愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◆
レシマスを抜け歩くこと幾刻か。
我が主とその一行は、王都パルミアに辿り着いた。
「えっと、確かあの男は……パルミア王にこの書物を渡して欲しいって言ってたんだよな」
確かめるように尋ねる我が主の言葉に同意する。
――あの男……レシマスにて深傷を負い、最期のその瞬間まで使命を遂行した、誇り高き人間。
その者から託された、国家を揺らがすであろう陰謀が記されたこの書物を届けることが、彼から受け継いだ我々の使命であった。
「城に行くのは、王様のベッドを借りた時以来か? あの時は熱を出して大変だったなぁ……」
あれからかれこれ、半年ほど経ちましたか……。まだ初心者の域から出ないとは言え、中々順調に成長できているのでは無いでしょうか。
「ふふっ、まあ当然だな。なんてったって、我は偉くて強いヴァンパイアにして、未来の凄腕冒険者なのだからなっ」
ちょっと得意気な様子で語尾を跳ねさせる我が主。その自信が毎度どこから来るのか分からないですが、応援しております我が主。
「……え? 今なんか、我バカにされた気が……」
気の所為ですよ。
「あっそう……? 気のせいかぁ……」
そうこうしているうちに、辺りの景色はより豪華で厳かな物へと変化していく。
銀の甲冑に身を包んだガードも多くなり、我々が王城に足を踏み入れたことを強く意識させた。
「……いつか、我もこういう城持ちたいなぁ。……所で、なんかやけにガード多くないか?」
そう言われてみれば、城内であることを踏まえても、確かにやけにガードの数が多い。
普段は外から見ていただけだったが、それでもこれ程の数、そして緊張感は感じられなかった。
「なんか、要人でも来てるのか? うーむ、面倒だなぁ……」
「……すんすん……わふっ、すん……」
我が主の予想を聞き、なるほどと納得していると、おもむろにマトゥルンは目を閉じ身を屈め、クンクンと鼻を利かした。
「……えーっとね、お客さんは二人かな? あと、何人か離れた所にも居るけど……お友達じゃなさそう?」
「……お、おぉー! マトゥお前、そんなことができるのか!?」
「うん! マトゥ、おはなとーっても鋭いから、匂いで色んなこと分かるのっ♪」
マトゥルンに、意外な才能が見つかる。
野生に生き、狩りをしてきた狼という種族。墓地暮らしであったとは言えマトゥルンも立派な銀狼だったということだろうか。
「わふっ、それからねー……えっと、お客さんは、男の人と女の人! たぶん若い! ……うーんと、どっちもちょっと似てる匂いだけど、普通の人の匂いじゃないんだよね……森の匂い?」
感覚を研ぎ澄ませたマトゥルンは、そうやって事細かに匂いから得た情報を我が主に伝えていく。
……野性の力とは、本当に強力なものですね……まさか、これほどまでとは。
「ああ、そうだな……! すごいぞ〜マトゥ〜!!」
「わふわふっ!! すごいっ!? やったー♪」
全力でなでなでされつつ我が主に褒められ、尻尾を大きく振りつつ喜びを表現するように鳴くマトゥルン。
……それにしても、若い異種族の男女二人組ですか……。
「……あ、やっぱりお前も気になった?」
「わふ?」
我が主と私の中で思い描かれる、ある恩人たちの姿。今この城に居るのは……遭難し漂流した我が主を助けた、あのエレアたちでは無いだろうか……。
「……きっと、そうに違いない……! あやつら、色々と使命があるとか言ってたし、ここに来ていてもおかしくは無い……!」
……ちょっと待っててくださいね。我が主、耳を借りますよ?
「むっ、分かった」
同化している我が主の身体に私の力を加え、一部の行動権を代行しコントロールする。
強化するは耳。エーテルにより鋭利になった聴覚に、コウモリの優れた聴力を加えることで、遠く離れた王宮の間の話し声をキャッチする。
……この、声は……。
「……ラーネイレ、お姉さん……! やっぱり、あの二人だったんだ……! こうしちゃいられん、早速会いに行こうじゃないか……!」
顔をパァっと喜びで染めて、今すぐにでもと飛び出そうとする我が主に、待ったをかける。
「……あ、やっぱり今行くのは迷惑か……それじゃあ、話が終わった直後に入って再会を……!」
……いえ、それも控えた方が良いでしょう。
「な、何故だ……? 終わった後なら迷惑じゃないだろう? それに、我だってパルミアの王に用事があるのだし……」
……良いですか、我が主……。冷静に、考えてみてください。
我々の恩人である彼らには、何らかの使命がありまた、王都パルミアの王城に招かれる程の者たちのようです。
きっと、それだけ重要な使命であり、彼らもそれなりに信用に値する名のしれた者たちなのでしょう。
「……う、うむ、確かにそうだな」
……では、ここでこのまま我が主が登場し、親しげに彼らに話しかければどうでしょう?
ここは、由緒正しく荘厳な王城です。正直な話、ルーキー冒険者である我が主には相応しくない場所です。
「ぐっ……わ、我はホントは高貴な貴族で……い、いやまあ……冒険者としてはその評価は正しいんだけども……」
……一方で、彼らは少なくともこの王宮の場に相応しいと、城の者たちから判断されている筈です。
招かれているのですから、当然ですね。
でもそこで、この場に相応しく無い我が主が来て、親しい関係であると判ってしまえば、彼らの国からの評が下がる可能性があります。
恐らくそれは、彼らの使命を邪魔する結果になるでしょうね。
「うぅっ、……そ、そうなのか……?」
……まあ、これはあくまで可能性の話でしか無いですが……。
……しかし、ここは政治の場です。彼らの使命が何かは知りませんが、きっと政治も関わっていることでしょう。
政治とは複雑で繊細なモノ……少しでも、彼らにとって不利になるようなことは避けるのが得策ではないでしょうか。
「…………そう、だな……うむ、分かった。お前の言う通り、今この場での再会は避けるとしようか」
深い思慮の後、納得なされた様子で私の言葉に同意する。
……はい、かしこまりました。
「ありがとな、眷属よ」
いえ、我が主を支えるのは、眷属として当然の務めですので……。
「よし、そうと決まれば離れた所で出待ちとするか! 我も王城に用事はあるけど、多分二人が帰った後もしばらくは入れなさそうだし……」
そうですね、それが良いと思います。
……それでは私は、我が主から別れて中の様子を窓から伺いますね。城から出てきたら伝えますので。
「うむ、よろしく頼むぞ!」
「マトゥ、マトゥは……!? なにかすることある!?」
「んー、そうだなあ……お城の人がこっち見てないか、匂いも使って見張っててくれないか?」
「わふっ!! わかった、マトゥがんばるっ♪」
各々の役割を迅速に決めていき、そそくさと城を後にする。
マトゥルンは……ああは言ってましたが、半分は我が主の暇潰しの相手というのもあるでしょうね。
「さあ、偶然ばったり奇跡の再会大作戦っ! 開始だぁっ♪」
喜びを抑えきれない我が主のはしゃいだ言動を見守りながら、私は我が主の身体から離れヒラヒラと宙に舞う。
これから我が主の身に起こるであろう、運命的再会と暖かなる時間を心待ちにしながら――。
◇
「――――…………ふむ……。そう、か……」
――二人の異端の民によるパルミア国王への謁見から一刻ほど経った頃。
ここはパルミア城の王座の間。そこには幾人かの兵士と大臣、国王、そして一人の高貴な吸血鬼もといただの冒険者が、重たい空気の中で立っていた。
「――この書簡は……確かに、我がパルミア国の斥候スランのモノであるな。……恐れていた事態が、ついに現実になってしまったということか……」
パルミア国王のジャビは、我から受け取った文書を読むと、やがて深い溜息をついた。
何をもって判断したかはしらないが、どうやら我の語った事情は信じて貰えたようだった。
「……一先ず、ウルチヤとやら。よくこの書簡を我が国に届けてくれた、大義であったぞ」
「……いや、我はかの男の覚悟を見届け、その意志を尊重しただけぞ」
「どちらにせよ、おぬしの行動により、我が国ひいては多くの人々が助けられたことに変わりは無い。直ちに謝礼を用意させよう」
そう言ってジャビ王は目配せすると、側近らしき男が一礼し裏へと消えていった。
……ふむ、謝礼の品か。一応、あの男の遺品もとい報酬は受け取っているのだが。
……まあ、貰えるものは貰っておいて損は無いだろう。生活がラクになる。
生活が、ラクになる……!
「……ふむ……この文書の通り、レシマスに眠る秘宝を狙う悪しき者が居るのならば……わしはパルミア国王の威厳にかけて、必ずや、その企みを阻止しなければならない」
男からの手紙を膝に置いたジャビ王は、真剣な眼差しでそう呟く。
「悪しき企みによって生じる渾沌と混乱、そして連鎖的に発生するであろう大国間の衝突は、絶対に起こしてはいけない。多くの国民、いや多くの人々を守る責務が、わしにはあるのだ。一刻も早く、対策を打たなくてはならぬな」
強き意志をその表情に浮かべ、一国の王は思慮深く彼方を見遣った。
……ふむ、これが王というものなのか。なるほど確かに、王たる風格をこの肌で感じる。
国を治め、秩序を保ち、そして強き意志と深慮を以って民を守る。
そんな巨大で巨大なる責任と覚悟を持った男。それが、我から見たパルミア国王ジャビの評価であった。
恐らく、彼は善王なのだろう。パルミアの良き治安と発展ぶりを見れば、その正しさもまた一目瞭然である。
……ああ、我もこんな風になれると良いな……。
「……さて、ウルチヤよ。パルミア国としては、今の不安定な時勢、そして悪しき企みが発覚した中で、信頼に足る者を放っておくのは惜しいと考える」
信頼に足る者。……見ず知らずの冒険者である筈の我への評価としては、なんか高い気がするのだけども……。
……きっと、それだけ今の情勢がメンドウな感じになってるのだろう。いっそ見ず知らずだが、国の為になることをした冒険者の方が信用できるのかもしれない。
……あー、やっぱり政治ってメンドイなあ……!
政治の無い統治とかできんかなあ……とか、バカなこと考えてたらアイツにまた怒られてしまうか。やめとこ。
「もしも、おぬしにパルミアの為に働く気があるのならば……この城の図書室を訪ねるといい。充分な報酬と名誉を我が国から授けよう」
「……あぁ、まあ……考えておきます」
「……ふむ、そうか。色良い返事を期待しておるぞ」
パルミア国王直々の願いを、曖昧な返事で濁す。
……だって、面倒なことになりそうじゃん……?
壮大な感じは好きなんだけど……正直、現状の我は今を生きるのに精一杯だからなあ……。
……でもまあ、名誉はちょっと欲しい……かも?
我の名を広めるのは、良いことだからなあ。
「……ウルチヤ様、こちらが謝礼の品です。此の度は、ありがとうございました。パルミア国を代表して、感謝の言葉を述べさせて頂きます」
「……ん……ああ、たしかに受け取った」
長ったらしい言葉を聞き流しながら、我は謝礼品を受け取る。……正直、人間の国家がどうこうとか我は興味無いからなあ……。
こういうこと言われても、ちょっと反応に困るよね。
……おっと、このポーションは……ふむ、これはシンプルに嬉しいな。
流石は、王国と言った所かな? ……うん、ちょっと機嫌良くなったかもしれん……♪
「……まあ、今すぐにとはいけないが……でも、うん。あの迷宮攻略のついでくらいなら、受けるのもやぶさかじゃないかな」
「ふむ、そうか。勿論、それでも構わない。宜しく頼むぞ、冒険者ウルチヤよ」
国王からの、冒険者ウルチヤという言葉に、少し頬が上がる。
……ふふ、そうか冒険者ウルチヤか……♪ なんだ、我もかなり冒険者らしくなって来たんじゃないか? まるで勇者だな……!
「国王様、次の御予定が……」
「そうか、分かった」
区切りの良い所で、側近がジャビ王へと声をかける。言外に、我に下がれと言ってるようだ。
……まあ、別にこれ以上用事も無いしお暇させていただこうじゃないか。
「……それでは、我はこの辺りで……話を聞いて下さり、ありがとうございました」
「うむ。健闘を祈る、ウルチヤよ」
人間の王に丁寧な一礼をし、我は王座の間を後にした――。
◇
「…………んぅーっ、疲れたぁ……。なんか、ホント……お父様の教育思い出したわぁ……」
城を抜けガードの聴覚認識範囲を外れた所で、身体を伸ばして息を吐く。
「……お疲れ様でした、我が主。人間の王の前でも、しっかりとやれていたと思いますよ」
ずっと我と同化し隠れていた眷属コウモリが、ひょっこり飛び出して
「んー、そうか? ……ふふ、まあ色々仕込まれたからなぁ……」
厳し過ぎるお父様との思い出を脳裏に浮かべ、背けるように目線を明後日に向けた。
「……さて、それではマトゥルンと合流して夜を待ちますか。割と時間は経ちましたし、大体の
国王との謁見の場には居なかった、我の愛するもう一人の眷属マトゥルン。……流石に、狼を王城に連れて行くのは良くないだろうということで、マトゥルンには別行動をして貰っていた。
いつまでもマトゥを一人にしているのは可哀想だ……! 早く会って、一緒に居なかった時間の分だけ追加なでなでしなければ……!!
「……本当に、激甘ですね我が主は……」
「当然だ、マトゥルンはカワイイ眷属なのだぞ……!! あんな無邪気で素直な良い子、可愛がらずにどうしろと言うんだ!?」
「……まあ、思わず可愛がりたくなるのは分かりますが……」
……我に苦言呈す割に、何だかんだでコイツもマトゥに甘いよなあ……。
コイツ、いっつも後方保護者ヅラしてんのよ。お前はマトゥの何なんだ、マジで。
「……良いでしょう別に私が保護者面したって。そもそもが私、ウルチヤ様の保護者みたいな所ありますし」
「は? おま……おまえ、言うに事欠いて主である我の保護者だとぉ……!?」
「否定できるものなら否定してくださいよ」
「おうよ、やってやんよ! ……まあ、ね。ちょっと記憶漁ればね、こう……なんか、否定の根拠なんて、星の数ほど……ある、というか……まあ、はい……」
………………。
…………正直、肯定の根拠しか見つからなかった……。いやまあ、さ……分かってはいたけどさ……?
「…………いつも、ありがとうございます……」
「……いえ、まあ……はい……どう致しまして……?」
……ひとまず、仲直りの握手するか?
「いや、サイズ差考えてください。……ほら、下らないことしてないで早くマトゥルンのとこに行きますよ」
「……ん、そうだな……! 我らの愛しきマトゥルンに会いに行こうじゃないか!」
カワイイ眷属の姿を思い浮かべながら、我とコウモリは城下町へと繰り出す。
マトゥは街中を散歩しているだろうから、お土産でも買いつつブラりと歩いて探そうか。
「お土産……食べるのが好きみたいですから、何か料理でも買いますか?」
「おお、それは良いな! あ、どうせなら合流した後に食べ歩きとか〜」
「……ふふ、それも楽しそうですね」
眷属と楽しげに語り合いながら、穏やかな午後を歩み感じる。
暖かな陽射しに照らされ我は、マトゥとコウモリとの食べ歩き、そして待ちに待った夜のお楽しみへと、幸せに胸を膨らませるのであった――。