
――こうして、我が主は謎多き迷宮《レシマス》へと足を踏み入れるのであった……。
◇
「はい、どうもこんにちはこんばんは。今宵も始まりました、突撃あなたが朝ご飯! のお時間でございます」
今宵なのに朝ご飯はおかしい……? ……そんな細かいことは良いだろ別に!!
「……おっほん。本日お邪魔したのはこちらの
我のこだわり、自分ルール的に、人間の血液で無ければ食事をする気は無い。
つまりは、ここで人間の血液を手に入れない限り、満足にご飯も食べられないという訳なのだが……でも、モンスター相手の吸血は食事ではないのでセーフだろう!
だってあんなのは、食事とは呼べないだろう? ただの生命維持活動でしかないからなぁ!
もっとこう……食事ってのは……楽しくて、暖かくて、美味しくて……こう……アレなんだよ……アレ……。
……うん、よく分からないけどそういう流儀があるんだ。たぶん、きっと。
「さーて、今日の食材は〜! ……まあ、ひとまずお前でいっか」
たまたま目に付いたプチに近寄り、吸血するため牙を立てる。
「うーん、非常にみずみずしくてプルプルですね。まるで味無しゼリーみたいっ♪」
プチの血……体液……? は、何ともみずみずしいというか水に近いというか、かなり無味無臭だった。
んー、でも……コラーゲンとかはいっぱいありそうだな!
「チュウ……チュウ……ずずっ…………ごくんっと」
ジュースのような感覚で体液を啜り終えると、突き立てた牙を離し、手を合わせる。
「ごちそうさまでした! うん、喉は潤ったかなー。まだまだお腹は空いてるけどー」
干からびたプチだったモノに感謝を告げ、次の標的を狙う。
どうせ雨が上がるまではこの場を動けないのだ。それならばしっかりと獲物から吸血し腹を満たして、餓死を回避するのが良いだろう。
いくら死んでも大丈夫とは言え、できることなら餓死はしたくないからな!
「きゅい……」
……え、だったら普通に肉食えって……?
「……それはそれ! これはこれ! 我はこだわりは捨てぬと言っておろう!? こだわった上で、回避できるものは回避するのだよ!」
「きぃ……」
溜息つかれた。眷属に溜息つかれた……。
納得いかん……。
「あっ、カタツムリだ! ……いや、今のは比喩表現ではなく、普通にカタツムリが居たということでな?」
一瞬、我が眷属からのじっとりとした目線を感じて思わず訂正をする。
どうせ、はしたないですよとか、口が悪いですよとか言おうとしたのだろう。だから、予めそういう意図では無いと宣言しておいた。我かしこい。
「カタツムリかあ……なんか、これまた水分多めそうだなぁ? ま、いいか。エスカルゴとかあるし」
ノロマのカタツムリに近付くのは非常に簡単。
パパっと取り押さえて、適当な所に噛み付く。
「ガブリンチョっ♪ ……ちゅ〜。うーん、イタリアン♪」
「キィ」
んな訳無いだろ、と眷属のツッコミ。
別に良いじゃんか! 気分だけでも高級ディナー感味わいたいの!!
……ちなみに、イタリアンとは我の地元の言葉である。なんかよく分かんないけど、トマトとかチーズとかバジルとか、あとはオリーブとかを使った料理の名前だとか……?
由来は知らん!!
「キィ……」
高貴な吸血鬼には教養も必要ですという、眷属からの勉強しろコールから耳を背ける。
「キィー」
耳を背けてても声は聞こえますよね、という言葉からも耳を背ける。
聞こえてはいる。聞こえてはいるが……聞きたくない……。そんなこともあるものなのだ。
「……ちー……ぷはぁ。うむ、ごちそうさまでした! 気分は高級レストランであったぞ!」
……気分だけ。気分だけ。
殻だけになったカタツムリだったモノに感謝を捧げ終え、ふと辺りを見やる。
まだモンスターは居るようだが、限りはありそうだ。当然ではあるがな。
「……うーん、今はまだこれで良いけど、更にこの洞窟で立ち往生することになったら、
……ふーむ、どうしたものか……。
……よし、少しは腹も満ちたことだし、しばらく腰を落ち着かせて作戦タイムと行こうじゃないか。
――しばし待たれ!!
◆
モンスターの喉元に齧り付き、生き血を啜るヴァンパイア。
血が抜け落ち干からび始めたそのモンスターは、ほぼ瀕死と言える状態でようやく解放される。
哀れなモンスターは、その圧倒的捕食者に恐れをなし、一目散に逃げ去る。
その様子をニヤリと邪悪な笑みをこぼし、追いかけ仕留めるでもなく、ただ見守る我が主……。
「くっくっく……さあ、逃げろ、逃げるがいい! その間に、我も全力で休んでスタミナ回復させるから、存分に逃げて貴様もせいぜい体力を回復するがよい!!」
……微妙に、情けなさを感じなくもないが、ともかく我が主は不敵に笑い、逃げ惑うそのモンスターに語り掛けるのであった……。
……それで、どういう考えがあってのものなのですか? この行動は……。
全力で地面にごろ寝する我が主へと問う。
「分からぬか? ……ふっふ、まあ見ておれ! 我の、超天才的なるその発想をな!!」
………………。
……我が主の言葉にならい、しばし静かに時が経つのを待っていると、我が主の目の前にあの時のモンスターがやってきた。
……殺されかけたことも忘れて敵意向き出しでやって来たな……所詮は雑魚モンスターといった所ですか。
「さあ、お食事タイムだ! ……ガブっ!」
モンスターの喉元に牙を立て、その血液を味わう我が主。
……もしや、これは……。
「ふふっ……ひはふひはは!」
我が主は血液を飲みながら言葉を紡ごうとするが、その口から出たのは謎言語。
……モノを食べながら喋らないでください。はしたないですよ。
「んむっ、ほへもほーはは! …………ちゅ〜っ、ゴクッ♪ ぱぁ!」
再び謎言語を発したかと思うと、我が主はこれまた瀕死ギリギリの所でモンスターを解放する。
……そして、モンスターは再び恐れをなして逃げ去っていく……。なるほど、やっぱりそういうことでしたか。
「そう、お前の予想通りだ。これで我は再び休憩しスタミナを回復させ、ヤツも体力を回復させて戻ってくる……そしたら、またヤツから血液を吸えて、以下ループ! といった所だ!」
ギリギリで生かし、体力を回復させて再び血を吸う。それによって無限に吸血する……これが貴方様の考えた作戦、という訳ですね。
「そう、その通り! 我、天才であろう? てぇンっサイ! であろぉう!?」
ウザさ十割増しみたいな表情の我が主を無視しつつ、私なりにこの作戦の考察を始める。
一見、無限に血液を摂取できて永遠に腹を満たすことができそうなこの作戦……。
……だがしかし、実の所この作戦では腹を満たすことは不可能である。
なぜなら、吸血ではそこまで腹が膨れずに、かつ体力・スタミナ回復による時間経過がある為、結果的にプラマイゼロとなって一向に満たされることは無いからだ……。
……だがしかし、プラマイゼロであるということは、減りもしない、ということ。
当然の話だが本来であれば、時間が経てば経つほどに空腹とは加速する物である。
でもこの作戦を用いたするならば、満腹になることは無いが空腹になることも無いのだ。
よって、長い時間餓死することなく生き残ることができ、それによって雨が降り止むその時まで生き残るという、最大の目的を見事に達成できる……!
なるほど、これはとても凄い作戦ですね……!
まさか、目の前の目標である満腹を捨てることで最大の目的を達成できるとは……流石は我が主です!
「…………えっ、これお腹満たされないの……?」
………………。
「…………いや、なーんか……お腹いっぱいになった気しないなぁ……とは思ったけど……。……これ、すぐに永遠満腹になれる超凄い作戦じゃないの……?」
…………我が主の頭脳に期待した私がバカでした。
一生の不覚ですね……。
「んなぁっ!? なんでそんな酷いこと言うの!? ねえ、我超天才じゃんっ!? さっきまでめちゃくちゃに褒めてくれたじゃんっ!? なんでぇ!!」
……いや、どうやら私の勘違いだったみたいなので……お恥ずかしい限りです。
「遠回しにディスってないか!? なんか言葉にトゲを感じる!! いやいや、見てよこれ! めっちゃ頭の良い頭脳派吸血鬼みたいじゃん!? カッコいいじゃんっ!?」
……すみません、今振り返ると……ちょっと、落ちぶれた吸血鬼感が拭いきれないというか……。
……やってること、死にかけて何とか生き残ろうと必死で、弱者から搾取することでしか生き延びられない哀れで惨めな敗北者ですよね……。
「ぬえぇええ!? どうしてそんなヒドいこと言うのぉ!!」
我が主に泣きが入った。
情けなさまで入って数え役満である。
……まあ、言葉が過ぎました……。
ともかく、生き残ることが先決ですし、何より本当に凄い作戦であることには変わらないので。……本人の意図は別として。
まあなので、我が主は凄いと思いますよ。
「……ホント……?」
はい。ホントです。
「……ほんとの、ほんと……?」
ええ、たぶんそうだと思います。
「本当にぃ……?」
そうなんじゃないですかね。
「…………ふっふっふ、……まあ……? それも当然というか、やっぱり、我天才だからぁ? そりゃもう、偉くて凄いのは確定だよねぇ!!」
……まあちょっと、そう思ってないみたいな所はありますが……。
でも、我が主が調子に乗りもとい、調子を取り戻したので良しとしますか。本人気付いてないみたいだし。
「へへー、褒められちゃったよー。尊敬されちゃったかな? 眷属に尊敬、されちゃったかなぁ??」
……かなり調子に乗ってるので、そろそろ落としたい所ではありますが……。
でもまあ、たまには良いでしょう。
我が主、その調子でどんどんやっちゃってくださいな。雨が止むその時まで、頑張って生き残りましょう!
「うむ、そうだな!! さあ、天才頭脳派ヴァンパイアのお通りだ! 吸われたいヤツから出てくるが良い!!」
ノリノリな我が主は、我が物顔で洞窟を突き進む。私は我が主の単純さにひっそりと感謝をしつつ、本末転倒な結果にならないことをただ祈るのであった……。
◆
「みぎゃっ」
――今日のウルチヤ様。
死因:モンスターに囲まれ殴られ袋叩き。
……調子に乗るからですよ。
やれやれ、ですね。