愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
第13話【あなたは雨雲を引き寄せる】
◇
ここはとある炭坑街。冒険者は多いがそこそこ平和な街――の、筈だった……。
「ガード! ガード!」
「のこのこ現れたな犯罪者め!!」
背後から迫る殺気。浴びせられる怒号。そして矢。
「ちょ、ちょっ! 待て待て! 一旦話し合わないか!?」
「犯罪者は殺せ!!」
我の和平の言葉にも聞く耳を持たない衛兵たち。
問答無用でシンプルに殺しに来てる辺り、本気と書いてガチである。
「すっごく野蛮人!! 我に人権は無いのか!?」
「犯罪者の吸血鬼に人権があると思いで? 我が主」
安全な逃走ルートを確認しに行った眷属コウモリが帰って来たようだ。
いや、帰って早々酷い言い様だな!?
……でもまあ、そりゃ、うん……我に人権ある訳ないわな!
「そこを右に曲がればガードの居ない道です。そこを通って街を出ましょう我が主」
「おおそれはホントか!? ありがとな、眷属よ♪ ……さあ、逃げるが百計!! 我逃走!!」
「それを言うなら、三十六計逃げるに如かずです。別の混じってますし数字まで間違えてます」
うるさい眷属の言葉を無視して、我は大地を蹴り街を飛び出した。
……クソっ……なぜこんなことになってしまったんだ……! 我が……我が一体何をしたというんだっ!!?
◆
――時は数日前。
「おいおい眷属〜♪ 見てみて〜♪」
場所は王都のその酒場。
酔っ払った我が主は、あらぬ方向を見ながら私に語り掛けた。
「我の華麗なる窃盗てく、特別にみせてやろう!」
上機嫌にそう宣言する我が主の窃盗技術は、何とも華麗なLv.3。
控えめに言って失敗の予感しかしなかった。
「へっへへ〜みーてろー!? スティーーールっ!!」
声高々と窃盗行為の自白をする我が主に集まる視線。
……その結果は勿論――。
「――ガード!! ガード!!」
――こうして無事に通報された我が主は、誰もが追い掛け、誰もが認める立派な犯罪者となったのだった……。
◇
「――と、いう訳で。純度100%な自業自得でしか無いですね、我が主」
「ええい、うるさいうるさい!! えっと……うるさいったらうるさいっ!!」
どれだけ考えても反論は思いつかなかったから、ひとまず口煩い我が眷属を黙らす。
幼稚と言われようが関係無い! 我はどこまでも自分に都合良く生きていく!
「愚かで幼稚で傲慢な覇道。それでこそ我が主です」
全力で馬鹿にしてる気がするなぁ!? でもなんか眷属が嬉しそうなの訳分からん!! なんだこいつぅ!?
「そんなことより我が主は、どこへ行くつもりで? わが家はとうに過ぎましたが」
「おいおい、この我の天才的策略を理解できないのかぁ? まだまだだなぁキミも」
ふっふっふ、
「……本当に、上手くいくんですかねぇ……?」
疑いの声をわざとらしく上げる我が眷属を尻目に、我は平和な平和な農村へと歩を進めるのであった。
◆
――ちぅ……ちぅ……ちぅ……。
……じゅずっ……!
「……っぷぁ…………あーーぁむっ……!」
もぎゅっ。
「――どうしてそんなひどいことするの……?」
ごっくん。
「……ごちそうさまでしたっ……!」
――我が主は、農村の幼女を踊り食いした。
……ガード! ガード!
「お前までガードに通報しようとするでないわ!?」
……いや、だって……流石にいくら何でも、幼気でか弱き少女を生きたまま
なんでマジモンの犯罪者になってるんですか貴方は……。
「うわぁ……我が眷属からガチめに軽蔑されるのつらい…………いや、だからさっきから言ってるだろう……? こうすればカルマが良くなって、罪が消えていくって」
……いやいやいや、カルマが良くなるとか、罪が消えるとかよく言えますね? 自分のした行動と照らし合わせて、よく考えてくださいよ。
そもそもその話、また酒場で冒険者から聞いたものでしょう? そんな眉唾物な……。
「……でも、なんか色々軽くなった気がするぞ? ほら、罪悪感とか無いし」
そう言って、腕を伸ばし身体の軽さをアピールする我が主。
……いや、元から無いでしょ罪悪感……。
「そうではなくてだなぁ!? なんかこう……犯罪者感無くなったというかさぁ!? ……もういい、ならば今から証明してやろうじゃないか!」
ぷんぷんと顔を赤くしながら、ずんずんと村の中心へと歩いていく我が主。
……いやいや、お待ちください我が主! いくらこのヨウィンが田舎の農村だからといって、ガードはちゃんと居ますからね……!? 幼女食異常犯罪者の今のウルチヤ様なんて、
「……なんだ、お前は」
……あっ、ガードに気付かれた。
哀れなり我が主。どうか這い上がった時には正気に戻っていてくださいね……。
「いいから見ておれ! ……ハロー! いつもお勤め御苦労様ですガードさんっ♪」
怪訝そうなガードに、フレンドリーで元気な挨拶をかます我が主。
のこのこ目の前に現れた誰もが認める犯罪者の我が主を、そのガードが見逃す訳がな――。
「――なんだこのガキは。仕事の邪魔だからあっち行ってろ」
――シッシッ、と手の合図とともに追い返すガード。……あれ……? なんで捕まえないのです……? 職務放棄……?
「だぁーかぁーら! 言ってるだろう!? この農村のグウェンちゃんを踊り食いすれば犯罪者から抜け出せるって!! 我はもう犯罪者では無くなったのだよ! 脱犯罪者! いぇー!!」
……………………。
…………狂ってるっ!!
こんなにも訳の分からぬことを言う元犯罪者にも、引くような視線を向けるだけで何も言わないガードたちを見れば、我が主の言うことが間違っていないのは理解できる。
……理解はできるが……!
分かる訳にはいかないだろうっ……! ぜったいに間違っている、これは絶対に間違っている……!
どこの世界に、幼気で非力な幼女を食べて犯罪者を辞められるなんて
そんな世界ぶち壊してしまえ。
「それが我らの世界なのだろう? 仕方ない仕方ないっ! ふふんふーん♪」
犯罪者から脱却できたことがよっぽと嬉しいのか、鼻唄交じりでそう言い聞かせてくる我が主。
……おかしいのは私の方なのでしょうか……?
そこまで言い切られると、段々と分からなくなってきますね……。
「ふんふ〜ん♪ いい子〜我はいい子のヴァンパイア〜♪」
……でも、まあ……冒険者の世界に我が主が順応しているみたいなので、良かった……良かった……? ……多分、良かったんじゃないかと、恐らく思います。良かったらいいなぁ……。
「おいおい、溜息なんてついてどうしたんだ? せっかく自由の身となったんだぞ! 謳歌しなくちゃ勿体ないだろっ♪」
そう言って楽しそうに駆け出す我が主の笑顔に、私はやれやれと思いながらも、どこまでもついて行くのであった……。
◇
「――謳歌しなくちゃ、勿体ないだろっ♪」
そう言って我が眷属に笑い掛け、明るい一歩を踏み出したその瞬間――。
――ボフンっ!
――何とも不穏な、変化の音が身体の中から響き渡るのだった……。
「……この音って……まさか、……エーテル病……!?」
……数ヶ月前、我から翼とケモ耳を誕生させたあのエーテル病……。治すことはかなり難しいそれが、発生してしまった時に似た、いやまさにそれと全く同じ音が、身体から鳴ってしまった……。
「……我が主の思っている通り、エーテル病が新たに発症した可能性がありますね……」
異変を感じ取り、すぐさま我との同化を解除した眷属が冷静に分析をする。
いや、でも今はエーテルの風など吹いていないのだが……!?
「……エーテルは、エーテルの風が無くてもごく少量ですが、自然界の至る所に存在していると聞いたことがあります……。恐らく、徐々に溜まっていたエーテルが許容量を超え、発症したのかと思われます」
眷属の考察にある程度の納得を覚える。
……でもなんか、花粉症みたいだな……。
「エーテル病と花粉症を一緒にするのはどうかと……いや、否定するのもなにか違う気はしますが……」
「……いや、そんなことはどうでも良いな……。何よりまずは、どんな症状かを見なければ……! 眷属よ、我の身体に異変はあるか?」
「…………うーん……特に見受けられませんね……」
我の周りを幾らか飛び回り、じっくり見つめてから答える我が眷属。
……ふむ、なら身体変化では無いか……。
精神にも異常は無いしなあ……。
「魔力にも変化は無し。特殊な時空間の発生も無さそうですね。重力も無い、と……」
「……いよいよ、何が起こったのか分からなくなったな……? むしろ怖いぞ? 理解不能は原初の恐怖ぞ?」
適当に手をグっパーしてみても、特に変化はない。……さて、どうしたものか……。
「……まあ、何はともあれ一大事では無さそうで良かったじゃないですか。何も変化が見受けられないということは、日常的には何も問題無い、ということですし」
「……んー……まあ、そうか……そうだなぁ」
どうにかプラス思考でフォローする我が眷属に、生返事を返す。
……なーんか、イヤな予感がするんだよなあ……。
……こう、ホラーゲームの脱出成功と思いきや……っていうバッドエンドみたいな……そういう気持ち悪さが、あるような……。
「……いやいや、ゲームのやり過ぎですよ我が主。普通に考えてそんなの、現実に起こる訳無――」
――ザァーッ!!
眷属が全力でフラグを立てたら、雲一つ無い快晴の空から突然雨がやって来た。
「…………えぇ……?」
「…………お前のせいだぞ……あんなパーフェクトなフラグ台詞言いやがって……」
「私の所為ですか……!?」
これだから、ゲームやらなんやらに疎い眷属は困るのだ。一緒に見てるクセにちゃんとしっかり興味を持たないからだ。
勉強不足だな!!
「――……勉強不足……この私が……。……よりにもよって、我が主から……勉強不足と言われ――」
滅茶苦茶に失礼な言葉を呟きながら、眷属コウモリは墜落していった。
哀れ。
……それにしても、この雨はキツい……。
流水痛い辛い嫌い。やだぁ……やだぁ……。
「……なら、早く雨宿りをすれば……」
「……いや、なんだかこの雨は変だ……妙な違和感がある……だって、さっきまで雲なんて何もなかったのだぞ……?」
「……確かに……変ですね」
眷属が見上げた方を見てみれば、周りの空はまるで快晴。青く澄み渡っている。
……だがしかし、このヨウィンにだけは黒き雨雲と薄暗き灰色とが空を支配していた。
「……滅茶苦茶嫌だけど……死ぬほど試したくないけど、……ちょっと確かめてみようじゃないか」
「……我が主、まさか本気でこの雨の中を……?」
心配そうに見つめてくる我が眷属に、サムズアップを返す。
「……さあ、走るぞ! この雨雲を……抜けるっ!!」
突如として現れた雨雲の正体を、そして……自身の発症したエーテル病の正体を確かめる為――。
――我は襲い来る
◆
「結論っ!」
ここは愛しくも貧しき我らのわが家。別名ただの洞窟。
そこに倒れ伏すは、流水にやられたボロボロ主。
「我、雨雲を呼び寄せる体質になりましたー!!」
はい、拍手ー! と、ヤケっぱちに叫ぶ我が主。
数時間前、突如現れた雨雲を抜けようとガムシャラに走り出した我が主だったが、どこまで行ってもどこへ行っても、雨が降り止むことは無く。
時には向かい風のままどこまでも走ってみるが、物理法則を無視したその雨雲は風に逆らいひたすらに我が主を追い続けた。
その異常性と、直前に発症した謎のエーテル病を合わせ踏まえると、十中八九エーテルの影響で雨雲引き寄せ体質になったという結論に至ったのだった。
「……あぁァ!! さいっアクだな!? 何故よりにもよって流水嫌いのこの我を、大の雨嫌いの我を雨女にするのだっ……!? 極悪非道の残虐性癖かっ!?」
ビチビチと、身体を跳ねさせ暴れる我が主。
その姿はまるで打ち上げられた魚のよう。我が主をそう動かすのは、生への渇望か。それとも絶望か。
「……いや、ほんと……つらいわぁ……。だってだって、今も雨ずっと降ってるし……我はあと、どれだけ雨に怯えてわが家で立ち往生しなければいけないのだ……?」
勿論、今の我が主に血液のストックは無い。
血液が無ければ食事を取らないと謎のこだわりを持つ我が主に待つのは、無限に訪れるひたすらの餓死のみである。
簡単に言ってしまえば、今の我が主はほぼ詰み状態なのである。リセットからのニューゲーム推奨。
「……お前、普段ゲームとか興味無い癖に、やけにそういうのに詳しくなる時があるよな」
……ウルチヤ様がやってたからですよ。
それで嫌でも覚えただけです。
「……ふーん、そうなんだ……。……じゃあ、今度対戦でも……」
……我が主、今は現実逃避よりもこの状況の打破を考えてください。
「……えぇー……やだなあ……。だってさあ、どうすりゃ良いか分からんし痛いし疲れたしお腹すいたし……やる気一切湧かないよ〜」
……はあ、またそうやって……。
口を尖らせ文句やら言い訳やらを唱える我が主。
……まあ、そうですね……。
もしも我が主がその叡智をもって、この現状を打破し逆転勝利に導く天才的な策を生み出したのならば。
……私は幾らでも、貴方様のやりたいゲームにお付き合い致しますよ。
「……んえぇ……? ほんとぉ……?」
ホントですよ。どんなゲームでも、私がお相手いたしましょう。
「……ルールとか、複雑な物もあるよぉ?」
貴方様が今までプレイしてきたゲームのルールは、全て覚えてますので。
「……いや、何でそんな覚えてるのさ。しかも全部なんて。あんなにゲームに興味無さそうだったじゃんお前」
…………あっいや……それは……。
……我が主に、合わせる為でして……。
「…………ふーーーん、ふーん……。へぇ……」
突然鋭い眼つきとなった我が主は、顔をニヤけさせながら私の心をマジマジと覗いて言葉を紡ぐ。
「このボクと一緒に遊びたいが為にわざわざ覚えたけど? 誘う勇気が無くて? 恥ずかしいから興味無いフリしてて? でもホントはボクと遊びたくて? 今がチャンスとばかりに? えぇ?」
……何も、そこまで言ってないですよ。勝手な妄想やめてください。
「ハハハ、照れるなって〜♪ 分かってる分かってる、お前の気持ちはな!」
……あーもう、我が主がまた一段とメンドウザくなりましたね。
「ふっふっふ、お前がこのボクを雑にディスる時は大体照れを隠したい時だって分かってるんだからなぁ〜?」
……むう。ウザいです。
「ハッハッハッ、カワイイなぁお前なぁ? ……よ〜し、カワイイ眷属の為にも我が一肌脱いでやろうか! さあ、我の天才的頭脳をとくと見ろ!」
調子に乗りまくった我が主が、マントをひるがえしそう高らかに宣言する。
……中々に私はダメージを喰らいましたが、ただ我が主がやる気と本気を出してくれたのならば良かったです……。
……多分、良かったです……ダメージでかいけど。
「待ってろよ、我が眷属よっ! 天才ヴァンパイアのこの最強頭脳で、逆転大勝利な解決を導いてやるから!! だから必ず絶対いっぱい一緒に遊ぼうなっ♪」
……その笑顔は、反則ですよ。こんなにも真っ直ぐなモノをぶつけられたら……私も……。
……私、……心から、楽しみにしていますね。
……ファイトです、ウルチヤ様……!