愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい   作:エヘ狂信者の猫

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第12話【イエスかノウカで聖夜祭】

 

「はぁー、威厳がねぇ! お金もねぇ! 力もそれほど強くはねぇ! 我こんなのはイヤだぁ!! 成り上がってやるんだぁ!!」

 

 田舎の農村、その中の広大な畑で高貴で偉大なる我が主は、麦わら帽を被り首にタオルを巻き、パーフェクト農家スタイルで畑仕事に勤しんでいた。

 

「……うぐぅ……なんで我、こんなことしておるのだ……? 高貴なるヴァンパイアは汗水たらして農作業などしないのだぞ……」

 

 ――遡ること数日前、我が主は、強くなるには働くしかない! 今こそ我自らが労働する時である! ……と、声高々に宣言しこの農村にやってきた。

 

 金が無ければ強い装備を揃えることも、ましてや普通に生活することもままならない。今できる中で最も手っ取り早い金策は、依頼をこなすことである。

 さらには、スキル取得用のプラチナ硬貨まで手に入るのだから、強くなる為に積極的に労働するのは間違い無い選択であろう。

 

「うう……もっと我に力があれば討伐依頼もできたのに……! 農作業やってる吸血鬼とか格好付かないぞ……」

 

 何やら贅沢なことを言ってる我が主。

 働く為にはこれしか無いのですよ。我が主弱いですし、血液のストックも無いから食事取れずに配達依頼もできませんし。

 

「うぐぅ……血液のストックいっぱい欲しい……力も欲しい……くぅ……」

 

 ……まあ、スキルを取得して強くなれば、血液のストックも増えますし、色々できることも増えますよ……。

 なので農作業ファイトです、農家吸血鬼のウルチヤ様。

 

「うがぁ!! 我は農家じゃない!! 貴族だぞぉ!? うぉりゃぁあああ!!」

 

 文句は言いつつも、雄叫びとともに全力で作物を収穫していく我が主。

 ……うーん、これが中々、上手く行ってしまってるのがなあ……。良いのやら悪いのやら。

 

 羽が生えたことによりさらに高まった速度によって、見事に畑の作物を収穫しつくす我が主。

 収穫依頼は上々。お金もプラチナ硬貨も段々と貯まりはじめている。

 今のウルチヤ様は、とても立派な農家であらせられるのであった……。

 

「……くっそぅ、今に見ておれ……農家を経て我は絶対、立派な冒険者になってやるからなぁ……!」

 

 ――農家吸血鬼は強き日差しに照らされながら今日も、畑を駆け回っていくのであった。

 

 

 ――畑を駆け、雑魚を蹴散らし、作物を乱獲して、早2ヶ月……。

 我が眷属から農家吸血鬼呼ばわりされながらも、必死に働き何とか貯めたプラチナ硬貨……!

 

 ……さあ、いよいよスキル取得の時間だ……!

 

「へっ、カモが……」

 

「あら、貴方イイ男ねぇ……」

 

「綺麗な赤い華、咲かせない?」

 

 混沌としていて物騒なワードが飛び交うこの街の名は、ダルフィ。

 ならず者が集う街であり、治安は最悪。違法行為のまかり通った、ノースティリス随一の危険区域である。

 

 ……まあ、我は別に人間の法になど興味は無いから、犯罪者への嫌悪感などは無いが。

 でも、ここに来るとアイツがやれ危機感を持てとか気を付けろだとか言ってきて煩くてかなわん。

 

「全く、我を見くびっておるのではないか、眷属よ……我が、簡単に悪いのに引っ掛かるようなマヌケと思うなっての!」

 

「――ちょっとそこのアナタ、そう、そこの気品溢れてカッコいいアナタ! いやあ、このタイミングでここに来たとはアナタ、運が良いわねぇ♪」

 

 綺麗な笑みを浮かべる美人さんが、突然話しかけてくる。

 ……えへへ、いやはやこの人間は見る目があるなぁ! 我が気品溢れててカッコいいだって! いやぁ、分かる人間には分かるもんなんだわ、この我の魅力は♪

 

「ちょっと見ていってよ、この絵画! どれも素晴らしいでしょう? アナタみたいな高貴なお方には、どれもピッタリな高級絵画よ! あの、著名な画家の代表作、アナタも知ってるわよね?」

 

 そう言われて絵画を見てみれば、なるほど確かにどこかで見たことある気がする。ふむふむ、分かるぞ〜この高級感! ちょっと、どの画家の作品かは分からぬが……。

 

「もっちろん知っておるぞ! ほら、アレだよな……あの、あの画家の、えっとなんか有名なの書いてたあの…………なぁ!? アイツだろ!?」

 

「ええ! なんか有名なやつを書いてたあの方です! 名前は言わなくても分かるあの、アレです! そしてこれが、その画家さんが書いた、ホンモノの絵画です〜♪ 私が独自のルートで手に入れたんですよ〜」

 

「は〜、そうなのか〜、美人なお姉様は凄い美術商なのだなぁ! ……むぅ、でも我そんなホンモノの超有名画家の作品など買う余裕は持ち合わせていないのだが……」

 

「いえいえ、御心配なさらず! 私が独自のルートで入手したモノの為、通常ルートのモノに係るコストが大幅カット! かなりお安く御買い求め頂けますよ〜。ほら、こんな値段!」

 

 そうして見せて来た金額を見れば、あら何ともリーズナブル! これなら我でも手が届きそうだ!

 

「……よ〜し、我の気品溢れるカッコよさ、見せてやろうか! その絵画! 買っ――」

 

 ――バサバサっ!

 

「キャア!? 何よこのコウモリ!! ジャマ……ジャマ、邪魔すんなぁ!? せっかくカモが喰い付いた所なんだからっ!!」

 

 突如、我から飛び出してきた眷属は、美術商のお姉さんに飛び掛かった。

 そうするとあのお姉さんは豹変し、一気にこのダルフィに相応しい者へと堕ちていった……。

 

「……お邪魔しましたー……」

 

 金と欲に塗れたその姿にそっと一声掛けて、我はその場を後にする……。

 

 …………あうぅ……。

 

「……はぁ、だから気を付けてくださいって言ったんですよ、まったく……」

 

 我が眷属コウモリが帰ってきた。

 

「……あい、……ちょっと反省する……はぁーぁ……」

 

 ……流石にこれは、素直に反省モード……。

 

「……ありがとな、我が眷属よ……」

 

「……眷属として、当然のことをしたまでです。それよりも、自分の騙されやすさを自覚しこれからはもっと気を付けてですね……」

 

 眷属の言葉にとても耳が痛くなる。うぅ……。

 

「……ところで我が主。当初の目的を忘れてはいませんよね?」

 

「……あっ」

 

 眷属に指摘され、忘れかけていたこのダルフィへと来た理由を思い出す。

 そうそう、そうだ。我はここに、スキル取得をしに来たんだった!

 

「忘れないでくださいよ……えっと、確か普通のトレイナーでは無くて、盗賊ギルドのトレイナーからじゃないと教わることができないのでしたっけ?」

 

「ああ、そうだ! 酒場の連中から教えて貰ってなあ! 何でも、窃盗スキルが手に入るらしいぞ!」

 

 ……まあ、このスキルが盗賊ギルドでしか手に入らないのは当然だな……。こんなスキル、街中でホイホイと教える訳にはいかんわな。

 

「……ふむ、正直高貴なヴァンパイアである我が主が盗みに手を染めるというのは、あまり良い顔はできませんが……この地で生きていく為には仕方ないことですね」

 

「うむ、これがあれば色々こっそり拝借できるからな! もしかしたら、血液パックとかもあるかも知れないしな!」

 

 ちらり、と酒場の床を見れば、早速一つ瓶詰めの血液を見つける。確か、宿屋の方にもあったな〜。

 

 この街は、なんか知らんが色々骨やら心臓やらが道端に落ちている。

 それが何の生き物の物かは分からんけど……なーんか、人間のそれっぽいような気がしなくもないような……。

 

「それ以上いけませんよ、我が主。下手な詮索は無しにしましょう」

 

 ……それもそうだな……!

 まあ何はともあれ、この血液をここからヒョイッと拝借してしまえば、血液不足も少しは改善されるだろうという算段だ!

 

「……で、どうするつもりなのですか? 我が主。盗賊ギルドに加入することは、我が主ではまだできませんよ?」

 

 そう、眷属の言う通り、我はまだこの盗賊ギルドには入れない。

 何故なら、ここの加入条件は税金滞納であり、そして我はまだ税金を免除される弱小冒険者であるからだ!!

 

 ……自分で言ってて悲しくなってきた……つら……。

 

「まだマトモにお金稼げてないんだから良いじゃないですか。……それで、どうやってスキルを取得するのですか?」

 

 ふっふっふ、それは簡単だ! まず、酒場にあるそこの階段、あれが盗賊ギルドの入口だ。

 そして、その前に陣取るあの男が門番兼ギルド加入受付係という訳だな。

 

「……結構強そうですね」

 

 ああ、かなり強いらしい。そして、一時たりともあの場を離れない……つまり、アイツをどうにかしない限り、あのギルドには侵入できない訳だ。

 

「……やっぱり、侵入するつもりですよね……まあ、それしか無いですもんね。……それで、貴方様が今持ってるテレポートの杖、それで退かそうという算段ですか?」

 

 ふふふ、流石は我が眷属! その通りだ!

 

 ……でも、それだけでは無いぞ! このテレポ杖はまだ使う……。まあ、それは見てからのお楽しみだな!

 

「……よし、行くか……!」

 

 作戦を心の中で復唱し、テレポ杖を構えてじりじりと門番の元へ近付く。

 ……ふふっ流石に悪巧みを、仕掛ける者の目の前でぺらぺら喋るようなアホでは無いからな! ちゃんと心の中だけで留めておいたぞ!

 

「当たり前のことで得意気にならないでください」

 

 毎度のことながら辛辣ぅ……! まあ、いい! 我の華麗な侵入劇!! とくと見ろ!

 

「おい、ここは盗賊ギルドだ。部外者以外は――」

 

 ビュンッ!

 

 ギルドの番人を問答無用で杖で飛ばし、ガラ空きとなったその階段を、優雅に我は下る。

 

 さあ! 華麗なるスパイショーの始まりだ――!

 

 

 鳴り響くサイレン。それは、侵入者を告げる警告音であった。

 

「侵入者を探せ! 殺せ!」

 

 ギルドメンバーの怒号が響く中、華麗なる侵入を遂げた我が主は――。

 

 ビュンッ!

 

「……ここじゃないなぁ」

 

 ビュンッ!

 

「ここでもない……」

 

 ビュンッ!

 

「んなっ!? 貴様ナニモ――」

 

「――あっ、失礼しましたぁー」

 

 ビュンッ!

 

 ――永遠テレポートを繰り返し、ギルド内を飛び回っていたのだった……。

 

「うーん、中々目当ての部屋に行けないなあ……」

 

 何度も何度もテレポートをし、様々な人間に見つかりながらも飛び続ける我が主に、華麗さの欠片など見出だせる訳もなく……。

 ……はあ、これのどこが華麗なる侵入劇……スパイショーなのですか……?

 

「うっさいなあ!? 我は運命を操れる訳じゃないんだ! 一発成功なんてできる訳ないだろ多目に見ろ!! 多目に見て華麗さ感じろー!」

 

 随分な無茶振りを言いつつ、杖を振るのを止めない我が主。

 ……そもそも、こんな運任せな作戦の時点でアレですからね……。

 

「……おっ、おっ!? ここだ! ようやく辿り着いたぞ!!」

 

 十何度目かのテレポートの末、ようやく辿り着いたのは、店らしき場所。幾つか商品が並んでいますが、この騒動のお陰か人は居らず……。

 

「ふふっ、こ〜つご〜♪ 人が居ない内に、コイツを使わせて貰おうじゃないか!」

 

 そう言って我が主が手に取ったのは、一つの鏡。

 ……これは、確か変装セット……ですか。

 

「ああ、そうだ! これを使えば、自分では無い者になれるマジックアイテムみたいなモノだな! ふふっ、これがあれば、この喧しいサイレンが鳴り止むのだよ!」

 

 変装に使うインコグニートという魔法がありますが、それを用いているのでしょうか……。とにかく、システム的に別人になれるようですね、サイレンが止むということは。

 

「そうそう、……ホイさ! ……ふふっ、どうだ?」

 

 パっと我が主が変装セットを使用すると、我が主の姿がまったくの別人になってしまう。

 そして、あれだけうるさかったサイレンも、それと同時に消え去った。

 

「……ふふ、完璧だな。後は、トレイナーのとこに言ってスキル取得してエンドだ!」

 

 ……いや、そうは言っても。侵入者騒ぎがあったのに、見掛けぬ顔の人間がスキル取得しに来たら普通バレませんか……?

 

「……うんー? ……あっ、確かに……で、でも皆その方法でスキル取得できるって言ってたし!」

 

 ……また騙されてませんか?

 

「ホントだって! 良いだろう、じゃあ証明して来てやるから、待ってろよ!! ホントだったら謝れよぉー!? 絶対の、ゼッタイだかんなーぁ!!」

 

 子供みたいなことを言いながら、我が主は部屋を飛び出しトレイナーの元へと向かう。

 変装の効果が切れ、完全に元の姿に戻っていることにも気付かず進む我が主を見ながら、心配の溜息をつき続けるのであった……。

 

 

 ここはわが家。時刻は侵入から数時間ほど後。

 

「……で、何か言うことは?」

 

 ………………。

 

 ……ウルチヤ様が正しかったです、疑ってもうしわけありませんでした。

 

「だいぶ棒読みだなぁ……!? ……まあいい、我は寛大だからな! その辺で許してやろうではないか!!」

 

 ……あの後、ギルドを素の姿で闊歩した我が主は、トレイナーの元へと向かうと何も疑われることもなく、十幾らかのプラチナ硬貨と引き換えに窃盗スキルを無事取得したのであった……。

 

 ……いや、ザル過ぎやしませんかね……!?

 

「まあ、きっとサイレン頼りなんだろうな。一々、ああいう連中がギルドメンバーの顔を覚えてるとも思えんし」

 

 ……まあ、確かに……盗賊ですし、変装やらなんやらで顔を変えることもあるでしょうからね……。

 覚えるよりも、システムに頼った方が楽そうですね……。

 

「……ま、後は我の華麗なる侵入劇に、賞賛を贈ったのかもしれないな!」

 

 それは無いですね。

 

「即効否定するな!? 傷付くぞ!!」

 

 ……さて、これでひとまず、窃盗ができるようになりましたね。

 我が主の抗議を黙殺し、話を先に進める。

 

「……むぅ、……ああ、そうだな。これで、今より楽に暮らせる……ハズだ!」

 

 ……その言い方は少し心配になりますが……。

 

 ……まあ、とりあえず……良かったですね、我が主。

 

「うむ!! それじゃあ、この窃盗スキルも使いつつ、更に依頼をこなしてお金貯めてスキル取得して強くなって、どんどん成り上がっていくぞー!」

 

 輝く眩しい表情で、元気良く宣言する我が主。

 冒険者として、一歩成長した我が主に暖かな気持ちを抱きながら、私はどこまでも見守っていきたいと、そう思うのであった……。

 

 

 

 ――降りしきる雪。凍えそうな白い息。ああ一面の銀世界。

 

 ……そして、それを賑やかに彩る、お祭りっ……!

 

「やって来たぞ……!! 聖夜祭!!」

 

 ここはノイエル、そして月は12の月。

 

 賑やかな人々の群れ、きらびやかな装飾たち、楽しげな屋台の数々……。

 これが噂に聞く、聖夜祭……!! 血塗られた大悪魔の化身、サンタさんを祀る大祭事!!

 

「違いますよ。このお祭りは、癒しの女神ジュアを祀っていて……」

 

 ここに向かう時から分離している我が眷属コウモリが、何だか不愉快なことを言ってくる。

 えぇ……? なーんで、忌々しい神の名前が出てくるんだよぉ……!?

 

「……アレを見てください。あの一際目立つ場所にある祭壇と女神像。誰がどう見ても、ジュア教徒のお祭りですね」

 

 ……ハーァ、お前はほんっと、夢が無いなあ! そんな神がどうたらより、大悪魔であるサンタさんの方が良いだろう!?

 というか、癒しの女神が何をしたよ!? サンタさんなんて、この時期めっちゃ大忙しだし凄い実益もたらしてるんだからな!?

 

「……いや、まあ……はい……そうですね……」

 

 なんか、投げやりな返事をされた気がする。

 ひどい。

 

「ジュア教〜! ジュア教に入りませんか〜!? 今ここで入信すれば、ジュア教徒限定品の、癒しの女神ジュア様の抱き枕が貰えますよ〜!!」

 

 ……クマのぬいぐるみを着たジュア教徒が、だいぶヤバいことを口走りながら布教している……。

 

「……えっ、我が言うのもなんだけど、女神の抱き枕とか不敬じゃないの……?」

 

「……きっと、そういう文化でもあるのでしょう……私には狂信者の考えることはよく分かりませんが……」

 

 まったく、眷属の言う通りだ!

 よく分からん概念みたいな奴らを、神聖視して勝手に崇め奉る連中の考えなど、まったく! これっぽっちも! 分からんなぁホントっ!!

 

「……ホントですね。私にはまったく理解できません。…………我が主も含めて」

 

「……んぇ? なんか言った……?」

 

「いえ、なにも」

 

 ……なんか眷属が呟いた気がしたんだが、どうやら我の聞き間違いだったらしい。ふーむ、ケモ耳生えて、音には敏感になったと思ったんだがなあ?

 

「…………それにしても、我が主はサンタのことを心から信じていらっしゃるのですね」

 

「そりゃあ、当然であろう!? 信じてないとプレゼント貰えないし……! ……それに、……」

 

 ……それに、あのお父様が、言ったことなんだ。

 聖夜の日が、サンタさんが……吸血鬼とは相容れない聖人であると知った日……。

 ……ボクは、お父様に問いかけた。……なんで、とっても悪い吸血鬼なのに、すごく良くて神様みたいな人がプレゼントをくれるんだ。おかしいって。

 

 その時、とっても悲しかった。……だって、もうプレゼント貰えないかもしれないし、それにお父様にウソつかれてたかもしれないし……。

 ……神聖なモノとは相容れない物だってのは、ウソだったの……? って。

 

「……お父様は、あの時……すごく珍しく、ボクに謝ってた……。――すまない、ずっとお前には黙っていたが……サンタさんは、実は大悪魔サタンの化身なんだ。――って」

 

 ……普段、自分の否なんてまったく認めない、嫌な奴のクセに。……その時だけは、なんでだか知らないけど、そうやって謝ってきて……。

 ……だから、絶対……あの言葉は嘘なんかじゃない……!

 

「…………そう、ですか……ええ、そうですね……絶対、貴方様の御父上のその言葉は、嘘なんかじゃないですね……」

 

「……当然だな! というか、お父さんがサンタさんの正体とか言ってくる奴も居たが、バッカだよなあ!? ()()お父様が、娘にこっそりプレゼントとか!? 絶対ナイナイ!!」

 

 一切一欠片も想像が付かない。お父様、ぜんっぜんボクに愛情らしい愛情注いでこなかったもん!

 最期の最期くらいだもんねぇほんと!

 

「…………ああ、そういえば……我が主、今年のサンタについてなのですが……」

 

「……うん? サンタさんがどうしたんだ? ……あっ!? そういえば、まだ我サンタさんに手紙書いて無かった!?」

 

 ここのところ依頼続きですっかり忘れていた……。

 サンタさんにちゃんと手紙を書かないと、プレゼントは貰えないのだ……! 一人旅を始めてからは、家も無かったし余裕無くて手紙書けなかったから、サンタさんからプレゼント無かったんだよなあ……。

 

 今年は、家も手に入ったし余裕はそんなに無いけど、何とか生活できてるから今年こそサンタさんからプレゼント貰えると思ってたのに……!!

 今からでも間に合うかな……!?

 

「…………我が主、その話なのですが……ちょっと、カバンの外側の、小さなポケットを開いて見てください」

 

 ……ふむ? カバンの外側の小さなポケット……?

 なんだかよく分からんが、開けてみるか……。

 

「……あれ、なんか入ってるぞ……? なんだこれ、こんなもの入れた覚えは……」

 

「……それは、サンタさんからの手紙です。……我が主が寝ている間に、私が見つけてそこに隠しておきました」

 

「ふぇっ!? サンタさんからの手紙!? ちょちょっ、ちょっと待て! 今読むから!?」

 

 眷属からの言葉で、我は急いでその手紙の封を切る。

 ……そこに書かれていたモノは――。

 

 ――――――。

 

 ――偉大なる吸血鬼の娘、ウルチヤへ。

 私はサンタである。

 ウルチヤよ、君は新天地へと旅立ち、冒険者となり、一人で生きられるようになった……。君はもう、子供ではなく、立派な大人の一員となったのだ。

 ……だからもう、ウルチヤにプレゼントを渡すことはできない。冒険者となり一人で生きられるようになったウルチヤは、もうプレゼントを貰う子供では無くなったのだ。

 

 ……最後に一つ、この私、サンタからお願いがある。……次の聖夜からは、大人となったウルチヤが、私に代わって君の眷属――家族たちに、プレゼントを渡して欲しい。……勿論、そのことは内緒でね。

 大人となった君が、子供の頃の嬉しさを、楽しさを、立派な主人として、次の子供たちに伝えて欲しいんだ。

 

 君はもう立派な大人だ。そしてこれから、立派な主人となるのだ。

 ……これまで、一人でよく頑張ってきたね。私は、いつも君を見ていたよ。もう、私が見守らなくても、君は大丈夫だ。

 

 これまで、私を信じてくれてありがとう。

 そして、これからは、よろしく頼むよ。

 

 親愛なる吸血鬼の娘ウルチヤへ。大悪魔の化身、サンタより。

 

 ――――――。

 

「………………ぐすっ……」

 

「…………大丈夫ですか、……我が主……」

 

 ……サンタさんからの手紙の内容は、予想だにしない物だった……。

 そして、読んでいく内に、寂しさが募って……でも、なんだか嬉しさもあって……。

 なんだかよくわからない、ぐっちゃぐちゃな気持ちになって、目が熱くなって……。

 

「…………うぅっ…………ぅん……ぐすっ……うぅ……」

 

 サンタさんからの手紙は、とても悲しいものだった。それはお別れを告げるもので、ずっと憧れだった人が、離れていってしまうみたいで……。

 ……でも……なんだか、その言葉は、とってもとっても暖かくて……。懐かしいような、落ち着くような、嬉しいような……。

 

「…………我が主……」

 

「…………ぅん……だい、……だいじょうぶ……ぐすっ……うん、大丈夫……だ……」

 

 ……何とか、声を振り絞り、心配そうな目でこちらを見る眷属にそう伝える。

 

 ……そう、ボクは……ずっと見守ってくれたサンタさんから、……ちゃんと大人だって、認めてもらったんだから……いつまでも、泣いて心配かけちゃいけない。

 

「…………サンタさん、ボクのこと……大人だって言ってくれた……ちゃんと、大人になれてるって……」

 

「……そうですね……。ウルチヤ様は、まだまだ未熟ではありますが……それでも、自分で考え、生きる道を決め、そしてその道を自分の足でしっかりと歩んでいく……そんな、立派な大人であると、私は思っていますよ……」

 

「……お前も、そう思ってくれてるのか……?」

 

「ええ、勿論です……。ここ数ヶ月だって、自分で頑張って働いて、稼いで、強くなって、何とかこの地で生き抜いて来ました。それに、人々と出会い、関わり、自分なりに考え受け止めて、どんどん自分のものにしていきましたね……」

 

 そう言われて、これまで出会ってきた、ロミアスやラーネイレ、ヴェルニースにいた演説の男に、酒場の冒険者たち、街の人々、農家の人たち……。

 ……それから、お父様とママ……そして、我が眷属……。

 色んな人たちと、その想いが、自然と頭の中から溢れて出てくる……。

 

「……本当に、よく頑張ってますよ、我が主は……。……ウルチヤ様、ウルチヤ様はちゃんと、立派な大人になれてますよ……」

 

 その眷属からの言葉を聞いた瞬間、ボクの目にはどうしようもないくらいの涙が溢れ始めて……。

 

「……うっ……うぅっ…………とめなきゃっ、ボクもう、大人だっていわれたのに……泣いちゃ……泣いちゃ……うぅっ……」

 

「……ウルチヤ様、……大人だって、泣きたい時は泣いて良いんですよ……。さあ、思う存分……自分の素直な気持ちに従ってくださいませ……」

 

「うぅっ、……あぁ……うわぁああん……!!」

 

 嬉しいのか悲しいのか暖かいのか、寂しいのか安心してるのか、もう何もかもがわからないぐっちゃまぜな気持ちの中、ボクは暖かな手紙を握って泣いた。

 

 ――凍える冬の雪の中、熱き涙を流すボクの心は確かに、とてもとても暖かいものであるのだった……。

 

 

 ……泣きじゃくる我が主を見守り、私はそっと心の中で呟く。

 

 ――これで、良かったのですよね……? 娘をひっそりと想い、大悪魔の化身サンタさんという偽りの仮面を被ったあの御方……。

 ……私は、貴方の代わりにはなれません……。……ですが、私は……貴方の意志を……想いを……貴方の最愛の娘に、伝え、繋ぎましたよ……。

 

 ――貴方の想いとは、また……ちょっと違うかもしれず、私の想いも、たくさん込めてしまいましたが……。それでも、貴方なら、そう想うと……勝手ながら、私は信じています。

 

 ――私は、貴方の代わりに……これからも、最愛の我が主……ウルチヤ様を、見守っていきます。

 ……だからどうか、御安心くださいませ……。

 

 ――貴方の娘は、ちゃんと立派にやっていますよ……。

 

 ……まだまだ未熟で、そして誰よりも強い我が主を暖かな気持ちで見守りながら、どこか遠い場所で見守っているであろう御方に、私はそっと言葉を掛けるのであった――。

 

 

「…………すぅーーー……はぁーーー……」

 

 雪の中でひとしきり泣いたあと、ボクは大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 

 ……不思議と、あんなに泣きじゃくったのに、ボクの心はなんだかとってもスッキリしていて、ぐちゃぐちゃな気持ちもまるで、涙と一緒に流れていったみたいだった。

 

「…………うん、落ち着いた……」

 

「……もう、大丈夫なのですか? 我が主……」

 

 ボクが泣いている間、黙ってすぐそばでただ見守ってくれていた我が眷属が、そっと話しかけてくる。

 

「……ああ、もう大丈夫だ。……ふふっ、逆になんかスッキリしたなぁ……お前の言う通り、たまには思いっきり泣いて見るのも、良いかもしれないなぁ……」

 

 ボクがこうしていられるのも、アイツの暖かくて優しい言葉が、背中を押してくれたからで……。

 ……なんというか、本当に……いい家族と、巡り会えたな……。

 

「…………ありがとうね……」

 

「…………こちらこそ、……ありがとうございます」

 

「……えへへ…………」

 

 ……ふと、周りを見れば、空はすっかり黒に覆われ……辺りも随分と暗くなっている。

 それでも、祭りの光と舞い散る雪の白は、この暖かな銀世界を彩り飾っていた……。

 

「…………ボクは、……大人になったとは言われたけど……それでも、全然まだまだだし、子供っぽいし、未熟だと思う……」

 

 それは、アイツも言ってたことだし……。

 

「……でも、……だからこそ……ボクはもっともっと、色んなことを知って、できるようになって……立派な冒険者に……そして、立派な主人になっていきたいんだ……!」

 

 ……ボクは、ボクの目指す……歩んでいく道を、眷属に宣言する。

 

「…………絶対、絶対……! ボクは、皆から慕われる、最高の主人になるから……だから、だからね――」

 

 ――ずっと連れ添ってきた、ずっとボクを見守ってきてくれた眷属へ、願いを、想いを伝える――。

 

「――ずっとずっと、ボクを見守って……ずっとずっと、ボクのそばで、ボクと一緒に、いてほしい……。――ダメ、かな……?」

 

「………………っ……良いに、決まってるでしょう……! だって、貴方様は……私の大切な……我が主なのですから……」

 

「…………ふふっ……ありがとう……ボクの大切な、眷属……」

 

 ……ボクの眷属の、小さな小さなその身体を抱き寄せ、ぎゅっと暖かさを確か合う……。

 

「……私は、いつまでも……いつまでもずっと、ウルチヤ様とともにいます……絶対に、貴方様から離れません……生涯ともに、ありますから……」

 

「……えへへ、それは……プロポーズの言葉か?」

 

「……えっと……その、それとはまた違うというか……いや、その嫌な訳ではなくて、ですがなんというか……」

 

「……ふふっ、大丈夫……分かってるよ。……お前との関係は、特別、だからな……」

 

 ――黒き空と白き雪が世界を包むこの光景の中、ボクは眷属を手におさめながら、ゆっくりと身体から離す。

 

 ……そしてまた、ゆっくりと……ボクと眷属の距離は近づいていき、そして――。

 

 ――チュっ。

 

「――いつまでも、ボクと一緒にいてくれよ、ボクの愛する眷属よ♪」

 

「……はい……どこまでも、いつまでも……私はウルチヤ様とともに――」

 

 ――親愛の口づけとともに、ボクたちはこの暖かな雪夜の時を、ともに歩んでいくのであった……。




 これにて、第1章は完結です。
 第2章からは、冒険者ウルチヤが新たな眷属たちと出会い、一緒に冒険し暮らしていく中で、冒険者としても主としてもより成長していきます。
 引き続き、ウルチヤちゃんを見守ってくれたら嬉しいです。ありがとうございました。


《眷属コウモリ》
 ウルチヤにずっと仕えているコウモリの眷属。
 常識人で冷静沈着。ウルチヤに足りない部分を全て持っていったようなコウモリ。ツッコミ担当。
 名前はまだ無い。

 普段はウルチヤと同化しているが、分離してコウモリの姿で飛び回ることもできる。コウモリの姿では鳴き声しか出せないが、ウルチヤは動物の声が分かるので問題は無い。
 ウルチヤとは強い繋がりがあり、同化している時はお互いの思考を読み取れる。また分離していても、眷属コウモリはウルチヤの思考を読み取ることができる。

 主人相手にも結構辛辣な物言いをし、キツいツッコミを入れるが、その実、深い忠誠心と愛情をウルチヤに対して抱いている。
 性別は不明なので、恋愛感情などは持っていない、らしい。

 昔からウルチヤとともにいたが、会話ができるようになったのはウルチヤが両親を失ってから。
 ただの眷属コウモリが、なぜ突如として意識を持って会話ができるようになったのか。
 その理由は謎に包まれている。
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