皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
殺さねばならぬ
この世界には、生きていてはいけない人間がいると言うことを世間に知らしめる必要があった。
「―――たとえそれが、貴方の最後の戦いを汚す事になろうとも、私には成さねばならない“正義”があるのです」
私が神野区の現場へ到着した時、既に戦いは終わっていた。周囲は破壊され被害は甚大。
どれほどの死傷者が出たかも分からない。
凄惨なる戦いの果てに、それでも
オールマイトやエンデヴァーなど名だたるヒーローたちが見守る厳戒態勢の中、オール・フォー・ワンが
それを中継するテレビカメラに向けてオールマイトが「次は君だ」と、まだ見ぬ犯罪者への警鐘を鳴らし、平和の象徴の折れない姿を示す中で、しかし、引き下がるという選択肢は存在しなかった。
倒壊したビルの瓦礫の山の上に立ちながら、私は周りを見渡した。
オールマイトの勝利に沸いていた人々の顔が青ざめるのが見えた。
オールマイトとエンデヴァーの二人がいち早く私に向けて意識を向けて動こうとする。
「・・・首台少年」
「ムーンビーストぉッ‼」
私はそれを手で制止しながら、戦う気はないのだと告げる。
「英雄の手により魔王が打ち倒されたハッピーエンドを覆す気はありません。私が此所に来たのは、貴方たちと戦う為ではない。貴方たちが成せぬことを、代わりに成しにきたのです。どうか、オール・フォー・ワンの身柄を引き渡して頂きたい」
「
「いいえ、エンデヴァー。勿論、違うと言い切りましょう。私はオール・フォー・ワンを殺しに来たのです。その男の死刑は確定的だ。ならばこの場で首を斬ることに何の躊躇いがありましょうか。貴方も辛酸を嘗めさせられたのでは?」
赤い眼鏡の下の金眼を晒す。
私の覚悟を込めた言葉に圧されるエンデヴァーに対し、オールマイトは静かに首を横に振るだけだった。
「首台少年。それは出来ないよ。君も分かっているだろう。前にも言っただろう。・・・どんな犯罪者にも、裁判を受ける権利がある」
「・・・私以上に因縁深く、彼を殺したいと思っている筈の貴方の言葉です。あるいは、それで止まっても良かった。此所に来る前までなら、ギロチンの刃を収めても良かった。しかし、もう駄目なのですよ。私は此所に来て、見て、知ってしまった。やはりこの世界にはッ、産まれてくるべきじゃ無かった屑が居るとッ‼」
瞬間、私の全身に形成されるギロチンの刃が周囲の瓦礫を弾き飛ばす。
私が誇る
私は瓦礫の向こうを指さしながらに言う。
「今しがた、幼子が死にました。彼は、まだ何も知らなかった。“正義”も、“悪”も、“ヒーロー”も、“
「ッ!?・・・不甲斐ない」
「あ、いえ、いえいえ、申し訳ない。貴方を責める気はありません。たとえオール・フォー・ワンが貴方との戦いで放った衝撃波の余波でその幼子の命が奪われていたとしても、悪いのは貴方では無い。オール・フォー・ワンだ。だから、私は彼を殺す。簡単な理屈ではありませんか。何一つとして難しいところなど存在していないッ‼」
「・・・それを許すことは出来ないんだ。出来ないんだよ。首台少年ッ‼たとえ正義が有ろうとねッ、法と秩序を乱す事は許されないッ!それを許せば世の中は混乱の
「・・・何故だ。何故・・・わかってくれないのですか。子を殺された親が抱く殺意を、何故否定しよう等と思えるのか・・・私には理解が、できない」
私は顔を両手で覆いながら、嘆かずには居られなかった。
オールマイトは素晴らしいヒーローだ。
彼の正しさはステインの存在が証明している。
それなのにオールマイトの言っていることが理解出来ないと言うことは、私が異常者であると言うことだ。
此は辛い。
私の正しさが社会に迎合しないということだからだ。
人は一人では、生きていけない。
しかし、私は一人では無かった。
嘆き悲しむ私の前に心友-ステインの幻影が現れる。
『・・・ハァ、論外。お前は此所に話をしに来たのか・・・?違うだろう・・・。“正義の象徴”、使命を果たせ』
しかし、口上無き殺人は通り魔と何ら変わりが無い。
正義を示すなら、“
『・・・なら、真面目な、お前に、この言葉を贈ろう。・・・ハァ、正義の反対は、悪では無い。・・・正義の反対は、また別の正義だ・・・』
ステインの幻影は何処かで聞いたことの有る台詞を吐いてドヤ顔をしていた。
というか、生前、私がステインに貸した野球選手育成ゲームに出てきた台詞だった。
『・・・ハァ・・・迷うな。オールマイトとは、違う。・・・お前にはお前の正義があるのだろう』
「確かにッ‼」
顔を覆っていた両手を退けて、朝焼けに向けて大笑する。
「オールマイトッ!貴方の主義主張は理解しましたッ‼しかし、迎合はできない!私は亡き者の無念を晴らす為ッ!嘆く遺族の涙を止める為ッ!正義をッ、復讐をッ、誰も果たせぬ事を私が遂げるッ‼」
最早、対話は終えたとギロチンを掲げ私は
「正義ッ、執行‼百回ッ、死ねええええッ‼‼‼オール・フォー・ワン‼‼‼」
「正義ッ、執行‼百回ッ、死ねええええッ‼‼‼オール・フォー・ワン‼‼‼」
闇の帝王を打ち倒し大団円の朝を迎えた筈の場所で青い月が昇る。
ムーンビーストの言葉には正しさがあった。嘆きに納得も出来た。この大事件に出動し、
その凶悪事件の被害者と遺族を見る度に彼は身体の中で燃え上がる正義の炎に薪を
しかし、同時に一つの思いが芽生えたことは否定できない。
女学生誘拐殺人事件。
彼が捜査に携わった事件の犯人が裁判所でニヤけながらに言った言葉。
『捕まるんなら、もっと
それを聞いた時に芽生えた感情。
“
警官である彼は向かってくるムーンビーストを前に許されざる事をする。
同僚を突き飛ばし、
「コイツを、殺してくれ!ムーンビーストッ‼」
しかし、
「ッ!?く・・・ほ、ホークス!?」
ヒーロー名-ホークス。速すぎる男のようやくの到着を以て事態は最悪を逃れた。オール・フォー・ワンの入った
「まだ終わってない!ムーンビーストを捕らえろッ‼カメラの前でッ、
ホークスの言葉で満身創痍のオールマイトを除くその場に居た全ヒーローがムーンビーストへと向かって行く。
期待の新星-シンリンカムイ。
プッシーキャッツメンバー-虎。
洗濯ヒーロー-ウォッシュ。
スネークヒーロー-ウワバミ。
名だたるヒーロー達に囲まれながらもムーンビーストは浮かべた笑みを消す事は無かった。
ステイン奪還作戦にてムーンビーストはエンデヴァーに敗北している。ならば、この戦力差で彼を捉えられない筈がないと考えるヒーローは多くいた。
しかし、エンデヴァーやホークスを始めとした一部のヒーロー達はムーンビーストの変化に冷や汗をかいていた。
本来、四肢からしか形成されない筈のギロチンの刃が全身から飛び出している。刃の色は鈍色を超え蒼色へ変わっている。
その姿は余子浜スタジアムでオールマイトと伍した
“
「全員でムーンビーストを捕らえッ―――
誰が言ったかも分からない言葉が途中でかき消える頃には、エンデヴァー、ホークス、エッジショットの三人を除くヒーロー達が吹き飛ばされていた。
「・・・衝撃波?貴様も、複数の個性を持っているのかッ!」
「いえ、私のものは只の飛ぶ斬撃です。オール・フォー・ワンの不純なモノと一緒にしないで頂きたいですねえ。漫画では定番でしょう?」
戯れ言と共に力を見せつけるムーンビーストに対して三人のヒーローは連携を以てムーンビーストを捕らえようと動く。
エンデヴァーの業火がムーンビーストを襲う。個性『
「“
その全てを一撃に伏しながら、ムーンビーストはオール・フォー・ワンを捕らえる
そんなムーンビーストに最後に立ち塞がる者は、言うまでも無く彼だった。
「・・・首台少年」
「・・・オールマイト。退いて頂きたい」
「無理だね。君は、止めなきゃ、オール・フォー・ワンを殺すだろう」
それは既にあの月夜に余子浜スタジオで交わし終えた問答だった。
故にムーンビーストは頭を振りながら、ギロチンの刃をオールマイトに躊躇なく向ける。
「ええ、わかっています。例え身体が枯れ果てようとも、依然、貴方は平和の象徴。しかしッ、貴方は最早ッ、私にとっての
オールマイトは既に満身創痍。彼には既に聖火の如く受け継がれる
故に今の彼には枯れ木のような見た目通りの戦闘能力しかなく、ムーンビーストを止める力などない。
しかし、それでも尚、オールマイトは動かなかった。
ムーンビーストの拳がオールマイトの目の前で停止する。
その拳は小さく震えていた。
それは、たとえ正しさが無くとも正義を押し通すと決めた“
「・・・どうか、答えて頂きたい。何故、復讐を否定するのです。復讐こそが、唯一絶対に平等なる正義の筈なのに・・・」
「首台少年。いや、ムーンビースト。君は、血に塗れた手で亡き人の冥福を祈れるのかい?」
復讐に正義はないのか。
答えなど出ない問を前にしてもーーー
オールマイトは折れなかった。
ムーンビーストは祈れなかった。
彼は理不尽に奪われた無垢なる命を前に祈ることが出来なかったから、此処に居るのだ。
「それ・・・は・・・」
「だから、
光があった。オールマイトの窪み落ちた瞳の中に決して絶やせぬ輝きを見たムーンビーストは、諦めた様に呟いた。
「・・・やはり、貴方は完璧だ。私は納得してしまった。しかし、私はその完璧を直角に曲げて答えを出させて頂くッ!オールマイトッ!貴方たちの様な素晴らしきヒーローがッ、無垢なる命のために祈りなさいッ‼私はッ、
ムーンビーストの拳が、オールマイトを殴り飛ばした。
「「「「オールマイトッ!?」」」」
拳から伝わる重さが枯れ木のように軽い事に涙を流しながら、ムーンビーストは叫んだ。
「全ての
そして、
「なん・・・です・・・?」
力を失い勢いよく地面に倒れた身体に目を白黒させるムーンビーストの鼻腔内に、今は世界で一番嗅ぎたくなかった香りが入ってくる。
それは個性『眠り香』の香りだった。
雄英高校から、駆けつけてきたミッドナイトが其処にいた。
「ああ・・・ここで、貴女か。さいあく・・・ですねえ。貴女には・・・聞かねばならぬ事が、多すぎると言うのに・・・」
「面会に行くわ。何度でもね。だから、今は眠りなさい。ムーンビースト。いえ、正義君」
「名前を・・・呼んで欲しく、ありませんねえ。・・・許したく・・・な・・・い。・・・しかし、今は・・・」
ミッドナイトの個性『眠り香』。
肌から放たれるその香りは、本来、一呼吸でも耐えられるモノでは無い。
以前、余子浜スタジオでの戦いの際には奥歯に非合法の薬剤を仕込む事で意識を強制的に覚醒させたムーンビーストでは有ったが、今回、そんな仕込みはしていなかった。
その筈なのに、抗えない筈の昏睡に抗い
「正義・・・執行・・・。今、やらねば・・・私が、果たさねば・・・」
砂に塗れるその歩みが、嘗てミッドナイトが好きだった泥臭い彼の姿と重なって見えて、彼女の眼から涙が零れていた。
例えそれがどれだけに懸命であろうとムーンビーストの行動は無駄な悪足掻きだ。
ミッドナイトの個性『眠り香』を嗅いでしまった時点で彼は詰んでいた。
「か、かくほー!ムーンビーストを確保せよ!」
何人もの警官がムーンビーストの上に覆い被さり動きを止める。一人の警官に髪を捕まれて上げていた顔を地面に叩きつけられる。衝撃で眼鏡が割れてミッドナイトの足下へ転がっていった。
余子浜の時とは違う。彼を助ける誰かは現れない。
最早、これまで。個性『眠り香』により意識は混濁し、身体の自由も奪われ、何も出来なくなったムーンビーストが最後にした事は、懇願だった。
「・・・みなさん。どうか、わたしの、話を聞いては、頂けませんか」
嗚咽混じりの声だった。
「オール・フォー・ワンを・・・殺せる。・・・今はチャンスなのです。・・・私には・・・わかる。今、殺さねばならないのです・・・」
彼は助けを求めて泣いていた。
「・・・お願いします。お願いだ。頼む、たのむよぉ。・・・オールマイト。・・・エンデヴァー。・・・エッジショット。・・・ホークス。・・・シンリンカムイ。・・・香山先生。・・・誰かッ、誰でもいいッ!・・・オール・フォー・ワンを殺してくれ!生かしておけば、とんでもないことになる!」
助けを求めるムーンビーストの声に返事をする者は居なかった。
多くの者がムーンビーストを見下ろしながらも、答える者は誰も居なかったのだ。
それが“正しさ”。
それが“社会正義”。
これまでムーンビーストは多くのヒーローを救ったが、ヒーローは
「正義君。話なら、私が刑務所でいくらでも聞いてあげるわ」
ムーンビーストの頭を地面に押さえつけて居た警官を押しのけ、ミッドナイトの手がムーンビーストの頭を優しく撫でる。
ムーンビーストは眠りに落ちる最後までオール・フォー・ワンが入る
「必ず・・・後悔することになる・・・」
そのムーンビーストの不様な最後をテレビカメラは克明に映していた。
ムーンビーストはこの日、二度目の逮捕を迎えた。
―――以上が、神野区で起きた事件の顛末。
以下、それに付随して起こった灰色勢力による神野警察署襲撃事件についての詳細。
エンデヴァーを筆頭とするプロヒーロー23名がこれを撃退。
レディ・ナガン及び一名の
市民20名もその場で拘束された。
ミルコはレディ・ナガンが捕縛直前に放った煙幕弾に紛れて逃走。現在、捜索中。
同時刻、神野区の幹線道路にて八斎衆を名乗る
結果、
彼らを率いていたと思われる灰色勢力主要メンバーの一人、オーバーホールも姿を現すが逮捕には至らず。現在、捜索中。
また捜査当局は指定
また以前よりムーンビーストとの個人的な関係の疑いから捜査が進んでいた大手金融商社『金倉グループ』の総帥への逮捕に踏み切る。
『灰色勢力』は事実上、壊滅した。
第二部ッ完ッ‼
ムーンビーストとオールマイトの戦いはこれにて決着です。
第三部から、本格的にワン・フォー・オールと戦う予定です。
主人公が愚かにも逮捕されてしまったので作中での時間が大分飛ぶ予定です。
具体的にはコミック31巻。
現在、アニメでやっている位の所です。
今後も皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
また毎回、誤字脱字報告をしてくれている方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。
本当にありがとうございm(_ _)m
“
ムーンビーストの言っているだけ必殺技シリーズ最新作。順調に個性を覚醒させ続けたことで飛ぶ斬撃が出せるようになり、調子に乗った只の飛ぶ斬撃。作中で出したものは峰打ちバージョン。やろうと思えばビル位は斬れる。
個性の覚醒。
ヒーロー相手には使用できなかったチカラ。
考えていない訳ではない。ホントですよ。