愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◆
――月の出ぬ夜。宵闇の草原を征く吸血鬼が一人。
「はー、月光が恋しい……いくら何でも暗すぎだろ新月。まあ我、夜目が効くから平気だが。なんてったってヴァンパイアだから♪」
黙っていれば絵になる筈なのだが、そうはさせないのが我が主である。
「良いではないか、お前しか居ないんだし」
………………。
……高貴なる吸血鬼たるもの、いつ如何なるときも高潔であれ、では無いのですか?
「……ふっふ、ギャップ萌えも必要だろう?」
それギャップでも何でも無いですよ。100%純然たるウルチヤ様です。
「失礼なっ!?」
事実です。
……そういえば、新月ということは月が変わる頃ですか。
「そういえばそうか、新月だもんな。えっと確かこっちに向けて出発したのが8月だったから……もう9月か?」
あまり日付を意識したことは無かったですが、多分そうですね。
……暗いままで分からないですが、日付はもう変わったのでしょうかね?
「ん、ちょっと待って、今時計見るから」
そう言って我が主は、ジーンズのポケットから懐中時計を取り出す。
しっかりとコインポケットに仕舞っている辺り、少し本格的な雰囲気を感じなくもない。
「……正直、懐中時計のメリットよく分かんないだよね。腕時計で良くない?」
台無しですよ、我が主……。
……というかそれなら、なんで懐中時計なんてわざわざ使ってるんですか。
「決まってるだろう!? カッコいいからだよ!」
……まあ、はい。予想通りですが……。
「おいおい、それだけじゃないぞ? このジーンズのポケットの中に付いてる小さなポケットは、実は懐中時計を入れる為の物なんだ、という小粋な知識で女の子たちから一目置かれるという天才的策略があってだな……」
いや、そんな雑学知識でモテを狙わないでくださいみっともない。そもそも、割と有名ですしそれ。
……あと、雑学知識が豊富というのと頭が良いことは違いますからね。
「えっ、雑学を交えたウィットな会話で知的にカッコよく見せたら、カワイイ女の子たちからキャーキャーじゃないのか……!?」
心の底からの驚きを全身で表現する我が主。謎にカタカナも混じって非常にウザい。
んな訳ないでしょ、アホですか貴方は。
「辛辣すぎるぅ! ぬぇー!? 泣くよ!?」
知性のカケラも感じられぬ我が主の言葉を黙殺し、溜息を一つ吐く。
……そんなことより、時間はどうなんですか? 元々、時間を見るために時計取り出したんでしょう?
「……うぅ……ぅん? ……あっ、そうだった……。えぇっと、時間は……おっ、もうすぐ日付が変わる所だな!」
尖らせていた口を渋々戻しつつ、カチャりと懐中時計を開く我が主。
……なるほど、我々は9月になる瞬間に立ち会えるという訳ですね。
「……正直別に、月が変わる瞬間に魅力は感じないんだけども。……だって、何か劇的なことが起こる訳でも無いし」
……まあ、そうですね……。
……珍しく、我が主にツッコまれてしまった。
「なんかそれ地味にケンカ売ってないか……!?」
そんなこんなで、全ての針が重なる刻はすぐそこまで迫ってきた。
「……10、9……8、7……」
……あんなことを言っておいて、少し期待を込めた眼差しのままカウントダウンを呟く我が主。
……変わってしまえば、すぐに過ぎ去るようなものでしかないのに、ほんの少しワクワクするこの気持ちはなんなのでしょうかね。
無意味で無駄に溢れたこのワクワクを燻らせながら、やがてその刻はやって来る――。
「……5、4…………3・2・1――!」
――ゼロ。
……その言葉を発しようとした瞬間、一際大きな風が宵闇の草原を駆け抜けた。
「うぉっ、風つよっ!? なんだこ――」
――そして、疾風過ぎ去るこの宵闇の草原は、瞬く間に青白い光に包まれるのであった――。
「……エ、エーテルの風!?」
◆
――疾風が草木をはためかせ、大地から湧き出る青白き光は、月の出ぬ夜を幻想的に照らし出す。
「……なんて幻想的な光景なんだ……エーテルの風……」
《エーテルの風》……この星に災厄を齎す自然現象……。周期的、あるいは不定期に発生し、様々な生命に害を及ぼす不思議な風である。
……って、我が主! 見惚れてる場合じゃないです。早く避難しないと、エーテル病が発症しますよ!?
「……はっ、そうだった……!? 今エーテル抗体持ってないから、エーテル病に罹ったらかなりマズいぞ!?」
エーテル病……エーテルの風によって引き起こされる、様々な身体異常と変化。
目が4つに増えたり、足が蹄になったり……更には周辺に対する突如としての重力発生、定期的な幻覚や殺人衝動、周囲の者からのマナ吸収などなど……。
兎にも角にも、滅茶苦茶な異常変化が発生する、恐ろしい病気なのである。
その上、治すには特殊で貴重な抗体薬が必須という悪質さ。……この星に住むほぼ全ての人々が、このエーテルの風を恐れる訳は、まあ一目瞭然だろう。
「あー、くそ! わが家が若干遠い! かと言って街に入ってもシェルターには入れんからなぁ……!」
猛ダッシュで自宅へと走る我が主。
……あれ、シェルターくらいなら誰でも入れるじゃないですか……?
「おい、分からぬのか……!? もし、シェルター内に乙女の血が無かったら……無理矢理にでも我に保存食を食わせようとする住民vs絶対に血が無いと食事したくない我。が、発生してしまうのだぞ!?」
思ったよりもしょうもない理由だった……!?
でも、そんな所にこだわってしまうアホが我が主なのだからどうしようもない!
分かりました、それなら早くわが家へ向かいますよ!
「流れるようにボロクソに言わなかったかお前ぇ!? えぇい! 無事家に帰ったら小一時間ほど問い詰めてやるからな!?」
腕を高速大振りし叫びながら、必死に走りまくる我が主。
ギャグみたいにその脚を高速で動かすその姿、まさに必死オブ必死。
必死過ぎて、脚がまるで宙に浮いてるように見えて――って、……あれ……?
「うんっ!? なんだ、今度はなんだお前!?」
……我が主、どうして羽で飛んでるのに、走ってるフリをしてるのです……!?
……最初は見間違えかと思ったが、冷静に見てみれば我が主の脚は地面に触れておらず、そしてその背中からは、吸血鬼に相応しい黒き翼が揺れているのだった。
「えっ!? 我、別に羽なんて出してな……あえぇっ!? いつの間に我、羽出しちゃったの!?」
飛ぶのは疲れるという理由で普段その羽を仕舞っている我が主。意識しないと羽は出ないようになっている筈が、今回は無意識の内にか出現していた。
私の力で羽を出したり動かしたりもできますが、勿論今回そのようなことはしていない……。
……と、いうことは……?
「……エーテル病に罹ってしまったぁ!?」
――ウルチヤ様の背中に羽が生えた。羽エーテル発生。
まさか、こんなに早く発症するとは……! ……で、でも我が主、羽エーテルは比較的メリットの大きいエーテル病ですから、ご安心ください!
「そ、そうだなっ!? 羽で飛んでも全然疲れないし、走るよりも速いし楽だ!! さあ、このままガンガン進むぞ!!」
走るよりも飛ぶことを意識した我が主は、手足を動かすのを止めてその黒き翼を羽ばたかせる。
流石は吸血鬼なだけあって、その速度はかなりの物となっている。
青白き宵闇を切り裂く純黒の一閃となり我が主は、エーテルに侵されたこの草原を駆け抜けていくのであった――。
◇
…………ハァ……ハァ…………は〜〜ぁ……。
「……よ、ようやく帰ってきたぞ……! 愛しのわが家〜〜っ!」
恐ろしきエーテルの風を何とか切り抜け、安心できるわが家に到着する。
……途中、エーテル病のせいで羽が勝手に生えてきたが……。
……ま、まあマントの邪魔しないし、使ってても全然疲れないし、何より速かったからノーカンってことで!!
「……はあ、えらい目にあった……雨よりはマシとは言え、これも長時間外に居続けるのは危険過ぎるよなあ……」
早い所、帰還手段を持った方が良いかもしれない……。魔法とかさ、またストック貯めなきゃなあ。
「ふぁあ……ちかれたぁ……地面あったかーい……」
安心できるわが家に到着して気が抜けてしまい、そのまま地面にゴロリと寝転ぶ。
「……そういえば、エーテルの風とエレアがどうこうみたいな話、聞いたなあ……」
あの時のように寝っ転がったことで、この洞窟がわが家となったワケである親切な二人のエレアのことを思い出す。
……そしてその後出会った、癇に障る男の演説のことも。
「……それがホントかどうかは分かんないけど、でもあの二人は何か大事な使命みたいなのを持ってたみたいだし、それにとっても良い人たちだったし、……どっちにしろ、ボクはあの二人を信じるだけだな」
あんまり好きじゃない雰囲気の記憶を追い出し、暖かくて優しい記憶に浸る。
……また、会いたいね。
「…………あっ、そうだ! 眷属よ、お前は大丈夫だったか……!?」
ふと、エーテルの風の中でもずっと自分と同化していた、眷属のことを思い出す。
エーテル病を発症してしまったんだ。もしかしたら、ボクの所為でアイツの身体にも悪い影響が出てるかも……!?
「…………ほい、同化解除。ちょっと待ってろよ〜、お前の身体に変化が無いか、確認するからなぁ?」
バサバサっと飛び出してきたボクの眷属を、しっかりと観察する。
……うぅむ、外見上は問題無さそうだな……。
「眷属よ、何か変な所とかはあるか……? いつもと違う感じがするとか……」
「…………いえ、特にそんな感じはありませんね……」
眷属からの言葉に、ホっとひとまず安心する。
ちょっとなんか歯切れは悪いけど、まあ気にするほどでも無い……と、思う。……えっ、ホントに大丈夫だよね……?
「……我が主は、何気に心配性ですね。普段の行動もそれくらい……」
「いやいや、大事な眷属の健康に関わることぞ? むしろ、心配し足りないくらいで……」
それを聞くと、アイツはちょっと顔を逸した。
えっ、何その反応……ま、まあ……大丈夫そうで良かった。
「………………。……所で、我が主……我が主は、何か変だと思うようなことはありませんか……?」
「……うん? ……えへへ、なんだなんだ〜? 我の心配をしてくれてるのかぁ〜?? カワイイやつだなぁこのこのぉ」
ぶきっちょに、恐らく心配の言葉を投げかけてくるコウモリを少しからかう。
……なんか、若干雰囲気に心配の色以外も見える気はするが、きっと気の所為だろう多分ね。
「そういうの良いですから、質問に答えてください……何か、変な所はありませんか?」
「……えー? 特に何にも感じないなあ……変な所……へんな……違和感……? ……あれ、なーんか違和感が……このやり取りの中にあるような無いような……」
……ええっと、我は眷属コウモリに異常が無いかを調べる為に分離させて、見た目じゃ分からない変化が無いか聞いて確認して……。
……そして、それを本人の口から直接聞いて……その後は普通に会話をして……。
いつも通りの、普段通りの……スムーズな会話…………あれ、……スムーズって、あれ……?
「……お前、いつから人間の言葉を喋れるようになったんだ!?」
「……………………」
そうだ、そうだ! 明らかな違和感、アイツが、人間の言葉を喋ってる!! いつも、直接喋る時はコウモリの鳴き声しか出せないのに……!?
「あー、クソ! ボクが普段動物の声を理解できるから、気付かなかった……! お前、大丈夫か!? まさか、お前にもエーテル病が!?」
「…………ひとまず、落ち着いてください我が主。……はい、深呼吸ですよ」
「ひっひっふー」
「それは違うヤツです」
ああ、クソ! 明らかに違和感っ!! コイツが外にいるのに人間の言葉で話しかけてくるの違和感しかない!!
「……ほら、ちゃんと落ち着いてください。吸ってー……吐いてー……」
「……すーぅ…………はぁーぁ……」
「……落ち着きましたか?」
「…………はい……」
……くっ、人間の言葉で聴くとちょっと良い声なのが腹立つぅ……。
「…………では、落ち着いて聞いてくださいね……」
……いや、お前が平然と喋ってる時点で落ち着かないし……。でもまあ、逆に言えば、それ以上の衝撃は無いだろうから全然大丈夫だな……!
「……えー、我が主……我が主は、私の声が人間の言葉だと言いましたね……?」
「ああ、明らかに人間の声だ。違和感ばりばりぞ」
「…………非常に申し上げにくいのですが、……私は、普段通りコウモリのままの鳴き声で、喋っていますよ……」
……? 何か眷属が訳の分からぬことを言い始めた。……ハハーン、さてはコイツ、自分の置かれてる状況をまだ理解してないなぁ?
仕方ないなあ……ちゃんと、そこら辺をしっかりと指摘してやるのも、主の務めだもんなぁ?
「いえ、そういう訳では無いです。……良いから我が主、……自分の頭、触ってみてください……」
キッパリと違うと言われて、さらには逆に我が指摘されてる雰囲気になってしまった……。
……え、ええ……? というか、なんで頭……?
……一体全体、我の頭に何があるというのか……全く見当も付かないが、渋々と手を頭にやり、この自慢の黒髪に触れようとして……そして――。
「――ふやんっ!?」
――髪とは違う、何かよく分からないモノに触れ、そして頭部の斜め上の辺りから、真新しい感覚がやってきて脳に直撃する。
「ふぇっ、これ何!? なになに、えっ……頭に変なの付いてるぅ!?」
「……やっとお気付きになりましたか……我が主……。……私も、同化を解除してちゃんと外から見て、初めて気が付きました……。……今、貴方様の頭には……
「……ボ、ボクに……ケモ耳ぃ……!?」
アイツからの指摘に衝撃を受け、そしてその驚きからか頭部に生えたケモ耳がピクンっと反応したのを感じる。
ま、まじかぁ!? ボクにケモ耳生えちゃってるの!? ……これまさか、エーテル病……!?
「恐らくは、そうであるかと。……先程、貴方様は私が人間の言葉を喋ったと言いましたが、そうではなく……」
これは予想なのですが、と一言付け加え、眷属は結論を述べる。
「……ウルチヤ様が獣の耳を手に入れ、自然と獣の言葉を理解できるようになった、ということでは、無いでしょうか……!」
…………おおう、マジかぁ……。
「……うぅむ、これ……治せんよなあ……エーテル病だもんなあ……。羽はまだしも……ケモ耳は吸血鬼には要らんのよなあ」
動物の言葉をわざわざ翻訳しなくても、直感で分かるのはありがたいんだがなあ……。
「やっぱり、治したいですか?」
「まあ便利ではあるが……そうだな。出し入れできるのならまだしも、常時ケモ耳が出てるヴァンパイアなどそうそう居ないだろ……?」
……それに、こんな
「…………ハッ……」
「何故鼻で笑うのだ!? 鳴き声挟んでないからリアル感でダメージマシマシぞ!?」
「……まあ、ただちに悪影響が出る訳でも無いですし、抗体が手に入るまではひとまず放置で良いかと」
……むう、まあ、そうか……うむ、そうだな……!
よく考えたら、ケモ耳生えた我もとってもチャーミングだし!!
……鏡無いから今の我の姿、ちゃんと見れてないけど……。
「……あっ、そうだ! なあなあ、眷属よ……ケモ耳生えた我……かわいい?」
「…………まあ、……その……一般的な基準から見れば、充分に可愛らしいかと思われますが……」
アイツは、何だかとても言いづらそうな、本音を隠したような口調でそう評する……。
「……なんだその歯切れの悪さ……!? 何かおかしなとこでもあるのか!? ……よい……! 気遣い忖度遠慮無しに、お前の率直な意見を言え!」
我の美しさには自信とこだわりがあるからこそ、こういう一番身近な奴の忖度なしの意見は大事だからな!
我が眷属の本音の評価はちょっと怖いが、逃げずに心して聞こうではないか……!
「…………あー、あぁ……これ、言わないといけなさそうな流れですね……」
「ああ、そうだ。なに、怒りはせん……! お前の素直な感想を聞かせてくれ!」
とても言いづらそうな我が眷属に後押しの言葉を掛ける。
……そうすると、アイツはようやく口を開き、そして――。
「…………その……とても、かわいいと……わ、私も……、……思います…………」
――眷属からの、予想もしなかった素直な感想で、みるみる顔に血が昇っていくのを感じるのであった……。