ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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短い場面描写の連続です。文章力不足で申し訳ありません。
皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m





個性『眠り香』②

 

東京都、東多魔郡、奥多魔町。

首都に属しながら人混みや喧噪といった事に無縁である町の寂れた商店街に、柄の悪い若者三人を引き連れた黒マスクの男が歩いていた。

見るからに堅気(かたぎ)では無い雰囲気の男は、チェーン店では無い個人経営のコンビニに入ると朝刊と煙草を中年の店主へ要求する。

 

「な、七百九十円になります・・・」

 

黒マスクの男は無言でスマートフォンを取り出し電子決済のアプリ画面を差し出す。

 

「あ、す、すみません。・・・うち、電子マネーは使えなくて・・・」

 

店主は相手の機嫌を損ねてしまわないかと震えながらに言うが、黒マスクの男は気にした様子も無くスマートフォンを仕舞うと財布から千円札を取り出してレジ台に置いた。

 

「・・・釣りはいらない」

 

黒マスクの男は商品を受け取るとコンビニを後にした。

去り際、柄の悪い若者の内の一人である金髪の男が店主に向けて言う。

 

「エ○・ぺイ!便利だから、やっとけよ!」

 

「は、はぃぃ」

 

そうして黒い嵐は過ぎ去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英ヒーロー科林間合宿襲撃事件。

世間を騒がせたセンセーショナルな事件の翌日。

テレビで繰り返される報道は、未成年の少年少女を守れなかった雄英高校とヒーロー達に向けた非難の声ばかりで、自称専門家が得意げにヒーローたちを批判する場面をオーバーホールは何度見たかも分からない。

 

買った朝刊の一面を彩るのは、ヒーローの失敗を対岸の火事として喜ぶ愚民達の声だった。

 

“失態ッ!雄英は再び敗北したッ‼”

“犠牲者多数ッ!ヒーローの存在意義とはッ‼”

“未成年(ヴィラン)の自殺を止められ無かったヒーローたちッ‼”

 

“衝撃スクープッ!ムーンビーストがいなければ被害が広がっていた!?”

 

便所の落書きのような見出しを書き連ねる朝刊は、ムーンビーストの信奉者(シンパ)が運営する会社が出したモノだ。

その真実と嘘を混ぜ合わせた便所の落書きは、オーバーホールにとってはどうでも良い。

意義のあることは、事件の翌日にこれが世間に向けて堂々と発売をされていることだった。

 

“正義の象徴”-ムーンビーストという(ヴィラン)の一番の脅威は、その信奉者(シンパ)

オーバーホールからすれば、ムーンビースト本人は復讐(正義)しか考えていない馬鹿だが、突き抜けた馬鹿の影響力(カリスマ)を軽んじるオーバーホールではない。

その影響力(カリスマ)は、現在、最高潮に達しているとオーバーホールは思う。

最近になり、国政には死刑囚への即時死刑執行派というムーンビーストの意を汲む派閥が生まれ政党として成立していた。

 

この国では死刑が確定したとしても、執行されるまでには長い年月が掛かる。本来、罪を悔い改める為の猶予とされるそれだが、実際問題として考えてみれば悠長だと言うのがオーバーホールの見解だ。

例えば、それが絶対にあり得ないことであり、許されない事だと理解しながら、それでも例題を出すとする。

治崎壊理(エリ)。オーバーホールの義理の妹が殺されたとする。その時、オーバーホールは直ぐにでも義理の妹を殺した相手を殺すだろう。それが普通だ。大切な人を殺した加害者が呼吸をしていると言う事実に、被害者家族が耐えられる筈がない。

直ぐに“死ね”と罵倒を浴びせる正しさがある。

今すぐに“殺せ”と叫ぶ事に恥じらいを覚える必要は無い。

 

だが、しかし、この国には、それを支持する“善人”が今まではいなかった。

加害者も憐れむ和の心こそが、この国では美徳とされるからだ。

 

その枷が解かれつつある。復讐と言う正義。

“人殺しであるなら、殺しても良い”というイカれた思想が世間に広まりつつある。

 

それはオーバーホールにとって歓迎すべきことだ。元より悪を以て悪を断つことこそ、極道(ヤクザ)な商売の源流だ。ムーンビーストのイカれた思想がこのまま世間に広がり続ければ、死穢八斎會が“町を守る良い極道”なんていうあり得ないモノになることも出来るだろう。

 

オーバーホールは悪党染みた笑みを浮かべながら、自らの組織を良い方向へ向かわせてくれる可能性を秘めた同胞(ムーンビースト)が使っている部屋のドアをノックもなしに開いた。

 

ムーンビーストはソファーベッドに座り、ペットボトルのコーラをラッパ飲みしながら、オーバーホールが買ったものと同じ朝刊を死んだ目で読んでいた。

オーバーホールは持参した滅菌仕様の折り畳み椅子をソファーベッドの斜め向かいに置き座ると、黒マスクの下の口元を愉快そうに歪めながら、ムーンビーストに声をかけた。

 

「お前の信奉者(シンパ)も、たまには良いことをする。雄英の記者会見を待たずに、一夜明けてコレだ。英雄症候群を患った奴らには、良い薬になるだろうな」

 

「・・・白々しい。この新聞社に情報をリークしたのは、貴方でしょう?」

 

ムーンビーストが意図的に信奉者(シンパ)との繋がりを薄めている以上、事件の翌日に新聞記事を出せる程の情報を提供した存在は別に存在する。

レディ・ナガンやミルコがそういった真似をするとは思えない以上、「貴方しかいないでしょう」というムーンビーストのジト目での指摘を受けて、オーバーホールは小さく声を出して笑った。

 

「ハァ。KGK作戦に協力せずに何をしていたかと思えば、こんな下らぬ真似をしていたとは思いもしませんでしたよ。コレには壊理さんもガッカリです」

 

「お前が勝手に壊理の感想を述べるな。壊理なら、この情報戦の重要性に気がつく」

 

「・・・いつから、シスコンになったのですかねえ」

 

「あ?なんか言ったか?」

 

青筋を立てるオーバーホールに形だけの謝罪をして、ムーンビーストは読んでいた新聞をゴミ箱へと投げ捨てる。

限りなく無駄に近い時間を過ごしてしまったとため息を吐きながら、ムーンビーストは今回の事件の当事者として、私見を述べる。

 

「ヒーロー達は、負けて等いませんよ」

 

「何も守れなかった。何も救えなかった。仲間も奪われ、(ヴィラン)を斃す事も出来なかったヒーローが負けていないと?それは、嫌みか?」

 

「いいえ、事実です。そも、ヒーローの敗北とは心が折れる事。彼らはまだ何も諦めて等、いないのです」

 

ムーンビーストがリモコンでテレビを点ける。

丁度、雄英の記者会見が始まった。

 

ムーンビーストとオーバーホールの二人は無言でそれを見終えると、対照的な反応をする。

ムーンビーストは楽しげに笑い。オーバーホールは憎らしげに眉を潜めた。

 

「『未来を侵されることが“最悪”』とは、相も変わらず根津校長は言葉が上手い。良き表現だとは思いませんか?ええ、生きてさえいれば負けではないとは、実に泥臭く私好みです。今度、決め台詞としてオマージュさせて頂きましょう」

 

「只の責任逃れだ。奴らがお前に負けたことに変わりはない。お前が居なければ、ギガントマキアに未来すら壊された奴が何人出ていたか」

 

「おや、おやおや、今日は珍しく私を持ち上げて頂けるのですねえ。コレは気分が良い。オバホお兄ちゃん!もっと私を褒めてもいいんだからねッ‼」

 

「・・・本気で分解(バラ)すぞ」

 

ムーンビーストの気持ちの悪い三文芝居にオーバーホールは舌打ちを鳴らしながら、テレビのチャンネルを変える。

合わせるチャンネルは災害時でも意地を通して予定通りアニメを放映する根性のあるテレビ局だ。

そこでなら雄英の記者会見の話題を見なくても済むというオーバーホールの考えはあたり、ムーンビーストとオーバーホールはしばらくの間、国民的テレビアニメを一緒に鑑賞することとなった。

此所で部屋を出て行かないのがオーバーホールの変なところだと内心で笑うムーンビーストだったが、声に出せば喧嘩になるので押さえて国民的テレビアニメを楽しむ事にした。

 

「このアニメは、何時代の話なのですかねえ。スカイツリーが生えているのに、スマホがありませんよ」

 

「知るか」

 

しかし、そんな楽しいアニメ鑑賞も長くは続か無かった。

 

 

テレビの映像が切り替わる。それは意地を通せぬ現実を前に、根性が屈した瞬間だった。

 

 

《緊急臨時放送ですッ‼》

《悪夢のような光景!突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました!》

《現在オールマイト氏が元凶と思われる(ヴィラン)と交戦中です!》

 

 

ムーンビーストは衝撃を受けた。

雄英の記者会見で出た“現在、全力で調査中”という言葉から、息継ぐ間もなく行われたヒーロー達から(ヴィラン)連合への一転攻勢。

個性『創造』という唯一無二(オンリーワン)が可能にした電撃作戦自体は、個性『ハイスペック』を持つ根津校長の存在を考えれば十分に理解ができた。

だから、自分とは遠い所で起きた大事件に対して、ムーンビーストは驚きこそすれ心臓が締め付けられる様な衝撃は受けなかった。

 

それはオーバーホールも同じだ。彼にとって(ヴィラン)連合は目下の敵でしかない。ヒーローたちが(ヴィラン)連合を潰すと言うのなら、ポップコーンとコーラを片手にムーンビーストと共にテレビの前で囃し立てて居ても良かった。

 

しかし、オールマイトとオール・フォー・ワンが戦っているというなら、そんな暇はない。

 

 

《信じられません!(ヴィラン)はたった一人!街を壊し!平和の象徴と互角以上に渡り合っていますッ‼》

 

 

ムーンビーストがソファーベッドから跳ねるように立ち上がり、牧師服の上着を手に出口へと向かう。

 

「待て!ムーンビーストッ!今から行って何になるッ!間に合うはずが無いッ!」

 

「・・・だから、テレビを見ていろと?私はねえ、オーバーホール。バトル漫画を読む度に、“今のアイツには、オレも敵うか分からねぇ”という台詞を吐くだけの、主人公が戦っているのをただ見ている元敵キャラには成りたくないと常々思っているのですよ」

 

「現実の話をしろ。奥多魔から神野区まで、どれだけの距離があると思っている。今から向かったところで、戦いは終わっているだろう。どちらが勝ったところで、集まってきたヒーローに、お前は捕まるだけだ」

 

「オールマイトは負けませんよ。彼は私の先駆者だ。“平和の象徴”の存在があったからこそ、“正義の象徴”は生まれた。・・・それに、ステインの理想像が、負けるはずが無い」

 

「そういう話をしているんじゃないだろうッ‼」

 

「・・・オーバーホール。この戦い。どんな結末であれ、世が変わる。灰色勢力(我々)が正しき社会の為に立つというのなら、どちらにせよ、私か貴方のどちらかが現場に行かねばなりますまい。次章開幕(ファンファーレ)に間に合わなかった役者の言葉に耳を貸すほど、観衆は愚かではありませんよ」

 

ムーンビーストはそれ以上の言葉を交わす暇は無いと言いながら、部屋を飛び出していった。

オーバーホールは壁を殴りつけながら、歯噛みする。

ムーンビーストの言葉は正しかった。復讐という正義を掲げ、(ヴィラン)を殺す(ヴィラン)である事で影響力(カリスマ)を得てきたムーンビーストにとって姿を現した闇の帝王の戦いに参戦しないという選択はない。

そもそも神野区で現在、起こっている惨劇。何人死んでいるか分からない。

闇の帝王-オール・フォー・ワンの存在を知らないテレビを見ているだけの一般人(パンピー)であっても、この場面で“正義の象徴”が現れなければ、ガッカリするだろう。

対岸の火事を楽しむ感性が、無責任な期待が、逆十字を錆び付かせる。

それはオーバーホールにとっても不利益になることだった。

 

オーバーホールはスマートフォンを取り出し、レディ・ナガンへと連絡を取る。

 

「俺だ。テレビは見ているな?馬鹿が向かった!ミルコはいるか?ああッ、止めたさ!止まらないから馬鹿なんだろう!お前たち直ぐに行け!必ずアイツを回収しろ!俺も八斎衆を集めてから向かう!二度目の奪還は無理だ!アイツを逮捕させるな!俺たちに必要な存在だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

月を見る度に思い出す光景がある。

香山先生(あの人)は、月夜にだけ私の前で煙草を吸ってくれた。

それが教師という役職を脱いで、一人の女性として接してくれているようで嬉しかった。

 

『私と貴方は、教師と生徒なのよ?』

 

そんな言葉を何度、聞いたかは分からない。

その度にあの頃の()は耳を背ける子供のような真似をしていた。

その度に笑う香山先生の顔は女神のように美しかった。

 

両親が死んだ。弟が死んだ。

全てを失い立ち上がった日の夜にも、香山先生は匂いが好きだと言えば煙草を吸ってくれた。

 

『そろそろ禁煙しなきゃ』

 

そう笑いながら、教職を脱いだあの人は何かを()に伝えようとして、言い淀んで止めた。

そして、何故だか泣きそうな顔で()に呪いをかけたのだ。

 

『さよならだけが人生よ。だから、笑ってさよならが言えるくらいに、強い男になりなさい。そうなれた時に、貴方に伝えたいことがあるわ』

 

それは愛の告白ですかと言う()に、香山先生から何時もとは違う答えが返って来たことを()は生涯、忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横浜市神野区-被災地域。オールマイトとオール・フォー・ワンが戦っている場所から、凡そ三キロ離れた場所で私は足を止めていた。

二~三歳の幼児の亡骸を抱えた男性が、私の元へフラフラとした足取りでやってくる。

 

「ああ・・・よかった。・・・助けに、来てくれたんですね?・・・どうか、この子を・・・妻に、頼まれたんだ・・・。どうか、どうか・・・助けて、ください」

 

男性は幼児の亡骸を抱きしめながら、祈るように跪く。

彼だけでは無い。多くの悲鳴(こえ)が聞こえて消える。

 

母親の亡骸に縋る子供が居た。

物言わぬ友人を背負いながら足掻く少年がいた。

恋人の傍らで絶望する女性がいた。

見知らぬ誰かを助けるために傷つき倒れたヒーローの死体があった。

 

私に彼らは救えない。救う術を私は持たない。だから、何も出来ないから、何もしないのか。

違う。そうじゃない。私にも出来ることがある。やらなければ、成らないことがある。

 

逆十字のオブジェを取り出し、跪く男性が抱きしめる幼児の亡骸の上に置く。

似非牧師である私は幼児の亡骸に祈ることなど、出来ない。

出来たところで、それに意味など無いだろう。

神など信じぬ私に救いを齎す力などあるはずが無い。

しかし、それでも無垢な魂は必ず天国へと向かうだろう。

向かわねば成らない。成らないはずだと歯を鳴らす。

 

そうで無ければ、神や仏に存在意義など無いのだからッ―――。

 

神でも仏でも無い人間に出来る被害者への唯一の救済。

天秤の傾きを正さなければならない。奪われたのだから、奪わねばならない。

 

復讐を。

今宵の月夜に個性『ギロチン』は、また覚醒を迎えた。

 

 

 





いつも感想ありがとうございます。
この場を借りてお礼を申し上げます。
とても励みになっています!
少しずつではありますが、全てに目を通して出来る限り返信をさせて頂きます!

m(_ _)m

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