皆様の暇つぶしになれば幸いです。
m(_ _)m
「貴方は私をどうしたい?」
トガヒミコからの愛の告白じみた言葉を聞いて私は首を傾げる。ついでに後ろを振り返り、爆豪勝己へと視線を送るが彼は「俺に聞くんじゃねぇ」と言いながら、地面に唾を吐いていた。
私と彼女は当然だが恋仲では無い。私に彼女をどうこうする権利など無いし、どうにかしたいとも思わない。
私の
そんなことはトガヒミコとて理解しているだろうから、あの言葉の意味がR18指定で無いことは明らか。
では、どう意味なのだろうかと考えている私の脳内にデフォルメされた可愛らしい姿のステインが現れる。
(・・・ハァ・・・
ギガントマキアとの戦闘で
厳密に言えばイマジナリーフレンドは幼少期に出現し、子供の発達過程で消失する筈なので成人を迎えてから現れる様に成った私の
だいたい彼は私のやることなすことに文句を言うばかりで、助言の一つもくれないのだから気にしないのが一番だった。
(小娘一人の心中も察せないのか・・・?)
私はトガヒミコを遠ざけていた。だから、彼女の心中など考えた事も無かった。
裏切ってさえくれれば殺せるのにとすら考えていた。
彼女は梅雨さんとは違い、血の匂いがする正義執行対象だ。
だから、彼女の真意を考察することに意味など無いと結論づけて、考えを放棄することにする。
(・・・逃げるのか?思考の放棄は・・・愚者の証明)
あれこれ考えて正義執行に手間取る位なら、私は単純な馬鹿でいたいと思う。
「トガヒミコ。私に優しくして欲しいとか、そういうことをどうか考えないで頂きたい。私は貴女のことが嫌いです。人殺しである貴女を殺したくて仕方が無い。それをしないのは、ひとえに、数少ない私の
思春期少女のカウンセリングをする気はさらさらに無いのだと告げて、トガヒミコには「行きますよ」とだけ告げて背を向ける。
爆豪勝己が「仲間じゃねぇのか」と戸惑いながらに私を見てくるが、これでいいのだと視線で伝える。
ヘリコプターから突き落とした手前、生存確認だけはしに来たが、それ以上のことをする気は無い。私には悪人であるトガヒミコ以上に優先すべき善人である梅雨さんが居る。
トガヒミコがこれで灰色勢力から離反するというのなら、それでもいい。
オーバーホールへの義理は果たしていると歩き出した私の背に、ドスンと衝撃が走る。
次いで感じる痛みは鋭利な刃物で刺された感覚。
「何してんだッ!テメエッ‼」
慌てる爆豪勝己の声を聞く前に、私は背に刺さるナイフを握るトガヒミコの腕を逆手にした左手で掴み、己の身体を斜めに回転させて背後を向くという曲芸染みた動きで後ろを向く。
トガヒミコと向かい合う形になった私は情けも容赦も無く右腕に形成したギロチンをトガヒミコへと向ける。
彼女の首を刎ねる事に躊躇はない。裏切ってくれたなら、殺せるのにと考えていたのだから、私は嬉々としてトガヒミコの首を刎ねる。
「神父様でも、答えをくれないのですね」
その表情に何故だか無性に腹が立った。
ギロチンの刃を
トガヒミコの細く白い首筋から、一筋の血が流れた。
(思考を止めるな。・・・ムーンビースト・・・ハァ・・・お前は既に・・・
私の牧師服は只のファッションだ。迷える子羊を導く事など、私には出来ない。
私は
それでも象徴に成りたいと願ったのが私自身であるなら、確かにステインのその言葉を無視することは出来なかった。
「・・・貴女は、私にどうして欲しいのですか?」
「私はねえ、神父様—」
邪悪に笑う彼女の笑顔に物理的な影が差す。
思わず空を見上げれば、其処には一人の人間が飛んでいた。
その飛んでくる成人男性は偶然にも私とトガヒミコを
「これは・・・いえ・・・彼は・・・」
この森林の中で大型トラックに跳ね飛ばされたのかと思うほどにボロボロになっている男の顔に私は見覚えが有った。彼は
言うまでもなく、私の正義執行対象だ。
瀕死だが、まだ息がある彼の首を切ろうと動こうとした時、マスキュラーを追いかけて来ただろう人物から声が上がる。
「だい、丈夫ですか。ぶつかって、怪我とかしていませんか!」
それは小さな身体をした少年だった。小さな背に出水洸太を背負ったボロボロの少年。
緑谷出久がそこに居た。
私は信じられないモノを見る目で緑谷出久を見た。
マスキュラーは凶悪な
そのマスキュラーを年端もいかない少年が打倒したという事実。そして、何よりも私に衝撃を与えたのは—
「あ、え、む、ムーンビースト!ま、まずい・・・そこの、女の子。そいつは、
フラフラだ。ボロボロだ。緑谷異出久の身体は大量の血を失っている。正常な判断など、既に出来る状態では無いのだろう。この場に居る雄英生徒以外の女子学生の格好をしたトガヒミコが部外者では無い事くらいは少し考えれば分かるだろうに、あるいは私が彼らに接触したときに一瞬だけだが梅雨さんに変身していたトガヒミコの素顔は見ているだろうに、そんな事も判断出来ない状態でありながら、緑谷出久は
「は、はは、あはは、アハハ」
喉の奥から笑い声が漏れた。これは歓喜だ。
私は今、素晴らしいヒーローの誕生に立ち会っている。
緑谷出久の背中を見るトガヒミコの顔が真っ赤に染まっている。
当然だろう。勘違いが生んだ状況とはいえ、この状況で少女が少年に惚れるなと言う方が、無理があるだろう。
「この子に、手は・・・出させないぞ。・・・かっちゃんも、渡さないッ!」
背負っていた出水洸太を地に下ろし、緑谷出久は私を睨み付けながらボロボロの身体で拳を握る。
その光景に恐怖すら覚える。私の
「ああ・・・素晴らしい。これは、恐怖か。これは、歓喜か」
この世に正義はあるのだと理想を見せつけられる歓喜。
正義の敵である悪だと言う現実を見せつけられる恐怖。
この状況は勘違いだ。緑谷出久の判断は何一つ正しくない。
しかし、だからこそ燦然と輝くのは打算など無い正義の心。
「貴方は・・・私にとっての
興奮と共に緑谷出久へ伸ばした手に害意は無かった。
しかし、それを払いに立ちはだかったのは爆豪勝己だった。
「・・・やはり、土壇場では友人への思いが勝りますか」
「・・・は?・・・いや、
「・・・かっちゃん。ありがとう」
「俺は、何やってんだ?」
爆豪勝己は己の行動が信じられないと言う風に私の手をはたき落とした自分の手を見ている。
しかし、それでいいのだと私は思う。無意識下の行動にこそ人物の本性が現れるものだ。
粗暴であり乱暴であり、大凡ヒーローらしさの無い彼だが、根幹に有るものはやはりヒーローの素質だった。
「いいのです。勝己、やはり貴方は・・・ヒーローに成りなさい」
私の言葉に愕然とする爆豪勝己から視線を外して、その後ろにいる緑谷出久を見る。友人である爆豪勝己が自らを守る様に立ち塞がった事で彼自身も気合いが入ったのだろう。その瞳はより一層と正義感に燃えている。
そして、その緑谷出久の後ろにいるトガヒミコは未だに熱に浮かされた様な視線で緑谷出久を見ている。
少年少女の青春にこれ以上に足を突っ込むのは無粋だろうと考えて、私は踵を返す。
緑谷出久に敗北して気を失っているマスキュラーの元へと向かう。
この場を去る前にやっておかなければ成らないことがある。
「正義、執行」
マスキュラーの殺害。それを実行しようとする私を止めたのは緑谷出久の声だった。
「駄目だ!止めろッ、ムーンビースト」
この場ばかりは私に緑谷出久の声を無視するという選択肢はない。
「何故、止めるのですか?子供でも、女の子でも、友人でも無い。マスキュラーは貴方が守るに値しない」
「それでもッ、僕の目の前で、そんなことをさせはしないぞ。ヒーローは、みんなを守るものだからッ、オールマイトなら、きっとそうするからッ‼」
緑谷出久が前に立つ爆豪勝己を押しのけてでも、私の元へと向かってこようとする。
その足取りは遅く、私がギロチンを振るう方がずっと早い。それを理解していても足を止めることなど出来ない矜持に私の
ステインの意向に添うのなら、此所は緑谷出久の顔を立てても良かった。
しかし、何度も言うが私とステインの考え方は違う。
緑谷出久の完璧な矜持を賞賛しつつ、私はそれを直角に曲げて答えを出す。
彼の先輩として、この世界には死んだ方が良い屑が存在することを教えてあげよう。
「人権、博愛精神、確かにそれらは素晴らしい。しかし、人の命を想えと言うあまりに人の心を踏み躙ってはいませんか?加害者の権利を守れと叫ぶ部外者の声がッ、被害者遺族の嗚咽を掻き消しているッ‼私はッ‼それがァッ‼許せないッ‼」
「止め—」
言葉などで止まるはずも無く。私の正義は一切の矛盾無くマスキュラーの首を刈る。
私は切り落としたマスキュラーの首を拾い上げ、緑谷出久の元へと放り投げた。
「・・・どう、して・・・そいつはッ、法で裁くことが出来たんだぞ‼」
「私は死刑囚に食わせる飯代ほど無駄な税金は無いと考えています」
「わかんないよ。あなたの言っていることがッ、わかんないよ‼」
「かまいませんよ。わかり合えないから、ヒーローとヴィランだ。しかし、只一つ、理解して欲しいこともあります」
私はマスキュラーの首を呆然と見つめている出水洸太を見ながらに言う。
「ヒーローが、
緑谷出久は振り返り出水洸太を見ると、直ぐに駆けだして、その小さな身体を守る様に抱きしめた。
私はその姿にやはり彼は素晴らしいヒーローに成れると確信して、次こそその場を後にすることにする。
爆豪勝己とトガヒミコはこの場に置いていく。追ってくるなら、それでもいいが、私としては追ってこない事を望む。
私に教育は向いていない。
心友-ステイン。
ムーンビーストの後悔と心労が生んだ幻覚·幻聴。
かっちゃん。
デク君に主人公ムーブを見せつけられ、大ダメージ。
その後、ムーンビーストに諭されて追加ダメージをくらう。
トガヒミコ。
原作通りボロボロのデク君に守られるというシチュエーションに大興奮。悩みは色々と吹き飛んだ。