愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
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今宵は満月。月光が闇夜を照らす頃。
王都の宿屋のとある一室で、二人のエレアは控えめに開かれた窓を見る。
「……さて、そろそろだな?」
「ふふっ楽しみね、ロミアス」
「誰も彼もが自分と同じ意見だと思わないことだな、ラーネイレ」
「そんなこと言って、あの子を迎える為に率先して窓を開けたのは貴方じゃない……♪」
楽しげなやり取りをカーテン越しに聴きながら、
バサバサっ。
「わっ、コウモリがいっぱい……!」
「……ほう、なんとも吸血鬼らしい登場じゃないか」
彼らの部屋へと飛び込んでコウモリたち。
それらはやがて一つの場所に集まり、そして黒の塊となって人型を成していく……。
「昼間ぶり……いや、久方ぶりだな。吸血鬼の娘、ウルチヤ」
ロミアスの挨拶に呼応して、我が主が黒を晴らし姿を表した。
「…………そっ、だな……! ……ぜぇ……ロミアスっ、はぁっ……よぉ……!」
「……君は満身創痍でないと私たちの前に姿を表せない種族なのか? とんでもない息切れだな」
……我が主が行ったのはコウモリ化。己の身体を多数のコウモリに分裂させ移動する吸血鬼の能力である。
我が主は、このコウモリ化がかなり苦手なのである。
制御が難しく、体力を多く消費してしまう為、我が主がこんな酷い状態で登場するのもやむを得ないのであった。
「……ぜぇぜぇ……仕方ないであろう……!? 表は見張りがいっぱいいたし、テレポじゃ目当ての場所ピッタリには飛べないんだから……!」
「あの連中か。まったく、私たちに護衛は必要無いというのに、
「ねー。ホント、二人は強いのにさぁ」
……我が主、ロミアスが言ったの皮肉ですからね?
「……わ、分かっておるわ! ただちょっと乗せられただけで……」
「はいウルチヤちゃん、お水よ。これ飲んでちょっと休憩してね」
ラーネイレはそう言って、我が主にグラスの水を渡す。
それを笑顔で受け取りグイッと飲み干せば、たちまち元気になったと言わんばかりに両手を掲げ身体を伸ばした。
「はい我復活〜♪ ありがとう、ラーネイレお姉さん!」
「……もうちょっと休んだ方が良いと思うんだけど……いえ、どういたしましてウルチヤちゃん」
微笑みを浮かべる常識人にして優しき人格者なラーネイレ。正直そのツッコミを引っ込める必要は無いと思うが、そこもまた彼女の善性なのであろう。
「……改めて、久しぶりだな……! ロミアス、ラーネイレお姉さん! また会えて、本当に嬉しいぞ!」
「ほんとに久しぶりね……! 私たちも、貴女に会えて嬉しいわ、ウルチヤちゃん♪」
「……だから、私を勝手に巻き込まないでくれ、ラーネイレ」
「何ヶ月ぶりかしら! あれから、上手くやれてる?」
彼女の言葉に文句を付けるロミアスを一切無視するラーネイレ。
相も変わらず何気に押しの強い女性である。
「ハッハッハ。そりゃもう当然!」
「……まあ、そこそこといった所か。恐らくだが、これまでに何度も這い上がったのだろう?」
流石は実力者といった所か、どこから判断したのかは分からないが、パッと見ただけで我が主のこれまでを見抜いてきた。
「ぐっ……なぜバレた……!?」
「なに、カマを掛けただけだ。どうせボロボロになりながらも何とか這いずって来たのだろうと思ったからな」
「ハぁっ!? なんだぁテメぇ……!?」
……ロミアスも、あの時と変わらない相変わらずの偏屈ぶりであった。
「こら、ロミアス! ウルチヤちゃんにイジワルしないの!」
「ラーネイレお姉さま……!」
「幼気な子にイジワルなんて大人気ないわ!」
「ラーネイレお姉さま……」
憧れのラーネイレお姉さんからの明らかな子供扱いに、コロコロと表情を乱高下させる我が主。
遠慮が全く無い分、ロミアスの方が子供扱いしていないまでありそうである。……それで我が主が喜ぶかは知らないが。
「……はあ、しかし……なんだ。ここまで埋まらずこうして私たちの前に立てているのは、まあ、よくやったのでは無いかと思わなくも無いな」
長く周りくどい彼の言葉を簡単に訳せば、ここまでよく頑張ったな、また会えて嬉しい、辺りだろうか。
本人に言ってしまえば、確実に否定されるだろうが。
「なんだなんだー? 我バカだからお前が何言ってるかよく分かんなかったな〜? ん〜!? もっとシンプルに、分かりやすく言ってくれませんか〜?」
「高貴なる夜の種族サマにはどうやら、我々の清らかな言語は理解できないようだな。ああ、これが種族差ということだろうか、なんとも悲しいものだな」
「いや、少なくともロミアス貴様の言葉が清らかは無い。百歩譲ってもない。あっ、もちろんラーネイレお姉さんのお言葉はとても清らかですけどね!! おら、ラーネイレお姉さんに謝罪しろロミアスよ!」
「崇高なる吸血鬼サマはフェミニズムを信仰しているようだな。そして話す相手には早口で捲し立てるようにと教わるらしい。我々では想像も及ばない素晴らしい文化をお持ちのようだ」
この緑髪と吸血鬼、キレキレである。
表面上はなめらかだが中身は毒たっぷりな緑髪に、勢いで反論をゴリ押しする我が主。
二人の間髪入れぬディスり合いに、立ち入れずオロオロとするラーネイレを他所に、場はどんどんと暖まっていく。
激しく言い争うロミアスと我が主だったが、二人の表情には明色が隠れきれておらず、その口角は自然と上がっているのであった……。
◇
「……へぇ、今は雪原の方に住んでるのね。寒くないのかしら?」
「いやまあ、寒いっちゃ寒いけど……でも、雨降らないのは吸血鬼的にありがたいし……。それに、コイツに抱きつけば暖かいしな!」
「わふー?」
ラーネイレお姉さんに見せつけるように、マトゥルンのそのふわふわで暖かい銀の毛並みに抱きつく。
「わぁ、暖かそうね! ……私もちょっと、触ってみて良いかしら?」
「だってさ、マトゥ。良いか?」
「わふ! いいよー!」
「大丈夫だって! はい、ラーネイレお姉さんどうぞ♪」
最初は恐る恐る、といった手つきでありながらも、衝動の抑えられぬ表情でマトゥに触れるラーネイレお姉さん。
かわいい。
「あわ、ふわ……あ、これスゴい……! すごくふわふわで、暖かくて、……ちょっとゴメンね、ぎゅってさせて……!」
「わふ〜」
「わわ、わあ……! わふ……もふ……あったか……あったかぁ……♪」
声がとろけて言語があやふやになるラーネイレお姉さん。めちゃくちゃ&はちゃめちゃにカワイイ。
かわいすぎる。
ともかく、ラーネイレお姉さんがマトゥの毛並みを気に入ってくれて良かった。
……あ、ちなみにマトゥルンは裏で待機してたのを
外でひとりぼっちは良くないもんな!
「……ところで、だ。君はどうして王城に来ていたんだ? 私たちを待ち伏せしていたということは、王城まで来ていて私たちの存在を把握していたということだろう?」
む、流石はロミアス。細かい所によく気付く。
「それはだな……男と男の命と覚悟の約束があってだな……!」
「君は男じゃないだろう。パッと見の風貌以外は」
……コイツ、まじでデリカシー無いな。
いや、あえて無視してるのか? それはそれでタチ悪い。
「……まあいい。あれはかの迷宮レシマスを攻略している時だった――」
――我がパルミア王城へと出向いた事のあらましを、身振り手振り感情フルスロットルでロミアスたちに語り尽くす。
「――ほう、迷宮の秘宝に大国を巡る陰謀か。これまた、大層な話になってきたじゃないか。こっちはこっちで、国ぐるみの陰謀を感じているというのに」
「そういえば、そっちも大変そうだね? なんか、白い変な男がエレアがどうこうとか訳分からんこと言ってたぞ!」
ヴェルニースに初めて来たときの、感じの悪い演説男を思い出す。
あー、今思い返してもムシャクシャするなあ!
「……そいつは恐らく、軍事大国ザナンの皇子サイモアだな。我々のことを目の敵にしている、厄介な人間だよ」
「はー、あれが皇子さまさまだったのかあ。通りでガードがいっぱいだった訳かあ。あんなのが次期皇子とは大国も終わってんなあ」
我に政治は分からぬが、ああいうのは長続きしないように思えて仕方がない。弾圧的な奴とかね。
……まあ、思いっクソ偉ぶって支配者気取ってたどこかのお父様の末路を見たらそりゃあね。
「我々の旅の目的は、あの白子の皇子によって引き起こされた異形の森とその民への不当な弾圧を止める為だ。……まあもっとも、私はその付き添いみたいなものだがな」
「……ふーん、面倒見が良いんだな。ロミアスって」
「おいおい、冗談じゃない。変な勘違いは止めろ」
「ふふ、いつもありがとう、ロミアス」
「ラーネイレもだ、思い違いも甚だしいぞ」
此奴は本当に素直じゃないなぁ。でもだからこそ、ラーネイレお姉さんの押しの強さと人の良さがピッタリなんだろうな、と。
やんややんやと楽しげな二人のやり取りを見ながらそう思う。
「……はあ、とにかく。私たちはいわば異形の森の民からの使者であり代弁者なのだ。我々を敵にしたがっている彼らからすれば、目障りこの上ない存在であることは想像に難くないな」
「なるほど、それであんなに監視が居た訳だな。こりゃあホントに、コウモリの姿で入ってきて正解だったみたいだな」
コウモリ化もそうだが、バレないように窓に飛び込むのも大変だったからなあ……。
「本当にそうよね……! 貴女まで私たちと同じように狙われちゃったら大変だったわ」
「……いや、ラーネイレ。そんなことよりも、我々が怪しげな吸血鬼の冒険者と関わりがあると知れ渡ることの方を危惧するべきではないのか?」
とっても優しいラーネイレお姉さんの気遣いの言葉に感銘を受けていたら、ロミアスから茶々入れられた。
……もっとも、我としてもロミアスの言ってる方を危惧しての行動ではあったのだが。
「何度でも言うが、君はもっと危機感を持て。ラーネイレ、君が倒れ伏したら我々の未来は
「それは仕方ないじゃない、助けられる者が居るなら救うべきよ。危機感が欠けちゃっているのは認めるけど……」
本当に、ラーネイレお姉さんは変わらないみたいだ。我は心配だぞ? ホントに……。ロミアスの苦労がしのばれる。
「……あ、そういえば。かなり時間が掛かったんだな、パルミアに着くまで。我と出会ってからもう半月近くは経ってたハズだぞ? 急ぎの旅では無かったか?」
唐突に浮かんだ疑問をロミアスたちに投げかける。さすればロミアスは、やれやれと溜息をつきながら
「まあ、大きく分けて二つの要因があるな。一つは察してると思うが、この素晴らしき善性をお持ちのラーネイレ様が寄り道ばかりしてきたからだな」
そう揶揄するようにロミアスがラーネイレをチラリと見れば、ムスっとした表情を隠すことなく黙って抗議の眼差しを向けられている。
「そのお陰でウルチヤ、君のように救われた命は幾つか増えたがな。ああ、もっとも君以上に酷い有様の者は居なかったがな?」
うっ……おもわず思い出したくもない荒波暴海の記憶を思い出してしまった……。おのれロミアス……!
「……さて。一応言っておくが、流石にそれだけで半年も時間を無駄にした訳では無い」
「もう一つの要因か。それは何なんだ?」
「それは勿論、私たちの追っかけ連中からの妨害だな。まったく、有名人とは辛いものだな」
ウザい手振りを使ってやれやれ顔を作るロミアス。仮に追っかけが居たとしてもそれはラーネイレお姉さんのものでありコイツの追っかけは存在しないだろうな。
「襲ってくる者たちを返り討ちにしてみれば、聞くのはいつも依頼されて金を貰って……まったく、何とかの一つ覚えとはよく言った物だな」
「はへー、それまた大変そうだ。ホント、大丈夫なのか? ここいらにも色々物騒な連中が集まってるみたいだし。なあマトゥ?」
「わふっ! ここのおまわりさんとは違う匂いの兵隊さん、いっぱいだった!」
わふわふっ! と元気良く答えてくれるマトゥルンの言葉をロミアスたちに伝える。
まあ、狼の言葉が分かるのは吸血鬼の特権だからな! 下々の民に翻訳してあげようぞ!
「狼の嗅覚か、ふむ。その兵隊とやらは、恐らくザナンの者どもか? これは早い所、腕利きの護衛を頼まなければいけなさそうだな」
「……そっか、なら明日明後日辺りには出発してしまうのか……?」
「まあ、そうなるだろうな。私たちをいつまでも放っておくほど、彼らも暇では無さそうだからな」
残念だけど……それはそうか。
やはり、これだけ重要な使命を持っているからこそ、追手は沢山来るし安心できないんだろうなあ……。ちょっとカッコいいかも。
「……でも大丈夫よ、ウルチヤちゃん。時間は全然あるから、まだまだお話できるわ……♪」
「……! そうだなっ♪ いっぱいいっぱいお話さやうぞ!」
ラーネイレお姉さんからの優しき微笑みの言葉に、心がホントに暖かくなるな……! えへへ。
「……はあ、まあ何でもいいが騒ぎすぎないでくれよ? わざわざコウモリになってまでこっそり入ったことが無意味になってしまうからな」
「ねえ、あれからどんな冒険をしたの? 私聞きたいわ♪」
「……おい、私の話をちゃんと聞けラーネイレ」
身を乗り出して我の手を取るラーネイレお姉さんと、話を聞いてもらえず溜息をつくロミアス。
初めて会った時と変わらない二人を見てると、なんだか本当に懐かしくて楽しい雰囲気に包まれて、とっても嬉しくてたまらなくなる。
「……ふっふっふ、そんなに聞きたければ聞かせてやろう! 我の愉快痛快な冒険譚を!!」
「ふふっ、楽しみね〜」
「……君の冒険譚はそれはもう、ユカイなんだろうな?」
――その夜、王都の宿屋の一室では、密かな宴会が開かれた。
闇夜の支配者に、異端の森の民。種族を超えた出会いと運命に導かれ、再会の刻に暖かな華が咲くのであった――。