愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
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漆黒のマントが翻り、銀の総髪が揺れる。
照らされた牙が妖しく輝き、溢れるカリスマは留まることを知らない。
「ふむ……こう、かな……? いや、こっちのポーズの方が……。……うむ、こう……こう! だなっ♪」
……溢れ過ぎて、もう中身は残って無さそうだ。
無機質で近代的な施設『アクリ・テオラ』のとある一室。
その部屋に勝手に侵入した我が主は、そこにあった姿見の前で何度も何度も謎のポーズを取り、夢中になってあーでも無いこーでも無いとのたまっていた。
「…………ふふっ、やっぱり我はカッコいいなあ……! それでいて最高にキューティー♪」
キメ顔で自画自賛する我が主。
こういう所が残念なんだよなあ……。
「残念とは何だ!? 失礼な……」
確かに、我が主は非常に美形で、幾人もの女性が寄ってくるような素晴らしい外見をしていらっしゃいます。
「ふんふん、そうだろうそうだろう♪」
……が、しかし。一度言葉を発してしまえば、たちまち周りの女性は去っていく……。
「うっ……!?」
何故だと思いますか? ええ、はいそうです。
貴方様の言動が非常に残念であるからです。
「まだ何も言ってないだろう!?」
黙っていればモテるんですけどねえ……。
「おい、泣くぞ。自慢じゃないが我速攻で泣くぞ? ほら泣くぞすぐ泣くぞさあ泣くぞ」
泣くならひとまず帰ってからにして下さい。
僅かなカリスマすら失いますよ。
「我の眷属が塩対応過ぎる件について!!」
ぷんすかと怒る我が主を見て、果たして失うカリスマはまだ残っているのかと、心底心配するコウモリ眷属なのであった……。
「変なナレで〆めるな! オチに使うなー!!」
◆
……それで、どうしたんですか急にこんな所に入って。
「うむ? まあ、そうだなー……強いて言うなら、カッコいいの波動を感じたから?」
何ですか、その理由は。
まあ大方ホントの理由は、あの『妹』が怖くてヴェルニースに入れないからでしょうけど。
「ギクぅッ!?」
わざわざ口で言わないで下さい、マンガじゃないんですから。
「だってだってぇ!? またアイツに出くわしたら我、今度こそ大衆の面前で泣き喚くからな!?」
涙目になりながら、何とも情けないことを口走る我が主。
……なんだか、日に日に幼くなってません?
「ぬえぇ!? なんでそんなヒドイこと言うんだ眷属のクセにぃ!! というか、お前は狙われて無かったからあの恐怖が分かんないんだよ!!」
……いや、まあ……あの妹という生物は非常に不気味でしたけども……。
「はい論破! はぁーい、論破ぁ! これで我に文句言うでないぞ? 分かったなー!?」
ハイハイ……。
我の勝利だとでも言うようなドヤ顔でまくし立てる我が主。これ以上ツッコんでもキリが無いので適当に流しておこう……。
……で、このアクリ・テオラに来た理由は分かりましたが、何故この鏡の前にずっと居るのですか?
……あ、カッコいいポーズ探し以外の理由でお願いしますね?
「……えっ、理由の九割消滅したんだけど……?」
………………。
……じゃあ、残りの一割を聞かせてください。
「まあ、一つは当然アレだな。身だしなみチェックだ! 高貴で気高くホコリを逃さない吸血鬼は何時如何なる時でも、何処に出ても恥ずかしくない格好でなければならないのだ!」
……何処に出ても恥ずかしくないですか……。
……いや、まあ……良いですが……。
「む? そうか、なんだかよく分からんがそれならいい! まあ、我は海に投げ出された身だったからな。服とか大丈夫だったか見ておったのだ……!」
そう言って、再度確認するように服を引っ張りチラチラと見やる。
実際、かなり流されましたからねえ。服が無事だったのは、流石吸血鬼の持ち物って感じですかね。
「そうなの? なんか、確かに物持ち良いなぁとは思ってたけど……もしかして、我の溢れ出る魔力とカリスマで、我の持ち物は全て伝説級のアイテムに!?」
いや、知りませんけど。まあ、貴方様がそう思うならそうなんじゃないですかね。
「えへへ、吸血鬼由来の伝説のアイテムかあ……良いなあ良いなあ! 最高にカッコいい……!」
途端に目をキラキラ輝かして、マントを何度もひらひらさせる我が主。
影響されやすいというか純粋というか単純というか……。
「シンプル・イズ・ベストだぞ!」
あっはい。
所で、まだ理由はあるんですよね? さっき、一つは、なんて言ってましたし。
「ん? ああ、そうだったな。ここで鏡を見てるのは、もう一つ理由があってなぁ!」
ふんふん、と楽しげに語る我が主。あいも変わらずテンションが高い。
「我、海に投げ出されただろう? つまりは、ずーっとあのしょっぱい海水に浸ってた訳だ。そんな状態では、いくらつよつよ吸血鬼である我の髪も、ダメージを受けかねないだろう?」
まあ、確かに塩水は髪に悪いですからね。
それを鏡で確認してたという訳ですか?
「そういうことだ。一応、分かる範囲では確認したのだが、どうしても分からん部分もあるしなあ」
そう言って、オレンジに変色したサイドバングの髪をくるくると弄る。
我が主の髪は夜に生きる吸血鬼に似合った綺麗な黒髪だが、顔横の髪だけはオレンジに近い東雲色に変色していた。
「ふふん、良い色だろう? 東雲、朝焼けの色らしいな? デイウォーカーの我にはピッタリな髪色だ!」
デイウォーカー。吸血鬼でありながら、太陽を克服した者が得られる称号。
我が主がデイウォーカーに覚醒したあの時、同時に現れた変化こそがこの東雲色の髪であった。
「あれだな、真の力を引き出した時に色が変わるやつ。怒りと共に金髪に変わったりとか。多分そういうやつだろう! きっと多分!」
ウルチヤ様が何を言ってるのかはよく分かりませんが、どうせいつものことなんで特にツッコまないでおきます。
「えぇ……」
所で、どうです? 髪の方は大丈夫そうでしたか?
「もっちろん! 流石は夜の支配者である我の髪だな♪ ふふんふん、良かった良かったこの髪が傷付いてなくて……♪」
そう言って我が主は、大事そうに何度も何度も東雲の髪を撫でる。その表情はとても穏やかで、暖かな物であった。
「ふふん、当然だな。この髪色は、暖かで優しい、太陽の色なんだから……」
……髪色を通じてその瞳は、どこか遠くのモノに想いを馳せていた。
その通りですね。本当に暖かで優しい色でした……。
「……あっ、勿論! こっちの髪も無事だったぞ!!」
そう言って、後ろに纏めた銀髪を主張させる我が主。
こちらも、東雲の時と同じ頃に変色した髪色だった。
「ポニテだけ銀髪ってのも、中々にカッコいい気がするんだよなあ♪」
楽しそうにポニーテールを振り回すその姿は、無邪気そのものである。
はしたないし傷になると困るので止めてください我が主。
「あっ、そうだな。確かに、この威厳の象徴であるこの銀髪に傷が付いては困る!」
……威厳、ですか。
「そう、威厳だ! 銀髪は偉大だぞー? 強くて凄くて、気品に溢れてて、とっても誇り高いんだ!」
キラキラ輝いた瞳で、そう力強く語る我が主。
……尊敬されてるのですね、銀髪を。
「ああ、当然だな! 銀髪こそがベストオブ吸血鬼!! 吸血鬼の為にあるような威厳の髪色!! 我の目指す理想の吸血鬼だぞ♪」
……そうですか、それは……とても、素晴らしいですね。
「ふふん、そうだろうそうだろう♪」
上機嫌な我が主を見ながら、そっと身体から抜け出す。
「〜♪ ……むっ? どうしたんだ、急に抜け出したりして?」
「……きぃー」
何でもありません、と一言そう告げる。
「……? そうか、変な奴だなー」
我が主は一言そう言うと、また鏡の方に戻って、ご機嫌に髪を弄り出す。
……誤魔化せたみたいですね。
「ふんふん〜♪」
我が主は、……結構天然ですから、分かってて言ってるのかどうなのか……。
一体化してしまえば、私の思考は丸分かりです。私の思考を通じての自覚は良くないと思いますので、わざわざ分離しましたが……本当に、自覚があるのやら無いのやら……。
「威厳の銀髪、本当にカッコいいなあ! 流石我っ♪」
何も分かっていなさそうな、能天気な表情の我が主に、そっと心の声を掛ける。
……我が主、貴方様の目指す理想。銀髪の吸血鬼……それは、貴方様のすぐ身近に居た御方のことでは無いですか。
偉大で厳格で、誰よりも吸血鬼然とした、あの御方。貴方様は、あの御方を嫌っていましたよね。
……まあ……これ以上は、勝手が過ぎますかね。
……さて、戻りましょうか。勝手な考えは私には要りません。
私はただの眷属コウモリ。昔から貴方様を見てきただけの、ただの眷属でしかありませんから。
「む? なんだ、もう戻るのか? まったく〜ホントに変な奴だなあ♪」
……ご機嫌ですね、我が主。
「ふふん、当然! これだけ長い時間、カッコいい我を見続けられたのだからなっ!」
キメポーズを取り、渾身のドヤ顔をする我が主。
…………はいはい、カッコいいカッコいい。それじゃあ、次の街に行きますよ。こんなとこにいつまで居ても何も起きませんし。
「んぇー、もう少しここでカッコいい我を見ておきたいんだが?」
冒険者は街を巡って力と技を磨き、強くなる物ですよ。カッコいい冒険者になりたくないのですか?
「……!! 当然なりたいに決まってる! さあ、早く次の街に行こうさあ行こう!?」
やっと乗り気になりましたか。
それじゃあ、ひとまずヴェルニースに行きましょうか。まだ全部回れて無いでしょう?
「げぇっ!? ほ、ホントに……行くの……?」
はい、当たり前です。
ヴェルニースを闊歩するカッコよくてカリスマ溢れる我が主が見たいなー。
「ははは! そうかそうか、最高にクールな我が見たいか眷属よっ♪ それなら、見せてやらんことも無いなあ!?」
……ちょっろ……。
「えっ、今なんて?」
我が主ウルチヤ様が、愛読小説の主人公みたいな鈍感さを発揮した。
……何でもありませんよ。さあ、行きましょうかヴェルニースへ。
「ああ! ふふっ、楽しみにしていろよ? 我がカッコよくヴェルニースに入っていく様を!」
随分カッコいいのハードル低いですね……。
「目標は高く課題は低くだぞ!」
初耳ですし微妙にズレてる気もします。
その指摘もどこ吹く風なのか、もう別のことに目移りしているのか、我が主は楽しそうに歩き出す。
「しかし、楽しみだなー酒場とか行ってみたいなー! 勿論、注文は血液で!」
売ってないですよ。恥かくので止めてください。
「何を!?」
やいのやいのと言い合いながら、機械仕掛けの屋敷を後にする。
「んん〜! 風と陽射しがきもち〜っ♪」
黒髪に映えた二色は風になびき陽に輝く。
暖かさと優しさが、威厳と憧れが……彼女を導きそして見守ってくれると、私は確かにそう感じるのであった。
「……なんか、難しいこと考えておるなー? ほら、小難しいことは後にして、今は楽しい冒険に胸を膨らませようぞ♪」
……ええ、そうですね。どこまでも付いていきますよ、我が主。
「さあ行くぞ次の街へ、リベンジ・ザ・ヴェルニースだ!」
――暖かな陽射しを一身に浴びて、我が主は歩き出す。偉大なる銀髪の吸血鬼の娘。彼女の冒険の道はまだ、始まったばかりである――。