ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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※原作生存キャラの死亡があります。ご注意ください。

皆様暇つぶしになれば幸いです。m(_ _)m





個性『凝血』

 

 

ミルコのウサ耳が風切り音を捕えていた。それが何なのかは視線を上空に向けなくてもわかった。ミルコの逃げ足に追いつけるだけの性能(スペック)の飛行能力を持つヒーローなど、一人しか思い当たらなかった。

 

「ホークスか。…生意気な奴め」

 

ミルコは楽し気に笑う。両脇に抱えたムーンビーストとステインの意識はまだ戻らない。ウイングヒーロー・ホークスが足手纏いを二人も抱えた状態で勝てる相手ではないことは明らかだった。だから、そこから先の判断は賞賛に値するものだった。

ミルコはビルとビルの間を跳ぶ最中に両脇に抱えていたムーンビーストとステインを路地裏へと投げ捨てた。

ホークスに動揺が走る。

 

”ムーンビーストの目的は、ステインの救出”。

”ならミルコの目的も同じ筈だ”。

”足手纏いとはいえ、救出相手を投げ捨てることに利はない”。

 

そんなホークスの動揺が、ミルコには見なくてもわかった。ミルコは逃走を止めて、電柱の上に降り立つと腕を組みながら上空にいるホークスをニヤニヤとした挑発的な笑顔で眺めることにした。

ホークスの動揺は加速する。ホークスの最重要任務はステインの奪還。しかし、目の前に居るミルコがそれを許す訳がない。ホークスはステインとムーンビーストが投げ捨てられた路地裏とミルコの立つ電柱を交互に見た後、短いため息を吐いてミルコの立つ電柱の方へと向かう。

そして、ホークスは電柱に立つミルコと同じ目線になる空中で静止すると聞きたくもない事を聞く表情でミルコに問いかける。

 

「あの人達、助けなくていいんですか?あのままじゃ追っかけてきたヒーローに捕まっちゃいますよ?」

 

「お前が追っかけてくるからだろー、二人を抱えて逃げるより、あいつらが捕まる前に眼を覚ますことに賭ける方が勝算があるだろ」

 

「で、ミルコさんは俺の足止めですか。確かに理にかなっている。けど、ステインを抱えていたなら、気が付いたでしょ?()()()()

 

ホークスが両手で首を絞めるようなポーズを取る。

ミルコは呆れた顔で頷いた。

 

ステインの首に嵌められていたもの。

それは起爆機能が付いた首輪だった。

 

「公安からの指示でステインには特例として、破壊輪(はかいりん)が嵌められてます。本気で逃げられそうになったら、スイッチ一つでステインは殺される。最初から、逃げ切るのは無理だったんですよ」

 

「お前ら、人権とか知ってんのか?」

 

(ヴィラン)が正論を語らんでくださいよ。勿論、これは(おおやけ)にはされない事です。エンデヴァーさん達だって知らないし、知らされない。もし破壊輪(はかいりん)が起動しても、爆発の規模は最小限で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、首が飛ぶだけらしいですよ」

 

「ああ、そっか。それでステインの殺害もアイツの所為にする気なんだな?大分、腐ってんなあ。そんなだから私に裏切られるんだ」

 

「それが公安のシナリオです。だから、俺としては無駄な抵抗は止めて投降して欲しいんですけどね。ミルコさんもムーンビーストに目の前で仲間の首が飛ぶ惨状を見せたくはないでしょう?彼、(ヴィラン)にしてはだいぶ、仲間に甘いみたいですし」

 

ホークスとしては、あながち間違いではない説得のつもりだった。ムーンビーストはただの凶悪な(ヴィラン)ではない。正義を語る狂人だ。そして、正義を語るからこそ彼は愛を知る。愛を知るのだから友情はある。

ムーンビーストはステインを大切な仲間だと思っていると言う情報をホークスは持っている。だから、惨劇を生む前に投降してくれとミルコに語り掛ける。

 

「ムーンビーストは怪物じゃない。人間だ。罪人の首は飛ばせても、仲間の首が飛ぶことには耐えられないんじゃないですか?彼、まだ20歳(ハタチ)の若者ですよ」

 

ホークスの説得を聞いたミルコは失笑した。確かに傍から見れば筋の通った話にも見えるが、ムーンビーストの懐を知る者が聞けば的外れと言わざるえない。

 

「お前らは、勘違いしてるみてーだなあ。あいつは、お前らの常識で計れる奴じゃねーよ。”狂気の”ムーンビースト。その二つ名に偽りはねーんだ」

 

「…どういう意味ですか?」

 

「やっぱ、なんにもわかってねーんだな」

 

正義を成す(ヴィラン)。悪を以て巨悪を討つ者。ムーンビーストは、そんな”()(もの)”ではない。

未だに世間はムーンビーストという存在を履き違えている。彼は”悪者”だ。

だから、ミルコはホークスの付けている通信機の先で話を盗み聞きしている奴らにも聞こえる声でいった。

 

「あいつの今回の目的は、ステインの救出じゃねーよ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正義()模倣者(ファン)”。

その存在が現れたと”善意の第三者(カネクラさん)”から聞いた時、私は耳を疑った。恥ずかしながら私などと言う存在に憧れる馬鹿が居るなんて言う可能性は、欠片も考えていなかった。

”復讐と言う正義”を胸に刻むのは良い。逆十字を復讐という正義の象徴にしようとしたのは私だ。私の正義に救われた気になり、私に協力してくれる”善意の第三者”に成ってくれるのも正直に言えば有り難い。

 

しかし、私の真似事をして悪事を裁いた気になる馬鹿は嫌いだ。

 

その事実に直面したのは、とあるテナントビルでの事だった。

 

其処で闇医者をしていた男は、違法な臓器売買に手を染めていた。身寄りのない子供や家族から見捨てられた老人などを分解(バラ)して臓器を売りさばいていた。

私の”ギロチン”が見逃す筈も無い悪だった。故に正義執行に訪れた私だったが、先客がいた。

彼は逆十字のロザリオを首に下げ、両手に鉈を持ち、闇医者を分解(バラ)している最中だった。

私の登場に彼は驚きつつも、次の瞬間には恍惚の表情を私に向けながらに言った。

 

『ようやく会えました。私はアナタの力になりたい!アナタの正義を私も示したいのです!』

 

私は直ぐに違和感に気が付いた。彼が分解(バラ)していたものは、人一人分の部位(パーツ)にしては明らかに多かった。そして、子供の(小さな)手足も地面に転がっていた。

彼は闇医者だけではなく、その家族も殺していた。その上で彼は自信満々な表情を浮かべて私に向けて言い放ったのだ。

 

『悪の血脈ッ、滅びねばなりません!』

 

吐き気を催す邪悪が其処にはいた。

私のギロチンは一切の矛盾なく彼の首を次の瞬間には飛ばしていた。

 

正義()模倣者(ファン)”。

 

その存在はかくも醜悪だった。私が”復讐という正義”を掲げたのは、決して誰かに私のように成って欲しかったからではない。むしろ、その逆だ。二度と私の様な者を生み出さない為に”逆十字”を掲げた。

それを目にする度に人を殺すのを思いとどまって欲しかった。復讐(正義)で殺されるかも知れないと恐怖して、殺人を犯さないで欲しかった。

 

だが、そんな私の思いは届かずに、彼の様な”正義()模倣者(ファン)”が生まれてしまった。

そして、罪のない子供が殺された。

私は散乱する部位(パーツ)から、その子の身体を紡ぎ置く。

 

そして、その死体の前に膝を折った。

これは祈りではない。後悔が生んだ懺悔だった。

 

零れるのはその子だけに向けた言葉ではなかった。思い出すのは私の”オリジン”。僕を殺し私を産んだ言葉。

 

 

(ヴィラン)一族の殺し合い!”

”あの家族は殺されても仕方なかったと思いますよ”

 

 

「…確かにこの子の父親は人殺しだったかもしれません。この子の母親は金で人命を計る屑だったかもしれません。けれど、子供に罪は無かった。血で罪は計れない。そんな事も、世の中の誰かは知らないのですか?」

 

だとするならば悲劇だ。そして、なによりも許せないのは私がそれを知らなかったという事だ。

正義()模倣者(ファン)”。

そんな存在が生まれることを予想していなかった。

 

そして、その存在を聞かされていても何の手立ても打たなかった私の所為で罪のない子供がイカれた(ヴィラン)に殺されて死んだ。その事実が私の胸に圧し掛かる。押し潰されそうになる最中、私の背中に柔らかいものが押し付けられる。

 

レディ・ナガンが後ろから抱きしめてくれていた。

 

私は彼女に外で警戒を頼んでいたが、私の戻りが遅いので様子を見に来てくれたらしい。

レディ・ナガンの優しい香りに眼の焦点が戻る。

しかし、後ろから掛けられた言葉は優しくなかった。

 

「目を反らすなよ。これが、あんたが目指す社会の途中で出る犠牲だよ。あんたの狂気は眩しすぎた。これからも多くの味方と、多くの馬鹿を生むことになるだろうさ。そして、大勢の人間が、あんたの所為で死ぬんだよ」

 

レディ・ナガンの言葉に重みがあるのは、彼女が私より先にこんな惨劇を見る機会があったからだろう。私の”善意の第三者”、信奉者(シンパ)と呼ばれる人々を纏めてくれているのは彼女だ。今まで私は彼らから甘い蜜だけを啜り、目を反らし続けてきた。

正義とは信じるものではなく成すものだと言い訳をして、彼らを遠ざけてきた所為で見逃していた惨劇があったのだろう。

レディ・ナガンはそれを私には黙っていたのだ。

 

私の正義が揺るがぬ様に。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――

 

だが、優しい時間はもう終わりにすると決めた。

 

 

 

 

 

 

 

路地裏に詰まれたゴミの上で眼を覚ます。頭を振りつつ起き上がれば、傍には拘束されたままのステインが素顔を晒して立っていた。常に包帯の様なマスクで顔を隠していた彼の素顔を見たのは初めてのことだった。遠くから聞こえてくるパトカーのサイレンが少しずつ近付いてきていた。

直ぐに逃げ出さなければならない状況にありながら、私とステインは目を合わせることも無く隣に立ち尽くしている。そんな時間が暫く過ぎて、私から、ふと出た言葉は何とも滑稽なものだった。

 

「私達が初めて会った時、あの漫画喫茶で貴方はToLOVEるを持っていましたねえ。好きなんですか?ララさん」

 

「…ハァ…俺の好みは身長(タッパ)(ケツ)のデカい女だ」

 

「そうですか。因みに私は御門先生が好きでした」

 

「…だろうな」

 

何故、こんな時にこんな下らない話をしているのかお互いに意味が不明でどちらかともなく笑いだす。路地裏にお互いの笑い声が響く。学生時代を思い出させる雰囲気があった。

世界がまるで止まってしまったかのように外界の音が気にならない、響いているパトカーのサイレンがBGMにしかならない状況で次はステインから私に言葉をかけてくる。

私達の会話は常に私が声を掛けることで始まっていたように思うから、これは珍しいことだった。

 

「…俺の”信念”は、世間に影響を与えたか?」

 

「ええ、貴方の勇姿は映像として残り、多くの悪意(意思)を動かしました。社会は混乱し、これからはより多くの(ヴィラン)が登場することになるでしょう。これは、貴方が望んだことなのですか?」

 

「…ハァ…贋物が増えすぎた世を正す。…ヒーロー飽和社会など…許容できるものではない。…英雄(ヒーロー)とは、オールマイトの如く者だけだ」

 

「それを知らしめるだけの為に、多くの血が流れますよ。悪戯に暴力を振りまく輩も、粛清対象なのではなかったのですか?」

 

「…だからこそ輝くモノがあると俺は信じる」

 

「犠牲を許容しますか。分かり合えませんねえ」

 

「…それは最初からそうだっただろう」

 

―――然りと私は頷いた。

 

「私は復讐と言う正義を語り、貴方は英雄への愛を語った。貴方にとって私は悪戯に暴力を振りまく輩であり、私にとっての貴方は正義執行すべき人殺しです。それなのに何故、私達が歩みを共に出来たのか。理由は一つしかありません。”オール・フォー・ワン”という巨悪を討つ為です。彼を殺す為だけに、私達は手を取り合いました。しかし、ステイン。貴方の行動は”オール・フォー・ワン”にとって利する結果を生みだしてしまいました。死柄木弔からコンタクトがあったことを、私に黙っていましたね?」

 

それはレディ・ナガンが得た確実な情報。

ステインは私達の知らない所で死柄木弔から勧誘を受け、”(ヴィラン)連合”と繋がっている。

時期的にはごく最近、それこそステインが逮捕されるきっかけとなった保須市での事件の少し前のことだ。

だから私はレディ・ナガンから聞くまで何も知らなかった。

 

「私達を裏切る気でいたのですか?」

 

私の問いかけにステインはため息を返した。

 

「…ハァ…俺は元々、仲間なんかじゃない」

 

「ええ、そうでしょうねえ。貴方は一度も私を仲間だとは認めてくれませんでした。しかし、私達は友人だったのではないのですか?」

 

「…」

 

私の問いかけにステインは口を閉ざした。何時もの事だ。口下手らしい彼は好きなもの(オールマイト)の事を語る時以外、饒舌にはならない。だから、私から問い続けなければならない。崖に向かって一歩を踏み出す光景を幻視する。

”後悔するから止めろ”と理性が私の口を閉ざそうとする。しかし、それでも口を開かなければならない。口にせずとも伝わる思いなど幻想だ。愛がそうである様に、想いは叫ばなければ他者に伝わることはない。

 

「貴方の終わりに多くの(ヴィラン)が魅せられました。集まった悪意は貴方が所属したことになっている(ヴィラン)連合に流れ込むことになるでしょう。死柄木弔は力を蓄え、それは言うまでもなく”オール・フォー・ワン”の益となる。許容できるものではありませんねえ。流れを断ち切らねばなりますまい」

 

右手に形成したギロチンの刃をステインの首に掛ける。

ステインは欠片の動揺も見せることなく、漆黒の意思が宿る暗い瞳で私を見ていた。

 

「…俺を殺した所で、ハァ…もう、意味はない」

 

「理解していますとも、貴方が死のうと必ず貴方の信念の紡ぎ手(スピナー)は現れる。だからこそ、私が貴方を裁かねばなりますまい。そして、人々は知ることになるのです。”絶対の正義”の存在を―――」

 

私とステインは仲がいい。それは周知の事実だ。だからこそステインが(ヴィラン)連合に所属していたと知った世間は、私と(ヴィラン)連合が繋がっているかもしれないと思うだろう。

そう思われてしまえば終わりだ。

私が築き上げた”正義の象徴”は地に落ちる。

そうならない為に出来ることはただ一つ。

 

私の手でステインを殺すしかない。

 

例え、()()()()()()()()()()

この世で唯一の”差別なき正義”。復讐と言う”絶対の正義”を私が成し得るのだと世間に知らしめなければならない。

 

「―――ギロチンが、示している。…ああ、アアア、嗚呼ああ、示して、しまったのですよ。…ステイン」

 

視界が滲む。目の前にあるステインの首が歪んで見える。震える程の涙が零れていた。

ステインはそれをジッと見ているだけだった。それが私には悲しくて、何も言わない彼のことが何も解らなくて、ただそれが悲しかった。

しかし、それでも私が成すべきことはわかっていた。私の個性は何時だって私の意思とは関係なく成すべきことを示している。

 

「わ、私は貴方を、殺さねばッ、ならない」

 

絞り出した嗚咽交じりの声に答えて欲しくないのにステインは答えた。

 

「…ハァ…そうだろうな」

 

―――しかし、殺したくない。

―――けれど、殺さなければならない。

 

ステインの首に掛けたギロチンの刃は悲しい程に輝いている。

 

「ステイン。ああ、ステイン。裏切りさえしなければ、あと少しだけ、もう少しだけ一緒に居られたではないですかッ!私の好物である激辛麻婆豆腐を完食してくれたのは貴方だけだった!一緒に海にも行った!共に歩んだッ!貴方は私を助けてくれたッ‼なのにッ、何故ッ、なぜ貴方は私を裏切ったッ‼‼‼」

 

瞬間、私の額に衝撃が走る。

ステインが頭突きをしていた。

 

そして、聞こえてきたのはステインの怒鳴り声だった。

 

「泣き言を言うなッ‼」

 

私達はお互いの額をぶつけ合ったまま至近距離で瞳を睨み合う。

 

「言った筈だッ!俺には俺の信念があり、お前にはお前の正義があるとッ!俺達は互いに影響を与え合いッ、その関係は決して仲間などという生温いものではないとッ‼俺は、成したぞッ‼お前に殺される覚悟を持ってッ、裏切ろうとも信念に殉じたのだッ‼‼それなのにッ、お前が―――泣き言を言うなアッ‼‼‼」

 

私はステインの意思に圧倒され一歩下がってしまう。

ステインはそれを許さないと一歩踏み出して再び額をぶつけてくる。

 

「最初から、そうだった筈だ。…ハァ、俺達は相容れない者同士。しかし、信念だけは本物だと認め合っていたのでなかったのか。…ハァ…ならば、何時かぶつかり合うは必定(ひつじょう)。俺は(ヴィラン)連合と接触し、”今だ”と決めた。それだけだ」

 

「…勝手に、決めないで、頂きたい」

 

「ハァ…?世間はお前の決断など待たない。”今だ”、”今だ”、今、この瞬間こそがお前が正義を執行すべき時だ。”信念”の元、俺は逝く。お前はお前の、”正義”を果たせ。()()()()()()()()()(・ )()()()()、月の(けだもの)なのだろうッ‼」

 

私は月の夜に”正義”を誓った。この世の悪を滅する覚悟があった。

ステインも、オーバーホールも、エリさんも、レディ・ナガンでさえ、”オール・フォー・ワン”という巨悪を討った後には殺すつもりだった。

人殺しである彼らを殺さないでいる理由はそれだけだから、最後には正義執行すると決めていた。

 

そうだ。

わかっているのだ。

 

理屈でも道理でも、常識でも感性でも、本能でも欲望でも、ありとあらゆるモノ全てが人殺しは誰であろうと殺すべきだと告げている。

目には目を歯には歯を、罪には罰を殺人には殺人を。

私は復讐という正義の代行者。

ギロチンの刃は差別なく罪人を裁く。

 

その筈なのに―――

 

「心だけが、貴方を殺したくないと泣いているのです。泣かずには、いられないのですよぉ。ステイン。私は、貴方を、貴方をぉ」

 

 

大好きだった。

 

 

「それでも貴方は、私に殺せと言うのですか?」

 

「…ハァ…当然、お前は…”ムーンビースト”だ。俺と同じ(けだもの)の筈だ。だから、泣きながらでも、ハァ、この”ヒーロー40名殺傷犯(ステイン)”を殺して正義を示せ。俺が知る”ムーンビースト”という人間は、そのようにしか生きられぬ筈だ」

 

ステインの額が離れる。

ぶつけ合ったお互いの額から血が流れていた。

ステインはそれを拭う事もせずに言う。

 

「お前は初めて人を殺した時、何を思った。罪悪感はあったか?」

 

「…罪悪感など、微塵もありませんでした。むしろ、良いことをしたとさえ思い笑っていました」

 

「そうだッ!お前という人間は、俺の前では何時も微笑みながらに罪人の首を斬ったッ!それはギロチンという”個性”がそうさせたのではないッ!お前という人間の本質がそうなのだ!」

 

ステインの狂気的な眼が私を見据えている。

それは鏡の前で毎朝見る見慣れた目だった。

 

「魂に刻まれたその狂気を人々は(おそ)れたッ‼泣いても良いッ!だがッ、見失う事は許さないッ‼信念(狂気)をッ、正義(狂気)をッ、()()()()()()()()()()()()()!ムーンビーストは本物の(ヴィラン)だッ‼お前はッ―――

 

 

―――俺の同類(ともだち)なのだろうッ‼」

 

 

「――――ッ、ああ、嗚呼ああアアアアアアアアアアア」

 

 

私という人間はどれ程に愚かなのだろう。口下手だと知っていた彼に、ここまで言わせなければ気づけない。

彼は私を裏切ってなどいなかった。ただ道を違えただけだ。共に歩んだ道は半ばで二股に最初から別れていた。愚かな私はそれを知り眼を背け、彼はそれを知り一度は袂を分かっても、再び見える道を歩いてくれていた。

 

「………今、わかりました。正義がこんなに辛いなら、世の中に本物の正義の味方(ヒーロー)が少ない筈です」

 

「………だが、本物の英雄(オールマイト)の如く者は存在する。お前はそいつらに殺されろ」

 

「ええ、いずれ、無間(むげん)地獄で会いましょう。たった一人の私の”親友”」

 

「ハァ…良い表情(かお)だ」

 

右腕のギロチンが振るわれる。

私の”正義”は一切の矛盾なく、一抹の後悔だけを遺して、ステインの首を斬った。

 

 

 

 

その日の夜。

灰色勢力にステインの身柄を奪還されるという失態を犯したヒーローと警察を非難する為に警察署前に集まったマスコミの前に、ムーンビーストはステインの首を持って現れた。

 

助けた筈の仲間の首を手に笑うムーンビーストに、誰もが言葉を失う中で、辛うじて唇を動かすことが出来たリポーターは問いかけた。

 

”何故、殺したのか。ステインを助けに来たのではなかったのか。”

 

「救いましたとも、私が裁き彼の救いとなったのです」

 

ムーンビーストはステインの首を置いて月夜に消えた。

残された言葉で人々は彼はただのイカレた思想を持つ(ヴィラン)であったことを思い出す。

ムーンビーストは決して正義の味方(ヒーロー)ではない。

そして、彼は決して―――”悪の味方”には成りえない。

 

灰色勢力が(ヴィラン)連合と繋がっているかもしれないという世間の懸念は、一晩で消え失せたのだった。

 

 





ステインが"ヒーロー殺し"である以上、ムーンビーストとの決別は決まっていました。
ムーンビーストはそれを先送りにし、ステインは最後に交われる道を選び今回の結末となりました。
正義も信念も正気では語れない。
社会を変えるなら狂気的で無ければならない。
それがこの文の中におけるステインの考え方であり、彼はムーンビーストの事を信じて託して逝きました。

ムーンビーストの掲げた正義を誰よりも理解して認めていたのが、彼だったのでしょう。

(´・ω・`)


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