愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◇
「……全く、君の善良性は素晴らしいが……もう少し周りを見て行動をだな……」
ボクがラーネイレお姉さんに、恐らく本当に事故であったこと、ボクがもう怒っていないこと。
そして、彼は丁度謝罪をしようとしていた所だったことを伝えると、何とか誤解は解けたようでお姉さんはロミアスを起こし上げた。
そして、彼女は……ロミアスからお小言を貰って申し訳無さそうにしているのだった。
……何というかこれは、被害者しか居ない、悲しい事件だったなあ……。
「……さて、と。何だかんだで、時間は経ったし君の身体もだいぶ回復しただろう?」
「……そうだな、もうあまり痛みは無さそうだ」
「本当に凄い回復ね……」
ふんふん、そうだろうそうだろう! 何せ、ボクはとっても凄い吸血鬼なのだからな!
「無言で誇らしげな顔をする暇があったら、少しは自分の不運を嘆いてみてはどうだ? その方が幾分か人間らしいぞ」
……さっきから、微妙に言い回しが意味深というか……。やっぱりコイツ、ボクの正体に気が付いてるよなー。あいも変わらず、ラーネイレお姉さんは何も分かって無さそうだが……ああ、なんとも愛しい善良さ。
「まあ、何はともあれ。君もこの地ノースティリスに来たということは、冒険者志望なのだろう?」
……あ、ここちゃんとノースティリスだったんだ。いやあ良かった良かった、海には流されたが何とか辿り着けたようだ。
ともかく、ここは肯定しておこうじゃないか。
「ふむ、それならば冒険のイロハを少し教えておいてやろう。せっかく限られた我々の時間を割いて救ってやったのに、何処かで適当に野垂れ死んで貰っては徒労感しか残らないからな」
ムカつく言葉遣いだが、まあほんの少し優しさも感じたので許してやろうじゃあないか。
ロミアスの御厚意にありがたく甘えて、所謂冒険のチュートリアルを受けることにした。
「……さて、まさか食事の仕方も知らない高貴な箱入り娘とは到底思えんが、一応教えておこうか。ここに、新鮮な生肉がある。君も丁度空腹になってることだろう。これを食べると良い」
ビシャっ。
何処からともなく生肉を取り出したロミアスは、そう言ってボクの近くの地面に生肉を叩きつけた。
「…………はえ? えっ……えっ……!? いやいや、待て待て……なんで生肉を母なる大地にプレッシャー!?」
「よく分からん言葉を使うな。あと多分だが言葉の使い方間違えてるぞ」
「いやいやいや、使い方間違えてるのは貴様の方だろう!? 何故わざわざ食べ物を地面に!? 普通に渡せるだろう!!」
正論オブ正論で緑髪をぶん殴るボク。ボクは絶対に間違ってないし、世界も多分ボクに味方している。間違ってるのは貴様だロミアス!
「……ハァ、これだから外を知らないボンボンは困るのだ。君は、食料が皿に出されて転がっているとでも思っているのか?」
……えっ。
「冒険者たる者、食料は自分の力で採らなければいけない。それは、自らが奪った魂の抜け殻かもしれない。あるいは、大地で伸び伸びと生きる者たちをそのまま食すこともあるだろう」
……むぅ、確かに……サバイバルとはそういうものだ……。
「冒険者ならば、大地に墜ちて土に穢された物を食す覚悟を持たなければいけない。そうしなければ、生き残れない。この地ノースティリスは、レストランでも温かい食卓でも無いのだ」
「……ぐぬぬ、悔しいが…………一理ある……。なるほど、貴方のその奇行にも、冒険の心得がしっかりと刻み込まれていた、という訳か……!」
「ん? 地面に投げつけたのはただの嫌がらせだ」
「性格悪いなクソ緑!!」
ハァハァ……少しでも尊敬の念を覚えたボクが馬鹿みたいだよ……。
……まあ、何だかんだで大切なことは教わったが……。
「まあ、こういうことも稀にある。依頼を達成したら、褒美と称して食料を地面に叩きつけて渡されたとかな。まあ、何事も経験だ。ひとまず食べてみろ」
……土に汚れた新鮮な生肉……。
……えぇ……、食べてみろって……いや、食べるけどさ……というか、これ生で食えってことだよな……鬼かこやつ……。
「ええい、ままよ! いただきます!」
たが、これもこの地で生きていく為には必要なこと……! 意を決して地面の生肉に齧り付いた。
「……………………」
……あれ、これ…………なんか食べ慣れた風味というか、この血生臭さに覚えが…………。
……って、まさかこの肉……!?
「――本当に食べてしまったのか?」
「…………〜〜〜っ! キサマ、正気か!? どうしてその肉を人間であるお前が持っていて……!?」
この肉の風味は、とても良く知っている……。
実際の所、肉を食べることは全然無かったが、その血の味は毎日のように啜ってきた……。
ああ、これは――貴方の大好きな人間だ!
「……フン。やっぱり、な……。よく馴れた味だろう? 肉まで食らうかは知らんが、その血の味には覚えがある筈だ、幼き吸血鬼の娘よ」
……成程、冒険者でも無い普通の人間ならば、人間の味など分かる筈も無い。つまりは、これらは我が人外の物であると炙り出す為の罠だった、という訳か……!!
「ハッハッハ、バレては仕方無い! そう、我こそは誇り高く驕り高い夜の帝王! ヴァンパイアのウルチヤ様である!!」
「驕り高いって意味分かってて言ってるのか?」
「貴様の策略、人間にしては見事な物だ……! まさか、自分が吸血鬼であると自白することを狙って、わざわざ人間の肉を用意して食わせるとはなぁ? その用意周到さ、かなりの手練だな!」
ビシッと、人差し指で緑髪を指し示し、その手腕を褒めて遣わす。クックック、我を追い詰めるとは……面白い男よ!
「いや、この生肉は丁度持ってたから嫌がらせに食わせただけだ。というより、誰が見ても君が吸血鬼であることは一目瞭然だろ……」
……えっ、こいつ……シンプルに人間のを持ち歩いてたってこと……? なにそれこわい……人間怖い……。
「というか、我々は人間ではなくエレアなのだが……まあ、吸血鬼からすればエレアも人間も変わらんのだろうがな。何とも偉ぶった種族だな吸血鬼というものは」
ハハハ、偉ぶっているのではなく偉いのだ!
……さて、と……ロミアスの方はこんな調子だが、ラーネイレお姉さんはどんな反応かな……?
「………………」
……あれ、なんかめっちゃ静か……えっ怖い……。
もっと驚くとか、恐れるとか、そういうのじゃないの……? なんでこんなにも冷たいくらいに静かで……。
「おいおい、正体を知って今更後悔してるのか? 我々よりも異形で、人間に害をなす吸血鬼の命を知らず知らずで救ってしまったことを」
……むう、コイツの言い方に腹は立つが、でもまあ異論は無いし……何より本気で言ってない感じがするな。それはそれとして若干ムカつくけども。
……しかし、そんな彼の言葉にも、何の反応を返さないラーネイレお姉さんを見ていると、……何だか胸に鈍い痛みがある気が……まだ、再生が追い付いて無いのか……?
「………………ねえ、ロミアス……ホントに、……ホントに――」
冷たい沈黙を破って、ラーネイレお姉さんが尋ねる。その先の言葉を、聞きたいのに聞きたくない。
何だかそんな、不思議な感覚を覚えていて――。
「――誰が見ても一目瞭然だったの……!? 私、全然気付かなかったんだけど!?」
「……へぇっ……?」
予想もしなかったラーネイレお姉さんの言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまう。
えっいや、えっ!? 突っ込むところそこなの!?
「……何というか、本当に……ラーネイレ、君は人を信じすぎる。特に、助けたいと思った相手にはな」
気苦労の多そうな表情で、語るロミアス。
「いいか、そもそもあんな回復力の高い普通の子供が居る訳ないだろう? 服装も、まさに吸血鬼然とした物だろう。それに、この偉ぶって自然に人間を見下した態度もそうだな」
「でもそれだけじゃ……」
「いやいや、ラーネイレ。君はどうして瀕死の彼女の元へ辿り着けたと思っているんだ……」
「……あっ、コウモリ……!」
えっ? ボクの元に彼らを連れてきたのはコウモリ……? って、ことは……アイツが助けてくれたのか……。
……目覚めたら、お礼の一つや二つくらい、ちゃんと言ってやるか……。
「……そうね、確かに……考えてみたら、吸血鬼っぽいかも……失念してたわ」
「全く、君は後先考えずに人助けをするが、もう少しちゃんと周りを見て危機感を持て。それは美徳ではあるが、いつか身を滅ぼすぞ」
一瞬、敵である者たちをも救おうとし、死地へと向かっていく彼女を幻視した。
とてもありそう。すごくありそう。良ければ、ボクとのこの一夜の経験を将来役立ててくれるととても嬉しい。
「……まあ、今回は助けた相手が善良な吸血鬼で助かったな。どこか安心できない所はあるが、まあ命の危機までは無いだろうからな」
「むう、そりゃどうも……」
誰もが恐れる吸血鬼として、イマイチその評価は腑に落ちないが、まあ良く評価してくれてるのでありがたく受け取ろう。
「……確かに、私は……誰かを助ける為なら、自分のことをかえりみないとこもあるわ。それで多分、痛い目を見ることも、分かってるわ……」
じっと俯いて、彼女はそう零す。
……だが、彼女はその顔を、固い決意を持った表情を上げて、言い放った。
「それでも私は、救える命は全力で救いに行くわ。それが、私の目的で、私の使命でもあるから」
……本当に、彼女は強くて、凄い人だ……こんなにも強い意志を持っていて、迷いがなくて……とてもとても、眩しい人だ。
――――ボクも、ラーネイレお姉さんみたいに、なれるかな……。
……って、何考えてるんだ、ボクは。
「……まあ、君の答えは分かりきっていたさ。だからこそ、私が居る。君が君であり続ける限り、私が君の歯止めとなろう、ラーネイレ」
「……ふふっ、ありがとう、ロミアス」
…………何だか、本当に……良い関係だな……。
こういう信頼関係というか、何というか……上手く言い表せないけど、そういうの……ボクも、眷属たちと築けたら良いなあ……。
運命のように出会った命の恩人たちを見つめ、ボクは一つの、確かな理想を心に描くのであった。
◇
「……さて、と。これでチュートリアルは終了だ。これで君も、冒険者の見習いの木っ端くらいには成れたことだろう」
あの後、冒険者としてのチュートリアルを再開することにした我は、イイ性格の緑髪の、ありがたーい嫌がらせもといご教授を存分にいただいた。
冒険者の、ノースティリスの洗礼を充分この身に受けたと思ったが、それでもまだ見習いにも満たないというのか……!
「まあ、プチにマトモな傷を与えられない立派な冒険者、という大変名誉ある称号を得たいのならば話は別だがな」
「喜んで辞退させて戴こうか。冒険者見習い初心者バンザイ」
「良い具合にプライドも無くなって来たな」
良い傾向だ、あるいは非常に愉快だとばかりに、喉を鳴らすロミアス。やっぱりどこかウザい。
「くっ……今に見ておれ……! 強くなってベテランになって、冒険者としても偉くのさばってやる……!」
「だから意味ちゃんと分かってて使ってるのか」
高貴な吸血鬼たる者、強くて偉くて凄くなければいけない。
威張る=偉い=凄い。勝利の方程式である。V。
「……さて、そろそろ我々も旅立たなければいけないな。少なくとも野垂れ死ぬことは無いと分かった以上、我々がいつまでもここに居る理由は無い」
「……む、もう行ってしまうのか?」
「何だ、偉大なるヴァンパイアというのは、随分と心の細い種族のようだな」
「んなっ!? そんなことは無い! ……というか、我が寂しいとか全然思ってる訳無いだろう!? 変な勘違いをするでない!!」
「ふふっ、貴方とはいつかまた会える気がするわ。だって、貴方は立派な冒険者だもの。冒険の先でまた、私たちの道と交わる日が来ることを願っているわ」
「ラーネイレお姉さん……!」
ホントに聖人……! ラーネイレお姉さんマジ清楚! 聖なる者はキライだけど、この眩しさには心のハートがKOです!
「この夜で我々も充分に休息できた。日も昇り始めた頃だ。さあ、我々は我々で、目的地である王都パルミアを目指そうじゃないか」
「そうね、我々に残されている時間は少ないわ。私たちの使命、絶対に果たしてみせるわ」
彼らも、様々なモノを背負っているのだろう。断片的で推し量ることしかできないが、そう感じる。
重たく困難な道の中で、沢山のモノを背負いながらも、しっかりと前に進もうとする彼ら。
その姿が何だかボクには、心から格好良く見えたのだった。
「さあ、行こうか。ウルチヤ、君もまあ、精々埋まらぬよう必死に生き抜くことだな」
「また会いましょう、可愛らしくて格好いい、小さな吸血鬼さん」
そう言って二人は荷物をまとめると、太陽の世界へと歩を進めた。
そんな眩しい二人の背中に、ボクは心からの声を届けた。
「……ラーネイレお姉さん、ロミアス……本当に、……ありがとう!」
二人は温かな太陽の光に包まれながら、彼女は微笑み彼は不器用に手を振って、使命の道へと旅立っていった。
「ああ、行ってしまったな……。……良い人たちだったなあ……また、会えるかな……。…………うん、その為にもまずは、ボクも生き抜かなきゃ……!」
彼らを見送り一抹の寂しさと再開への期待を感じながら、ボクはもう一人の恩人のコウモリに目覚めの言葉を投げかけるのであった。
「さあ、目覚めるのだ。ボクの大切な……眷属よ!」
次話は明日の21時に投稿します