愉快な吸血鬼っ娘は可愛い眷属たちとイチャつきたい 作:エヘ狂信者の猫
◇
我が眷属とじゃれあったりなんなりして数刻経ち、すっかり日も暮れて来た頃。
この地に来てからずっと疑問に思っていたことを、ふと思い出して眷属に問い掛けた。
「……所で、薄々感じていたんだが……」
「きぃーっ?」
未だ分離中な為、わざわざ鳴き声を発さなければ会話ができないコウモリ眷属。……まあ、言葉は我には分かるから良いのだが。
いや、そんなことよりも、疑問の方が大切だ……。
「……我、なんか弱くなってないか?」
「きぃ」
はい、そうですね。いとも簡単に肯定する我が眷属。
……いや、おま……良いけどさ……。
「……もしかして、なんだが。我、あの事故のせいで身体が弱体化したのではないか……?」
そう言ってみると、我が眷属は黙ってうんうん、と器用に首を縦に振って頷いていた。
……いや、ホント器用だな!? 流石は我の眷属って所か……!!
「きぃい……きぃ……」
……なんか眷属に、なに器用がどうとか我が眷属がどうとかって変な所でテンション上がってるんですかと、言われてしまった……。
……あれ……? ちょっと待てよ。今我、器用とかなんとかって口に出して言ってたか……?
「きぃ」
あっ、言ってないのね良かった良かった……。
……って……また、口に出して無いのに返事しなかったか、こいつ……?
「……いや、おかしくない? ホントまじで何かおかしくないか……!?」
「きぃ?」
「何が? では無いわ! ……なんで、我には眷属の思考は読めないのに、眷属である貴様には、我の思考が読めるのだ!?」
「きぃ……きぃきぃ……」
あ、なんか知らんけど面倒くさがって我の元に帰ってきた。
……あ、説明長くなるから思考を読め、と。
あっはい。わかりました。
……………………。
………………。
…………なるほど? つまりは、水難事故による我の身体の弱体化が、我自体の能力や、総合的な力にまで悪影響を及ぼしていて。
そのせいで、身体は貧弱になり、魔法の詠唱ストックも消滅し、挙句の果てには眷属との繋がり自体も弱まってしまった、と……。
「…………はあ……、なんか大変なことになってるのだなあ……我の身体は……」
……まあ、ぼやいていても仕方ないかぁ……。
頑張って、その弱体化も打ち消すくらいに強くなれば良いってこと、かな。
「……あっ、所で。じゃあ、何で眷属であるお前は我の思考が読めるままだったんだ……? おかしくないか……?」
だって、我の強さに連動しているのだろう? お前は。
……そう心の中で問い掛けると、我が眷属はおもむろに我から飛び出し、さっと答えた。
「…………キュィキーィ」
……ふむ?
我に対する忠誠心が、とても強力だったから……?
…………ホントか……?
いや、疑うのはどうかとも思うんだが、何というか……最近の我に対する扱いを考えると、疑わざるを得ないというか……。
「……ホントの、ホントに……? お前、本当に我にめっちゃくちゃ強い忠誠心、持ってるのか?」
「…………キィ」
「あっ、こら逃げるな。ノーコメントで、じゃないわ……!」
◇
………………。
「……ハァ……ハァ……なんか、息持たん……きつ……」
……飛び逃げる眷属を捕まえようとしたが、やけに身体に重みを感じてすぐに息が上がる。
「…………はあ……。まったく、コイツはホントに……忠誠心を持ってるのやら持っていないのやら……よく分かんないなあ……」
溜息をこぼしながら歩みを止め、誰とはなしに呟く。
身体が重たいせいか、声色がちょっと弱々しくなってる気がする……。
「…………アイツ、眷属のクセに……ボクへの尊敬が足りてないんだ……。……いつもいつも、仕方ないなぁみたいな、上から目線で……。……はぁ……」
何度目かの溜息と一緒に、アイツへの愚痴も溢れる。
……本当に、失礼なやつだ……。
「……ボクって、そんなに頼りないかな……? …………うぅ……」
疲れてるせいか、なんだか弱音が出てしまう……ボクは偉大で凄い吸血鬼なんだから、弱音なんて吐いちゃダメなのに……。
………………。
「……っ…………」
…………。
……ボクだって、ちゃんと分かってるもん……。
……ボクは、まだまだ弱いし、子供っぽいし、主としてダメダメだし……。
……そして、そんなんじゃ、眷属から慕われないってことも……。
…………。
…………こんなんでボク、みんなから好かれる良い主に、……なれるのかな……。
◆
………………。
…………。
……。
……我が主が、落ち込んでいる。
そう感じ取った私は、ひとまず飛ぶのを止めると、そっと近くに寄り、我が主の頬をぺろと舐めた。
「…………ボクを、慰めてくれるの……?」
元気の無さそうな声で、ひっそりと呟いた我が主に、胸が締め付けられる。
……………………。
「キィ……」
…………恐らく、今のウルチヤ様は、眠気が溜まり過ぎてるのです。……だから、こんなにも元気が無いのですよ。
……我が主に誤魔化しの言葉を吐いたことで、心に痛みが走る。
「ねむい……ねむいか……たしかに、そうかもしれない……」
そんなこととは知らず、私の言葉を純粋に、無垢に信じてくれる我が主……。
……わが家であるこの洞窟には、寝具が無い。
我が主にぐっすりと休んでいただく為にも、少し遠いがあの場所のベッドを使わせて貰おう……。
「キュイ」
「ついて来い……って? う、うーん……わかった……ねむいけど、お前についていくよ」
……さて、どうやって連れて行こうか……。
……そうだな……我が主の羽を、私の力で動かして飛びながら運べば良いだろうか。そうすれば時短にもなるし我が主の負担にもならないだろうし。
そう思い立ち、我が主の身体へと重なり同化する。
「……お、はこんでくれるのか……? えへへ、ありがとー、ボクの、……眷属……。…………すぅ……」
……我が主は安心したのか、すやすやと眠り始めた。
眠りにつく直前、にへらと笑う我が主。
その表情に、強い罪悪感を覚えたという事実が、我が主に伝わらなかったのは幸か不幸か……。
……ウルチヤ様、申し訳ありません。……私は、素直になれない、悪い眷属です。
一時の羞恥心の所為で、ウルチヤ様を悩ませてしまって……。
私は眷属失格ですね……。
……貴方には、心からの忠誠心を……何よりも強い、忠誠心を捧げています……。
……起きたらちゃんと、素直になって、伝えないと……。
◆
ぷかぷかと、敬愛する我が主の身体を浮かせたまま、夜中の道を進み王都パルミアを目指す。
何でも王城にあるベッドは、冒険者御用達の超高級なベッドであるらしい。
あまりにも勝手に冒険者に使われているから、当然王国としてもそれなりの対応を取るだろうと思っていたのだが……なんと、黙認をしているらしいのだ。
この土地の冒険者たちがそれで成長できるのならば、王としても喜ばしいことである。ということらしい。なんという心の広い王だろうか。
「……すぅ……すぅ…………ん、……ボクの……けんぞくぅ……♪ ……すぅ……」
……私もその恩恵にあずかり、我が主の身体を癒し伸ばさせようと思います。
……大切な我が主の為。王都の王様ベッドを目指し、私は力を振り絞って羽を動かすのであった。
◇
……ん……んんぅ…………ふかふか……。
……あったか……ふわふわ……。
…………あれ、ボク……なにしてるんだっけ……。
………………。
…………。
……。
「……はっ……!? はへっ……? いや、あれ……ここ……どこ……?」
見知らぬ天井。見知らぬベッド。見知らぬ枕に見知らぬ毛布。
「…………何もかもが分からんし何も思い出せん……」
まったく何もかもが分からない中で、何とか昨日の記憶を呼び覚ます。
……えっと……確か、ボクはわが家の洞窟にいて……眷属と言い合いしたり追い駆けっこしたりして、……それから……えっと……確か、眠くなって……。
「……あっ、思い出したぞ…………そうだ、あいつが良いベッドがある所まで運んでくれたんだ……」
少し意識を向けてみたが、あいつからの返事は無い。多分、運ぶのに疲れて、同じようにぐっすり眠ってる最中なのだろう。
……起きたら、ちゃんとお礼言わなきゃなあ……。
「ん、んぅー! ……す〜〜っ、はぁぁ……っ!!」
うん、とっても元気! 気持ちのいい朝って感じだなー!
我に相応しい高級なベッド! 暖かな寝室! 最高の目覚め! 窓の外には小鳥のさえずりが鳴り響き、暖かな陽射しが舞い込ん……で……?
ザァアアーーッ!!
…………あ、あああああ……雨だぁ!!!???
◇
「キュイ……」
「……あ、起こしちゃった……? ごめんつい……」
眷属であるコウモリが起きだし、我の身体から分離した。どうやら、まだ寝ぼけているらしい。
それよりも、問題は……こっちだな。
そう言って、窓に叩きつけられる水滴を見やる。
……雨は、我の天敵である。
なぜなら、雨は流水だからだっ……!
流水の恐ろしさは、海に流された時によぉーく身を持って体験している。こんな弱体化を喰らってしまったのも、全ては流水のせい……!
……と、いうことで。我は今絶賛、この部屋から出られなくなってしまいましたー。
……早くおうちに帰りたいっ!!
「キィ……?」
我が眷属が、心配そうに問いかける。
「これからどうするのかって? ……まあ、どうにかするから、安心してそこで待ってろ」
少しは主らしいことを言いつつ、辺りを見渡す。
さらには、超音波による探知も用いて、何か打開策となるアイテムが無いかと探し始めた。
「………………むっ……? これは…………」
我のレーダーに引っ掛かったのは、一枚の巻物だった。
恐らく、誰かの落し物だろうか。
中身は分からんが、もしかしたら、おうちに帰れる効果を持つ巻物かもしれない……!
「こうなりゃ、一か八か……! 行ってやろうじゃないか……! 我は、最強の吸血鬼! 運命を操る力は無いが、奇跡の一つや二つは余裕なのさ!」
「キィー! キィ! キィ!」
突然、我が眷属が強く鳴き始めた。
我が主はそこに居て待っていて欲しい、私が取りに行くから、と。
……ふっ、少しは主人である我に、カッコつけさせてくれても良いじゃないか。
我だって、ちゃんと眷属たちみんなから慕われる、良き主となってやるんだからな。
「きゅい……」
「よーく、見ておけよ、我の勇姿を!」
そう言って、眷属の静止を振り切って、流水降り注ぐ雨中の外界へと飛び出した。
目指すはあの巻物のみ!
走って、曲がって、さらに走って、走って。
雨に濡れてるというのに、不思議と身体が熱くなり、流水にやられているというのに、不思議と痛みも感じず……!
そんな不思議な、高揚感に包まれた瞬刻の中で、……遂に、巻物を手に入れたのだった……!!
……さあ、来い! これが帰還の巻物であることを、我は直感だが確信しているからな!?
さあさあ、読むぞ読むぞ読むぞ!
【どこに帰還する?】
……勿論、暖かで安心できる……わが家だっ!!
そう叫ぶと、不思議な魔力が身体全体を覆い始めた。
……くっくっく……本当にあれが帰還の巻物だったとはな……。もしかして我、運命を操る能力に開花しちゃった!? それとも、直感が必ず当たる能力とか!?
そんなバカなことを考えていたら、身体の魔力はより一層強くなっていき、やがて、大きく弾けた。
ビュンッ。
特徴的なその音を最後に、我の視界から雨中の街並みは消滅することとなったのだった。
◆
「……ふう、何とかわが家に帰れたなあ!」
我が主が、とても嬉しそうに両手を広げ、喜びを全身で表す。
……それにしても、私もわが家へと帰れましたか……。
離れた場所に居たとしても、ほぼ一心同体の眷属ならば帰還の巻物で一緒にワープできる、ということなのだろうか。
……いや、そんなことよりも。我が主には、色々と言いたいことがあり過ぎる……。
ひとまず、無茶はしないで欲しいってことに……ウルチヤ様はちゃんと立派な御主人であるってことに……私も心から敬愛してるってことに……それから、誤魔化して不安にさせてしまったことをちゃんと謝らなくちゃいけなくて……それから、それから――。
「――あぇ……? あっ……あ、……な……なん、か……いし、き……が……」
バタンッ。
――何かが倒れる鈍い音が、暗い洞窟の中に反響する――。
……私は、その音が……我が主の倒れ伏した音であると知り、全ての思考を投げ出して、ウルチヤ様の元へと駆け付けるのだった――。