皆様の暇つぶしになれているようで嬉しいです(^^)
少し短いですが、キリのいい所で投稿させて頂きます。
また、この文の主人公は所詮は危険思想を持つヴィランです。
不快に感じる表現等もあると思いますが、御容赦頂けると幸いです
m(__)m
『“
「…朱の貴婦人。ああ、正体は貴女だったのですね。知っていますとも、ガトリング・ソンどころの話ではない。よもや…よもやッ、貴女程のヒーローが何故ッ、
ダークブルーとピンクの長い髪を束ねた美女。ヒーロー‐レディ・ナガンの事を私はよく知っていた。無論、それは
私にとっての女神である女性に、あるいは並び立つほどに、俗物的に言ってしまえば、レディ・ナガンの外見は私好みだった。
「…だから、正しくあって欲しかったのに、なんですかねえ、この血の匂いは!レディ・ナガンッ!貴女は一体、何人殺したッ!」
溢れ出る感情のままに言葉を紡ぐ。この時ほど、私の血の匂いを嗅ぎ分ける鼻が花粉症にでもなっていてはくれないかと思ったことはない。しかし、そんな私の願いも虚しくレディ・ナガンは美しい顔を寂しげに歪ませながらに言う。
「二十九人」
私は言葉を失う。
「忘れもしない。私はこの右手で、二十九人の人間を殺している。ねえ、あんたは私を知っているようだけど、私もあんたを知っているよ。なあ、ムーンビースト、あんたの主張じゃあ、人殺しは死ななきゃいけないんだろ?…いいさ、殺してみなよ」
レディ・ナガンの右腕のライフルの形状が変わる。スコープが消えて銃身が短くなった。
おそらくあれが近距離対応型のライフルなのだろう。
「それが出来なきゃ、あんたで記念すべき三十人目だ」
「…それほど、とは…ああ、何故どうしてなどと、
私は右腕を真っ直ぐに伸ばしギロチンの刃をレディ・ナガンに向けて立てる。
「………」
「………」
レディ・ナガンの銃身は既に私の方向を向いている。対して私にも彼女の首を刈る準備が出来ている。どちらかが
これは何だと
この雑多な世界には、
「…ガトリング・ソン、というヒーローを知っていますか?」
「ああ?」
レディ・ナガンの顔が訝し気に歪む。なんとまあ、格好がいいのだと思いながら、言葉を紡ぐ。
「知らぬとしても責めはしません。彼は貴女と違い
「…殺したろ、あんた、見てたよ」
「ええ、彼は人を殺していた。だから、殺した。私は、好きでも殺すのですよ。だから、問題は其処にありません。問題は、ここ、ここなのですよ。レディ・ナガン」
そう言いながら、私は左手の掌を自分の胸に当てる。掌から五月蠅いほど心臓の鼓動を感じる。
「やはり、勘違いなどではない。動悸が激しい。私の胸にある正義の心が、貴女を殺すなと言っている。
「…ッ…せ」
「なんですか?」
「…うるせえッて、言ってんだッ」
レディ・ナガンの眼に戦意が滾る。これでは駄目だと私は
「…違うのです。そうではない」
ライフルが火を噴く前に距離を詰める。もちろん、レディ・ナガンは突撃への対処をする。
突撃の勢いを両腕で殺し後ろに流される。決定打を残せないまま交差は終わり、後ろへと抜けた私は背後からの死の気配を感じる。形を変えたレディ・ナガンの右手のライフルが火を噴いた。私はそれを目視しないまま右手のギロチンで振り払う。
其処でようやく振り返る。レディ・ナガンは悔し気に顔を歪めていた。
「その
「チッ、危機感知能力。本当は個性複数持ちなんじゃねェのか!」
「違います。…そうではない。………あるいは…」
「しゃらくせぇ!」
次いで払われる弾丸はギロチンで振り払う必要すらない。首を傾ける事で脳天への一撃を避ける。レディ・ナガンの顔に驚愕が浮かぶ。
「…クソッ、なら、どうして、当たらねェのさ」
「だから、そうではないのですよ。レディ・ナガン、私が避けているのでは、ない。
「………は?」
レディ・ナガンの顔から、表情が抜け落ちた。ただ茫然と私を見る彼女に、自分でも気が付いていなかっただろう真実を伝える。
私はようやくに気が付けた。そもそもレディ・ナガンほどのヒーローが私を殺し切れずにいる時点で、これは気が付いて然るべき事柄だった。
「そもそも、どんな弾でも作れる個性を持ちながら、何故ずっと同じ弾ばかりを撃っているのですか?散弾は、スナイパーとしてのプライドが許しませんか?いや、それどころか、曲射や跳弾すら無いのは?貴女が私を殺さんとした弾はカラスを堕としたアレが最後だった」
「………んな、わけ、ねェよ」
「ビルの向こうから感じた殺意は本物でした。あれらは致命傷こそ負いませんでしたが、私の身体に傷を負わせた。しかし、今の貴女は、まるで怖くない」
「ふざ、けんなッ!もう勝ったとでも!?そんなわけがねェだろ!私の弾はッ、あんたに届くッ!」
「では…撃ちなさい」
私は両の手を広げて、眼鏡の下の目を薄く開く。
「銃口を私の心臓に向けて、放つのです。私は動かない。この距離で動かない的に当てるなど、子供でも簡単なこと。さあ、レディ・ナガン。私の心臓はここですよ。ここです。…正義の心は、此処に有る。………さあッ!撃ちなさいッ‼」
「あ、ああ、嗚呼アアアアッ!」
そうして、引き金は引かれた。しかし、私は変わらず立っていた。レディ・ナガンは泣きそうな表情で私を見ていた。その顔を見て心臓は五月蠅いほどに未だ動いている。
私は深く理解した。やはり、この世界にもう神はいない。もし居るとするのなら、彼女の弾丸は私を打ち抜き、彼女を悲しませずに済んだはずだ。
「くそ、くそッ、どう、してだよ。なあ、どうして…ここで、
“彼女は私を殺したくなかった”。
無論、これはそんな愛に満ちた結果ではない。
「………なあ、ムーンビースト。…もう、殺して」
彼女は私に殺されたかったのだ。
「…レディ・ナガン。もう疲れましたか?公安直属のヒーロー業は」
「…ははッ、血の匂いがどうとか言ってた癖に、なんだ、知ってたのかよ」
「友人が色々とヒーローに詳しいのです。彼はある種のオタクでして、そんな彼が言っていたのを思い出しました。貴女は、“合格”だと。かつて本物のヒーローが築き上げた平和を守る為に血に染まっているのだと」
今の社会はヒーローへの信頼によって成り立っている。だからこそ、ステインは贋物のヒーローが存在することを決して許さず、
そして、レディ・ナガンはそれが
しかし、どれほど優秀な歯車だとしても、いずれは摩耗し擦り減っていく。レディ・ナガンはそろそろ限界だったのだろう。
其処に私が現れた。
“狂気のムーンビースト”。
正義の徒である私としては
始めは何時も通りに
死に場所を与えられた。と———
遠距離が専門のヒーローが近距離を得意とする
「………」
気付かなければ良かったのかと、思う。何も気づかずに彼女を殺していることが、正解だったような気もする。私の正義は彼女を殺せる。
だから、殺せる。今、この瞬間も私は平和の為の礎となった被害者の為に加害者である彼女を殺せる。復讐という正義の元に天秤の傾きを引くことで正すことが出来る。
———だが、しかし、はたして、それで復讐は終わるのだろうか。
加害者であるレディ・ナガンを殺しただけで、被害者の無念は晴れるのだろうか。
レディ・ナガンに殺人を
ならば、私の復讐という正義は彼女を殺しただけでは、まだ足りない。天秤の傾きは直らない。
ならば、今はまだ正義執行の時間ではない。
「レディ・ナガン。私と
「…あんた、この期に及んでも狂ってるよ」
「
私は踵を返して屋上の出口へと向かう。レディ・ナガンは少しだけ考えた仕草をした後に、何も言わずに私の後に続こうとして———
≪…ザァ…ザァ…≫
———私の耳が何かの雑音を拾った後に突然、動きを止めた。
「…ッ、なあ、ムーンビースト。その支部ってのは、どこだ?…此処から、見えるかな」
「ええ、あそこですよ」
レディ・ナガンに問われた私は【正当なる樹】の支部を指さす。
「…よく、見えないよ。…どこ、かな?」
レディ・ナガンがビルの端へと歩いて行くので私もそれに続いてビルの端に立つ。
レディ・ナガンはなぜか、いたずらっぽく笑いながらに私を見て言う。
「ねえ、どこ?」
私はその美しさに惹かれるままに身を乗り出すように指を差した。
「あそこに見える建物で———
そして、ビルの屋上から突き落とされた。
落下していく空中で私は残念ながら自らの生存を諦める。私の個性に、この状況を打開できる能力は無い。
私の個性はギロチンの刃を地面や壁に落とす衝撃で跳ぶことは出来ても飛ぶことは出来ない。そして、形成するギロチンの刃の長さには制限があり、ビルの壁にギロチンの刃を突き立てようにも壁と離れすぎていて出来ない。
見事な手際だと私はレディ・ナガンを心の底から称賛する。銃弾により私の命が獲れずとも、よもやこのような方法で私を殺すとは思わなった。卑怯などという気は微塵も起きない。
彼女はヒーローとして、搦め手を用いてでも
———しかし、突き落とした私を見る彼女の顔からは、笑顔が消えていた。
これは、駄目だ。そんな顔のレディ・ナガンを残して私は死にたくない。
しかし、私の死はもう直ぐに其処だ。それを見届けることなく視界から彼女の姿が消えた。
「…まだ…まだだ…まだッ、終わらんよッ‼」
そんな強がりを言ったところで地上はすぐ其処に迫っている。私は死んだ。
その刹那に聞きなれた溜息が聞こえた気がした。
「…ハァ…」
月の獣は地面に堕ちた。ビルの端から踵を返して屋上の出口へと向かいつつ右手を眺めるレディ・ナガンの耳に通信が聞こえて来る。
≪よくやった、レディ・ナガン、直ぐにその場から離れるんだ。ムーンビーストが暴れた所為で事態を穏便に終わらせることは出来なくなった。すぐにヒーローや警察がやってくるぞ。姿を見られては、面倒が増える≫
「…了解。それで、残る標的はどうする」
≪その場を離れた後、支部へと向かい消すんだ。…其方はせめて、穏便に頼むよ≫
「…それは私への嫌みかよ」
≪いや、お願いだよ。
「………ああ、勿論だよ。会長」
運命がレディ・ナガンとムーンビーストを引き合わせた。しかし、人間とは運命を切り開くことが出来る。たとえそれが救いの無い道だったとしても、切り開き歩くことが出来てしまう。
ムーンビーストの言葉と行動はレディ・ナガンの心を動かしかけたが、まだ少しだけ足りなかった。たぶん、十代特有の青臭さとかそういった類のものが足りていなかった。
闇は晴れず。彼女はまだ救いを待っている。
この文は頭の中のプロットを都度、書き出しているので申し訳ありませんが、不定期更新です。
代わりにもし要望があるキャラが入れば登場させられるかもしれません。(登場させられるとは言ってない)
暇があれば感想などに残してみてください。
また一話にて不適切な表現があったことを謝罪いたします。
該当部分は修正させていただきました。今後、不快な思いをされる方が出ないように最大限の努力をさせて頂きますので、よろしければ作品を楽しんでいただけると幸いです。