ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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丸くなる前のエンデヴァーが好きでした。
でも、過ちを背負う覚悟を決めたエンデヴァーは大好きです。


あのヒーローがそんな選択をする筈がない。そんな批判は重々承知です。

皆様の暇つぶしになれば幸いです。<(_ _)>





個性『ヘルフレイム』

 

 

対”個性”最高警備特殊拘置所、通称タルタロスへのステインの移送は異例ともいえる厳戒態勢を敷いて行われていた。

ヒーロー達と警察の特殊部隊が護送車を守る護衛として配備され、通過する道路には交通規制が掛けられ、街のあちこちでは変装した公安の人間が監視していた。

ネズミ一匹どころかアリの一匹も入れはしないというヒーローと警察、公安のプライド。それは言うまでもなく、以前、ムーンビーストをタルタロスへの移送中に逃亡されたことに起因(きいん)する。

『灰色勢力』の一人であり、ムーンビーストとは深い繋がりがあるとされるステインにもしも逃げられる様なことになれば、彼らのプライドは粉々に砕け散るだろう。

だからこその厳戒態勢。だからこそ人々の想いは一つ。

 

”何も起こらないでくれ”。

 

その想いを嘲笑うようにムーンビーストは交通規制が掛けられている筈の護送車の走行ルートの道路の真ん中に”止まれ”の道路標識を突き立てて、笑いながらに立っていた。

 

 

 

 

 

 

かつてレディ・ナガンはタルタロスへ移送される私を助けてくれた。しかし、言うまでもなく現在(いま)は状況が違う。あの時は私に数多くの善意の第三者がいることを警察は把握しきれていなかった。

だからこそ成功した奇襲をそのままなぞる程に私は警察やヒーローを舐めてはいない。厳戒態勢が敷かれる中で強引にステインを助けられると考える程に愚かでもない。

ならば、どうするべきか。どうすれば私はステインを助けることが出来るのか。それを考えた時、思い浮かんだ顔があった。

 

その人に頼るべきかと考えてみるが、”止めておけ”と私の理性は告げる。利害関係にあるオーバーホールに頼るのとは訳が違う。

彼女は()()()()()()()だ。(ヴィラン)の奪還の手助けなど、してくれる筈はない。

しかし、現実問題としてステインを救う方法は他にないと私の知性は告げる。護送する側のヒーローに裏切り者さえ居れば、事は簡単に進むのだ。

 

だが、しかし。それでも、(なお)

考えを巡らせた(すえ)、私は取りあえず話をしてみることにした。

都合の良いことに明日の夜は満月だった。

 

 

 

その日の夜。

 

余子浜市の海浜公園の傍に立つランドマーク的なタワー。

市内で一番高い建物の屋上で待ち人を待つ私の前に彼女は満月を背景に()()()()()

 

「今日も月が綺麗だな!」

 

月明かりに照らされる彼女の勝ち気な笑顔に心臓が高鳴らなかったと言えば嘘になる。

彼女、”ラビットヒーロー”・ミルコは腰に手を当てて大きな胸をこれでもかと張りながら、笑っている。

私はそれに笑顔で答えつつ、ミルコへと歩み寄った。

 

「ええ、そうですねえ。しかし、肌寒くもある。よければ使ってください」

 

私が着ていた牧師服の上着を脱いで渡すと、ミルコはお礼を言いながら遠慮なく受け取った。

 

「ん。ありがと。しっかし、今日の満月はホントにデッケーよな。十五夜でもないのに、こんなに綺麗な月がみれるんだな」

 

「人は地面ばかりを見て生きていますから、偶に空を見上げるとビックリするものです。だから、曇りでも雨や雪が降ろうと、空には月があるのだと実感する為に私は満月の夜は散歩をすると決めています。まあ…その所為で貴女の様なヒーローに見つかってしまうのですがね」

 

「二ヒヒ、ホントは嬉しい癖に良く言うぜ」

 

「ええ、貴方の様に美しい女性に追われるのなら、男冥利につきましょう。月夜の貴女は、本当に美しい」

 

私は正面からミルコの肩に手を乗せてジッと赤い目を見つめる。

ミルコは私の唐突な行動に一瞬だけキョトンと擬音の付きそうな可愛らしい反応をした後、笑う。

白い歯が覗く口の中から赤い舌が私を小馬鹿にする様に出てくる。

 

「べー。何時もは私から逃げ回ってる癖に、今日はそっちから捕まえてくれるのか?(ヴィラン)に捕まった私は、どんなイヤらしい事をされちゃうんだろうな」

 

「揶揄わないで頂きたい。今の私は真剣なのですよ」

 

「知ってるぜ。私の身体を見て真剣にイヤらしいこと考えてるんだもんな。私はお前的に魅力的な女性ヒーローランキング第四位だもんな」

 

「………どうして貴女が私のプライバシーの中でも重要事項である情報を知っているのですか?」

 

「レディ・ナガンから聞いたぜ」

 

「どうして貴女達二人が繋がっているのですかねえッ!?」

 

「どういう状況でそんな事を吐かされたかも聞いたぜ。お前、録画した雄英の体育祭に映ってたミッドナイトを見て興奮してたらしいじゃん。それが気に喰わなかったレディ・ナガンに押し倒されて、イジメられて、涙目で―――

 

「それ以上は言わないで頂きたいッ‼な、なんて人達だ、人を恥ずかしめて笑い話にするなど、それでもヒーローなのですかねえッ!?」

 

「私達はお前をイジメてもいいんだぞ。知らなかったのか?」

 

目の前に討ち果たさなければならない巨悪がある様な気がした。しかし、ミルコの悪戯っぽい笑顔に何も言えなくなってしまった私には何もする権利がない。頭を振りながら赤くなっているだろう顔を誤魔化しながら、ミルコに背を向けてやり過ごそうとするが、トップヒーローである彼女が(ヴィラン)のそんな抵抗を許すはずも無く、背中に抱き着いてくる。背中に感じる胸の感触に逃亡が悪手であったことを悟る。最早、私に抵抗する術は無かった。

右耳にミルコの声が吐息交じりに拭きかけられる。

 

「なあ、お前、私に頼みたいことがあるんだろ?」

 

「…貴女は、どこまで私の事を知っているのですかねえ。レディ・ナガンがそこまで話すとは、思えないのですが」

 

「私の個性は『兎』だからな。耳が良いんだ。だから、全部聞こえてるぜ。お前の心臓がバクバク言ってるのも、喉が震えてるのを隠そうとしてるのも、唾を飲み込む音もな。実はコレ…結構、面倒な個性なんだぜ。聞きたくもねえ奴の聞きたくもねえ音まで聞こえちまうからな」

 

ウサギの聴力は3キロ先の音まで聞こえると聞いたことがある。なら、ウサギ以上にウサギらしいことが出来るという個性『兎』を持つ彼女の聞く世界が、どんな風なのかを想像するのは簡単だ。特にウサギの聴力は高い音を聞くことに長けると言う。なら、人が不快と感じる高音。

例えば黒板を爪で引っ掻く音だとか、発泡スチロールを擦り合わせた時の音が、ミルコにはどういう風に聞こえているのだろうか。彼女はそれを常に勝ち気な笑みで隠しながら、誰にも悟らせることはなかったのだろう。

そんな事を考えていたら、私の右手は無意識に彼女の白くて長い毛並みの良い耳に触れていた。

私が耳に触れてもミルコは嫌がる素振りは見せず、ただ耳が少し震えていた。

 

「お前の傍に居るとな、お前の音に集中できて、他の音が気にならなくなるんだよ。だから、いいぜ。言ってみろよ。お前は私に、何をして欲しいんだ?」

 

「内容も聞かずに、請け負ってくれるのですか?」

 

「うん。ただ条件がある。私がお前の言うことを聞く代わりに、お前も私の言う事を聞けよな。だからこれは、契約(へいやふ)(ふぁ)

 

「イタイッ!?」

 

ミルコが私の首筋に噛みついてくる。歯を立てて舌で唾液を塗り込む様なその行為が、まるで動物のマーキングの様に思えて私の身体に羞恥と興奮が広がっていく。その羞恥と興奮すらも彼女の耳には筒抜けだと思うと冷や汗が止まらなかった。

既に私にミルコとの契約を結ばないという選択肢はない。そんな事をすれば彼女は躊躇なく私の首の頸動脈を噛み切るだろう。私は今、ミルコに命を握られている。

どうしてこんなことになったのだろうと天を仰ぐ。先ほどまで白く美しかった月が、赤く染まっていた。満月は動物を狂わせるという。なら、これはそういう事なのだと納得する他になかった。

 

「貴女に………ヒーローを、辞めて頂きたい」

 

それは私がかつて()()()()()()に言えなかった言葉だった。そうして欲しいと思いつつも胸に秘めたのは、それはあり得ないことだと信じていたからだ。私が恋したあの人が、私程度に願われたからと言ってヒーローを辞める筈がない。

私が隣に立ちたいと願ったヒーローが、(ヴィラン)に堕ちる筈がない。そう信じていたからこそ決して口にする事など出来なかった言葉を私はミルコに向けて言っていた。無論、”ラビットヒーロー”・ミルコのことも信じている。

前に私程度に感化されて欲しくないと思ったのは事実だ。しかし、それでも出てしまった言葉は戻らない。私は私自身に落胆した。最低だと思った。私はミルコにあの人を重ねている。いや、ミルコだけじゃない。自覚してしまえばレディ・ナガンにもあの人の面影を重ねていたことは明らかだ。

私の女性の好みなど、所詮はその程度のモノだったのだ。失恋した筈なのに、たった一人の女性を追いかけて、年上好きなどと自他共に(うそぶ)いていた。

 

「なんと、女々しいのでしょうか」

 

自らの浅ましさを付きつけられて膝から崩れ落ちる。乾いた笑い声が漏れて眼鏡がズレた。何と無様なのだろうかと死にたくなる私の頭をミルコが優しく抱きしめてくれた。泣きたくなった。

 

「私に優しくしないで頂きたい。私は最低な男なのです。今も貴女が優しくしてくれているのに、目の前の貴女とあの人を重ねて見ている。最低だ」

 

「別に良いって。昔の女が忘れられないなら、私が忘れさせてやるよ。レディ・ナガンも、たぶん同じこと思ってるぜ」

 

「どうして貴女たちはそんなにカッコいいのですかねえ。私は貴女たちの前では無様を晒すばかりの男だと言うのに、どうして好意を寄せてくるのですか?」

 

「そんなの決まってんだろ。そうしたいからさ」

 

顔を上げればミルコの勝ち気な笑顔があった。

”いつ死んでも良いように、死ぬ気で息をする”。

前に彼女が言っていた言葉を思い出す。やりたいことをやる為にヒーローに成った彼女が、次はそうしたいから(ヴィラン)に堕ちると言う。

彼女の足を引いたのは私だ。彼女の栄光に泥を塗るのが私だ。それでも笑っている彼女に私は何を返したらいいのだろうか。

 

「貴女は契約として、私に何を望むのですか?」

 

「そうだなあ。…今は、何も要らねーから、考えとくよ。だから、今は、暫くこのままで居させてくれ」

 

ミルコに後ろから抱きしめられる形で私は動きを止める。私は彼女の為なら、永遠に動きを止めていられるだろう。

 

この時は本当にそう思えた。

 

 

 

 

 

そして、現在。

 

永遠の停滞から解放された私は『止まれ』と書かれた道路標識を手にステインを乗せた護送車の前に立っていた。私の存在に気がつきながらも、護送車がスピードを落とす気配はない。当然の判断だ。

防弾・防爆加工が施された護送車は人一人を撥ね飛ばして余りある凶器だ。そして、私は凶悪な(ヴィラン)。このまま轢き殺した所で困るのは始末書を受け取るお偉いさんの何人かだけと護送車の運転手は考えているだろう。

ハンドルを握る運転手の男と目が合う。私は微笑みを返して、彼の正しさを肯定する。

 

「そう、人は…正義の為なら、人を殺しても良いのです」

 

私の言葉が聞こえた訳ではないだろうが、私は運転手の男が更にアクセルを踏み込んだことを称賛したい。

彼は真実、正義を成そうとしていた。大量殺人犯である私を憎み殺そうとしていた。それこそが他人の為の”復讐心”。

私が殺した誰かの為に、彼が私に向けた”復讐心(ソレ)”こそが、私の”正義”を証明している。

 

「見知らぬ他人の為に怒れる社会ッ!なんと、素晴らしいッ‼」

 

私は思わず両の手を広げて護送車の衝突を受け入れてしまいたくなる。私が社会に撒いたモノは間違いではなかった。”復讐”と言う正義は社会に芽吹きつつある。

それを実感させてくれた運転手の男には感謝しかない。故にこのまま轢かれてあげても良かったのだが、次の瞬間に護送車はタイヤを銃弾で撃ち抜かれて横転した。

 

警察の布いた包囲網の外、凡そ3キロ超からの走る護送車のタイヤを狙った超精密射撃。それを成し得るレディ・ナガンには感謝しかない。

今日も彼女は見えない所から私の力になってくれている。だから、私はこうして安心して此処に立っていられるのだ。

 

横転した護送車。運転手の彼らの命が心配される。しかし、それが要らぬ心配である事は私が誰よりも知っている。事前に聞いていた護衛についているヒーローの中には私一押しの若手の名前があった。

 

「先制必縛ッ、ウルシ鎖牢ッ‼」

 

護送車の後ろを走っていたパトカーからヒーロー・シンリンカムイが飛び出してきて身体から伸ばした太く頑丈な木の根で横転した護送車を止める。彼が付いているのなら、人命に何の心配もない。その信頼が私にはある。

だから、私が今すべきことは誰かの心配ではなく自分の心配だろう。シンリンカムイと同じパトカーから降りてきた男から、目が離せない。人の形をした太陽が其処にはあった。

オールマイトにも劣らない筋骨隆々の身体。燃え盛る紅炎(こうえん)の髭。そして、血走る程の意思が込められた眼は私のことを睨みつけている。

 

「…()()()()()を眼にするのは何度目でしょうか。やはり馴れませんねえ。血が、肉が、魂が乾いていくようだ。あまり火力を上げてはシンリンカムイの『個性』が燃えてしまいますよ?()()()()()()

 

フレイムヒーロー・”エンデヴァー”。私の知る限り、この国において唯一偉大なる脅威(オールマイト)と並び立つヒーローである英雄的暴力(エンデヴァー)は私の軽口に答える事もせず静かに笑った。

 

「”ヒーロー殺し”に続き貴様まで逮捕できる日がこうも早く来るとはな。母校の恥を、此処で(そそ)がせてもらうぞ。ムーンビースト」

 

「恥などと、的外れなことを言わないで頂きたい」

 

私は会話をしながら時を待つ。私ではエンデヴァーには敵わない。炎は斬れない。そして、下手をすればギロチンの刃は熱により歪み溶かされてしまうだろう。それはオールマイトより明確な相性の問題。

警察や公安。そして、エンデヴァー自身もそれを半ばで理解しているからこそステインの身柄を守る護衛としてエンデヴァーが此処に居る。

 

「雄英の先生方は素晴らしい人ばかりです。余子浜市スタジアムでの敗北は、恥ではありません。そもそも私が逃げの一手を取らなければ、私は捕まっていた」

 

「彼らを踏みにじった貴様が心にもない事を言うな」

 

そして、私を捕える為の布陣はエンデヴァーだけではない。護送車を守り終えたシンリンカムイがエンデヴァーの後ろに立つ。その横にはMt.(マウント)レディの姿もあった。この人選も実に上手い。

人殺しを相手にしか全力を出せないという枷がある私を相手取る上で、彼らの様な若手の善良なヒーローを前線に出すというのは実に効果的だ。ヒーローの仕事は綺麗事だけじゃない。善良な市民を護る為に、(ヴィラン)を討たねばならないこともある。

ベテランになる程、その機会は多くなる。私に殺される理由が出来てしまうこともある。

 

「―――まったく嫌になる。先生方は嵌めたつもりが、嵌められたのですよ。今の私のようにね。貴方たちは私の襲撃を知っていた。そうなのでしょう?」

 

「…罠だと理解した上で来たのか?」

 

「はい。何処から情報が漏れたかは、皆目(かいもく)見当(けんとう)が付きませんが、それでも私はステインの()()()()()()()()()ならなかった」

 

「”救いにならなければ”?妙な言葉遣いだ。罠だと知っていたという割には動揺が隠しきれていないようだな。(ヴィラン)め、余裕なフリなど止めたらどうだ?」

 

エンデヴァーが獰猛な笑顔で言う。その眼は野心に燃えていた。”ヒーロー殺し”のステインに続き、私を逮捕できたのなら、なるほど確かに彼の評価は爆上がりだろう。下手をするとオールマイトに届くかもしれない。

その強大な野心を前に私は小さく笑うしかなかった。

 

「余裕など最初からありませんよ。敗北は予想していました。貴方の苛烈さを見て確信に変わりました。ならば、どうする?どうすれば私は勝てる?何をすればいい?どこに行けばいい?考えて、探して、勝利の女神は其処に居たのですよおオオッ‼」

 

「何を、言って―――

 

 

瞬間、私の叫び声を合図に護送車の扉が()()()()()()()()()

 

 

そして、拘束されたままのステインを小脇に抱えて褐色の女神は姿を現した。その場に居た私以外の全員が、その光景に目を疑った。それもその筈だ。彼女はヒーローだった。それも護送車の中でステインの身柄を直接に守る最終防衛ライン。

護送車に何が起きても無事で居られる。何かの間違いで直接、私と戦うことになっても負けない。そういう信頼の元、彼女はこの任務に付いていた筈だった。

 

それなのに彼女は勝ち気な笑みのままステインを抱えて、私の傍へと歩いてくる。

理解できない光景にいち早く動いたのは、やはりエンデヴァーだった。

エンデヴァーは動揺しながらも右手をステインを抱えて去り行く彼女の背中に向けて叫んだ。

 

「何を、何をしているッ!ミルコッ‼」

 

ミルコはエンデヴァーの声でピタリと足を止めて、振りかえりながらに言った。

 

「悪りぃな。私、ヒーロー辞めるわ」

 

「―――ッッ!?赫灼熱拳ッ‼」

 

赫灼(かくしゃく)”。それはエンデヴァーの戦闘スタイルの核を成す技術であり、熱エネルギーを拳や脚などに凝縮して一気に放つことでただの火炎放射とは一線を画す超高熱閃を放つことができる。

以上、エンデヴァー非公式ファンサイト【エンデヴァーを見ろや‼】より。

 

私はそれを思いだしながらに呟いた。

 

「つまり、当たればお仕舞(しま)い。しかし、彼女に易々と当たりますかねえ」

 

私の不安はやはり不要だったようでミルコは熱閃を空に跳んで避けた。しかし、空中への逃走の後に待つのは羽でも持たない限りは自由落下という結果。よけられない死地を意味する。私やミルコは空を跳べても、飛べない。

どうするのだろうと少し焦る私の不安を煽る様にエンデヴァーがミルコに向けて追撃を放つ。

 

「赫灼熱拳ッ、ヘルスパイダーッ‼」

 

エンデヴァーが突きだした両手の指先より糸状になった炎が放たれる。その炎は編まれた網のように姿を変えたが、それが捕縛を目的にしたものでない事は見ればわかった。あんなモノに触れれば焼き切れてしまう。

焦って飛び出そうとする私を制するようにミルコは空中でニヤリと笑った。

 

()()()ッ!」

 

ミルコが此処にはいないレディ・ナガンの名前を呼ぶ。

瞬間、ミルコが空中で再び跳んで熱網の包囲を逃れてみせた。

 

「なんだと!?」

 

”空中二段ジャンプ”。ゲームの中でしか見たことのなかった技を現実で披露したミルコに流石のエンデヴァーからも驚きの声が出る。私にはそのタネが分かったが、受け入れるまでに時間がかかった。

 

ミルコがレディ・ナガンの名前を呼んだ直後に聞こえた弾丸の着弾音。地面をよく見れば銃痕もあった。それが意味するのはミルコとレディ・ナガンの連携プレー。

ミルコはレディ・ナガンが正確無比に足元に放った銃弾を空中で足場にして跳んだのだ。ミルコの脚力と聴覚と動体視力。そして、レディ・ナガンの狙撃技術があれば不可能ではない。

 

しかし、めちゃくちゃだった。

 

ミルコが私の前に着地する。薬品により意識を奪われている様子のステインを地面に捨てるように投げた。そして、胸を張りながらに勝ち気に笑う。

 

「どうだ?私達はすげーだろ」

 

「…ええ、というか、何故会話をしただけの関係であれだけの連携が出来るのか、わかりませんねえ」

 

「好きなものが同じだからな。気が合うんだよ」

 

ミルコは笑顔で言う。

私は気まずくなって顔を反らし、ステインの身体を起こすと気付け薬を嗅がせる。これでステインは直ぐに意識を取り戻すだろう。

とりあえずホッとした私たちにエンデヴァーの怒号が跳んできた。

 

「ミルコおオオッ‼何故ッ、どうして等と最早ッ、問わんッ‼お前は今ッ、俺達の敵になった!ヒーローの敵となった!”(ヴィラン)”になったッ‼覚悟は、あるなッ‼」

 

空気が震える怒声を聞いた。ミルコが隣で耳を押さえている。その頬からは汗が流れていた。私も同じだ。流れる汗が止まらない。その原因はエンデヴァーから放たれる物理的な熱量だけではない。血走る眼に宿る確かな意思。

執着とも呼べる信念。エンデヴァーはオールマイトを追い続けている。それは憧れではない。オールマイトに憧れて彼の歩んだ足跡を追おうとする者は数多いるが、オールマイトを追い越そうとしているのはエンデヴァーだけだ。

 

かつてある政治家が言った言葉を朧気ながらに思い出す。

 

”一番じゃなきゃ駄目なんですか?”。

 

その言葉を学生時代に聞いた時、私は思った。当たり前だと、人が何かを目指した時、二番手で甘んじていい理由など有る筈がないと思った。人は誰だって一番が好きだ。(ナンバー)(ワン)が好きな筈だ。

だが、しかし、一番を目指し努力する内に諸人は自分が一番に成れない事を知る。言うまでもなく努力をすれば誰でも一番に成れる訳ではないと諦める。ある政治家はその言葉の内に別の道もあるのだと言う優しさを込めたのかもしれないと今なら分かる。

そして、それが分かるようになったという事は私も何かを諦めた側の人間になったということだ。

 

 

以下、エンデヴァー非公式ファンサイト【エンデヴァーを見ろや!】より抜粋。

 

―――◆―――

 

諦めなかった男が居た。

 

(ナンバー)(ワン)になることを諦めることを止めた男がいた。

 

その男は瞳に炎を宿して今日も叫ぶ。

 

―――◆―――

 

 

「赫灼ッ熱拳ッ‼」

 

 

 

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