ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです。<(_ _)>


個性『ライフル』③

 

 

ムーンビーストによるステインの殺害。

それは言うまでもなく首台正義という人間にとって三度目となる()()()()()。昇る先が地獄なら、必ず止めなければならないものだったとレディ・ナガンは思う。

しかし、その時、彼女はその場に居なかった。ムーンビーストによるステイン救出に貢献し、全てを俯瞰できる高いビルの屋上からスナイパーライフルのスコープを覗いていた筈の彼女が何故、その場面を止めるどころか見る事すら出来なかったのか。

その答えはムーンビーストがエンデヴァーと相打ち、ミルコがムーンビーストとステインを抱えて逃げ出し、それを追うホークスを彼女が撃ち抜こうとした、その時に右耳に付けた無線機から雑音(ノイズ)混じりに聞こえてきた声だった。

 

≪…ガン、…レ…ナガン、…レディ・ナガン。聞こえているかね≫

 

その声をレディ・ナガンが聞き間違える筈がない。()を殺したのは彼女だ。レディ・ナガンはヒーロー社会との決別と共に彼の眉間を撃ち抜いて(ヴィラン)へと堕ちた。

故に、その声が()である筈がないと訝しみながら、レディ・ナガンは雑音(ノイズ)混じりの声に答えた。

 

「あんた…誰だよ」

 

≪誰だとは…可笑しなことを聞く。私だよ。君が殺した、前公安委員長だよ≫

 

「死者が名乗るな」

 

レディ・ナガンは生前の前公安委員長の声を使用したのだろうプログラム越しに喋る相手を嘲笑する。

 

「死人が私に何の用なのさ。悪いけど、今は立て込んでるんだ。おふざけに付き合ってる暇はないよ」

 

レディ・ナガンのライフルの銃口はまだホークスへと向いている。レディ・ナガンはその射撃態勢のまま、ハッキングされたらしい右耳の無線機の電源を切ろうとするが、雑音(ノイズ)混じりの声はそれを止める。

 

≪ホークスを撃つな。我々は君と取引がしたいんだ≫

 

「そんなにあのヒーローが大事なのかい」

 

≪彼は君の()()だ≫

 

「………ハァ?」

 

レディ・ナガンは麗しい顔を歪める。その一言で撃つ気が失せたと言いたげに銃口をホークスから外した。

レディ・ナガン(自分)の後継者。それが意味するのはホークスが公安所属のヒーローだという事だ。自分よりずっと若いヒーローが、かつての自分と同じ立場にいるのだという事を知ったレディ・ナガンから漏れるのは落胆の溜息。

未来あるヒーローを使い潰してヒーロー社会の平穏とやらを守るシステムを変えるために、前公安委員長を殺したというのに、現公安委員会の体制は何も変わっては居なかったのだと知ったレディ・ナガンの心は苛立つ。

無論、それを無線機の先の人間に悟られることは由とせず、余裕な態度を保ったままレディ・ナガンは呆れたように笑ってみせる。

 

「アハハ、あんたら、まだあんなくだらない事をしてるのかよ。あんなやり方で守れるものなんて全部偽り(ハリボテ)だ」

 

≪何とでも言えばいい。逃げ出した君に何を言われた所で、我々の心には響かないぞ≫

 

「何とでも言えばいいさ。あんたらの作る偽り(ハリボテ)なんて、何度でもムーンビーストと一緒に壊してやるよ」

 

≪………やはり、君こそ危険だな。君を止めねばならない。我々の行動に…間違いはなかった≫

 

雑音(ノイズ)混じりの小さな声がそう呟いた時、ビルの屋上の扉が開いた。

 

其処にはレディ・ナガンを止める為、公安から送り込まれた刺客が立っていた。

 

長く艶のある髪に大きな瞳。そして、猫背な少女は少しだけ震える声でレディ・ナガンの名を呼んだ。

 

「ナガン、お姉さん」

 

ビルの屋上へと階段を駆け上がってくる足音をレディ・ナガンは聞き逃していたかと言えばそうではない。例え会話の最中であろうと警戒心の薄れることがない一流(プロ)である彼女は人物が近づいてきていることはおろか、それが誰かも看破(カンパ)していた。

それでも放置していたのは、やってくる人物がレディ・ナガンにとって近しい人物であったこと。警戒してしまえば少女を傷つけてしまうと(おもんぱか)った故だった。

 

公安との通話の最中に少女は現れた。

それが偶然などではない以上、少女はレディ・ナガンを、灰色勢力を裏切っていたということだ。

しかし、それを責めようという気はレディ・ナガンにはない。

それはきっとムーンビーストも同じだろうとレディ・ナガンは思う。

 

「ケロ、…ナガン、お姉さん。私、私」

 

「ゆっくりでいいよ。言ってみな」

 

だから、レディ・ナガンは裏切り者だった少女―――蛙吹梅雨に向けて依然、出会った時と同じ優しい笑顔を向けていた。

 

「ッ、ええ、ありがとう。私、ナガンお姉さんを止めに来たの。これ以上、罪を重ねさせないために」

 

「そっか。優しいね。それに勇気がある。中学時代(あの頃)から、そんなことは知っていたつもりだけど、ここまでとは思わなかったよ。でも―――ごめん。無理」

 

蛙吹梅雨は公安と繋がっていた。それを責める気はない。

しかし、彼女に(ほだ)されることもない。

むしろ、幼気な少女に二重(ダブル)スパイなんて危険な真似をさせる公安への嫌悪感が募るばかりだった。

 

「公安委員会の偉い人達と約束したわ。私がナガンお姉さんを止められたら、お姉さんの命は助けてくれる約束なの。だから、お願いよ。私と一緒に来てほしいの」

 

レディ・ナガンに手が差し伸べられる。

それは蛙吹梅雨の悲痛な訴えだった。

少女がその手に余る命を助けるために懸命に伸ばした手であることはレディ・ナガンにも分かっていた。

しかし、レディ・ナガンがその手を取ることは無い。

レディ・ナガンは首を横に振りながら、意志の強い声で言う。

 

「大人が子供の力を借りなきゃ守れない社会は偽り(ハリボテ)さ。誰もが空想し憧れた超人社会は、そんな風に薄く脆い虚像。そんなモノを守る為に梅雨ちゃんみたいな子共が利用されるなんて、認められない。それは()()()も同じ筈さ。だから、その手は取れない」

 

「………私じゃ、ナガンお姉さんの力には成れないのかしら」

 

「ズルい言い方。でも、駄目なものは駄目」

 

レディ・ナガンはクスッと笑う。その姿が美しすぎて蛙吹梅雨はそれ以上、何も言えなくなってしまった。

俯いてしまった可愛らしい蛙吹梅雨に替わり、無線機から可愛くない雑音(ノイズ)混じりの声が聞こえてくる。

 

≪やはり彼女の説得に応じる気はないか、レディ・ナガン≫

 

レディ・ナガンはそれが不快で思わず舌打ちをした。

 

「これ以上、私の耳元で汚い声を出すんじゃないよ」

 

≪我々が彼女を内通者(スパイ)にした事を怒っているのか?しかし、それは君らも同じだろう≫

 

「黙りな」

 

≪よろしい。では、次の段階(フェイズ)だ≫

 

瞬間、屋上に響いたのは銃声だった。

それが自身を狙ったモノであったなら、レディ・ナガンは敵意を感知して即座に対応できていただろう。

しかし、そうでなかったから―――蛙吹梅雨の身体が崩れ落ちた。

 

「なッ!?あんたら、何してんだッ‼」

 

≪動くな、ナガン。次は彼女の頭を撃ち抜くぞ≫

 

倒れた蛙吹梅雨に駆け寄ろうとしたレディ・ナガンを雑音(ノイズ)混じりの声が制す。

レディ・ナガンの足が止まる。レディ・ナガンは気を失った蛙吹梅雨の身体から血が流れて行くのを見ていることしかできない。

その様子を見て満足したように雑音(ノイズ)混じりの声は雄弁に語る。

 

≪別のビルの屋上にいるスナイパーの銃口が蛙吸へと向いている。いかに君でも対処できまい≫

 

レディ・ナガンは奥歯を噛みしめずにはいられなかった。

 

「なにが、したいんだ。その子はあんたらの味方だろう」

 

≪君を止められなかった時点で蛙吹の利用価値は消えた。元々、ムーンビーストの危険思想に染まりかけていた。そんな者を、我々が本気で引き入れるとでも?≫

 

「なあ、それが、ヒーロー側に立つ大人の言葉か?その子はあんたらとの約束を信じていたんだぞ」

 

≪幼気な少女ほど、利用しやすいものはない。それは君も身をもって知っている筈だが?≫

 

この世界に正義が実在するように邪悪も確実に存在する―――と、かつてどこかでムーンビーストが言っていた。

それをレディ・ナガンは思い出す。

漫画本を片手にしたり顔で世の中を批評するムーンビーストの言葉は確かな真実だった。

 

”吐き気を催す邪悪とは、なにも知らぬ無垢なる者を利用することだ”。

 

レディ・ナガンはかつての事を思い出す。

 

学生時代、平和のために君の個性が必要だと言われた。

だから、レディ・ナガンは公安の手を取った。

誰かに必要として貰うことが嬉しかった。

誰かの笑顔を守れることが誇らしかった。

たとえ、その身が血に染まろうと”正しい”ことをしているつもりだった。

いや、公安時代のレディ・ナガンは”正しい”ことをしていたのだろう。

事実、レディ・ナガンの活躍により多くの事件が起こる前に闇へと葬られた。

 

ヒーローへのテロを謀計していたグループ。(ヴィラン)組織と癒着し名声と金を得ていたヒーローチーム。そんな数多くの存在が世に出れば、世間は乱れて少なくない血が流れたに違いない。

けれど、その全ては法に裁かれることなく罪ごと()()()

 

全ては公安の秘匿命令だった。

―――否、そんな言い訳をする気は、今のレディ・ナガンには無い。

 

ヒーローへのテロを謀計していたグループを殺したのは自分だ。

(ヴィラン)組織と癒着し名声と金を得ていたヒーローチームを殺したのも自分だ。

レディ・ナガンは自ら手を血で染めたのだ。

 

平和の為に、正義の為に、あるいは人々の為に。

 

そんな言い訳をした。

しかし、それも限界だった。

 

そんな時に出会った男は(はばか)ることなく人を殺していた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

本気でそう信じていた。狂気だ。しかし、何処までも澄んでいた。

 

「…取引と言ったね。聞かせなよ」

 

≪君に自殺してもらいたい。シナリオはこうだ。(ヴィラン)活動の最中、君はかつて君のファンであった子供を誤って撃ってしまい、罪悪感で錯乱し自殺。(ヴィラン)に堕ちたトップヒーローには似合いの末路だと思わないかね≫

 

「酷い脚本(シナリオ)脚本家(あんたら)の程度がしれるね」

 

≪ならば演者である君に頑張ってもらうしかないな。さあ、”麗しきレディ・ナガン”、最後の射撃だ。寸分の狂いなく自らの脳髄を撃ち抜いてくれたまえ≫

 

レディ・ナガンは倒れている蛙吹梅雨をみる。選択肢などなかった。

レディ・ナガンに彼女を見捨てる事などできない。

加えて雑音(ノイズ)混じりの声が取引を長引かせる気がない事は声でわかった。

ステインの護送の為に、周囲が警察と公安により封鎖されているとはいえ、何処かに誰かの眼がある可能性を彼方は捨てていない。

カウントダウンこそないが、残された時間は僅かに十秒。十秒後、隣のビルに居るスナイパーはレディ・ナガンとの取引が失敗したと判断して蛙吹梅雨を殺すだろう。

そして、公安の秘匿命令は闇に葬られる。それがいつもの事だから、レディ・ナガンには公安が本気だという事が良く分かった。

 

「…急かすなよ。わかってるさ」

 

レディ・ナガンはため息を吐きながら、拳銃を取り出してその銃口を自らのこめかみに当てる。

引き金に人差し指を掛けた状態で、これで最後だとでも言いたげな憂鬱な声色で雑音(ノイズ)混じりの声に問いかける。

 

「わたしが死んだら、あの子は助けるんだね?」

 

≪ああ、約束しよう≫

 

「…嘘ばっか、あんたらが秘匿命令を知るあの子を生かしておく筈がない」

 

≪それでも君は自分だけが助かることを由としないだろう?例え嘘だとわかっていても、君は我々の言葉を信じるしかない。あの頃と同じだよ。レディ・ナガンは、ヒーローだからね。子供を決して見捨てない≫

 

最も嫌悪する相手達に自身の隅々までを知られているという感覚にレディ・ナガンの身体に嫌悪感が(ほとばし)る。

時間はない。残りは三秒。レディ・ナガンは決めなければならない。

 

蛙吸梅雨と共に死ぬか。

蛙吸梅雨を見捨てて生きるか。

 

二つに一つの結末に第三の選択を齎したのは、意外な人物だった。

 

 

 

 

()()()()()。取引をしましょう」

 

 

 

 

有無を言わせぬ声は一瞬にしてレディ・ナガンと蛙吹梅雨を()()()で包むと別の場所へと転移(ワープ)させた。

ビルの屋上には罵詈雑言を撒き散らす無線機だけが残されたのだった。

 

 

 

 

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