ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

34 / 66

皆様の暇つぶしになれば幸いです。
m(_ _)m





個性『オール·フォー·ワン』②

 

燃える森林の中を歩きながら、スマートフォンのメッセージアプリを起動する。

(ヴィラン)連合の襲撃とギガントマキアとの戦闘という予期せぬ事態に見舞われた私はKGK作戦の要である彼女への定時連絡を忘れてしまっていた。

私がメッセージを送れば即座に画面上にウサギのアイコンと共に返信が表示された。

 

「これでいい。後は、私などよりも余程に上手くやってくれるはずです」

 

後、数分もせずに信頼の出来るミルコが梅雨さんを抱えて隣山から跳んでくる。

後の対応はミルコに任せて置けば安心だと思いながら、私は残党狩りに勤しむことにする。

(ヴィラン)連合の襲撃がギガントマキアとマスキュラーの二人だけだとは、思えない。

少なくとも森林を燃やした(ヴィラン)が居るはずだ。

 

それを探して歩く私の前に広がった光景は、脳みそが剥き出しの(ヴィラン)がラグドールを連れ去ろうとしている場面だった。

 

「・・・ハァ?大切な所も隠していない変態が、彼女をどうしようと言うのですか」

 

その暴挙を許せる筈もなく右腕にギロチンを形成した私に掛けられた声に聞き覚えは無かった。

(ただ)、『ギロチン』という個性が精神にまで訴えかけてきた。

(これ)が、私が打ち倒すべき巨悪だと—

 

《・・・ムーンビースト。初めましてだね》

 

脳みそが剥き出しの(ヴィラン)-脳無の首に掛かる小型ラジオから聞こえてくる声は、親しみの感じられる声色で語りかけてくる。

 

「・・・貴方は、誰だ?」

 

《僕かい?僕は君のファンさ。余子浜でオールマイトを相手に戦った姿には痺れたよ。以来、僕はずっと、こう思っていたんだ。君となら、仲良く出来るのではないか・・・と》

 

「それは、無理ですねえ。声を聞いただけで判断できるのは、初めての経験なのですが・・・貴方、人を殺した事がありますね?」

 

《君の『個性』を前に、その手の嘘は通じないのだろう?答えはYESだよ》

 

「なら、正義執行対象です。ムーンビーストは、決して貴方を許さない」

 

《何故だい?何故、君は仲良く出来ないのかな》

 

「浅い問いですねえ。貴方は、何故人を殺してはいけないか?とかいう、低俗な質問をしていますよ?答えなど、命が尊いものだからに決まっているではありませんか。尊くかけがえのないから、奪えば埋め合わせる事などできない。足し算ではその天秤は動かない。だから、引くしか無いのですよ。人を殺した人間は、人に殺されねばならない」

 

その時に初めて殺人という罪は赦される可能性が生まれる。

 

「だから、殺人という罪に対する贖罪は、死んでから始まるのですよ。だから、悔い改めると言うのならッ、まずは死んで頂きたいッ‼()()()()()()()()ッ‼」

 

確信を持って、その名を呼ぶ。ラジオの先に居る男はくぐもった笑いを漏らしながら、本当に、心底、理解など出来ないが、親しみを崩す事無く、再び私の名前を呼んだ。

 

()()()()()()()。君は、本物だ。超常黎明期、僕のような男はね、実はそれなりに居た。しかし、オールマイトの登場以降、まるで見かけなくなってしまった。ステインやウォルフラム、それなりの(ヴィラン)も居たけれど、彼らもオールマイトとの直接的な戦いは避けたがっていた》

 

ウォルフラムという(ヴィラン)名には覚えが無い。おそらく海外の(ヴィラン)だろう。しかし、ステインの名を出して来た時点でオール・フォー・ワンが少なからず私の情報を持っているという推測が出来る。

そして、そうであるなら、オール・フォー・ワンが私に親しみを持つ理由も推察できる。

 

《僕らだけが、偉大なる脅威(オールマイト)と正面から戦った》

 

(ヴィラン)同士の仲間意識。

反吐が出そうだった。

 

《もし君がオールマイトを打倒し、新たなる象徴を目指すのなら。僕はそれに協力したいと思っているよ。成りたいのだろう?“正義の象徴”という、絶対なものに。オールマイトを倒すのが、一番手っ取り早いと僕は思うよ。僕を信じてみないかい?》

 

「・・・人殺しの(ヴィラン)が、どの口で信頼などと口にしているのですかねえ?」

 

《僕の話を聞く気はないか》

 

「貴方こそ、人の話を聞いて頂きたいッ‼私はッ、貴方を殺すと言ったッ‼」

 

《“復讐という正義”が、君をそうさせるのかな?》

 

「ええッ‼そうですッ‼亡き者の無念を忘れずッ、最早果たせぬ意思を私が遂げるッ‼貴方が殺してきた人間に代わり貴方を殺すッ‼貴方の骸を逆十字に架けた時ッ、人々は知るッ!この世に正義はッ、有るのだとッ‼」

 

《フフッ、なるほど、君の意思は堅いようだ。しかし、それならそれでもいいんだ。本物だから、堅いのだろう。凄いと思うよ》

 

「・・・馬鹿にしていますね」

 

《いいや。本心さ。だから、僕の誘いを蹴った気高い君に、一つだけ良いことを教えてあげよう》

 

オール・フォー・ワンの声色が変わった。親しみを消し、外道の癖に柔らかい声に乗るのは、これから語ることが真実だと感じさせる真剣さだった。

 

《君の“始まりの復讐(オリジン)”。ムーンフィッシュが起こした首台(しゅだい)信念(しんねん)一家殺傷事件について》

 

その日の早朝、閑静な住宅街で惨劇が起きた。

(ヴィラン)名-ムーンフィッシュが、とある民家に押し入り住人を殺傷した。

家長の首台信念。妻の(ゆるす)。次男の矜次(きょうじ)が殺害された。

生き残ったのは当時高校生だった長男のみ。

ヒーローが駆けつけた時には既にムーンフィッシュは姿を消していて、捜索が行われたが逮捕には至らなかった。

 

最早、改めて語る必要など無い。

私が僕であった頃、首台正義という少年を襲った惨劇。

そして、ムーンビーストを生んだ悲劇に繋がる私の“始まり(オリジン)”。

 

「・・・それが、なにか?」

 

《君は一度も疑問に思ったことはないのかい?既に(ヴィラン)として指名手配されていた君の遠縁に当たるムーンフィッシュが、何故あの日、君の家にやって来たのか》

 

身体の内側に冷水の一滴が落ちた様な感覚が襲ってきた。

染み渡る様にオール・フォー・ワンの言葉が広がる。

疑問に感じたことならあった。しかし、悲劇と偶然は切っても切り離せない関係性だ。

今も世界の何処かで、あの日と同じ悲劇が偶発的に起きている。

だからこそ()は、嘆き続ける事を由とせずに悲劇を止められるヒーローに成ろうと思った。

だからこそ()は、惨劇を起こした(ヴィラン)だけで無く、それを喜劇にして笑いものにする奴らにも復讐を誓い生まれた。

 

偶然だ。

偶然が、(ムーンビースト)を産んだのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

オール・フォー・ワンの声を伝える小型ラジオを首にかけた脳無の口から、ヘドロのような黒いナニカが吐き出される。

そして、言葉の続きはその中から現れた男によって紡がれる。

 

「あの日、ムーンフィッシュが君の家にやって来たのが偶然で無かったのなら、君は初めからボタンを掛け違えている」

 

『個性』により転移してきた男。それを目にした瞬間、理解する。

彼がオール・フォー・ワン。私が打ち倒すべき巨悪。個性『ギロチン』が直ぐに目の前の存在を裁けと訴えかけている。

しかし、ギロチンの刃を形成した右腕が動かない。

私はオール・フォー・ワンの言葉の続きを聞きたがっていた。

 

「この真実は、直接君に伝えたいと思ったんだ。君は僕と良く似ている。顔を突き合わせて居ない相手を信じられないだろう」

 

「どうでもいい。・・・そんなことはッ」

 

私の中の逸る気持ちはそのまま言葉として喉から漏れた。

 

「アレがッ、あの日がッ、偶然で無かったのならッ、何だというのですッ‼」

 

オール・フォー・ワンの顔は焼かれていた。目も鼻も無い顔に、口元を覆う仰々しい機械のマスク。しかし、その口元が楽しむように微笑んでいるのだけは、わかった。

 

「言っただろう。君と僕は良く似ている。あの日、家にムーンフィッシュを招いたのは・・・君のクラスメイトさ」

 

「私の・・・クラスメイト?」

 

「そう。久図(くず)草太郎(くさたろう)。しかし、君はこの名前を覚えても居ないだろう。彼は君にとって正しく“どうでも良い奴(モブキャラ)”だった。学生時代、友人が多かった君にとっては、名前もよく覚えてないクラスメイトの一人。彼が君の運命を変えた」

 

 

それはネット掲示板に書かれた三行の投稿だったとオール・フォー・ワンは言う。

書かれた内容は首台正義の名前と住所の個人情報。そして、悪口だった。

犯行動機は嫉妬。当時、香山先生に恋い焦がれ普通科からヒーロー科への編入を目指していた私は“普通科の怪物”と騒がれかけていた。それが、久図草太郎にとっては面白くないことだった。

久図草太郎はヒーロー科への受験に失敗して、普通科に通う生徒だったからだ。“なんでアイツだけ”と、嫉妬した久図草太郎は当時、出入りしていたネット掲示板に私の個人情報を書き込んだ。

それが指名手配犯として逃走中だったムーンフィッシュの目に留まった。

追い詰められていたムーンフィッシュは親類縁者の(えにし)を頼り首台信念に助けを求めたが、交渉は決裂した。自首を促した首台信念に対してムーンフィッシュが逆上して事件は起きた。

 

 

それは私が知らない話だった。

いぶかしむ私に対してオール・フォー・ワンは「証拠ならあるんだ」と一枚の写真を地面へと放り投げる。

写真に映っていた顔を見て学生時代の記憶を朧気ながらに思い出す。

久図草太郎。確かにそんな名前のあまり話したことの無いクラスメイトが居た。

 

「君を調べる内にこのことを知った僕は彼に直接確かめたんだ。彼は“ほんの出来心”だったと言いながら、認めたよ」

 

「・・・なるほど、間接的な殺人も正義執行対象だ。私に(かたき)を教えてくれた事には感謝しましょう。しかし、それとこれとは話が別だ。貴方は依然、私の打ち倒すべき敵だ」

 

「違うよ。わからないかい?僕が言いたいのはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

オール・フォー・ワンは本当に楽しげに私が考えない様にしている事を(つまび)らかにする。

 

「少し調べれば分かる事さ。当時の警察が知らなかった筈がない」

 

「・・・うるさいですね」

 

「学校にも伝わって居た筈だよ」

 

「・・・黙れ」

 

「警察や学校は事実を隠蔽したのさ。未成年の学生の“ほんの出来心”が、惨劇を産んでしまった。ああ、久図草太郎という少年の未来が“ほんの出来心”で起こした些細な事で途絶えてしまうことを彼らは(よし)としなかった。起きてしまったことは仕方が無い。何時だって、そうやって弱者を守る振りをして社会は強い奴に犠牲を押しつけるんだ」

 

「黙れと言っているッ‼」

 

()()()()()()()()()と言われなかったかい?」

 

 

---『貴方はそんなに弱い子じゃなかった筈よ』

 

 

香山先生に投げかけられた言葉が脳内でリフレインする。

 

「違う。そんな筈はない。香山先生(あの人)が、その事実を知っていた筈がない。知っていたなら、教えてくれた筈だ。教えた上でッ、乗り越えろとッ、許すことの偉大さを説いてくれた筈だッ‼だから、貴方の言葉は全てデタラメだ‼」

 

「じゃあ、聞くが、君は許せたのかい?家族を殺した原因を作ったクラスメイトを許すことが、出来たのかい?」

 

「それ、は・・・」

 

「無理さ。言ったろう。君の姿は、僕に似ている。許せないと、君の愛した人も、君をよく理解していた。だから、隠した。そうすることで首台正義(被害者)久図草太郎(加害者)、両方の未来を守ろうとした。いや、待てよ。これは何よりも君が嫌うことじゃなかったかな?ムーンビースト」

 

---加害者の権利を守れと叫ぶ部外者の声がッ!

---被害者遺族の嗚咽を掻き消しているッ!

 

「あ、ああ、あああ、ああアア、止めろ、止めろ!美しいものの筈だッ!叶わなかった恋だが、その思いは美しかったと胸を張れる筈のモノなんだッ‼」

 

「美しい?都合の良い虚飾で着飾る相手を美しいと思うなら、別に止めないよ。けれど、そうじゃない。君は許せないと思っている。愛したのに、嘘をついた、()()()

 

彼女が、あの人が、()()、嘘を吐いていた?

笑止千万。そんなはずが無い。そんなはずが無いと言い切れるはずだ。

だって香山先生(あの人)だぞ。あの人が()を騙すはずが無い。

 

「黙れ!黙れよ!あの人は、絶望する()を抱きしめてくれたんだ!あの人は、終わってしまった()をまだ止めようとしてくれているのですッ‼あの人の心にッ、()はまだ居るッ‼愛されていたッ!愛されているッ!嘘をつくなあああああああああアアッ‼」

 

ギロチンを振るう。

オール・フォー・ワンにそれを片手で止められる。

 

「その復讐()は、()より出でて、()より()し」

 

「・・・ッ」

 

「これも、君の言葉だったね。なら、君が真に復讐するべき相手が誰であるかは分かるだろう?」

 

オール・フォー・ワンはギロチンを握る手を離し、ラグドールを抱える脳無と共に黒いヘドロのようなモノの中へと消えていく。

 

「僕は君を裏切らない。レディ・ナガンには、何もしていないよ。僕を信じるか、ヒーローを信じるか、後は君が決めると良い」

 

「・・・」

 

「それじゃあ、また会おう。僕の同類」

 

それを追う気力が私には残されていなかった。

 





オール·フォー·ワン。
最近、勢いのある若手を窘めにきたヴィラン界の大御所。
裏工作とは、こうやるんだよと実践でムーンビーストを理解らせた。
ムーンビーストに話した話は8割が本当。
実際の目的は個性『サーチ』を持つラグドールの回収。


ムーンビースト。
オール·フォー·ワンに解らされて意気消沈。
個性『ギロチン』の刃が止められたのはメンタルが既にボロボロだったから、良くも悪くも個性『ギロチン』はムーンビースト意思に左右される。
正義を執行する時に迷いがあってはならない。


ウォルフラム。
映画版ヒロアカのボス。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。