ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです。

描写が細かく切り替わりま。
文章力不足ですみませんm(_ _)m



個性ではなく『ギガントマキア』

 

横浜市神野区にある繁華街の一角。

会員制のバーに偽装された場所に死柄木弔は居た。

カウンターに置いたチェス盤の上で黒のキングの駒を人差し指で揺らしながら、考えるのは敵連合開闢行動隊についてだった。

死柄木が組織し動き始めた新たな9名の(ヴィラン)

彼らが行動を開始したと先ほどスマートフォンにメッセージが届いた。

 

【件名:やっちゃうのです】

【本文:(^_-)-☆】

 

ふざけたメッセージは死柄木が初対面でガキと罵った少女の(ヴィラン)‐トガヒミコからのものだった。

死柄木が”先生”と呼ぶ存在‐オール・フォー・ワンからの命令で灰色勢力へ潜入していたトガヒミコは自らの役目をしっかりと果たしている様子だった。

そのことに先ずは驚いた死柄木だったが、ならば俺も続かなければと素直に思えることは彼の数少ない長所の一つだった。

 

「USJじゃ、やられるだけだったが、次は上手くやる。RPG(ロールプレイングゲーム)じゃ勝てねえが、SLG(シミュレーションゲーム)なら、格上も狩れる。むしろそれが醍醐味だろ」

 

死柄木は黒のキングの隣に白のキングを並べる。

 

「”オールマイト”と”ムーンビースト”。二人同時はまだ無理だ。まずは”ムーンビースト”から狩る。場所はトガが整えた。時間は開闢行動隊が創り出す。あとはジョーカーがあればいい」

 

死柄木は白のキングを盤上から外して、黒のキングの前に将棋の角将を置く。

ジャンル違いの最強の駒。

さらに死柄木は角将に飛将を重ねる。

それは少なく見積もっても”ムーンビースト”二つ分の暴力(チカラ)を持つ存在を、ムーンビーストにぶつけてやろうという考えの表れだった。

 

「先生。力を貸せ」

 

死柄木はバーの壁に埋め込まれたテレビに向かって話しかける。

テレビの画面に映る”先生”は教え子の成長を喜ぶ様に笑いながら、頷いた。

 

「正解だよ。死柄木弔。ギガントマキアを動かそう。僕に忠誠を誓う最強の駒だ。ただ彼は僕の言う事しか聞かないから、君の仲間にも危険が及ぶかも知れない」

 

「大丈夫さ。アイツらは強いから」

 

「そう、なら心配は要らないね。ギガントマキアに命じるのはムーンビーストの殺害だけだ。後は君が上手くやるんだ」

 

「ありがとう、先生」

 

死柄木は怪しく笑う。

こうして最悪の林間合宿は始まった。

 

 

 

 

 

 

プッシーキャッツのマタタビ荘。

雄英高校ヒーロー科1年A組、待機場所。

 

心の引っ掛かりというものは精神を苛むものだ。その棘が小さければ小さいほど心臓に食い込む様なささくれた痛みを与えてくると爆豪は舌打ちをしていた。

 

ムーンビースト(憧れ)との再会は唐突に訪れ、突然に終わった。言葉を交わす暇も無ければ目を合わせることすら出来なかった。

 

『…それから、A組の轟焦凍君、緑谷出久君、障子(しょうじ)目蔵(めぞう)君。B組の鉄哲(てつてつ)徹鐵(てつてつ)君、骨抜(ほねぬき)柔造(じゅうぞう)君、拳藤(けんどう)一佳(いつか)さん。貴方達も動かないでいて頂きたい』

 

ムーンビーストが口にした名前の中に自分の名前が無かった事。それが何より爆豪を苛む。

”俺を見ろ”という気持ちが一方的なモノである以上に自尊心を傷つけることがあるだろうか。

否、故に爆豪の感情は爆発する。

 

「チッ、俺らは何時まで此処で待機してりゃいーんだッ!」

 

爆豪が椅子を蹴飛ばしながら、苛立ちを露わにする。

それを咎めたのはA組の委員長である飯田天哉だった。

 

「備品は大事に扱いたまえ!」

 

この状況下では何処かズレている様な指摘の後に至極真っ当な言葉が続く。

 

(ヴィラン)の襲撃があったんだ。合宿の中止は当然。安全の確認が済むまで、僕らは先生方の指示に従うしかない。…蛙吹さんの安否も不明なんだぞ。先生方の手を煩わせるのは、止めてくれ」

 

終始真剣な表情で咎めてくる飯田に対して、爆豪は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらに引き下がるしかなかった。

何よりも蛙吹梅雨という女生徒の事が心配だと語る飯田の言葉はA組生徒の総意だった。

勿論、爆豪だって心配していない訳ではない。

しかし、心の中で爆豪はムーンビーストにある種の信頼を抱いてもいた。

 

ムーンビーストはむやみやたらに人を傷つけはしない。

蛙吹梅雨は無事だろう。

 

そんな思いがあるからこそ、爆豪は安全が保障されている室内ではなく、外へと目を向ける。

 

ムーンビーストの出現は爆豪に預言めいたモノを与えている。

 

舞台装置が動き出した感覚。小説の章が切り替わりの(ページ)を待っている。

あるいは”悪い予感”と言ってもいいのだろう。

兎も角として爆豪はこう思う。

 

(あの人が動いたなら、なにかある筈だ)

 

その思いに応えるように(ヴィラン)は現れる。

 

初めのうちはその足音はA組担任教師である相澤消太のモノだとほぼ全員が思っていた。

近づくにつれて違和感を覚えたのは聴覚に特化した個性を持つ数人。

そして、部屋の扉の一番近くにいた爆豪だった。

 

乱暴な音を立てて開かれる扉。

現れたのは相澤とは似ても似つかない焼け爛れた皮膚を持つ黒髪の男だった。

 

「お、ターゲット発見。取り合えず生焼けにするか」

 

(ヴィラン)名‐荼毘から突如として放たれる青い炎が爆豪を包もうとする。

 

「かっちゃん!?」

 

自分を心配する誰かの声を無視して、爆豪はそれを爆発の衝撃で吹き飛ばしながら、後退ではなく前進を選ぶ。

 

煙の中を身を屈めて突貫する。イメージするのは英雄(オールマイト)を前にしても後退を選ばなかった(ムーンビースト)

その姿にこそ憧れた少年は容赦なく(ヴィラン)の顔面を掴むと凄惨な笑みを浮かべながら言った。

 

「俺を殺そうとしたんだ。殺されても文句はねぇよなあッ!」

 

「だ、駄目だ!かっちゃん!」

 

自分を止める誰かの声を無視して、爆豪は荼毘の顔面を容赦なく爆破する。

 

荼毘の顔面は吹き飛ばされ、部屋に悲鳴が上がる。

力なく倒れた荼毘の姿を見たクラスメイトの面々から爆豪を非難する声が上がった。

 

「ば、爆豪君!な、なんてことをッ!」

「ね、ねえ…し、死んじゃったの…」

「やり過ぎだぞオイ!ヤベーって!?」

「わ、わたくしが治療道具を創ります!誰か治療の手伝いを!」

「かっちゃんのばか!」

「これ、正当防衛だろ!やり返さなきゃ爆豪もヤバかったんだぞ!」

「…ともかく俺は先生を呼んでくる」

 

騒ぎ続ける観衆(モブ)に舌打ちをしながら、爆豪は頭を掻きながら叫ぶ。

 

「騒がしい!よく見ろ雑魚(モブ)共!テメーらの節穴にはこれが人間に見えんのか!」

 

荼毘の身体は形を失い黒い泥のように崩れていた。

爆豪はそれを蹴りながらに言う。

 

「顔面握った時点で崩れ始めてやがった。たぶんなんかの個性で増えたコピーだ。オリジナルは別にいる」

 

爆豪の予想は正しかった。彼は粗暴であるが、頭は良い。伊達に小学校と中学校時代、頂点であり続け、ねじ曲がった性根を形成してはいない。

 

「委員長!俺らの安全が担保されてる筈の建物の中に(ヴィラン)が入り込んでるぞ!この場合でも良い子ちゃんにしてるのが正しい判断かあッ!」

 

(ヴィラン)の襲撃がありながら、A組とB組の担任教師は二人とも駆けつけてくる気配がない。

それがどれ程の異常事態であるかは、爆豪が言わずともこの場の全員が気付いていた。

行動を起こすべきと主張する爆豪に対し飯田はあくまで指示があるまでは待機するべきだと主張した。

両者の言い分は”正しい"と言えるものだった。

 

轟焦凍は言う。

 

「炎熱系の『個性』を持つ(ヴィラン)がいるなら、俺はとりあえず建物から出た方がいいと思う。建物が燃やされれば一網打尽だ」

 

それに対し八百万百は首を横に振る。

 

「しかし、例え建物を出ても私達は『個性』を使う事は許可されていませんわ。なら、此処で籠城し指示を待つ方がいいのではないかしら」

 

緑谷出久は顎に指を当てて呟いた。

 

「どうにかして先生たちと連絡は取れないのかな?B組はどうなっているんだろう」

 

進まない話し合いに爆豪がキレた。

 

「ああアアアアアアアアア!サッサと決めろよッ!(ヴィラン)が居るんだ!やられっぱなしは趣味じゃねえんだよッ!俺は一人でも行くぜ!委員長!クラスの総意はどうすんだ!」

 

全員の視線が委員長である飯田へと向けられる。

飯田は少し考え込んだ後、意を決した。

 

「…状況が状況だ。此処は炎熱系の『個性』を持つ轟君の意見を汲んで外で安全を確保することにしよう!全員、固まって移動するんだ!道中でB組の様子も確認しながら動きたい!感知系の『個性』を持つ者たちは協力してくれ!」

 

雄英高校はヒーロー科の最高峰。

決めてしまえば動きは早い。

A組の生徒達はスムーズに屋外へ避難を開始した。

 

 

 

 

時間が少し巻き戻り。

雄英高校。

 

ムーンビーストによる林間合宿への襲撃は実を言えば予測されている事態の一つではあった。

USJ襲撃事件を受け、合宿場の場所を例年とは変更し、合宿に参加する生徒達にさえ当日になるまで場所を秘匿し、情報の漏洩を防いでいた雄英高校だったが、雄英高校の校長である根津校長からすれば、『それでも足りないのさ』だった。

 

問題は言うまでもなく内通者の存在だった。

その内通者とはA組に所属する蛙吹梅雨では勿論、無い。彼女が公安の二重スパイであることは彼女が姿を消した二日後にはヒーロー公安委員会委員長から正式に雄英高校へと報告・謝罪を受けていた。

 

警戒すべきはムーンビーストが誇る最大の脅威、善意の第三者(目に見えないシンパ)だった。

トップヒーローの一人であったラビットヒーロー・ミルコが灰色勢力への加盟をブログで正式に発表し、姿を消した時点で根津校長はムーンビーストへのあらゆる情報の漏洩は避けられないだろうと予測を立てていた。

 

「我が校が誇る君たちを僕は疑いたくないのさ。でも、誰が裏切っていても不思議では無いと言う覚悟はあるのさ」

 

とある日の職員会議で根津校長が言った言葉を教師達は忘れることは無いだろう。

そして、続く言葉で彼らもまた覚悟を新たにした。

 

「それでも林間合宿は決行するよ。(ヴィラン)から逃げるヒーローを、子供達はヒーローとは呼ばないからね。…彼が来るというなら、迎え撃つだけなのさ」

 

雄英は既に幾度もムーンビーストに敗北を喫している。だから、諦めるのかと問われれば教師の全員が首を横に振るだろう。

勝者をヒーローと呼ぶのでは、ない。

立ち上がる者こそがヒーローだろう。

 

林間合宿は決行される。

ヒーローの卵たちから成長の機会を奪って、なにが雄英だろうか。なにがヒーロー教育機関の最高峰だろうか。更に向こうへ(プルス・ウルトラ)

雄英もまた挑戦し続けなければならないと声を上げた根津校長に続く声は多くあった。

 

その中で最も大きな声は絶えぬ笑みと共に巨躯を伸ばして天を衝く挙手をした。

 

「ハイハイハイ!なら私も林間合宿に同行するよ!次こそあの少年を止めてみせる!」

 

オールマイトの申し出に根津校長は首を横に振った。

 

「何故です!先生!」

 

「先生じゃなくて校長さ。君は良くも悪くも目立つからね。それに灰色勢力だけじゃなく、(ヴィラン)連合という組織もある以上、君は首都圏から軽々しく動かせないのさ」

 

「そ、そうですか…」

 

しょぼくれるオールマイトに代わり、ミッドナイトが手を挙げた。

 

「では、私が参加します。私の個性なら、ムーンビーストを止められる筈です」

 

「…確かに君が居れば安心ではあるのさ。でも、それも駄目。君は良くも悪くもムーンビーストに近すぎるからね。自覚はあるだろう?」

 

「…はい」

 

ムーンビーストを逮捕した実績のあるオールマイトと彼に対して特効を持つミッドナイトの合宿への同行は見送られた。

なら、誰が合宿に同行するべきかと議論する教師達を小さな手で制しながら、根津校長は言う。

 

「ヒーロー科の一年生だけが雄英じゃあないのさ。人員を多くは割けない。合宿は例年通り、担任教師の二人と外部のヒーローに任せたいのさ」

 

「それで万が一の場合、大丈夫ですかね」

 

「少なくもムーンビーストに関しては大丈夫さ。僕の卓越した頭脳から導き出される計算式によれば、彼は決して彼女たちには勝てないのさ」

 

人以上の頭脳(スペック)を持つ動物(ネズミ)

ある種の怪物ともいえる根津校長はそう言って「HAHAHA」と笑い、その考えは正しかった。

一つ計算違いがあったとすれば、灰色勢力に便乗して(ヴィラン)連合までが林間合宿を襲撃したこと。

多くの信奉者(シンパ)を内通者として使う灰色勢力が、その中に(ヴィラン)連合の内通者を抱えてしまうという失敗をやらかした事。

ムーンビーストを警戒するあまり、彼を過大評価しすぎたことが根津校長の失敗だった。

 

ムーンビースト。

彼は意外性も無く、人を見る眼が無かった。

 

 

 

 

 

 

時間が戻り。

プッシーキャッツのマタタビ荘。

 

荼毘の襲撃を受けて、屋外へ避難を始めたA組の生徒達。

窓から外を見た誰かが森が燃えていると叫んだ。

そして、次いで聞こえて来たのは人のモノとは思えない程の大絶叫。

 

 

「主よおおおおオオオオオオオオッ!」

 

 

敵の襲撃に続き、燃える森に人外の叫び声。

二転三転する状況下で迫りくる全長25m(絶望)の巨人を目にした彼‐緑谷出久が声を上げられたことは、称賛に値するだろう。

それが例え一時凌ぎであったとしても、彼の行動は確かにA組の生徒達の命を救った。

 

「全員ッ!壁を壊して外に逃げるんだッ!」

 

A組の生徒達が緑谷の声に反応して窓から外を見る。

そこには絶望の巨人が建物へと一直線に走って来る姿があった。

そこから直ぐに動き出すことが出来た生徒は15名。その内、建物の壁を即座に壊せる個性を持つ生徒は5名。5名の生徒が壁を壊し、逃げ道を作り出し、残りの10名の内、動けなかった4名の傍に居た者たちは動けないでいる生徒を抱え込む様に外へと飛び出る。

 

A組生徒、屋外への避難完了。

 

次の瞬間、絶望の巨人。歩く災害‐ギガントマキアがマタタビ荘へと衝突した。

 

 

「主よおおおおオオオオオオオオッ!主の敵よおおおおオオオオオオオオッ!どーこーにーいーるううううウウウウウウウウッ!」

 

 

ギガントマキアにより破壊され、倒壊していく建物を見ながらA組で一番小柄な生徒‐峰田(みねた)(みのる)は青ざめながら、呟いた。

 

「…中にまだ、B組の奴ら、居たんじゃねえのか?」

 

峰田の呟きを捕らえたギガントマキアは、動きをピタリと止めてA組の生達を見る。

そこでようやくギガントマキアは彼らの存在に気が付いた。

 

「…主の敵、ムーンビーストは、どこですか?」

 

25mを超える巨人から、見下ろされているという恐怖。

峰田は腰を抜かし、失禁した。

それは責められるものでも笑われるものでもない。彼はほんの数か月前までただ普通の中学生だったのだから、死の恐怖などとは無縁だったのだから。

 

「…あ、…あ」

 

「………教えてくれないんですか」

 

ギガントマキアが左腕を上げる。

 

「どうして教えて、くれないんだ…」

 

そして、その腕は振り下ろされた。

 

 

 

 

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