皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
壊理には嫌いな人間が二人いる。
その内の一人であるムーンビーストとの会話を思い出したのは偶然だった。
ある日の夕方、お気に入りのコテージに泊まった日の事。浜辺で遊び疲れた壊理を出迎えたのは優しい
ムーンビーストは遊び疲れているだろう壊理を気遣い、サイダーをグラスに注いで渡してくれた。
壊理が受け取り、お礼を言おうとするとムーンビーストの手が壊理の頭へと伸びた。
「あ、ありが―――
「やはり、貴女からは血の匂いがしますねえ」
―――え…きゃッ!?」
ムーンビーストに頭頂部を押さえつけられている。それが大好きな
ムーンビーストの胡散臭い笑みが壊理は嫌いだ。目が笑っていないのが子供ながらによくわかる。
このまま殺されてしまうのではないかと思いガクガクブルブルと震えながらに俯く壊理の耳にムーンビーストの耳障りな声が聞こえる。
「少年法って、要らないと思いませんか?罪の重さに応じて実名報道をすべきだと思うのですよねえ。だって不公平じゃないですか、被害者の顔と名前は卒業アルバムまで引っ張りだして暴くのに、加害者は未成年であるという理由だけでプライバシーが守られるのですよ?どう考えても間違っていると、何故誰も指摘しないのか。不思議でなりません」
「む、難しいことは、わか、わかりません」
ムーンビーストは壊理の返事など期待してはいない。
その証拠に壊理の怯えた声には無関心に勝手に話を続けている。
「”子供には輝かしい未来がある”。その考え自体は素晴らしい。確かに幼子は守り
後頭部を押さえつけていたムーンビーストの手が顎まで降りる。
そして、俯いていた顔を上げさせられた。
怯える壊理の眼にムーンビーストの細く開いた金眼が覗く。
「ねえ、壊理さん。父親を殺し、母親から大事な人を奪って、手に入れた新しいお兄ちゃんに優しくされる日々は…幸せですか?」
壊理の大きな眼から涙がポロポロと流れた。顔を背けて目の前の恐怖から逃げたいのに、それが許されないという更なる恐怖。幼心に突き刺さる明確な嫌悪。
壊理にはわかっていたことだ。壊理がムーンビーストの事を大嫌いなように、ムーンビーストもまた壊理のことが嫌いなのだ。
だから初対面で殺害しようとした。それが行われなかったのは大好きな
今この瞬間もムーンビーストは気分次第で壊理を殺すだろう。
壊理に夫の命を奪われた被害者遺族である壊理の母親の気持ちに寄り添い、復讐という正義を遂げるだろう。
たとえそうしたことにより治崎と敵対することになろうとも
ムーンビーストとはそう言う類の
「ねえ、壊理さん。自分さえいなければ、そう考えたことはありますか?」
ムーンビーストは次は壊理の
返答次第で壊理の首は痛みを感じる暇もなく飛ぶだろう。
子供が無自覚に犯した殺人に罪はあるのか。
実に難しい問題と言わざるを得ない。少なくとも、この国では罪には問われない殺人だ。ムーンビーストが最も嫌うものの一つだ。”
ムーンビーストはそれを
自覚がなければ罪ではないのか?なら、子供を自殺に追い込んだ
衝動的な犯行は減刑されるべきなのか?なら、殺人者は全員が心の中で舌を出しながら、”カッとなってやってしまった”と言うだろう。
それらを考慮しすぎるから、正義は雑多になったとムーンビーストは考える。
正義とはもっとシンプルでいい。
「”殺されたから、殺す”のです。私は私の正義に則り、幼く可愛い貴女を返答次第で矛盾なく殺しましょう。もとより私の『個性』が生かせと言ったのは、治崎であって貴女ではない。だから、壊理さん。死にたくないなら、私に貴女を生かす理由をください」
「…か…いよ」
「はい?」
「わかん…ないよ。そんなの…知らないもん」
「
「ちが…ちがう…、わたしが、いけないのは…知ってる。おか、お母さんが…言ってた。わたしは…ばけもの。わたしがいたから、お父さんはいなくなったの」
「…それで?」
「でも…でもッ、…うぅ、ひっく…やだよぉ。死にたくないよ。………わたしはまだ、誰にも、愛してもらって、ないのに」
壊理の涙に塗れた赤い目がムーンビーストの薄く開いた金眼を真っ直ぐにみている。
正義執行する時、義理や人情。仁義や狭義と言ったものにムーンビーストは頓着しないと決めている。だから、彼は女子供も容赦なく殺す。事実、何人も殺してきた。
しかし、愛されたことのない子供を殺したことは、まだなかった。
「………愛、ですか。止めてください。その言葉は、私に効く」
「…助けて…お兄ちゃん…」
ムーンビーストは泣きじゃくる壊理の首から手を引いた。
そして、努めて明るい口調でまるで自分に言い聞かせるように言う。
「やはり”愛”でしょうねえ。私の正義に一点の曇りがあるとすれば、”愛”以外にはあり得ない。その
一人納得した様子のムーンビーストは、用意していたが渡していなかったストローを壊理のグラスに入れる。
明確な嫌悪も殺意も消えていた。既に金眼は閉じられている。
ムーンビーストは泣きじゃくる壊理に本当に微笑みかけながらに言う。
「壊理さん。私に殺される前に、誰かに愛してもらえるといいですねえ」
それはムーンビーストが余子浜スタジアムにてオールマイトと戦う前の出来事。
どうして壊理はムーンビーストの言葉を思い出したのか。
その答えは硝子を砕く衝撃音と共に壊理に聞こえてきた。
「壊理は…”自由”だ」
身体中にベタベタした液体が纏わりついていて不快だった。嫌な臭いが全身からした。
潔癖症を持つ”あの人”は、そんな自分を抱き止めるなんて、本当に嫌な筈だ。
だから、この温もりは”あの人”のものではない。
あの声は”あの人”のものではない。
そう信じて壊理は閉じていた眼を開ける。
そこには壊理が助けを求めた”
壊理の捕らわれていた水槽を砕き、落ちてきた壊理を強く抱きしめながら、治崎は矢張に向けて言う。
「さァ、壊理を返してもらおうか」
その言葉に治崎は万感の思いを込めた。
様々な思いを込めながら、矢張を睨む。
矢張は理解できないと頭を掻きながら、治崎を睨む。
「バカじゃん。意味、わかんない。その子の価値は『個性』だけでしょ?なら、私と分け合えばいいじゃないッ‼研究設備もッ、お金もあげるわッ!アンタの研究の手伝いもしてあげるってッ、天才の私が言ってんのよッ‼何が不満な訳ッ‼」
「不満だらけだよ。俺には潔癖の気があるんだ。不快なモノには耐えられない。お前、ここ数日風呂に入ってないだろ?臭いんだよ」
「なあッ!?く、臭いってなによ‼天才が研究に没頭して数日お風呂に入らないなんて設定は普通じゃないッ‼」
「意味の分からないことを言うな。不潔女」
「こ、殺すッ‼殺してあげるわッ‼治崎ッ、廻ッ‼」
矢張が治崎に向けて手を
それはよく見れば無数の小さな虫が集まった
矢張芭香那の個性『バグ・ウイルス』。彼女は独自の細菌を持たせた小さな虫を操ることができる。
「この子たちが持つウイルスはデング熱とエボラ出血熱をかけ合わせたものよ!全身から血を吹きだして苦しんで死になさいッ!」
向かってくる虫玉に対して治崎は床に手を置いて分解・修復を行い壁を作り出す。虫玉は壁にぶつかった。しかし、それで虫たちが止まる事はなく無数に分かれて治崎に襲いかかってくる。
矢張の言葉を信じるなら、虫の持つウイルスに感染した時点で治崎の負けだ。
矢張の個性は危険すぎる。なにより壊理にも危険が及ぶ。
治崎は床を濡らしている水槽の中に入っていた液体に触れるとそれを分解し気体に変え、再度液体へと戻すことで空中に浮かぶ虫たちを濡らし床に落とした。
そして、叫ぶ。
「玄野ッ!
治崎の声を聞き、部屋の外で待機していた玄野と泥泥の二人が部屋に飛び込んでくる。
「壊理を頼んだッ‼」
治崎は二人の方に向けて抱えていた壊理を投げる。泥泥は千鳥足ながらもそれを受け止める。
玄野が治崎に向けて言う。
「壊理さんのことは任せてください!安全な所に運びやす!それまで廻はあの女を頼みやした!」
「ああ、わかっている」
玄野と泥泥が壊理を連れて部屋から出ていく。治崎は扉の前に立ちはだかる。
矢張は玄野たちが逃げていくのを見逃しながら、ニヤニヤとした顔で言う。
「あの玄野とかいう奴はポイント高いわね。私の個性の強さを一目で見抜いたようだったわ。一番強いアンタに私を任せて、壊理を救うことを最優先に動くなんてね。ボスを置いて逃げるという最善手、信頼関係がなきゃ中々できることじゃないわ。まあ、腰抜けとも言えるけどね」
「…臭い口を閉じろ。お前、歯は磨いているか?」
「歯くらいは磨いてるわよ!本当に失礼なヤツ!イケメンでももう許さないんだからね‼」
「やっぱり風呂には入ってないんだな」
「うっさいッ!死ねッ‼」
矢張は再び虫玉を作りだす。数は四つ。それが治崎を四方から襲う軌道を描きながら迫ってくる。先ほどのように液体をかけるというやり方で迎撃できる虫玉は精々が二つ。そう判断した治崎はとりあえずの安全と時間を稼ぐために両手で床に触れて自身を囲うようにドームを形成する。
これで取りあえず虫たちの侵入を防げるだろうという治崎の考えを嘲笑う矢張の声がした。
「バカね。コンクリートを溶かして食べる虫もいるのよ」
ドームの中にいる治崎の右足に小さな痛みが奔る。ダンゴムシによく似た小さな虫が治崎の右足に噛みついていた。
治崎は直ぐに虫を払うが、もう遅い。右足全体に虫の持つウイルスが回る。
「ぐぅッ!?はあ―――!?」
ドームが崩れる。治崎は脂汗を掻きながら、膝をついていた。
矢張は満足げな様子で治崎を見る。
「その虫の毒は弱毒よ。けど、動けはしないわ。天才である私を散々馬鹿にした罰を与えてあげるわ」
矢張は人差し指の先に一匹の芋虫を這わせながらに、邪悪な笑みを浮かべた。
「
近づいてくる矢張に対して治崎は言う。
「ひとつだけ…いいか?」
「なによ。命乞いなら無駄なんだからねッ!」
「お前、馬鹿だろ」
「なんですって―――痛い痛い痛いイタイッ‼」
そこから先の治崎の動きは賞賛せずにはいられないものだった。まず初めに虫のウイルスに侵されて下半身麻痺となった下半身を『個性』で分解。そして、すぐに再構築。
動く足を取り戻した。次に矢張の細い前腕を掴むと床に押し倒し
「なにすんのよッ!腕、折れちゃうってばッ!」
「折っておいた方がいいか」
矢張の右腕の骨が折れる乾いた音がした。
矢張の口から悲鳴が上がる。
治崎はそれを聞きながらに立ち上がると、地面に転がる汚物でも見るような冷たい目で矢張を見下ろしながらに言う。
「油断しすぎだ。遠距離という優位を捨てた意味は何があった?天才を自称するお前なら、説明できたりするのか?」
「個性『オーバーホール』ッ、人体を壊してすぐに再構築なんて、そんな無茶苦茶まで出来るなんて聞いてないわよッ!」
「あまりやらないからな。治るとはいえ、治す時はしっかり痛みがあるんだ。お前は壊理の個性については詳しく調べていたようだが、
「意味、わかんない!アンタが捨て駒にした連中が何なのよッ‼いいわ、私にこんな真似をして絶対に許さないんだからね!丁度、アンタが言っていたアマテラス製薬が抱える”闇の部隊”がアンタの部下を殺して戻ってくる頃だわ!逃げ出した奴らも捕えられている筈よッ!彼らがいれば、アンタなんか敵じゃないんだからッ‼」
その時、研究室の壁に備え付けられているスピーカーにノイズがはしった。
《ピー、ガガガッ、あーあー、聞こえてますかー?若頭ー?館内放送ってこれでいいんだよな?多分》
それはアマテラス製薬が抱える闇の部隊を打ち倒し、奪い取った通信機を使い聞こえてきた窃野の声だった。
《若頭ー、こっちは終わりました。玄野さんたちと合流もして、壊理さんも無事なんで安心してくださーい。
厳密に言えば治崎には返信する術がないので”どうぞ”も要らないのだが、そういう話を抜きにしても若干間の抜けた窃野達の会話に治崎は溜息を吐く。
”闇の部隊”が窃野たち三人に敗れたことに矢張は動揺していたが、治崎には分かっていたことだった。
武器を手に取って戦う者にとって窃野の個性『窃盗』は脅威だ。加えて銃火器では
多部という”矛”と宝生の”盾”。それを動かす窃野の”手”。三人揃えば敵はいないと笑う窃野の言葉はあながち間違いではなかった。
それを証明してみせた部下を褒めるような真似を治崎はしないが、しかし、誇らしくは思う。
そうして薄く笑う治崎に対して矢張の罵倒が飛んでくる。
「なに、ムカつく顔してるのよ!いいわ、始めからアイツらなんて当てにしてなかったものッ!私には他に最強の手下がいるのよ!天才である私が作った
その直後、研究室の天井の一部が崩れ落ちた。地上一階から地下三階の研究室まで突き抜けて落ちてきたのは、まだら模様の皮膚を持つ大男と乱波だった。
まだら模様の皮膚を持つ大男は全身を強く殴打されて死んでいた。
よく見れば乱波にも外傷がある。というか、右腕が無くなっていた。
しかし、乱波は自身の重傷を気にした様子もなく嬉々とした声で笑う。
「良い男だった!全力で殴り合えたぞッ‼俺は満足した!今日は良かった日だ‼」
矢張は愚か、治崎の事すら眼中になく笑い続ける乱波の身体からは、
本人的には本望だろうが、それでは治崎は少し困るので後で右腕を
しかし、その前にするべきことがあった。
治崎は呆然と被検体9号の死体をみている矢張の元へと近付く。
矢張は近付いてくる治崎に気が付くと小さく首を横に振りながらに後ずさる。
「い、いやッ!アンタたち、なんなのよ!来ないでよ!」
「矢張。お前は触ったら、いけない人間に触れちまった。ヤクザ者に手を出したんだ。どうなろうと自己責任だと思わないか?」
「うっさいわねッ、アンタたちなんて怖くないわ!格好つけても所詮は暴力団じゃないッ‼すぐに、直ぐに警察やヒーローが駆けつけてくるわよ‼アンタたちは逮捕されるわ‼終わりよ‼」
「誘拐犯が、どの口で正論を言っている」
「うっさいッ‼アンタたちから何かを奪ってッ、怒る人間なんて社会の何処にも居ないのよッ‼社会のゴミッ!人間のクズッ!死んじゃえばいいのにッ、なんで息してんのよッ!そうよッ、あの子供だってッ、暴力団の孫娘なんてッ、『個性』がなきゃッ、生きてる価値だってないのにッ!なにが”愛されたい”よ!うわ言で言っていたわッ!バッカじゃないの‼あんな化物を愛する奴なんて―――
「もう、黙れ」
―――カハッ!?」
治崎は矢張の頭を押さえつける。最早これ以上は治崎にとって聞くに値しない言葉だった。
治崎は手加減をしていた。矢張の個性『バグ・ウイルス』は確かに殺傷能力に優れた個性だったが、矢張自身の戦闘能力が皆無だったので脅威では無かった。それを直ぐに看破したからこそ、治崎の興味はこの研究室にある矢張の研究成果へと移っていた。
矢張の研究成果があれば治崎の研究は飛躍的に進むだろう。それは壊理を解放できる時間が短縮されるということだ。
だから、治崎は矢張の研究成果を無傷で手に入れたいと思った。演技をしてまで研究室を傷つけないように戦った。ただ勝つだけなら、”
そんな冷静な判断を下せる治崎は、勿論、出来ることなら矢張の優秀な頭脳も手に入れたいと思っていた。脅迫しても良いから、どうにか仲間に引き入れられないかと考えていたのだが、その気持ちは矢張の言葉で失せてしまった。
ならば、もういいと治崎は筋を通すことにする。
「精神外科って、知ってるよな?かつて精神疾患の治療を目的として行われていた大脳を切り取る外科手術のことだ。現代じゃ
治崎の冷たく見下ろす眼に矢張は恐怖する。
「ア、アンタ、なに、言ってるのよ」
「ずっと考えていた。俺の『個性』でうまい具合に脳ミソを
「ふ、ふざけないでッ、そんなの、成功する訳ないじゃない‼」
矢張は暴れるが、治崎の手から逃れる術はない。
「止めてよッ、止めて!そんなことしなくても、アンタの望むものをなんだってあげるわッ‼そうだわッ、止めてくれたら、今度、内緒で―――
「何者にも成れないお前が、その礎に成れるんだ。感謝しろ」
「いや。いや、いや嗚呼あああああああアアアアアアアアアアアッ!?」
こうして全人類の為、万能薬という夢をみた天才・矢張は、この世から消えた。
《死穢八斎会ッ、”若頭”治崎廻ッ、他構成員共ッ、お前達は完全に包囲されている‼大人しく投降しなさいッ‼》
壊理を助け出した治崎たちだったが、騒ぎを大きくし過ぎた為に当然、駆け付けたヒーローや警察により現場は包囲されていた。
大企業であるアマテラス製薬を敵に回して、鉄砲玉・八斎衆の全員が無事であり壊理も玄野に抱かれて眠ってはいるが大きな外傷はない。大勝利といえるのだが、勝利が無事に繋がらないのがヒーローではない者達の宿命だ。
治崎達は攫われた壊理を救いに来ただけに過ぎないが、それを説明した所で理解は得られないだろう。
だから、この場から逃げるしかないのだが、包囲網は完全に築かれていて、それは骨の折れることだった。否、並のヒーローや警察だけなら、正面突破も可能だっただろう。
しかし、それらを後ろに従えて立つのはトップヒーローの一人である”ラビットヒーロー”のミルコだ。
ミルコはどこか楽し気な顔で治崎達の事を見ている。
「若頭、此処は俺ら三人に任せてください。時間稼ぎ位は出来ます」
「無理だ」
窃野の言葉を斬り捨てて治崎は前に出ようとする。
ミルコを相手に時間を稼ぐことができるのは、この場では治崎と乱波くらいだった。
しかし、乱波の突破力は包囲網を突破する上で必要なもの。なら、後は治崎しかいない。
冷静にそう判断して前に出ようとした治崎の服の裾を、玄野に抱えられていた壊理が掴む。
壊理は朦朧とする意識の中で離れていこうとする治崎を止める。
「だめ、だめだよ。いっちゃ、やだ」
治崎はそんな壊理の頭を撫でながらに、小さく笑った。
「我が儘を言うな」
それだけを言って治崎はミルコの元へ歩いていく。
りんご飴を一緒に買いに行くという壊理との約束を果たす為に、壊理が安心して暮らせる社会を取り戻す為に、一人で強大な
《投降しなさい!》
拡声器から警官の声が響く。
《お前達は完全に包囲されている》
ヤクザ者は社会から爪弾きにされている。
《お前たちの味方など、何処にもいない‼》
そんなことは理解している。だからこそ治崎はこうして立っている。
極道が強者である時代は既に終わった。彼らは既に社会的弱者に過ぎない。けれど、彼らに手を差し伸べる者はいない。当然だ。彼らは過去、社会の敵だった。弱者を虐げて富を得た。そんな彼らが墜ちたことを悦びこそすれ、嘆く者はいない。
それでいい。それでこそ治崎は壊理の為に社会を変えると誓えるのだろう。
人としての感性が何処か欠如している。誰かが大切だというモノが大切だと思えない。
こんなに守りたいと思う壊理さえも、治崎は愛しているなどと口が裂けても言えないだろう。
だが、それでいい。
―――人の命をなんだと思ってんだ。人の道を外れちゃあ、
「…人の道なら、既に踏み外している」
―――曲げちゃあ、いけねェのさ。根っこの部分が腐っちまえば、咲く花も醜くなる。極道の花はなァ、美しくなきゃならねェのよ。
「…俺は
―――おめェがあの子の帰る場所に成ってはやれねェか?
「…だが、その期待には答えるよ。俺はゴミだが、
何も持たない
昔気質の頭の固い天然記念物。治崎は最後にそんな
その様子を見たミルコが治崎にニヤニヤとしながら、声を掛けた。
「なんだよ。これからぶっ飛ばされるのに、楽しそうだな」
「一つだけ言っておきたいことがある」
「なんだ?」
「これは、俺が勝手にやったことだ。
「ハハッ、
「………おい、待て、それはどういう―――
ミルコがいたずらっぽく笑った、その時だった。
「あは、アハ、アハハ!アハハハハハハハハハハッ‼」
実に耳障りな笑い声が周囲に響いた。警察やヒーロー達も困惑している。
治崎は聞き覚えのある声にまさかと思い振り返り、アマテラス製薬余子浜支社の建物の屋上を見る。
そこにはフェンスの上に仁王立ちし、長い金髪を靡かせながら、大笑する一人の
「”味方が何処にも居ない”なんてッ、そんな丁寧な前振りを頂いてしまえば登場しない訳にはいかないではないですかッ‼ええッ、断じて味方などではありませんッ‼しかし、仲間ではあるのですッ‼ならば、私は言わねばならない!是非とも言わせていただきたい
その
「こんな所で捕まってはいけませんッ!貴方を殺すのはッ、この私なのですからッ‼」
”なんだあの
助けに来たはずなのに殺害を予告する仲間。そんな漫画みたいなキャラクターは、絶滅危惧種どころでは無く絶滅した方がいい種だ。
しかし、それでもムーンビーストはやって来た。レディ・ナガンとの
同じ場所に立つ獣を助けるために月の獣は降りてくる。
「さあ、助けにきましたよ。治崎、感動で咽び泣いても良いのですよ」
「助けなど頼んでない。それと、治崎と呼ぶのはもう止めろ。
「…なるほど、
「これからは”オーバーホール”だ」
「
「ああ、わかった。…ムーンビースト」
「なんですか?」
「………死ぬなよ。…お前にはまだ、利用価値がある」
「アハハ!その言葉はそっくりそのままお返しします‼」
ムーンビーストは笑う。
オーバーホールは笑わない。
正反対に見える彼らは、どこか似ていた。
~後日談~
「ねえ、治崎。壊理さんの”お兄ちゃんシリーズ”、もうパターンがないと思いやすけど、次はどう捻ってくるんですかね?」
「”廻さん”だ」
「………は?」
「壊理は俺を廻さんと呼びたいらしい。どうやら家族のようになるのは諦めたようだ」
「………名前呼び。ねえ、治崎。それは壊理さん的に別の家族の形を目指すっていう決意じゃないですか?」
「どういう意味だ?」
「いえ、わからないなら良いんです。…流石に歳の差が在り過ぎやすし」
矢張 芭香那。オリキャラ。
ブカブカの白衣に大きな眼鏡をかけた小柄な女性。
アマテラス製薬の主任研究員。
『個性』バグ・ウイルス。
小さな虫を操ることができる。口田君の下位互換。品種改良した虫を操り、独自に作ったウイルスを持たせることで殺傷能力を上げている。
仲間になるフラグもあったが、治崎逆鱗触れて脳破壊(物理)をされてしまい廃人となる。
被検体9号。オリキャラ。
矢張が作り出した改造人間。強い。
けど、乱波さん方が強かったので死亡。
精神外科手術。
その効果は認められてはいない。治崎は嘘をついている。
壊理さん。原作キャラ。
原作とはだいぶ性格が変わってしまっている。
治崎と矢張の会話の途中から、実は声が聞こえていた。でも、治崎に抱き上げられている間は気を失っているフリをしていた。女の子なのです。
嫌いな人間はムーンビーストと自分自身。
オーバーホール。原作キャラ。
原作とはだいぶ性格が変わってしまっている。
事件の後、組とは袂を分かち地下に潜った。壊理は個性を消すまでは側に置き、個性を消したら組長の元に戻そうと考えている。
だが、おそらく壊理が嫌がる。
ムーンビースト。オリキャラ。
壊理の殺害を二度も試みたヴィラン。そのくせに掛け替えのない仲間とか言うので、壊理からひどく嫌われている。