あんた、夫としてやりきったかい?   作:スタプレ

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8話

あれから何年の月日が経ったのだろう。

詩船との子どもが生まれ、気づいたら孫も出来て……もうジジイババアと言われる年齢になってしまった。

お互い白髪が入って、腰が少し悪くなったため杖を使うようになった。

自分の変わったところと言えば「孫に甘々なジジイになった。」らしい。いや詩船も大概やぞ?

ちなみに詩船は相変わらずオーナーとしての威厳を保っている。さすがです。

 

そしてSPACEの方も順調だった。あの時の改革により、今はガールズバンドの聖地と言われるほどのライブハウスになった。

ここのステージでライブをしたいくつかのバンドはメジャーデビューもしており、超有名アーティストになったバンドもあった。

その影響かスタッフもたくさん増え、気づけば俺と詩船の仕事はオーディションとスタッフのフォローぐらいになってしまった。

 

ある春の夕方。

この日もSPACEの合同ライブが行われるため、出演者は楽屋で各々最終調整をしている。

スタッフも全員ステージに出払っているため、受付は俺らでやっている。

 

「ここも数々の伝説が生まれたもんだ。そしてガールズバンドの聖地と言われてわたしは満足だよ。」

 

「いや、どうした急に?」

 

なんか話が締まりそうな雰囲気したのだが?

まだまだ続きますよ?

 

「あたしはやりきったよ。そろそろここを閉めようと思っているんだ。」

 

「そうか。もうそんな時期だな。」

 

「おや?驚かないのかい?」

 

「最近満足そうな表情をすることが増えたからね。何年夫婦をやっていると思ってるのさ?」

 

「ほんと昔からお見通しなんだね。」

 

「どの口が言うのさ。」

 

正直ここが無くなるのが寂しいわけでは無い。ただ自分は詩船のサポートをするのが仕事。それに自分がオーナーになったとしても、今のライブハウスが作れる自信がない。

詩船と俺、他のスタッフや全出演者のおかげでここまで成長出来たのだ。

栄光を栄光のまま終わらせるのが一番だろう。

 

「それに世の中はガールズバンド時代。あたしみたいな人が別の形で意思を引き続きでくれるさ。」

 

「その第1号となるライブハウスももうすぐ生まれるしね。」

 

その新しいライブハウスのオーナーはあの日比谷さんだ。

彼女はあのまま芸能界に進み、今は引退して新しいライブハウスを開こうと準備している。

そのライブハウスが外にカフェを開いたり、足湯をつくったりと斬新な設備が盛りだくさんだ。

 

「先のことはいいさ。今は目の前のことをやりきらないと。」

 

「そうだね。今日も多くのお客さんを満足させるライブにしなきゃ。」

 

今日からほとんどの学校が春休み明けになっているが、半日授業のため大盛況。

 

「こんにちは!ギターを弾かせてください!」

 

「え!?え、えっとギターは…」

 

受付している真次さんが2人の女子高生の相手に困惑しているようだ。

 

「あの子は初めて見る子だね。ところでなんでギターだけ?ケースはどこに?」

 

「しかもあれは伝説のランダムスターだ。まだ持っている人がいるなんてな。」

 

「なんで玄人が持ってそうなギターをあの子が?」

 

「それはあたしに聞かれても知らんよ。」

 

やれやれと言いながら真次さんと女の子に近づく詩船。

 

最近のライブハウスはスタジオとステージが併設されているところが多いが、SPACEは昔ながらの場所なのでステージのみ。元々土地が狭かったのと、近隣にスタジオがあるので地下に掘ってまで創る必要がなかった。

 

「ここは練習スタジオじゃないよ。」

 

「あっオーナーと副オーナー。」

 

「オーディションに合格したものがステージに立てる。」

 

「せっかく来てもらったのにごめんね。」

 

「そう…ですか。」

 

「ほらダメだって。帰ろうよ。」

 

「ちょっと待って。今からライブが始まるんだけど……」

 

「観て行くかい?」

 

ここまで来て門前払いは可愛そう。ライブなら誰でも観れるからすすめてみる。出演をかけたオーディションも正直誰でも出れるけど。

 

「やばいって!頭振ったりとかすんだよ?」

 

偏見すごいな。

 

「観てもないのに決めつけるんじゃないよ。」

「大丈夫だよ安心して?確かにそのパフォーマンスをするバンドもあるけど、基本前列のお客さんがやるぐらいだから。」

 

「じゃあ確かめてやる!チケット代いくら?」

「高校生かい?」

 

「違います!」

 

あれ?私服来ている子も高校生だと思ったけど……実際ギター持った子は母校(?)の制服来ているし。親戚の大学生の子かな?

 

「1200円。」

 

「あの〜高校生はダメですか?」

 

ありゃ。高校生入場禁止と思わせちゃったのかな?ちなみに詩船が高校生かと聞いた理由は……

 

「600円」

 

半額になるからです。より多くの人が楽しめるようにオープン当時からこの価格設定だ。

これならお小遣いでも無理しない程度で気軽にライブに行ける。

大人1200円も中々お得だと思うよ?

 

「観ます!」

 

「ありがとうね。じゃあカウンターでお金払ってチケットもらってね?ドリンク引き換え券もあるから忘れないでね。」

 

「ありがとうございます!」

 

その後私服の子がこっそり自分に「あたしも高校生ですけど……」と言って生徒手帳出してくれたので600円で売りました。

見栄と半額を天秤にかけると半額が勝ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや今日はすごい子が来たね。」

 

「あたしでもギターをそのままライブハウスに持ってくる子は初めてみたさ。」

 

ライブが終わった後、ある程度片付いているからラウンジでコーヒーを飲んでいる。

 

「おばあちゃん!」

 

「オーナーだバカタレ。」

 

「ブフゥ!」

 

不意打ちのおばあちゃんは反則だよ。コーヒー吹いてしまうから。

 

「そこのジジイ笑うんじゃない!」

 

「それでオーナー!私もここのステージにいつか立ってみせます!」

 

「そうかい。頑張りなよ。」

 

「俺が言うのもあれだが、ここのオーディションは厳しい。だから全力で頑張るんだよ!」

 

「はい!ところでおじいちゃんは誰なんですか?」

 

「俺はここの副オーナーさ。オーナーのサポートをしている者だよ。」

 

「2人とも仲がいいんですね!」

 

「そりゃ長い間夫婦をやっているからね。」

 

「ほらもう店じまいだ。さっさと帰るんだよ。」

 

「また観客として来ます!」

 

女の子を外まで送ってから入口の鍵を閉める。

 

「全く嵐だよあの子は。」

 

「でも何か期待しているような顔だったけど?」

 

「ほんとあんたには隠し事は通じないね。何、ここを閉めてからもガールズバンド界は面白くなりそうだなと。」

 

「その心は?」

 

「ないさ。でも強いて言うなら…変態?」

 

「あの子には申し訳ないけど納得しちゃったな。」

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