ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m




個性『変身』②

自分の関係ない所で世間というものは回っている。

哀しいがそれが事実であり、自らの事を主人公だと思い込むことは間違いだ。

ネットニュースを見ている時、私は特に強くそんな考えに囚われる。

昨日まで騒がれていたニュースが今日の特ダネで埋もれていく。驚愕のニュースは三日で風化し、一週間も経てば誰の記憶にも残っていない。

まるで消費期限切れの食材の様に、過去から順に棄てられていく。

 

スマホで世界的に有名な動画サイトでお気に入りの動画配信者である”ジェントル・クリミナル”の名場面切り抜きを見ようとしたら運営に削除されていた。

 

「しかし、棄てる神あれば拾う神ありです。彼には熱心なデバッカーがいますからねえ。その内、再投稿されることでしょう。それより…私としては此方の方が心配ですねえ」

 

動画サイトのお気に入りボタンをクリックすると、表示されるのはメイクで顔を隠したピンク色の髪の少女が露出度の高い衣装で飛び跳ねながら歌って踊っている動画だ。

地方都市の商店街で撮影されたその動画の少女の姿は私のタイプではないし、歌も踊りも素人レベル。

しかし、私は彼女のファンなのだ。

もっとも私が彼女の存在を知った時には、既に彼女はアイドル活動を止めていたから、私が見られるのは古い動画の中で元気に跳ねる姿だけだ。

 

私は彼女の姿形に惹かれたのではない。

彼女と”ある非合法(イリーガル)ヒーロー”が辿ったと言う都市伝説の様なボーイミーツガールが好きなのだ。

 

「運命とは、そうであるべきだと思うのですよ。”そして、少年は少女と出会う”。メンソールの煙草が甘くなる。それも偶には乙なもの」

 

喫茶店のソファに座りそんな事を言っていると、隣に座っていた居たトガヒミコがスマホを覗き込んでくる。

 

「確かに、この子、カアイイねえ」

 

「ええ、私のタイプからは外れますが、可愛らしいことは認めざるを得ません。特にこの露出度の高い衣装が良い」

 

「神父様は露出の高い格好が好きなのですね。なら、今度、オフショルダーの服を着てあげるのです」

 

「貴女の身体には欠片の興味も無いので結構です」

 

「Aラインがカアイイのが好きなのです!」

 

「相変わらず人の話を聞きませんねえ。それは悪癖ですよ。言葉の通じない人間ほど、恐ろしいものはありません。私の様に誰に対しても気さくに話せるコミュニティー能力を培う努力をしなさい」

 

「はーい、神父様!」

 

素直な返事はトガヒミコの数えるほどしかない長所の一つだが、おそらく返事だけだ。

その証拠にトガヒミコはまるで何も考えていないかのような暢気な笑顔でチョコレートケーキを食べている。

私は溜息を吐きつつクリームソーダの上に乗っているアイスを崩す。

 

私はトガヒミコが好きではない。

しかし、だからと言ってコミュニケーションを放棄するほど子供ではない。

 

「神父様!今日の仲間候補はカアイイ子がいいのです。同年代だと嬉しいなあ」

 

「残念ながら今回、義爛の紹介で会うのは三十代の方ですよ」

 

「あうー」

 

トガヒミコは身体から空気が抜けた様にテーブルに突っ伏した。

 

「お友達が欲しいのです。カアイイお友達。仲良くなって血を分けて欲しいものです。ちぅちぅ」

 

トガヒミコが唇を窄めてそんなことを言う。

 

「エリさんがいるではないですか。仲が良いと聞いていますよ?」

 

「エリちゃんはカアイイから大好きです!でも、余り血を貰い過ぎるとオーバーホールが怒るのです。それに私は同年代のお友達と恋バナとかしたい。いえ、するのです!そういう社会が来るといいなあ」

 

トガヒミコの笑顔が歪んだものに変わる。

光悦と興奮を混ぜて邪悪さをトッピングしたような笑みは正しく(ヴィラン)だった。

 

「神父様。どうすればカアイイお友達が一杯できるのでしょうか」

 

それなのにそんな普通の女子高生の様な事を言うトガヒミコには違和感しか覚えないが、私は誰かの夢を笑うような屑ではないので、一応は相談に乗ってやることにする。

 

「思いを遂げる為に必要な事は行動です。友達になりたい人が現れたら、そう伝えればいい」

 

「初対面でグイグイ行って良いのでしょうか?」

 

「行かずにどうするのです。推して押して押し込んで、押し倒したならこちらの勝ちではないですか」

 

「なるほどです!神父様、私、頑張ります!」

 

「好きにしなさい」

 

あまり興味のない会話がようやく終わった。

喫茶店に置かれた時計を見ると、待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。外を見れば既に日が落ちている。

 

「…正午に待ち合わせでしたが、流石にもう来ないようですねえ。帰りましょうか」

 

「来なかったですね」

 

「義爛には文句を言っておきますよ」

 

「ドタキャンです。それとも、彼らが待ち合わせ相手だったりしたのでしょうか?」

 

トガヒミコはそう言いながら、乾いた血が付いたナイフで喫茶店の床に転がる死体を差す。

喫茶店の中には十人ほどの死体が転がっていた。

彼らは十一時半ごろ、突然現れて襲い掛かって来た。全員から濃い血の匂いがしたので七人に正義執行した。

残りの三人はトガヒミコが殺害していた。

 

もしかしたらトガヒミコの言うように彼らの中に待ち合わせ相手は居たのかもしれない。

しかし、義爛もいい加減に私の性格については理解している筈だ。態々、殺されると分かっている人材を私に紹介するのにも飽きてきている頃だろう。

一流の闇のブローカーである義爛を信じて、あの中に待ち合わせ相手は居ないと判断して、トガヒミコと雑談していた訳だが、どうやら無駄だったらしい。

 

「…義爛に頼るのもそろそろ止めにしますか。罪人に正義執行するのは有益な事ではありますが、今は人材確保という目的を優先すべきかもしれません」

 

「じゃあ、どうするのですか」

 

「どうしましょうかねえ。こういう時はレディ・ナガンに相談するのが一番なのですが、彼女はまだ隔離部屋から出てくる様子がありませんし」

 

私はレディ・ナガンが梅雨さんを連れて帰ってきた日の事を思い出す。

 

とても不愉快そうな表情のレディ・ナガンが不安そうにしている梅雨さんを連れて帰ってきたことで慌てて駆け寄ろうとした私を、レディ・ナガン手で制しながら、驚くべきことにオール・フォー・ワンと接触したと言った。

 

そして、私がステインと涙の別れをしている間に起きた事件とオール・フォー・ワンとの会話の内容の全てを私とオーバーホールに伝えた後、オール・フォー・ワンに”何かされている”可能性を考えて余子浜市内にあるアジトの一つの地下室に梅雨さんと共に自らを隔離した。

入念なボディチェックを終えるまで、そこから出てこないと言う。

 

それが半月ほど前の話だ。

 

「何も持たずに隔離したので会話の手段がないんですよねえ。一応、地下室には充分な物資を用意しましたし、ノックをすれば返って来るので大丈夫なのでしょうが、心配ですねえ」

 

「私はまだ二人とは会っていないので、早く会いたいものです。梅雨ちゃんとお友達になれると良いなあ」

 

トガヒミコは顔を赤らめながら、そんなことを言っていた。

 

梅雨さんは優しいから、トガヒミコの申し出を断ることはしないだろう。

問題はその先で、私はあまり梅雨さんを此方側に引き込みたくはなかった。彼女は雄英高校の情報を得る為の内通者だったが、私は梅雨さんが何時でも向こう側に戻れるように線引きをしていた。

しかし、その境界線は掻き消されてしまった。

そのことでレディ・ナガンは梅雨さんを此方側に引き込んだ方が安全だと考えている様だった。

しかし、私は梅雨さんの首を斬りたくない。

だから、私は彼女にだけは人殺しをさせてはいけないのだ。

 

「ねえ、神父様。私、梅雨ちゃんと絶対にお友達になります!」

 

「好きになさい。それから、前から言っていますが私は神父ではありません。大体、この服は牧師服ですよ」

 

「牧師様より神父様の方が響きがカアイイのです」

 

「…そうですか、なら、それも好きになさい」

 

やはり私はトガヒミコが好きではない。

話していると何故だかストレスが溜まる。

レディ・ナガンの膝枕に顔を埋めて癒されたい。

しかし、今はそれが出来ないのでミルコに代わりをお願いできないか聞いてみることにしようと決めて私は喫茶店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に断罪されるべき(ヴィラン)であるムーンビーストが、ラビットヒーロー・ミルコに膝枕をされながら金曜ロードショーを見ていた頃、ウイングヒーロー・ホークスはヒーロー公安委員会本部の建物の一室で公安委員会会長である女性と何度目かになる言い争いをしていた。

 

「”フロッピー”は次世代を担うヒーローの卵ですよ。そんな彼女が、自ら灰色勢力に与することは絶対にありえませんよ」

 

ホークスの言葉に会長はテーブルに肘を付き、思案する様に口を開く。

 

「しかし、あの日の事件から二週間以上たっても連絡なし。フロッピーが裏切った可能性はあります。彼女が最後に目撃された時の情報によれば、レディ・ナガンと並んで街を歩いていたのですよ?」

 

あの日の事件。灰色勢力によるステインの奪還とムーンビーストによるステインの殺害が同日に行われた日より、公安委員会の協力者であった記号名(コードネーム)FPOPPY(フロッピー)‐蛙吹梅雨との連絡が途絶えていた。

家族への連絡もなく、公安の捜査により目撃情報が得られたのは事件から二日後、余子浜市内の中華街にて灰色勢力の一員であるレディ・ナガンと共に焼き小籠包を食べ歩きしていたというものだった。

その様子はまるで姉妹のようだったと記録されている。

 

その情報のみを一見すれば、蛙吹梅雨が灰色勢力に寝返ったのではという懸念は一考の価値がある。

だが、しかし、とホークスは机を叩いた。

 

「フロッピーの願いは真っ当なやり方でレディ・ナガンを救う事でしたッ!そんな子が、(ヴィラン)に与する筈がないでしょうッ!」

 

「…それすら、私達を騙す為の演技だったとは考えられませんか?」

 

「彼女が三重(トリプル)スパイだったとでも、言いたいんですか?」

 

「その才能があると、私は考えていますよ。ホークス、貴方の言う通り、あの子は優秀でした」

 

どこまでも冷静な物言いを崩さない会長にホークスは苦虫を潰したような表情を浮かべるが、それを隠すように片手で顔を覆う。

そして、一呼吸置いた後は落ち着いた声色で話す。

 

「あの事件の日、俺はフロッピーに自宅待機を命じていました。しかし、周囲であの子に似た少女を見たと言う目撃情報があります」

 

「…それは何処で得た情報ですか?」

 

「俺は視野が広いんですよ。警察や公安がいた筈なのに、あの子は警備の内側に現れていた。まるで誰かに手引きされたかのように、ね。これはどう説明するつもりで?」

 

ホークスの射抜くような視線に会長は組んでいた手をテーブルへと下ろしながら、ホークスの目を見る。

そして、伝わってくる強い感情に臆することなく口を開いた。

 

「貴方にまだ伝えて居なかったことがありましたね」

 

それはヒーロー公安委員会の抱えていた恥部。

 

それはあの事件の日、蛙吹梅雨に下っていた緊急時の出動命令。

 

それを聞いたホークスは絶句した。

 

「あの子に協力してもらうのは、情報提供のみだった筈でしょう」

 

学生の身分である蛙吹梅雨を公安として現場に出すなんてありえない。ホークスの指摘はもっともだった。こんなことが世間にバレれば公安という組織の信頼は根幹から揺らぐ。

会長である女性の立場が悪くなることも言うまでもない。

故にそれは会長である女性の命令系統を通さず下されていた命令だった。

 

「目的は私の失脚。画策したのは前会長派閥の誰かだと、考えていました」

 

「あの子は大人たちの権力争いに巻き込まれた?…そんなことがあっていい筈がッ———

 

「そうだったなら、まだよかったでしょう」

 

———どういう意味すか?」

 

会長である女性の失脚を狙う前会長派閥。

それは確かに存在した。

しかし、”した”という過去形だった。

 

ヒーローを使い潰すことで社会の平穏を守っていた前会長のやり方に反感を持っていた現会長である女性は、公安委員会の内部浄化の為、前会長派閥の人間の大半を地方の支部へと飛ばしていた。

本部に残った前会長派閥と呼べる人員は僅かに数名程度であり、大それたことをする力はなかった。

 

「調査の結果は、”私の失脚を狙う前会長派なんて居なかった”。公安内部にフロッピーへの秘匿命令を下した人物なんて、居なかったのですよ」

 

会長の言葉にホークスはまたしても言葉を失う。

その話が本当だとするなら、蛙吹梅雨はありもしない命令に嵌められたと言う事になるが、それは無いとホークスには言い切る事が出来た。

 

公安が優秀な人材に対して未成年の内から根回しをする事例は数えるほどしかない。

その全ては学生時代のレディ・ナガンや子供時代のホークスなどの喉から手が出る程に欲しい人材に限られている。

蛙吹梅雨は決して中学時代に灰色勢力の主要メンバーと接触した経験だけで公安に迎え入れられた訳ではない。

レディ・ナガンの後釜としてホークスを迎え入れたように、会長である女性がホークスの後釜として迎え入れたのが”フロッピー”だったのだ。

 

そんな蛙吹梅雨が”ありもしない命令”に易々と嵌められる筈が無いとホークスは思う。

そもそもとして蛙吹梅雨に下される命令は全てホークス自身か、もう一人の連絡役である公安委員‐目良善見が伝える事になっていた。

それは二重(ダブル)スパイという蛙吹梅雨を軋轢や誤解から守る為の決まりであり、また情報漏洩を防ぐための措置だった。

 

だというのに、蛙吹梅雨は二人以外の誰かから伝えられた命令を易々と信じるだろうか。

そんな疑問に対する答えをホークスは即座に出してみせた。

 

「変身の『個性』を持った何者かが、俺か目良さんに化けてフロッピーを騙した?」

 

ホークスの言葉に会長も頷く。

 

「私も表向きはフロッピーの裏切りを信じる振りをしつつ、その可能性を考えて調査しています」

 

「…どうしてそれを早く俺に教えてくれなかったんです」

 

「私と貴方の対立が”何者か”へのカモフラージュに成ると考えました」

 

会長の発言にホークスは頭を掻いて舌打ちをする。

ヒーロー公安委員会会長の地位は伊達ではない。

会長はホークスすら欺きつつ、ヒーローの卵が内に秘める輝きを信じようとしていた。

 

「何者であれ、相手には公安の奥部にまで侵入を果たせるチカラがあります。只の愉快犯ではないでしょう」

 

「確かに一個人に出来る範疇を越えている。けど、こんな大それたことが出来る(ヴィラン)組織なんてあるんですか?」

 

「この国の暗部に潜む”闇の帝王”」

 

「”オール・フォー・ワン”。しかし、それは既にオールマイトが打ち倒した筈だ。再起不能じゃなかったでしたっけ?」

 

「”神の如きチカラ”でも再起不能(リタイア)にしか追い込めなかったと言うべきなのでしょう。だからこそ、次は組織(ひと)の力で闇の帝王を討たねばなりません」

 

大それたことを言う人だとホークスは思った。きっと顔にも出ていただろう。

しかし、会長である女性の鉄面皮は変わらない。

ホークスはヒーローになってから、彼女の鉄面皮が崩れるのを見たことが無い。まるでロボットの様な人間だと陰口を叩く者もいる。

 

しかし、ホークスは公安委員会の幹部の一人から聞いていた。

 

 

『表のヒーローが紡いだ希望を、誰かを使い潰すことにより維持することを選んだ前会長の後ろで、彼女は常に顔を歪めていたよ』

 

 

「ホークス。力を貸してくれますね」

 

「モチロンです。会長」

 

 

 

 

 

 

 

 

出会いというものは人を良い方にも悪い方にも導くものだ。

例えばムーンビースト。彼が裁判所の前で誕生する以前に”鳴羽田のヴィジランテ”と呼ばれる鉄拳制裁男と出会っていた場合、どうなっていただろうか。

”スタンダール”を名乗ったヴィジランテが血痕の道標(しるべ)を得て(ヴィラン)に成った様に、道は違えど変わらず(ヴィラン)に墜ちていただろうか。

あるいは殺人という最後の一線は越えずに罪人を私刑(しけい)にする”気分はヒーロー、客観的には(ヴィラン)”である非合法(イリーガル)ヒーローになれただろうか。

過ぎたことに”if(もしも)”は無い。

 

しかし、蛙吹梅雨はまだヒーローに成れる。

 

 

 

そして、”本来”よりも少しだけ早く黒幕と出会っていた少女は光悦と興奮を混ぜて邪悪さをトッピングした様な笑みで笑う。

 

「梅雨ちゃん。カアイイお友達」

 

トガヒミコはムーンビーストに嘘を吐いていた。

トガヒミコは既に蛙吹梅雨と顔を合わせていた。

その時のトガヒミコの顔は目良善見であったから、蛙吹梅雨がそのことに気が付くことは無い。

 

「はやくまた会いたいのです」

 

裏切り者は誰だ?

 

”オール・フォー・ワン”の魔の手は、ゆっくりとムーンビーストに伸ばされていた。

 

 

 

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