「あたしバンドやることにした。」
「マジか…」
いつもの放課後、詩船が唐突に言った。
いやいやちょっと待ってよ?バンドってコミユニケーションの塊だよね?仲間と音を合わせて、時に対立してバラバラになりかけてまた話し合って上を目指していくのがバンドだよね?
先日『あたし友達いないんだよ』的みたいな発言したから自分同情したんだよ?返して俺の心の中の宣言。
それともあぁ言っただけで実は勝手に勘違いしただけのもあるな。それはそれで恥ずかしい…
「それで大丈夫なの?」
「なにが?」
「なにがって、誰も寄って来ないことに涙を流した詩船がバンドなんて大丈夫かなと。」
「な!?見られてたのか…」
やっぱり泣いていたのか。
「楽器やってるやつなんてみんなあたしみたいなやつが多数だよ。それに形だけで、友達とはほど遠い。」
なんだ心配して損した。
「誰も寄って来ないって、あんたはあたしのところに寄ってきたじゃん変態。」
「なんでそこで変態になる!?」
「ふっ、冗談だよ冗談。」
聞いたところ、詩船は惚れる歌声を持つ女子を見つけ、その女子は痺れるベーシストとスタジオが隣り合わせになった。一周まわって誰にも負けないギターリストの詩船5人が出会って成り行きでバンドを組むことにしたらしい。
まぁ詩船らしいっちゃらしいけど、そんなロックみたいな出会いってあるんだな。
「それで次の日曜日にライブやるから来い。ほらチケット。」
「拒否権はなしですか…それにもうライブやるの?」
「みんな知っている曲をカバーするだけならすぐできるよ。」
「さ、流石だな…」
「オリジナルもやるよ。」
「すげぇなもう…」
さっき変態呼ばわりされたけど、詩船のほうが変態な気がしてきた。
そして日曜日
ライブ会場は家からも学校からも歩いてすぐのライブハウスだった。
こんな近場にライブハウスなんてあったんだと思ったが、場所は大通りから一本外れた裏道にポツンとあった。『BEAT』と大きく荒々しく書かれた看板と薄暗い小さな建物から近づきたくない印象がプンプンする。
そりゃ知らないわけだ。
「そういえば、詩船たちのバンドの名前聞いていないな。」
出るライブは合同みたいで、入り口前の小さい黒板にはバンド名がいくつか書いていた。
かっこいい名前からふざけた名前、可愛いらしい名前と色々だ。
「どれが詩船のなか全く予想がつかん。」
女子同士だから可愛いらしい名前の可能性が高い。しかし他の子も詩船みたいな性格だったらかっこいい名前をつけるのもおかしくはない。
「わからなくても顔さえ見れればいいか。」
受け付けでガタイいいお兄さんにチケットを見せて、会場に入る。招待券だったら後で楽屋の立ち入りもOKらしい。
会場は簡単な座席と、後ろに立ち見スペースがある。既にペンライトを持った人が前にいたので、俺は後ろで立つ。後ろといってもステージからの距離はそんなにない。
「案外狭いもんだな。」
100人入ったら窮屈になりそうだ。そう考えるとイナb…某物置は強いんだな。
中は50人ぐらいで、俺みたいな普通の高校生もいれば、髪を派手に染めた高校生らしき人達やタトゥーが入った強面のおっちゃんなどDQNっぽい人達もいる。
周囲はタバコ臭く、酒の空き缶が置いてあるので治安がいいとは口が裂けても言えない。
(正直居心地がよくないな。)
『チーッス!俺ら地元の高校の軽音部ッス!』
なんも前触れもなく、ステージに人が立つ。自己紹介と、楽器を持ってることから出演者だろう。
(詩船達が終わったら出よう。ロビーのところで待ってればいいだろう。)
ライブは順調に進む。ただうるさい音を出すだけのバンドもいれば、そこらのアーティストよりも上手いじゃないんかというバンドもいた。
周りの客も、知り合いを観にきたという感じで、拍手すらないバンドはさすがに同情した。
「なんか今日のライブはイマイチだな。」
「まぁラストの辛抱だろ。」
前方から少し聞こえたひそひそ話でもうすぐ終わりだろ察する。
(あれ?詩船達出てきたっけな。)
新生バンドが大トリ?と思ったが、単純に届け順か抽選だろう。じゃなかったらあんな声は聞こえない。
『こんにちは〜ミラキュラススカーレットで〜す!』
女子が出てきたからか、ところどころ拍手をする人がいる。ただそれも盛り上がっているものとはかけ離れていた。
『わたしたち結成してそんなに経っていません新人バンドです!』
いかにもフレンドリーな感じの女の子が喋っている。
(これかと思ったけど、名前が可愛いな。もう見逃しちゃったのか?)
詩船にあとでなんと言い訳しようか、そう考えていると…
『ではではお先にメンバー紹介!ギター担当鶴見詩船!』
「はぇ!?」
思わず詩船を探してしまった。
「あっ…本当にいたよ…」
見慣れた髪に、ギター。間違いない、あれは詩船だ。
あたしに似た人達ばっかりと言っていたが、他の人全員詩船の性格と真反対な気がするんですが…
『では最初はメンバー全員大好きな曲のカバーです!』
ドラムの人の合図で始まる。
「俺は…今まで何を見ていたんだろう。」
曲は分からない。ただ前の人よりかは明らかにレベルが違う。技術だけか…いや違う!感じる熱意が桁違いなんだ!
「うお〜すげぇなぁ!」
「最後まで残ってよかった!!」
「もう最高!!!」
前の人達も狂ったようにペンライトを振っている。
(すごい!すごいよ!!)
「こいつらいいな。」
「あぁ行こうぜ。」
もうこのまま時は終わって欲しくない。永遠に続いて欲しい!
ただそんな願いは叶わず、あっという間に3曲終わってしまった。もうあの地獄はどこへ行ったというぐらい歓声がやまない。
『ありがとうございました!』
「「「アンコール!アンコール!」」」
「えーすみません今日はこれまでです!速やかな退場をお願いします!」
スタッフさんもこの状況は予期してなかったのか、慌ただしく誘導している。
(さて控え室に行くか。)
控え室に行くと、なんだか騒がしかった。ただ賑やかいわけじゃなさそうだ。
「いいじゃねぇか。」
「やめてください!」
「ちょっと嫌だと言ってるでしょ!」
「おめーは興味ないから引っ込んでろ!」
(なんだなんだ?)
おそらくミラキュラススカーレットらしい控え室に、詩船たちと不良っぽい人達がいる。
「なぁこいつも連れて行こうぜ!」
「気は強いが、まぁ普通の女だし悪くないか。」
「ちょっとやめて!!」
「助けて…」
不味い詩船達が奥に連れて行かれる!
怖い…けど助けなきゃ!
「あ、あの…」
「ああん!?」
「彼女達が嫌がっているので諦めたらどうですか?」
「誰だテメェ、関係ねーだろうが?」
「ねぇ鶴見さん。この人は?」
「あああたしのダチだよ。」
「ふーん。こんな弱っちいやつがボーイフレンドなんだ。」
「そんなボーイフレンドに負けているあなたたちは…」
「んだとゴルァ!?」
やっべ口滑った…
「やんのかゴルァ!!」
「いやそんなつもりじゃ。」
不良が自分の胸ぐらを掴んで壁際に追い込む。勢いで頭をぶつけた。痛い。
「いいだろタイマンやろうや!!」
「いいなそれ。テメェが負けたらこいつら貰って行くぜ!」
どうしよう。はっきりいって勝ち目がない。
最悪ボコボコにされている時に、詩船達が逃げればいい。時間稼ぎしかいい方法がない。
「店長さーんこっちです!」
「またお前らか!」
「し、しまった!」
女の子と店長と言われた男の人が来た。店長もなかなかガッチリした体だ。多分メンバーの誰かが呼んで来てくれたのだろう。
「今日は許さねぇぞ!おい、こいつら事務所に連れてけ。警察に突き出す。」
「了解です店長!」
不良達は店員さんに連れていかれる。さっきの威勢はどこにいったのか…
「ごめんな。あいつら出禁なんだけど、新人が間違えて通してしまったんだ。あんたらケガないか?」
「いえいえ俺は大丈夫です。」
「あたしらも大丈夫だよ。」
「そいつはよかった。じゃあまだゆっくりしていっていいから。」
店長がフッと笑うとその場を去っていった。
「イテテ…これはコブできたか?」
「ありがとな節郎。」
「いやいや。俺は何もしてないよ。」
「そんなことないよ?君のおかげで店長呼びにいけたから。」
「ほんとほんと。ありがとうねえっと節郎くん?」
多分彼女らで反省会でもするからさっさと撤収しますか。
「じゃあ俺は帰るよ。」
「待って!」
「なに詩船?」
「今度お礼させて。」
「お礼?そんなのはいらないよ。」
「いいや、それじゃあたしの気がすまないよ!させろ!」
「あーわかったわかったから肩揺らすな!」
「じゃあまた学校でな!」
お礼ってなにさせられるんだ?少し不安だ。
「しまった感想伝えるの忘れてた。」
おまけ
「なんであんな可愛いらしい名前にしたんだ?」
「可愛いらしい?なにが?」
「なにがってバンド名だよ。」
「あんた意味わかってないだろ?」
「え?」
「ミラキュラスは驚異的、奇跡的という意味だよ。」
「じゃあスカーレットは赤いだから。奇跡的な紅、驚異的な紅ということか?かっこいい名前だ!」
「おおかた間違ってないな。もっと勉強しろよ。」
「……はい、すみませんでした。」
目指せ本格的なオーナーがヒロインの小説!地味に偉業を達成させようとしているのでは!?
ちなみにちょくちょくイチャイチャシーンが出る可能性があります。みんな知ってるオーナーを想像すると、気分が悪くなりそうなので、頑張ってオリジナルの女子高生を想像しながらこれから読んでくださいm(_ _)m
では次回もお楽しみ