あれから何年の月日が経ったのだろう。
詩船との子どもが生まれ、気づいたら孫も出来て……もうジジイババアと言われる年齢になってしまった。
お互い白髪が入って、腰が少し悪くなったため杖を使うようになった。
自分の変わったところと言えば「孫に甘々なジジイになった。」らしい。いや詩船も大概やぞ?
ちなみに詩船は相変わらずオーナーとしての威厳を保っている。さすがです。
そしてSPACEの方も順調だった。あの時の改革により、今はガールズバンドの聖地と言われるほどのライブハウスになった。
ここのステージでライブをしたいくつかのバンドはメジャーデビューもしており、超有名アーティストになったバンドもあった。
その影響かスタッフもたくさん増え、気づけば俺と詩船の仕事はオーディションとスタッフのフォローぐらいになってしまった。
ある春の夕方。
この日もSPACEの合同ライブが行われるため、出演者は楽屋で各々最終調整をしている。
スタッフも全員ステージに出払っているため、受付は俺らでやっている。
「ここも数々の伝説が生まれたもんだ。そしてガールズバンドの聖地と言われてわたしは満足だよ。」
「いや、どうした急に?」
なんか話が締まりそうな雰囲気したのだが?
まだまだ続きますよ?
「あたしはやりきったよ。そろそろここを閉めようと思っているんだ。」
「そうか。もうそんな時期だな。」
「おや?驚かないのかい?」
「最近満足そうな表情をすることが増えたからね。何年夫婦をやっていると思ってるのさ?」
「ほんと昔からお見通しなんだね。」
「どの口が言うのさ。」
正直ここが無くなるのが寂しいわけでは無い。ただ自分は詩船のサポートをするのが仕事。それに自分がオーナーになったとしても、今のライブハウスが作れる自信がない。
詩船と俺、他のスタッフや全出演者のおかげでここまで成長出来たのだ。
栄光を栄光のまま終わらせるのが一番だろう。
「それに世の中はガールズバンド時代。あたしみたいな人が別の形で意思を引き続きでくれるさ。」
「その第1号となるライブハウスももうすぐ生まれるしね。」
その新しいライブハウスのオーナーはあの日比谷さんだ。
彼女はあのまま芸能界に進み、今は引退して新しいライブハウスを開こうと準備している。
そのライブハウスが外にカフェを開いたり、足湯をつくったりと斬新な設備が盛りだくさんだ。
「先のことはいいさ。今は目の前のことをやりきらないと。」
「そうだね。今日も多くのお客さんを満足させるライブにしなきゃ。」
今日からほとんどの学校が春休み明けになっているが、半日授業のため大盛況。
「こんにちは!ギターを弾かせてください!」
「え!?え、えっとギターは…」
受付している真次さんが2人の女子高生の相手に困惑しているようだ。
「あの子は初めて見る子だね。ところでなんでギターだけ?ケースはどこに?」
「しかもあれは伝説のランダムスターだ。まだ持っている人がいるなんてな。」
「なんで玄人が持ってそうなギターをあの子が?」
「それはあたしに聞かれても知らんよ。」
やれやれと言いながら真次さんと女の子に近づく詩船。
最近のライブハウスはスタジオとステージが併設されているところが多いが、SPACEは昔ながらの場所なのでステージのみ。元々土地が狭かったのと、近隣にスタジオがあるので地下に掘ってまで創る必要がなかった。
「ここは練習スタジオじゃないよ。」
「あっオーナーと副オーナー。」
「オーディションに合格したものがステージに立てる。」
「せっかく来てもらったのにごめんね。」
「そう…ですか。」
「ほらダメだって。帰ろうよ。」
「ちょっと待って。今からライブが始まるんだけど……」
「観て行くかい?」
ここまで来て門前払いは可愛そう。ライブなら誰でも観れるからすすめてみる。出演をかけたオーディションも正直誰でも出れるけど。
「やばいって!頭振ったりとかすんだよ?」
偏見すごいな。
「観てもないのに決めつけるんじゃないよ。」
「大丈夫だよ安心して?確かにそのパフォーマンスをするバンドもあるけど、基本前列のお客さんがやるぐらいだから。」
「じゃあ確かめてやる!チケット代いくら?」
「高校生かい?」
「違います!」
あれ?私服来ている子も高校生だと思ったけど……実際ギター持った子は母校(?)の制服来ているし。親戚の大学生の子かな?
「1200円。」
「あの〜高校生はダメですか?」
ありゃ。高校生入場禁止と思わせちゃったのかな?ちなみに詩船が高校生かと聞いた理由は……
「600円」
半額になるからです。より多くの人が楽しめるようにオープン当時からこの価格設定だ。
これならお小遣いでも無理しない程度で気軽にライブに行ける。
大人1200円も中々お得だと思うよ?
「観ます!」
「ありがとうね。じゃあカウンターでお金払ってチケットもらってね?ドリンク引き換え券もあるから忘れないでね。」
「ありがとうございます!」
その後私服の子がこっそり自分に「あたしも高校生ですけど……」と言って生徒手帳出してくれたので600円で売りました。
見栄と半額を天秤にかけると半額が勝ったらしい。
「いや今日はすごい子が来たね。」
「あたしでもギターをそのままライブハウスに持ってくる子は初めてみたさ。」
ライブが終わった後、ある程度片付いているからラウンジでコーヒーを飲んでいる。
「おばあちゃん!」
「オーナーだバカタレ。」
「ブフゥ!」
不意打ちのおばあちゃんは反則だよ。コーヒー吹いてしまうから。
「そこのジジイ笑うんじゃない!」
「それでオーナー!私もここのステージにいつか立ってみせます!」
「そうかい。頑張りなよ。」
「俺が言うのもあれだが、ここのオーディションは厳しい。だから全力で頑張るんだよ!」
「はい!ところでおじいちゃんは誰なんですか?」
「俺はここの副オーナーさ。オーナーのサポートをしている者だよ。」
「2人とも仲がいいんですね!」
「そりゃ長い間夫婦をやっているからね。」
「ほらもう店じまいだ。さっさと帰るんだよ。」
「また観客として来ます!」
女の子を外まで送ってから入口の鍵を閉める。
「全く嵐だよあの子は。」
「でも何か期待しているような顔だったけど?」
「ほんとあんたには隠し事は通じないね。何、ここを閉めてからもガールズバンド界は面白くなりそうだなと。」
「その心は?」
「ないさ。でも強いて言うなら…変態?」
「あの子には申し訳ないけど納得しちゃったな。」