愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◆
「――そこの名も知らぬ冒険者の方……最期の頼みを聞いて欲しい――」
「――この事実を……パルミア国王に……大国の衝突を防いで――」
「――ウルチヤとやら……パルミア国の名の下に働く気は――」
――国を巡る陰謀……託された想い……パルミア国王からの密命……。
歴史の闇に消えたモノと、歴史に遺ることの無い闘い。陰謀渦巻く迷宮の果てで、我が主に待ち受ける運命とは――!?
「……いや、何も起こらないだろ」
――全ては……マトゥルンの何気ない一言から始まった――。
「こら、無視するな」
◇
「……ごしゅって……なにしてるひと?」
「……へ……?」
つぶらで無垢な瞳のマトゥが、我を見上げながらそう問いかける。
「……えっと、それは……どういうこと……?」
「だってだって、ごしゅ……ちゃんと働いてないじゃん……!」
「ごふァあっ!?」
純粋故の残酷さ。マトゥルンから放たれた凶弾は、我のハートをブレイキン! メンタルマッハでストレスヒート!!
「……やっ、いやぁ……ちゃんと働いてるじゃないか……ほら、畑仕事とか魔物討伐とか……」
「でもでも、聞いたよ!? ニンゲンって、お店やさんとか、おまわりさんとか、ヤクワリ? があるって! 自分のお仕事をしてるって!」
「……そ、そうだな。職業という役割があって、人間は皆自分の役割をこなしてるな」
「……でも、ごしゅのお仕事ないじゃん! ふらふらしてて、たまにお話聞いて、やるやる〜ってやってるだけじゃん!! お野菜とったりも、モンスターたおすのも、みんなからやってやってされてるだけじゃんっ!!」
たすけて。
……たすけてー!! カワイイカワイイ我が眷属から、無職なプーさんニー太郎扱い受けてるんですけど!?
しかも微妙に否定できないっ!! 確かにちゃんとした職には就いてないし……!? ぶっちゃけ今の生活フリーターだし……!?
「ねえねえ、どうしてみんなみたいに働かないの? みんなみたいに働かなくていいの? ねえねえ、ごしゅはずっとブラブラしてるけど何してるひとなの?」
純粋無垢とは凶器なり。満身創痍で我即死。
「……えっと……それは、だな……? 我、こう見えても貴族だから……とか?」
「ごしゅ、キゾクなの……? お金無いっていつも言ってるのに?」
「ぐふぅっ!?」
コワイよ〜……この眷属こわいよ〜……。
「でもでも……我、そもそも人間じゃないし……? 高貴な吸血鬼だし……? 働く必要なんかないし……?」
「でもごしゅいっつも、マトモに暮らしたい〜お金ほしい〜何でも良いから働かなきゃ〜って言ってるじゃん」
「がふぅっ!?」
「マトゥ知ってるよっ! マイニチちゃんと働いてる人は……お金たくさん!! でもごしゅたまにしか働かないから、お金少ない!!」
「ぐうぇえ!!」
どこでそんなことを知ってしまったのだ……そして、我の懐事情もどこで知ってしまったのだ……!
このままでは、ニートの烙印が……高貴なる我にニートの烙印が……!!
「……あ、あの……その……マトゥルンさん…………」
……自分でもビックリするくらい情けない声出た……。
「……わ、我……いちおう……一応、ね……冒険者というのを、やってまして……」
「……ぼう、けんしゃ……?」
「はい……そのえっと……冒険をして、ダンジョンを攻略して、宝とか手に入れて……力も名声も手に入れる……そんな、冒険者を目指してまして……」
「冒険……お宝……」
「は、はい……ですので、こう……定職には就かなくても、普段のように気まぐれに生活してても良いというか……むしろ、働いたら負けというか……」
「働いたら負け……」
「と、とにかく……我の職業冒険者だから、ロマン溢れる夢の職業冒険者だからっ……! 特別なんです……!!」
「トクベツ……夢……ロマン……冒険者……!」
……あっ、なんかマトゥの目の色が変わった。
これで納得してくれたかな……?
「……でも、あんまり冒険してるとこ見てないような……?」
「…………今すぐネフィアに向かいまぁすっ!!」
――誇りと主の威厳を守りたい。ただその一心で、ネフィアへと駆け込む。
全ては眷属の誤解を解き、誇りと威厳を取り戻す為――我は無垢な銀狼へと、偉大なる冒険者の姿を見せ示すのであった……。
◇
「がが……がっ……! ガフっ……」
磨き研がれた《吸血の牙》が、その首元へと深く深く突き刺さる。
幾多もの生命を枯らしてきたこの牙は、相対する者の急所を確実に捉えていく。
「……ごちそうさまでした」
最期の一滴を絞り取り、辺りには絶命の音色が響いた。
……ふふ、我やはり強くなってるなあ? 華麗にボスを倒す姿、カッコいいだろう? そうであろう!?
「……ふむ、やはりコイツがこのネフィアの主だったようだな。この場の雰囲気が変わった気がするな」
帰るまでがネフィア攻略である。カッコいい冒険者としての我をマトゥに見せつけるのが目的であるのだから、最後まで我はクールさを保ち続ける……!
「これは……宝箱か。どうやら、鍵は付いていないらしいな。有り難く頂戴しよう……」
ボス格のモンスターを倒せば、どこからともなく宝箱が現れる。コイツが倒してきた冒険者の持ち物だったりするのかな?
何はともあれ、貰えるものは貰っておこう!
「…………わぁ……!」
宝箱をありがたく物色していると、カワイイ眷属マトゥルンが、目を輝かせて感嘆の声を上げる。
「どうした、マトゥ? もしかして、この我に見惚れたか?」
「……すっごい……! ホントに、ホントに……! 冒険者だったんだ……!?」
……あの、まだ疑ってたんですか……? マトゥルンさん……。
純粋無垢な言葉のナイフに貫かれながらも、虚勢を張りつつ答えてやる。
「と、当然であろう……! 我は、偉大なる吸血鬼にして立派で凄い冒険者……!! こんなネフィアくらい、お茶の子さいさいなのだよっ!」
「すごいっ! すごいすごい!! ごしゅカッコいい!! 冒険者のごしゅとってもカッコいい!」
「えへへ、そうかぁ……? そりゃまあ、そうだわなあ? なんてったって我、冒険者ですものぉ!?」
マトゥルンの純然たる尊敬の眼差しに、気分最高ハイテンションで青天井の有頂天っ!!
はっはっは、もっと褒め称えたまえ! 我に惚れろ!!
「ごしゅカッコいい! とってもカッコいい!! 敵バシュってやっつけてすごい! つよいつよい!!」
「そうかそうか、そうであろう! 我、とっても強いからなぁ!! あんな奴らひと捻りよっ!!」
「……我が主、調子に乗るのは良いですが、このネフィアが低危険度のものであることを忘れないでくださいね」
……せっかくテンションバク上げだったのに、眷属が水を差してくる。
むう、分かっておるわ……。
「でもでもコーモリ、ごしゅすごかったよ!? 相手バッタバッタで! ガブガブで、メッタ打ちで!!」
「……まあ、確かに……モンスター相手に一歩も引けを取らなかったのは、凄いですが……その……」
「すごかったよね!?」
「…………まあ、そう……ですね。プチ相手でもギリギリだったあの頃を思えば、よくここまで戦えるように、とは思います……素直に、凄いです我が主」
「ねー!!」
あの素直じゃない眷属コウモリも、マトゥルンの純粋イケイケパワーにはタジタジの様子。
……ふふふ、なんだ、カワイイとこあるじゃないかぁ? 眷属よ……!
「……うるさいです、我が主」
「はいはい、カワイイカワイイ♪」
「マトゥ!! マトゥもカワイイ!?」
「モっチロン、マトゥもカワイイよぉ!!」
「やったーー!!」
尻尾をフサフサと振りながら、前脚を我の腰にやって嬉しさをアピールするマトゥルン。
かわいい。
「さ、ひとまずこのネフィアを脱出するぞ! まだまだ戦い足りぬし、外に出たら新たなネフィアでも探すかなぁ♪」
「わふっ! マトゥ、もっといっぱいごしゅのカッコいいとこ見たいっ!」
「おー、そうかそうか! それじゃあとびっきりカッコいい所を見せてやらなきゃなあ……! さあ、我が愛しき眷属たちよ! 行くぞ、新たなるネフィアへと!!」
勝利と主の名誉の挽回。その両方とを手にして我は、カワイイ眷属たちの尊敬の中で上機嫌に階段を登って行くのだった――。
◆
ここはレシマス。深く深く底の見えぬ、不思議な迷宮。
「わふぅ、なんか静かだね?」
その迷宮に降り立つは、偉大なる調子乗り吸血鬼と純粋無垢なる銀狼眷属。
冒険者として、もっと凄い所を見せてやろうと意気込む我が主は、マトゥルンを連れてこのレシマスへとやって来た。
他のネフィアと違い、階層がどこまでも続くこのレシマスを選ぶのは妥当なのだが、如何せん入り口は静かなままであったのだ。
「……まあ前にここ、来たことあるからなあ……その時一階層目辺りのモンスターは全部狩り尽くしてしまったんだよなぁ……」
「……狩り尽くした……! すごい、なんか……すごそう!! ごしゅカッコいい!!」
「え? あっ、そう? えへへ、そうだろう凄いだろうカッコいいだろう!!」
戦闘する姿を見せられず、拍子抜けさせてしまったかと思われたが、どうやらマトゥルンは我が主の言葉に何かを見出したようだった。
……まあ、なんだかアホっぽい言い回しではありましたが、純粋というより単純な我が主を調子に乗らせるには、充分なものだったでしょう。
「さあ、次の階からはモンスターがウヨウヨしてるからな! 我のカッコいい姿をたっくさん魅せて差し上げようぞ♪」
「わふっ! 楽しみ!! ごしゅ、がんばって♪」
「うむっ♪」
こうして我が主は、階段を下り下り奥へと進んていった。
◆
「……ふっ、ざっとこんなもんよ」
持っていた杖で敵の急所を強く打ち付け、我が主はその命を容易く奪い去る。
吸血鬼としてはまだまだ筋力の無い我が主だが、そこらのモンスターを撲殺できる程度の力は、冒険者としての旅の中で身に付けつつあった。
「強い! すごい! カッコいい! わふわふ、流石ごしゅ!!」
「うんうん、そうだろうそうだろう♪ マトゥも、一緒に戦ってくれてありがとな♪」
「わぅん!! えへへ、ごしゅと一緒に戦えるの、すっごい嬉しい!!」
その野性に満ちたその銀牙で敵を喰らうマトゥルン。
まだその力は我が主には及ばないのだが、それは貴重な戦力であり、また、充分にその力は我が主の役に立てられていたのだった……。
………………。
「んー……? なんだ眷属よ、急に押し黙って。自分には力が無い、我の役に立てていないと、嘆いておるのか?」
……いえ、そういう訳では……。
「安心しろ、我はお前にたっくさん助けられてきた。そして、これからもたくさん助けられるだろう……」
優しい微笑みを浮かべ、我が主は続ける。
「いいか、眷属よ。例えお前に力は無くとも、我はとってもお前に助けられてるんだからな? 変に気を落とす必要なんてどこにも無いぞ胸を張れ! なっ♪」
……はぁ……我が主には敵いませんね。
ありがとうございます、我が主。
「えへへ、今の良い主っぽかった? ふふふ」
ええ、とっても。
「そうだろ〜♪」
「ごしゅ、ごしゅはとってもいいごしゅだよ! マトゥ、ほんっとに思う! なでなでしてくれるし♪」
無邪気に身体を擦りつけるマトゥルン。
甘えの天才かもしれぬ銀狼の眷属に、我が主も自然と手を伸ばし撫でていく。
「わふ〜きもち〜」
「ふふ、マトゥもいい子だよ〜かわいくて、やさしくて、いい子だよ〜よしよし〜」
「わふっわふ〜、ごしゅ〜♪」
気持ちよさそうに目を閉じ尻尾を振る、大型犬ことマトゥルン。
我が主の寵愛を一身に受け、くぅん、とマトゥルンは甘声を上げていた。
「……あっ、もちろんお前も優しくカワイイいい子だよ、眷属ぅ♪」
マトゥルンを撫でる手はそのままに、もう片方の手で己の胸を撫でる我が主。
胸の暖まりを感じながら、私もまた心地良さに瞳を閉じるのだった……。
「――さて、眷属イチャイチャタイムは一旦終わりと行こうか……! まずは、この冒険の道のりを先へと進めようじゃあないか!」
若干の名残惜しさを感じながらも、我が主の明るさに満ちた提案に同意する。
恐らく、同意の旨を頷きで表現したマトゥルンも、私と同じ心の移りをしただろう。
「さあ、行こうか新たな階層へと!」
冒険者ウルチヤ様はそうして声高々に宣言し、深き迷宮を突き進むのであった。
――その先に、国を巡る闇に濡れた陰謀が待ち受けているとも知らずに……。
◆
「……そこのお方、私の話を……どうか、聞いてくれませんか……?」
新たな階層のモンスターを蹴散らしていた所で、一人の男が、我が主に声をかけた。
黒のローブを身に纏う男は、おぼつかない足取りで我が主へと近づく。
レシマスやネフィアには他の冒険者が居ることもあり、人間に出会うことは珍しくなかった。
……だが、とうやらこの男の様子はどこかおかしい。
「な、なんだ……お前、酷い傷じゃないか……!?」
そう、この男をよく見れば……。
黒のローブの隙間からは赤い鮮血を垂らし、赤黒く滲んだ背中には生々しい傷跡が残り、そして震えの止まらぬその肌は、生者のモノとは思えぬ青白さであったのだった……。
「く、詳しい説明をしてる暇は、ない……名も知らぬ冒険者のお方……どうか、私の最期の頼みを……」
「ま、待っていろ、いま、傷薬を……!」
……いえ、我が主……今所持している回復薬では、この傷を癒やすことはできませんよ……。
深い傷ですね……それも、強力な悪しき力による残痕です。……一体、なにが……。
「私のことは、いい……どうせ、もう長くは無い……。それより、この……この書簡を……パルミア国王の元に……!」
そう言って、男は一つの封書を我が主に差し出す。思いもよらぬ名前が飛び出しましたね……。パルミア国王……ジャビ王に届けて欲しい、と……。
「…………そう、か。……何だか、分からぬが……分かった任されよう」
我が主は、一度黙りこくるも、その男の瞳をじっと見つめた上で、決意を込めた眼差しを交わし合い、その封書を受け取った。
「……ありがとう。この事実は、知らせなければならない……二大国の衝突を、避ける為にも……!」
話がどんどんと大きくなっていく。確実な面倒事の匂い。
……だがしかし、我が主の瞳に揺るぎは無い。
彼の、文字通り命を賭けた覚悟を、我が主は確かに受け取ったのだろう。
「……私の持ち物は、好きにしてくれ。私からの、感謝の気持ちだ……。頼んだ……名も知らぬ、勇気ある冒険者よ……!」
「……この我ウルチヤが、必ずお前の覚悟を継ぎ、遂げる……だから、安心して眠れ、誇り高き人間よ……」
我が主の言葉を聞き、その男はふっと表情を和らげると、そのまま静かに息を引き取った……。
「………………」
………………。
……我が主、これからどうなさりますか?
「……当然、パルミアの国王の元へとこれを届けなける。約束だからな」
分かりました、どこまでも、おともしましょう。
……それにしても、一体何があったのでしょうか……。
……あの傷は、這い上がることもできない程の、深く酷く、そして……悪しきモノでした。
「分からぬ……が、何か、恐ろしいモノが……この迷宮の最奥で、待ち構えているのだろうな」
謎多き迷宮レシマス……底の見えぬこのダンジョンに、何が待ち受けているのか……そして、国を巡る陰謀とは……。
うぅむ……何だか本当に、面倒な事になってきましたね。
「まあ、なるようになれだろ。……さ、早くコイツを埋めてやるぞ。ついでに、遺言通り物品も頂戴しようじゃないか」
「わふ……マトゥも手伝うね? マトゥ、お墓のことはちょっと詳しいし」
……そういえば、マトゥルンは墓地出身でしたね。
我が主にそう告げ男の元へと近づくマトゥルンは、スリスリと男の身を頬で擦ると、やがて祈るように目を閉じ頭を垂らした。
「……ありがとう、マトゥ。………………」
使命に生き、最期まで覚悟を持ち、想いを託し繋げた誇り高き男へと、我々は静かに祈りを捧げるのであった――。