MYGO見てオーナーに孫がいるという公式設定発覚しましたありがとうございます。
「副オーナーこんにちは〜」
「こんにちは。今日はどうしたの?」
「来週のライブに参加したいと思って!」
「いつもありがと、じゃあここにバンド名と代表者名を書いて、参加費の500円出してもらっていい?」
ライブハウス『SPACE』の経営は順調……とはいかなかった。
ガールズバンドの聖地になってはいるんだが、ステージに出るバンドは少なく、お客さんも名前と顔が覚えられるほど人が少ない。
ほとんど赤字かプラマイゼロで、詩船の貯金やCDの売り上げがなければホームレスになっていた可能性もゼロではない。
当然詩船もこの状況に満足しているわけがない。毎日毎日どうすればもっと喜んでもらえるか考えている。
「戻ったぞ。」
「あっおかえり詩船。」
「来週のライブの締切は今日までだったな?どれぐらい入った?」
「うーん……相変わらずだな…」
「日比谷が来てくれたのはよかった。ただあとは3組だけか。」
合同ライブとしては少なすぎる。1バンド3曲までの制限があるが、これじゃ1時間で終わってしまう。
たくさんやってもいいが、そもそもそんなオリジナル曲を作っているバンドがない。
「あたしが目指しているライブハウスはこうじゃないんだ。」
「俺も知っているよ。もっとお客さんが増えてくれればいいけどさ。」
「この際客の数はいいさ。あたしが言いたいのはそうじゃない。」
「どういうこと?」
「そろそろ実行しようとしてたんだ。スタッフには言ってないが、副オーナーであるあんたには教える義理があるな。」
詩船が計画を話す。
「ホントにやるの!?」
「やるって決めたらやるんだよ。」
「でも仮にもお客さんだよ?」
「だからなんだい。熱く出来ない人はいらないよ。」
「それで盛り上がるかどうか…」
「それはあたしが証明してみせるさ。節郎もこのままじゃダメだと思っているだろ?」
ライブ風景を脳裏に浮かべる。確かに今のままじゃいつかは終わる。この物件を売ってくれた店長に向ける顔もない。
「ただし、日比谷並のバンドだけだったらこの計画は持ち越しだ。」
「そりゃあそうさ。」
「まっ、あたしの勘だと即日やるだろうとは思うけど。」
ライブ当日。
「え!?参加を辞退する?」
「ごめんなさい!メンバーの1人が体調崩しちゃって…」
「風邪なら仕方ないね。返金するからちょっと待って。」
「いえ大丈夫です。わたしそのまま観客席でライブ観たいから、そっちにまわしてくれませんか?」
「全然OKだよ。それじゃこれドリンクチケットね。」
「ありがとうございます!」
でもこれじゃ合同ライブとは到底呼べない…
「日比谷は参加できないのか?」
「オーナー!そうなんですよ……」
「メンバーが体調不良らしい。それで他のバンドはどうだった?」
「ありゃ実行確定だな。」
「そ、そうなんだ…」
「なんの話です?」
「あー多分ライブ観ればわかるよ。」
「相変わらずの盛り上がりですね……」
予定通りの時間にライブを始めることができた。お客さんもちらほら入っているけど……
「正直盛り上げも、技術もSPACEでは日比谷さん達が1番だからね。」
「あ、ありがとうございます……だけどなんか複雑…」
自分と詩船、日比谷さんは後ろで観ている。少し音響とかいじりながら。
「今日は特に酷いね。」
会場は大歓声に包まれている……ことはなかった。観客も手にサイリウムを持っているとはいえ、談笑しているかぼーっと立っているだけ。これではただのたまり場でしかない。
肝心の出演者もただ演奏しているだけ。音はあっているが、個々の演奏で一体感がない。
そんな演奏当たり前だが、何も感じない。これが外だったらただの騒音に過ぎないだろう。
「日比谷。」
「なんですかオーナー?」
「先に言う。常連出演者ではあんた達が一番だ。ただあたしは例外を設けるつもりはない。」
「それってどういう……」
ちょうど演奏が終わった。
『ありがとうございました。』
ボーカルの人がぶっきらぼうに言って、その場を去ろうとすると、
「ちょっと待ちな!」
声の主は詩船だ。突然の制止に会場は静かになる。
「あんた達、やりきったかい?」
「えっ………」
即答しない。できるわけがない。やりきってないんだから。ただ演奏できればいい。ステージに上がれるだけでいい。そんなこと聞かなくてもわかる。
「降りな!」
「っ!!」
ボーカルの子が目を見開いて絶句する。そりゃそうだ。出演者に降りろというメッセージは戦力外通告とほぼ同等な鋭さがあるからだ。
「久しぶりだなぁ。」
「何が久しぶりなんですか?」
「オーナー……詩船のギターだよ。」
「オーナーってギター弾けるんですか!?」
「まぁ見てなって。」
詩船は愛用のギターを持って、ステージに上がる。観客ももうステージに釘付けだ。
ピックを持った手が振り降ろされる。
『おおおおおおおおおおおお!!』
一瞬で詩船のステージにしてしまった。まぁあのレベルなら本人は大したことないとかいいそうだけど、簡単にできることじゃない。
「す、すごい!SPACEでのこの歓声、オーナーのギター、初めて聴いた……すごいよ!!」
結構長めに弾いてたかもしれない。だけどあっという間に終わってしまった。
『SPACEのステージに上がれるやつはあたしが認めたバンドのみだ!』
「えっ?ええええ!?」
「まぁ普通は驚くよな……」
「副オーナーも知ってたんですか!?」
「俺だけ前日にね。他のスタッフさんも初耳だよ。ほら、」
「あっ、確かに固まっている。」
ただ観客席に驚愕の声はなく。
『うおおおおぉ!!!』
歓声がこだまするだけだった。
「しっかし革命は大成功になるなんて…」
「客は飢えてたんだ。聴いているだけの人がペンライト持ってくるわけないんだよ。」
「それもそうだな。」
詩船が認めたバンドしか上がれないシステムになった日から何日か経った。
詩船を認めさせる方法はただ1つ。自らオーディションを志願して、それに合格すればステージに上がれる。SPACEのスタッフもオーディションを聴くことができるが、最終決定権は詩船が握っている。
楽にみえるが、詩船の目と耳は厳しいため未だに合格したバンドはいない。
「オーナー、副オーナー!」
「日比谷さんこんにちは。今日はどうしたの?」
「オーディションをやる宣言をしに来ました!」
「別に予約制じゃないんだからそんなことしなくていいのに……」
「だけど宣戦布告ってやつですかね?なんかオーディション厳しいという噂を聞いたから。」
「当然だ。むしろあんた達はいっそう厳しく判断するよ。」
「その覚悟で今必死にやっているんですから!2人が腰を抜かして1発合格してやりますから!」
「そりゃ楽しみだ。あんた達が志願する日を楽しみにしとるよ。」
「頑張ってね!」
「はい!」
数週間後、本当に見間違えるほど上達していて、普段感情を顔に出さない詩船があんな驚いた表情は俺でも初めて見た。
そして、日比谷さんに続いて全力でやり切るバンドも続々と出始め、半年後に行われた合同ライブは言うまでもなく大成功で終わったのだった。