ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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個性『テレパス』

林間合宿二日目、灰色勢力。完全勝利。

 

そんな有り得もしない幻想を宣言した所で、私はヘリの機内でパラシュート降下の準備を始める。

 

「神父様。なにしてるの?」

 

私の横で「教師って大したことないのです」なんて頭が足りないとしか思えない発言をしていたトガヒミコにも無理やりパラシュートを装着する。

確かに世の中には尊敬に値しない人間なのに教職に就く力不足もいるだろう。しかし、雄英高校の先生方に限れば、尊敬せざるを得ない人達ばかりだと言い切れる。

特に相澤先生‐イレイザーヘッドの戦闘経験は段違いだ。

元々、雄英高校ヒーロー科を卒業後、サイドキックをすっ飛ばして個人事務所を立ち上げ、独立独行(スタンドアローン)のアンダーグラウンドヒーローになった天才だ。

私では戦闘経験の差で敵わないと言わざるを得ない。無論、それは雄英高校の先生方全員に言えることではあるのだが、他の先生方には『個性』でのごり押しが効くが、相澤先生相手ではそれも無理だ。

だからあの日、余子浜スタジアムでは相澤先生と並ぶ格闘技術を持つステインに相手をお願いしたのだが、悲しすぎる事にステインは故人となってしまった。

 

ならば、私は策を弄する他にない。

その為の人質。

その為のトガヒミコの『変身』という個性。

しかし、それも全て後手で対処されるという確信がある。

 

そんな私の予想通り、衝撃と共にヘリが揺れた。

 

「きゃあ!?」

 

トガヒミコが可愛らしい悲鳴を上げた。

窓から顔を出してプロペラを見れば、”土くれ”がプロペラの回転を弱めていた。

このヘリはあと数分も持たずに墜落する。

 

「な、なんなのです!?」

 

「あの場にプッシーキャッツのメンバーがいなかった時点でわかっていましたとも、流石は相澤先生。合理的に万全を期していましたか」

 

このヘリが遠隔操作で飛んでいることは目が良いものが見ればすぐにわかる。一応、操縦席にはダミー人形を置いてはいるが、そんなものは彼女の個性『サーチ』の前では無意味だろう。

このヘリに乗っているのは私とトガヒミコだけ。

なら、ヒーロー達が手加減をする理由は何も無い。

 

「トガヒミコ。飛び降りますよ」

 

「ぐえッ」

 

私はトガヒミコの首根っこを掴んで返事も待たずにヘリから飛び出すとトガヒミコを遠くへと放り投げる。

 

「や、やだ!待ってよ!神父様!私ッ、パラシュートの使い方ッ、聞いてません!」

 

「アハハ!どうにかしなさい。どうにもならなければ転落死体になるだけです。正直、私はそう成っても困らないッ!」

 

「なッ!?ば、バカー!!」

 

遠ざかっていくトガヒミコ。

数秒後、無事にパラシュートが開いていたので問題は無いだろうと一応、安心する。

そして、私は地上へと目を向ける。

 

「さて、四対一ですか。流石に厳しいですが、今は喜びが優っている。生で見るのは初めてなのですよねえ。マンダレイ」

 

私は地上で待ち受けているだろうヒーローに期待で胸を躍らせながら、降下していった。

 

 

 

 

 

 

地上へ降りた私を待っていたのは予想の通り”ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ”のメンバー達だった。

森林の中でぽっかりひらけた場所。其処だけ高木(こうぼく)が無く日の光が入る場所のことをある地方ではゾレやソレと言うらしい。

そんなことを思い出す。

 

重要な局面でそれ以外の事を考える行為は逃避だ。逃避してしまう程、私は確かに窮地(ピンチ)だった。

 

視線の先に私的に魅力的な女性ヒーローランキング現在三位の”マンダレイ”と筋骨隆々の元女性な”虎”が並んで立っている。

その二人の後ろにいるのは長い金髪に勝ち気な美貌がよく似合う”ピクシーボブ”。

そして、一番後ろには全てを俯瞰できる位置に居る個性『サーチ』をもつ大きな瞳の”ラグドール”。

今年で活動12年目に突入するヒーローチームの前衛中衛後衛(パーフェクト)を前には笑うしかなかった。

 

彼女たちは一様に真剣な眼差しで私を睨みつけている。

 

「怖い顔ですねえ。プッシーキャッツの代名詞であるキメポーズが見られるのではと期待していたのですが、そういう空気でもないようだ」

 

笑う私にマンダレイが挑発するような笑みが返される。

 

「悪いけど、アレはイイ子たちへのファンサービスなの。悪い子には見せられないわ」

 

「それは残念でなりません。是非、貴女の煌く眼でロックオンして欲しかったというのに…あは、アハハ、アハハ!諦めて役目を果たすと致しましょうッ!」

 

四対一という圧倒的な不利。囲まれてしまえばどうしようも無くなるだろう。

勝機は先手必勝のみと考えて、私は両足にギロチンを形成。ギロチンの刃を地面に落とす反動でマンダレイと虎に向かって跳ぶ。

 

「ねこねこねこ!させないけどねッ!」

 

ピクシーボブが特徴的な笑い声と共に地面に両手を突く。彼女の個性は『土流』。土くれを操る事が出来る。

私の目の前に巨大な土の壁が作られる。

 

壁を粉砕しての突貫か、あるいは横や上へ跳んで避けるかを一瞬だけ考えて私は上への跳躍を選んだ。

 

壁を越えて跳躍する。

開けた視界。

其処には当然の様に虎が居た。

 

「キャットコンバット!」

 

正義執行(ジャスティス・ジャッチメント)!」

 

壁の上の僅かな足場での格闘戦は個性『軟体』を持つ虎が有利だった。

何発か有効打を喰らって壁から突き落とされる。

 

突き落とされた先にはマンダレイが待ち受けていた。

 

「いらっしゃい!」

 

「お邪魔しますッ!」

 

虎の個性『軟体』を用いたキャットコンバット程では無いが充分に鍛え上げられたマンダレイの打撃が襲いかかる。

プッシーキャッツの共通コスチュームである猫耳ミニスカートから繰り出される踵落とし。

絶対領域内に目を奪われかけるのを洸太君を思い出して何とか堪えながら戦っていく。

猫の手グローブから伸びる爪をギロチンの刃で弾く。追撃を蹴撃し、肘打ちを打ち込めばマンダレイの姿勢が崩れた。

四対一の不利を少しでも埋める為、まずは一人でも気絶させようと繰り出した顎打ちは、しかし、直接脳内に聞こえてきたマンダレイの嬌声(きょうせい)で力が抜けて外れる。

 

(あんっ、まって)

 

「んな!?」

 

マンダレイの個性『テレパス』は私には分かっていても避けられない攻撃だった。

 

「なに照れてんの。ウブね」

 

猫の手グローブの爪で胴体を裂かれる。

四本の傷が私の身体から鮮血を散らした。

 

地面を転がり距離を取る私の背後で猫の着地程の小ささで虎が壁から降りて来た音がした。

ピクシーボブは地面に手を突いたまま機を伺っている。

ラグドールの目は私を捕らえて離さない。

 

「…窮地と呼ぶにも生温い」

 

私は気丈に振舞いながら立ち上がる。

最初から解りきっていた事だが、私とプッシーキャッツのメンバーとでは相性が悪すぎる。

山岳救助を主にする彼女たちは言うまでもなく人を殺めた事など無い善人だ。この時点で私の個性『ギロチン』は切れ味が包丁程度にまで下がると言うのに、更に四人の内の三人が私の好みである年上美人だ。

 

「オールマイト相手ですら、こんなにも戦い難くはなかった」

 

それすら計算に入れて林間合宿を組んだとするなら、恐ろしすぎる。あるいはこの林間合宿で私が来ることを予想して、私を捕らえようしていたのではないかとさえ考えてしまう神算鬼謀。

私の脳内の根津校長が「HAHAッ」と笑いながら手を振っている。

世界一恐ろしいネズミだと思った。

 

「降参する気になったかしら」

 

マンダレイがそんな事をいう。

その美貌に頷きかけて、洸太君を思い出して頭を振る。

 

「あの子から貴女を奪う気にはなれません」

 

「…何を言っているのか、わからないんだけど?」

 

「そして、それ以上に滾る思いもあるのです」

 

そうだ。洸太君。

私は洸太君を思い出す。

 

彼は、()()()()()()()()()()()()()()()(・ )()

理不尽を前に泣くことも出来なかった子供。

私はそんな子供の居ない世を作りたくて正義を掲げた。

”復讐という名の正義”。

オリジン(始まり)はまだ手に届く場所にある。

私はそれが許せない。

私はまだ何も成しえていない。

 

「…世界は未だ悲劇で満ちている」

 

私の纏う空気が変わる。

それを察したプッシーキャッツのメンバーが一歩下がるのが見えた。

ならば、私は踏み込むべきだろうと考えて足をだす。

 

踏み出した足は土中へと埋まった。

ピクシーボブに視線を向ければ、彼女は喉を鳴らしながら此方の様子を窺っていた。

私の周囲の土が耕され水分を含んでいる。

田植えをした事のある人なら解るだろう泥の中に足を突っ込んでいる感覚。この地面の状態では、ギロチンの反動で移動することも出来ない。

 

「ねこねこねこ、…この使い方はえっぐいから、あんまりしないんだけどね。アンタ相手なら、やらせて貰うわよ」

 

踏み出した足とは反対の足も自重によりズブズブと土中へ埋まっていく。田圃(たんぼ)どころではない底なしの沼がピクシーボブの個性により創り出されていた。

 

「…始めから此処に私を追い込むことが目的でしたか。流石の連携だと称賛する他にありません。流石はプッシーキャッツ。流石はプロヒーロー」

 

私の素直な称賛にマンダレイは顔を顰めていた。

 

「追い詰められてるのに、随分と余裕じゃない」

 

「強がりですよ。魅力的な女性の前で格好を付けたい男心をどうか理解していただきたい。そして、同時にわかってほしいのです」

 

「信念とかの話かしら?悪いけど、私は子供じゃないの。それで揺らぐ程度の気持ちでヒーローをやってる訳じゃないのよ」

 

「私の事を分かってほしいなどと、どの口で言えましょうか。私は理解を求めません。それはもう止めました。あの余子浜の夜に私の思いが香山先生に届かなかった時点で、真摯に伝えても届かないと痛感しましたからね。故に私ではありません」

 

私は金眼を薄く開きながら、マンダレイという美しい女性を見る。

 

「マンダレイ。貴方にはどうか洸太君を任せたいのです」

 

私が口にした名にマンダレイが息を呑んだのが聞こえた。

 

「彼は子供だ。揺らいでしまう。しかし、私は彼には此方側に来てほしくはないのです」

 

「どう、して…」

 

「彼の復讐は私が遂げるから、彼に人を殺して欲しくは無いのです」

 

「どうしてッ、洸太の名前がでるのよ!」

 

「マンダレイ!落ち着け!」

 

私の方へと飛び出そうとしたマンダレイを虎が止める。

そうこうしているうちに私は膝まで底なし沼に呑まれていたが、気にする素振りを見せずにニッコリと笑う。

 

「洸太君に是非伝えて頂きたい。私などではない。君に道を示すヒーローに出会える日が来ると‐」

 

そう言い残して私は底なし沼に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

「…」

「…」

「…」

「…なんなの、アレ」

 

プッシーキャッツ四人全員の気持ちを代弁したのはピクシーボブだった。

 

ピクシーボブの個性『土流』。その奥の手の一つである底なし沼は、土くれを獣の形に固めて操る土魔獣ほどの派手さは無いが、えげつなさでは数段上だ。

底なし沼にハマれば抜け出そうと足を動かしても足は流砂に食い込み空気の入り込む余地がなくなり、只引っ張るだけでは足と泥の間が真空状態になり強い力で足を引き込む。だから、片足を抜くだけでも小型車一台を持ち上げる力が必要だと言われている。

 

そんな攻撃に晒されても慌てることなく、なんなら笑いながら底なし沼に呑まれていった男。

最後に突き出した右手のみが泥から突き出している光景はシュールだが、笑いの前に引いてしまう。

 

「…マドハンドにゃん」

 

ラグドールが賢明に場を支配する得も言えぬ恐怖を拭い去ろうとポツリと漏らすが、やはり笑えない。

 

アレは人の触れて良いものでは無かったのだと四人は諦めて今後の動きを確認する。

 

「泥の中じゃ三分も持たない筈よ。あと少ししたら、死んじゃう前に引っ張り出しましょう」

 

「その役目は我がやろう。マンダレイはイレイザーヘッドとブラドキングに連絡をしてくれ」

 

「ええ、わかったわ。けど、その、洸太が心配なの。ラグドール、悪いけど、お願いできないかしら」

 

「うん。任せてほしいにゃん」

 

ムーンビーストという脅威を排除し、これからの動きを確認しているその時だった。

 

轟音が森を揺らした。

 

 

「主よおおおおオオオオオオオオッ!」

 

 

凡そ人の声とは思えぬ大音量と共に森は揺れ、そして燃え始める。

それと同時に辺りには黒煙の他に白い煙も充満し始めた。

 

「な、なにが起きてるのッ!」

 

ピクシーボブの叫びの答えは聞こえる筈の無い崖の上で一人の(ヴィラン)が呟いた。

黒髪に焼けただれた皮膚の男。

(ヴィラン)名‐荼毘は楽し気に顔を歪ませながら、辺りに集う仲間たちに向けていう。

 

「イカレ女からの合図があった。(ヴィラン)連合、開闢行動隊。さあ、好きにやろうぜ」

 

 

 

本来の予定は前倒しされ、未だ眠りについていた筈の歩く災害も動かされた。

この国のヒーロー社会の崩壊を語る時、必ず一ページ目とされる事件が今から始まる。

 

 

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