愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◇
「マトゥ、お散歩いくぞ!」
「わふぅ……?」
雪原にひっそりとたたずむ一つの小屋。真冬の寒さも寄せつけぬ暖かな部屋の中でぬくぬくとまどろむ銀狼に、我は元気良く声をかけた。
「ようやく雪が止んだだろう? 食料と血液もあるし、ちょっと離れた街に行こうじゃないか! マトゥもお散歩したいんじゃないか!?」
「……おさんぽ……おさんぽ……?」
寝ぼけた声で我の言葉を反芻するカワイイ銀狼眷属マトゥルン。
何度か言葉を繰り返すうちに、ようやく脳に理解が追い付いてきたのか、徐々に目に眩しさが宿り、顔がぐんっと持ち上がる。
「おさんぽ……! おさんぽ!! えっ、ごしゅ、ホント!? おさんぽ行くの?? おさんぽ、いく!?」
舌を出し尻尾をファサファサと振りながら駆け寄るマトゥ。カワイイなぁ……!!
「おうおう、ホントだぞ! マトゥ、一緒にお散歩しよっか♪」
「おさんぽだー! おさんぽ行くんだ!? これからおさんぽなんだね!!」
「うんうん、そうだよ〜お散歩だよ〜」
「おさんぽなんだね! やったーー!! じゃあおさんぽしようね、おさんぽしようね! 早くおさんぽしよ!! おさんぽいかないの!?」
浮き足立ち過ぎて、その場でくるくる回りだすマトゥルン。そのトンデモな落ち着きの無さに思わず苦笑いしつつも、胸の中が愛くるしさでいっぱいになる。
うちの駄犬がマジ可愛い。
「大丈夫、すぐ出発するから! こっちは準備もう終わってるし♪ ほら、ついてきてねー」
「わぁーい!! おさんぽ! ごしゅとおさんぽ!! マトゥ、おさんぽ好きっ♪」
「そうかそうか〜それじゃあいっぱい楽しもうねぇ♪」
身体全部でワクワク喜びを表現するマトゥを連れ我々は、扉を開け放ち銀に染まった外界へと旅立つのであった――。
◇
……うぅ、……さむいぃ……。
果ての見えない雪景色を進む一人の吸血鬼と一匹の狼。
ポカポカ元気に走る狼がいる一方、高貴なる吸血鬼は凍える寒さに震えていたのだった……。
「わふぅ!! ごしゅ、ごしゅ!! 雪すごい! つめたいよー!!」
「あはは、そうだね……つめたいね……寒いね……」
「寒い? マトゥ、あったかいよ!? ごしゅ寒い?? 寒いの!?」
何故こうもこの銀狼は平気そうなのだろうか……? やっぱり、あのフワフワもふもふな毛並みのおかげなのか……!?
「ダイジョブ……我、最強の吸血鬼だからさむくないよ……うんさむくない」
ホントはとっても寒いけど、主としての威厳があるので強がる。ホントはとっても寒いけど……!
あーもう、恥も外聞も捨ててマトゥのあったか銀毛にダイブしよっかなあ……。
「大丈夫なんだ! よかった!! じゃあさんぽしようね♪ ごしゅとさんぽ!! さんぽさんぽ♪」
そう言って、元気に雪原を駆け回るマトゥルン。
普段ならとても癒やされるのだが、正直見ているだけでもエネルギーが吸い取られる感が無くも無い。
めっちゃカワイイからいいけど……!!
「……かなりマトゥルンに甘いですよね、我が主」
元気に走るマトゥルンを遠目に見ていると、眷属コウモリが分離して話しかけてきた。
「おいおいなんだ〜? 嫉妬かぁ〜?」
「いえ」
……あっ、即答ですか。
いやまあ……コイツが嫉妬するようなキャラでは無いのは知ってるけども。
それはそれとしてちょっとへこんだ。
「我が主、カワイイものには弱いですからね。確実に甘々になると思ってました。しかも、マトゥルンはどこまでも純粋ですからね。甘々通り越してゲロ甘になるのは想定通りです」
呆れ口調の眷属コウモリから、そっと顔を逸らす。
……なんか、全部お見通し感あるのやめてくれない? まあまあハズい。
「……でもまあ、見ててほっこりするのは確かですね。自然と心が暖まります」
我が眷属の視線を追ってみれば、雪の山に向かって飛び込むマトゥルンの姿が目に映る。
頭を雪に埋めその冷たさを楽しみ、隠れていない尻尾を存分に振る様子を見ていれば、眷属の言葉通りに心への暖かさは訪れる。
「そうだな……♪ マトゥはホントに可愛くて元気いっぱいで、とってもいい子だからなぁ♪」
「ええ、そうですね……。ここ最近、我が主がずっと幸せそうで本当に良かったです。マトゥルンには感謝しなければなりませんね」
「あはは、そんなに幸せそうに見えるかぁ? まあ、念願の眷属ができて、しかもあんな癒カワなんだから当然ではあるがなっ♪」
「わふぅ……!! ……あっ、ごしゅー! コーモリー!」
雪の山から顔を引っこ抜き、ぶんぶんと顔を振って雪を払うマトゥルンは、その最中に我らの姿を目に映したのか元気の良い呼び声とともにこちらに駆けてきた。
「……充分に暖まりましたか? 我が主」
「……ふふっ、ああ……充分にな♪ よっしゃマトゥルン! このまま雪を抜けてパルミアまでダッシュだー!!」
「走るの!? 走っておさんぽ!? 楽しそう!! やろうやろうっ♪ ごしゅ!! よーい、どん!!」
元気と暖かさをいっぱいに、我らは雪を駆け走る。目指すはパルミア。
騒がしくも明るいこのお散歩を、流れる汗とともに全力で、眷属たちと一緒に楽しむのであった。
「わふっ♪ わふぅ〜♪」
◆
白き雪道を青き草原を越え、辿り着いたは王都パルミア。
私が同化している我が主と、その眷属マトゥルンは、街中央の情報屋を目指し王都を進む。
「わあ!? わぁー!! すごい、すごいごしゅ! ここ、人いっぱいで、広くてキレイ! なにここ!?」
初めて来て見た王都の姿に、驚きとワクワクで目を輝かすマトゥルン。
ずっと
「ふふふ、ここはパルミアと言ってな? 王様が住んでいて、立派な建物がたくさんあって、そして色んな人が集まってたくさん店を開いたり生活をしてる場所なんだ♪」
「わふ、王様がいるからみんな集まるってこと? わふぅ?」
「まあ、たぶんそうなんじゃないかな? ……まあ我、あんまり人間の営みとか詳しく知らないけども」
知らないことも多く勝手も分からない銀狼の眷属に、優しく導きを示す我が主。
少し曖昧な部分が心配ではありますが、それでも立派に主人らしいことをなされていた。
「ふふっ、我はご主人様だからなっ! 何でも聞いて頼ってくれよ♪」
「わふっ! 分かったごしゅ!」
一人と一匹の、微笑ましい光景を見ながら私は心を暖かくさせた。
……何だかちょっと、小さな子供が犬に偉ぶっているような、そんな光景がダブった気がした……。
「……おい、眷属よ。どこの誰が勘違い幼女だって……?」
「わふぅ? ごしゅ、呼んだ?」
我が主が眷属と呼びかけたことで、銀狼眷属であるマトゥルンが反応を返す。……ちょっと、ややこしいですね。
「……あっ、違う違う! 呼んだのはマトゥじゃなくてアイツの方で……」
「あっ、そうなんだ!」
「我が、
「わぁーい♪」
……なんか、私ダシにされてません? 良いですけど……。
まあそもそも、私に名前が無いのが原因ですからね。
「名前が無いのはお前が名付けを拒否するからだし、我悪くないもーん」
もっと私が力を付けて、貴方様のお役に立てるのうになるまでは、私に名前など畏れ多いと思ってますので。
「ほーん……そっか。まあ、無理強いする気は無いが……」
「……わふ、ごしゅやっぱりひとり言みたい。コーモリがごしゅと合体してて、ごしゅはコーモリとお話できるのはわかってるけど……」
不思議がってるような、モヤモヤしてるような声色をこぼすマトゥルン。
……まあ、傍目から見たらそうなりますよね。私のこの思考は、私がウルチヤ様の中に居る限り、ウルチヤ様の中にしか存在しませんので。
「…………わふっ……! ごしゅ、ごしゅ。もしかして、マトゥもごしゅと合体できる……!?」
「ふぇっ!? ……って、あっ……」
何故か素っ頓狂な声をあげ、さらに何故か顔を赤くしつつも、我が主は何事も無かったように私が同化できる理由をマトゥルンに話し聞かせた。
「……あー、いや……コイツと同化できてるのはコウモリだからであってだね……。たぶん、銀狼のマトゥとは同化できないんじゃないかなあ」
吸血鬼にとって、コウモリは最もメジャーな眷属であり、身体を構成する大事な要素の一つでもある。
その性質故に、私は我が主と強い繋がりがあるとともに同化し我が主の一部となることもできるのです。
「わぅう……ざんねん」
「何だかんだで、コイツは色々と特別だからね。かなり昔っから我の一部だったし……」
「ずっと昔っから一緒なの? ずっと仲良し?」
「んー、まあ……ちゃんとお話できるようになったのは比較的最近だけど……そうだな、ずっと昔から一緒だ♪ まあ、昔は話せて無いから仲良しとは言えないかもだけど」
「はへー、そうなんだぁ……。じゃあ、なんで今は話せるの?」
理解したのかしてないのかよく分からない返事の後に、マトゥルンは純粋な疑問を投げかける。
……しかし、その答えが返ってくることは無い。
「……んー、それがよく分からないんだよねえ……ハッキリしてないというか。我が覚醒した時一緒に自我が目覚めたんじゃないかって、我は思うんだけどね?」
……私からはノーコメントです。
「コイツもこのことに関しては、頑に何も言わないし……正直理由は分かんないって感じだなぁ」
「わふぅ……ふしぎぃ」
「ねぇ〜」
……見てて思いますが、我が主とマトゥルンの波長が妙に合ってるというか……。
お互いのんびりお気楽な部分があるからか、全体的にこう……ゆるいですよね。
「んぇー? そうかぁ?」
どこまでも気の抜けた返事をしながら歩く我が主。
……そろそろ、目的の施設に着きますよ?
「……む? ……おお、ホントだ情報屋があるぞ! よぉし、早速ここのスキルトレイナーに新しいスキルを教えて貰おうか!」
るんるん気分でプラチナ硬貨を握り、我が主はトレイナーの元へと向かう。
これまでの依頼や冒険の中で我が主も成長してきたのか、最近ではより多くの依頼をクリアできるようになった我が主。
お陰で依頼報酬のプラチナ硬貨もよく貯まり、スキル習得もしやすくなってきましたね。
「トレイナーよ、我に新たなスキルを教えてくれ!」
「ここで教えられるスキルはここに書かれてる通りですよ。どれを覚えますか?」
トレイナーに指し示された文字群には、幾数種のスキルが書かれていた。
その文字群から我が主は迷うことなく一つのスキルを指差す。
「我は解剖学を覚えたい。プラチナ硬貨なら充分にあるから、パパっと我に教えてくれ」
「……はい、確かに。それではご案内します」
我が主が差し出したプラチナ硬貨を数え受け取ると、トレイナーは我が主を訓練所へと案内した。
……そういえば、真っ先に解剖学スキルを取るのは珍しいみたいですね。冒険者たちの話を聞くと、やはり重量挙げ辺りが一番多いみたいですよ。
「……ふむ、まあ持てる荷物が増える重量挙げは大事だな。我も近い内に取るつもりぞ? ……だが、優先すべきはやはり解剖学だな」
解剖学。モンスターの死体から部位を剥ぎ取る技術。あるいは、上手く部位を残して命を刈り取る技術。
どちらにせよ、このスキルが無ければ多くの部位が無駄に肉片と化してしまうだろう。
「まあ我は、骨やら内臓やらが無駄になるのは全然構わないのだがな……でも、血液……! 血液は別だ……!」
そう、この解剖学スキルには、無駄なく血液を収集する術も含まれている。
現在の我が主は中々血液を収集することができず、血液のストックを全くと言っていいほど得られていない。
血液が無ければ食事を取らないと宣言する我が主にとって血液の枯渇は餓死に直結、まさに死活問題なのである。
「ふっふっふ……解剖学スキルを得て、我は餓死生活を克服してみせる……! もう、空腹を紛らす為に雪をかき込まなくて済むのだよ!」
……あの光景は、ホントに目を覆いたくなりましたね……。
雪原なら雪があるから腹も満たせるぞと宣い、喜々とした表情で雪を喰らう我が主。
その凄惨な光景を見て私は、もう二度と我が主のこんな姿は見たくないと、何度も何度も願っていたのだった。
「……まあ……なんか、その……すまんな。雪はご飯じゃないから、血液無くても腹満たせるじゃん! と思ってしまって……思わず雪ばっか食べてしまった……」
……いささか雪が食事かどうか微妙なラインではある気はしますが、我が主が良いならそれで良いです……。
……まあそもそも、あんな光景見て血液飲まないのですか? とは流石に言えませんけども……。
「……憐れみに溢れた瞳で見ないでくれ。……いや、原因は我にあるんだけども……」
……ええ、それはそれは。雪食べて気絶した我が主の介抱とか、色々させられましたからね。
「うぐっ……ああ……それは、うぅむ……むぅ……。……その、なんだ……心配かけて済まない……と、ありがとな」
……いえ、いやまあ……これは、私の好きでやってることなので……。
「……えへへー、そっか……ありがとなーけんぞくぅ♪ 我も好きだぞー♪」
……ちょっ、ちょっと……今の私の
「わふっ!? 好きってなーに! なんのお話してるのっ!! マトゥ、ごしゅ好きだよっ!!」
「んー? えへへ、マトゥもありがとー。マトゥのことも大好きだからなぁ♪」
「わふっ♪」
緩んだ表情のままに、マトゥルンと好意の贈り合いをする我が主。……こういう、妙な所で素直に好意を伝えてくるの、ズルいと思いますね。
「……さあ、着きましたよ。ここが訓練所です」
……そうこうしている内に、トレイナーはとある施設の前で立ち止まる。
トレイナーからの言葉を受け、我が主は顔を一度引き締めると、大きく息を吸いそして宣言した。
「……よしっ! みんなの為にも我、張り切って頑張ってスキル覚えて、しっかりがっぽり血液集めるぞー!!」
腕を高く突き上げた我が主は、明るく快い決意表明とともに、訓練場へと入っていった――。
……応援しております、我が主……!
――こうして、我が主はまた一つ、立派な冒険者へと近付いていくのだった――。