皆様の暇つぶしになれば幸いです。
m(_ _)m
燃える森林の中を歩きながら、スマートフォンのメッセージアプリを起動する。
私がメッセージを送れば即座に画面上にウサギのアイコンと共に返信が表示された。
「これでいい。後は、私などよりも余程に上手くやってくれるはずです」
後、数分もせずに信頼の出来るミルコが梅雨さんを抱えて隣山から跳んでくる。
後の対応はミルコに任せて置けば安心だと思いながら、私は残党狩りに勤しむことにする。
少なくとも森林を燃やした
それを探して歩く私の前に広がった光景は、脳みそが剥き出しの
「・・・ハァ?大切な所も隠していない変態が、彼女をどうしようと言うのですか」
その暴挙を許せる筈もなく右腕にギロチンを形成した私に掛けられた声に聞き覚えは無かった。
《・・・ムーンビースト。初めましてだね》
脳みそが剥き出しの
「・・・貴方は、誰だ?」
《僕かい?僕は君のファンさ。余子浜でオールマイトを相手に戦った姿には痺れたよ。以来、僕はずっと、こう思っていたんだ。君となら、仲良く出来るのではないか・・・と》
「それは、無理ですねえ。声を聞いただけで判断できるのは、初めての経験なのですが・・・貴方、人を殺した事がありますね?」
《君の『個性』を前に、その手の嘘は通じないのだろう?答えはYESだよ》
「なら、正義執行対象です。ムーンビーストは、決して貴方を許さない」
《何故だい?何故、君は仲良く出来ないのかな》
「浅い問いですねえ。貴方は、何故人を殺してはいけないか?とかいう、低俗な質問をしていますよ?答えなど、命が尊いものだからに決まっているではありませんか。尊くかけがえのないから、奪えば埋め合わせる事などできない。足し算ではその天秤は動かない。だから、引くしか無いのですよ。人を殺した人間は、人に殺されねばならない」
その時に初めて殺人という罪は赦される可能性が生まれる。
「だから、殺人という罪に対する贖罪は、死んでから始まるのですよ。だから、悔い改めると言うのならッ、まずは死んで頂きたいッ‼
確信を持って、その名を呼ぶ。ラジオの先に居る男はくぐもった笑いを漏らしながら、本当に、心底、理解など出来ないが、親しみを崩す事無く、再び私の名前を呼んだ。
《
ウォルフラムという
そして、そうであるなら、オール・フォー・ワンが私に親しみを持つ理由も推察できる。
《僕らだけが、
反吐が出そうだった。
《もし君がオールマイトを打倒し、新たなる象徴を目指すのなら。僕はそれに協力したいと思っているよ。成りたいのだろう?“正義の象徴”という、絶対なものに。オールマイトを倒すのが、一番手っ取り早いと僕は思うよ。僕を信じてみないかい?》
「・・・人殺しの
《僕の話を聞く気はないか》
「貴方こそ、人の話を聞いて頂きたいッ‼私はッ、貴方を殺すと言ったッ‼」
《“復讐という正義”が、君をそうさせるのかな?》
「ええッ‼そうですッ‼亡き者の無念を忘れずッ、最早果たせぬ意思を私が遂げるッ‼貴方が殺してきた人間に代わり貴方を殺すッ‼貴方の骸を逆十字に架けた時ッ、人々は知るッ!この世に正義はッ、有るのだとッ‼」
《フフッ、なるほど、君の意思は堅いようだ。しかし、それならそれでもいいんだ。本物だから、堅いのだろう。凄いと思うよ》
「・・・馬鹿にしていますね」
《いいや。本心さ。だから、僕の誘いを蹴った気高い君に、一つだけ良いことを教えてあげよう》
オール・フォー・ワンの声色が変わった。親しみを消し、外道の癖に柔らかい声に乗るのは、これから語ることが真実だと感じさせる真剣さだった。
《君の“
その日の早朝、閑静な住宅街で惨劇が起きた。
家長の首台信念。妻の
生き残ったのは当時高校生だった長男のみ。
ヒーローが駆けつけた時には既にムーンフィッシュは姿を消していて、捜索が行われたが逮捕には至らなかった。
最早、改めて語る必要など無い。
私が僕であった頃、首台正義という少年を襲った惨劇。
そして、ムーンビーストを生んだ悲劇に繋がる私の“
「・・・それが、なにか?」
《君は一度も疑問に思ったことはないのかい?既に
身体の内側に冷水の一滴が落ちた様な感覚が襲ってきた。
染み渡る様にオール・フォー・ワンの言葉が広がる。
疑問に感じたことならあった。しかし、悲劇と偶然は切っても切り離せない関係性だ。
今も世界の何処かで、あの日と同じ悲劇が偶発的に起きている。
だからこそ
だからこそ
偶然だ。
偶然が、
《
オール・フォー・ワンの声を伝える小型ラジオを首にかけた脳無の口から、ヘドロのような黒いナニカが吐き出される。
そして、言葉の続きはその中から現れた男によって紡がれる。
「あの日、ムーンフィッシュが君の家にやって来たのが偶然で無かったのなら、君は初めからボタンを掛け違えている」
『個性』により転移してきた男。それを目にした瞬間、理解する。
彼がオール・フォー・ワン。私が打ち倒すべき巨悪。個性『ギロチン』が直ぐに目の前の存在を裁けと訴えかけている。
しかし、ギロチンの刃を形成した右腕が動かない。
私はオール・フォー・ワンの言葉の続きを聞きたがっていた。
「この真実は、直接君に伝えたいと思ったんだ。君は僕と良く似ている。顔を突き合わせて居ない相手を信じられないだろう」
「どうでもいい。・・・そんなことはッ」
私の中の逸る気持ちはそのまま言葉として喉から漏れた。
「アレがッ、あの日がッ、偶然で無かったのならッ、何だというのですッ‼」
オール・フォー・ワンの顔は焼かれていた。目も鼻も無い顔に、口元を覆う仰々しい機械のマスク。しかし、その口元が楽しむように微笑んでいるのだけは、わかった。
「言っただろう。君と僕は良く似ている。あの日、家にムーンフィッシュを招いたのは・・・君のクラスメイトさ」
「私の・・・クラスメイト?」
「そう。
それはネット掲示板に書かれた三行の投稿だったとオール・フォー・ワンは言う。
書かれた内容は首台正義の名前と住所の個人情報。そして、悪口だった。
犯行動機は嫉妬。当時、香山先生に恋い焦がれ普通科からヒーロー科への編入を目指していた私は“普通科の怪物”と騒がれかけていた。それが、久図草太郎にとっては面白くないことだった。
久図草太郎はヒーロー科への受験に失敗して、普通科に通う生徒だったからだ。“なんでアイツだけ”と、嫉妬した久図草太郎は当時、出入りしていたネット掲示板に私の個人情報を書き込んだ。
それが指名手配犯として逃走中だったムーンフィッシュの目に留まった。
追い詰められていたムーンフィッシュは親類縁者の
それは私が知らない話だった。
いぶかしむ私に対してオール・フォー・ワンは「証拠ならあるんだ」と一枚の写真を地面へと放り投げる。
写真に映っていた顔を見て学生時代の記憶を朧気ながらに思い出す。
久図草太郎。確かにそんな名前のあまり話したことの無いクラスメイトが居た。
「君を調べる内にこのことを知った僕は彼に直接確かめたんだ。彼は“ほんの出来心”だったと言いながら、認めたよ」
「・・・なるほど、間接的な殺人も正義執行対象だ。私に
「違うよ。わからないかい?僕が言いたいのはね、
オール・フォー・ワンは本当に楽しげに私が考えない様にしている事を
「少し調べれば分かる事さ。当時の警察が知らなかった筈がない」
「・・・うるさいですね」
「学校にも伝わって居た筈だよ」
「・・・黙れ」
「警察や学校は事実を隠蔽したのさ。未成年の学生の“ほんの出来心”が、惨劇を産んでしまった。ああ、久図草太郎という少年の未来が“ほんの出来心”で起こした些細な事で途絶えてしまうことを彼らは
「黙れと言っているッ‼」
「
---『貴方はそんなに弱い子じゃなかった筈よ』
香山先生に投げかけられた言葉が脳内でリフレインする。
「違う。そんな筈はない。
「じゃあ、聞くが、君は許せたのかい?家族を殺した原因を作ったクラスメイトを許すことが、出来たのかい?」
「それ、は・・・」
「無理さ。言ったろう。君の姿は、僕に似ている。許せないと、君の愛した人も、君をよく理解していた。だから、隠した。そうすることで
---加害者の権利を守れと叫ぶ部外者の声がッ!
---被害者遺族の嗚咽を掻き消しているッ!
「あ、ああ、あああ、ああアア、止めろ、止めろ!美しいものの筈だッ!叶わなかった恋だが、その思いは美しかったと胸を張れる筈のモノなんだッ‼」
「美しい?都合の良い虚飾で着飾る相手を美しいと思うなら、別に止めないよ。けれど、そうじゃない。君は許せないと思っている。愛したのに、嘘をついた、
彼女が、あの人が、
笑止千万。そんなはずが無い。そんなはずが無いと言い切れるはずだ。
だって
「黙れ!黙れよ!あの人は、絶望する
ギロチンを振るう。
オール・フォー・ワンにそれを片手で止められる。
「その
「・・・ッ」
「これも、君の言葉だったね。なら、君が真に復讐するべき相手が誰であるかは分かるだろう?」
オール・フォー・ワンはギロチンを握る手を離し、ラグドールを抱える脳無と共に黒いヘドロのようなモノの中へと消えていく。
「僕は君を裏切らない。レディ・ナガンには、何もしていないよ。僕を信じるか、ヒーローを信じるか、後は君が決めると良い」
「・・・」
「それじゃあ、また会おう。僕の同類」
それを追う気力が私には残されていなかった。
オール·フォー·ワン。
最近、勢いのある若手を窘めにきたヴィラン界の大御所。
裏工作とは、こうやるんだよと実践でムーンビーストを理解らせた。
ムーンビーストに話した話は8割が本当。
実際の目的は個性『サーチ』を持つラグドールの回収。
ムーンビースト。
オール·フォー·ワンに解らされて意気消沈。
個性『ギロチン』の刃が止められたのはメンタルが既にボロボロだったから、良くも悪くも個性『ギロチン』はムーンビースト意思に左右される。
正義を執行する時に迷いがあってはならない。
ウォルフラム。
映画版ヒロアカのボス。