ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m





個性『予知』②

 

“煙草を(たしな)む”という言葉があることから分かるように、喫煙は大人の嗜みだった。

副流煙が起こす他人への害が認知されると共に分煙が進められ、禁煙を素晴らしい事だと主張し、嫌煙を叫ぶ輩が跋扈(ばっこ)するように成ってからは、悲しいことだが禁煙をすることが良い大人の嗜みに成ってしまった。

都条例や“吸わない権利”とやらの所為で社会から喫煙所が駆逐されてからは、立場ある大人は煙草を吸わないという風潮まで出来つつある。

悲劇的だと言わざるを得ない。

社会の酸いも甘いも知らぬ輩は、大人の女性が煙草を嗜む姿の色気を知らないから、そんな阿呆な事が言えるのだろう。

 

香山先生が煙草を嗜んでいた姿。

あの姿に並びたいと言う思いから、私の第二次成長期は始まったと断言できる。

生物学的根拠を無視できるほどに、その姿は魅力的だったのだ。

 

 

 

 

『事件が起こる前に止めることが出来たなら』、それほど素晴らしい事はないと笑うミルコの笑顔を私はしっかりと覚えている。だから、彼女の思惑に乗り協力することに否はなかった。

監獄の中に居ても届く”善意の第三者”からの協力で、ミルコが私の予測する悲劇を回避する為に動いてくれていると知ったときには感動すら覚えた。

私は何時だって多くの人々に助けられながら生きている。

 

「―――だから、どうか貴方にも助けて欲しいと伏してお願いするばかりなのですよ。サー・ナイトアイ」

 

面会室にて、防弾ガラス以上の強度を持つと噂の防閃光銃(レーザーガン)ガラス越しに見る男の眼は今まで見てきたヒーローの中で最も冷えていた。

黄色い眼鏡の下の黄色い瞳はジッと私を見据えたまま、口角筋はピクリとも動かない。

私はそれでも臆すること無く言葉を重ねる。

 

「貴方に私の未来を見て、これより起こる悲劇の情報を得て頂きたい。そして、事件が起こる前に未然に防ぐのです」

 

果たして、サー・ナイトアイからの返答は如何に。

喉を鳴らし緊張する私に対してサー・ナイトアイは一度、眼鏡を押し上げた後に無表情のまま返答する。

 

「協力しよう」

 

「ッ!本当ですかッ!素晴らしいッ‼」

 

「ただし、条件がある」

 

「何なりとッ‼私は何でもしますよ!」

 

「死穢八斎會の元若頭、治崎廻についての情報を提供しろ。それが条件だ」

 

サー・ナイトアイから意外な名前が出たことに驚きつつ、そういえばオーバーホールの所属していた死穢八斎會の組長宅兼事務所はサー・ナイトアイがヒーロー事務所を置く地域の近くだった事を思い出す。

 

「・・・既に死穢八斎會は私との関与を疑われ、解体されたのでは?今更、貴方がオーバーホールに何のようがあるのですかねえ?」

 

「あの地域では以前から数名のヒーローが行方不明になっている。その事件に治崎が関わっている可能性がある。その調査をしている。それに、たとえ組が解体されようと治崎は危険な(ヴィラン)、オーバーホールだ。そうだろう?()()()()の首魁、ムーンビースト」

 

サー・ナイトアイがテーブルに肘をつき、口元で両手を組みながら(ゲンドウポーズで)眼鏡を光らせている。

私は否と首を振る。

 

「首魁などと、過大評価ですねえ。灰色勢力(我ら)の暗躍は、ステインの諜報能力あってのものでした。灰色勢力(我ら)の運営は、オーバーホールの経営手腕によるものでした。灰色勢力(我ら)を一勢力と、たらしめていたのは、レディ・ナガンが“善意の第三者”を纏め上げていたからだ。私は只の旗印。“象徴“に過ぎません。聖ペテロ十字(逆十字)が意味を持ち、”復讐と言う正義“の象徴と成った今では、替えの利く存在にすぎない。そうあるべきだ」

 

そうなるように願い足掻いた末に私は今、此所にいるのだから。

 

「だから、故に残念ながら、貴方の願いは私のチカラの範疇を超えている。彼方からコンタクトを取ってこない以上、私はオーバーホールの居場所など知りませんよ」

 

「・・・では、私も貴様に協力は出来ない」

 

「それは無理だ。貴方は私に協力するしかない」

 

「・・・貴様は、何を言っている?」

 

一転攻勢。

急に強気に出た私を(いぶか)しむサー・ナイトアイに対して、私は笑みを携えながらに言う。

 

「貴方は素晴らしいヒーローです。そんな貴方が、事件を未然に防ぐ為の情報提供を拒む理由が無い。そして、知れば必ず事件を未然に防ごうと全力を尽くす筈です。ヒーロー、なのですからねえッ!」

 

身を乗り出だし歯を見せて笑う私の肩を、看守が掴んで椅子に座らせてこようとするが、その程度で揺らぐ私の体幹ではない。

勢いのままに防閃光銃(レーザーガン)ガラスに額を打ち付けながら、サー・ナイトアイの黄色の瞳を覗き込む。

 

「貴方の瞳は、私に良く似ている」

 

私の金眼に良く似たサー・ナイトアイの黄色の瞳。

しかし、私の言葉は見てくれだけを捕らえてはいない。

 

「心の底から、大切だと言い切れる人が貴方にも居るのですね?恋にも似た憧れ。積み上げたそれは愛にすら昇華しうる。守りたいと願った。側に居たかった。しかし、それは叶わなかった」

 

サー・ナイトアイのこめかみがピクリと動く。

言葉のナニカが彼の逆鱗に触れつつあると理解しながらも、言葉を止める事はしない。

前にトガヒミコに語った通りだ。思いは言葉に出して行動に移さなければ意味が無い。

 

「裏切られたと思った筈だ。しかしッ、それでも(なお)ッ、一度ッ、愛してしまえばッ!愛してしまったならッ、忘れることが出来ないのが、愛なのですねえええッ‼‼‼」

 

私の声量に看守が(おのの)()退()いた。

サー・ナイトアイは姿勢を一ミリも崩さないまま、呆れたように溜息を吐く。

 

「・・・それは、貴様とミッドナイトのことを言っているのか?面会にあたり調べた。()()()()()()()()()()()()()()()()。ミッドナイトには一ミリの非も無い。貴様が気持ち悪いだけだ」

 

「や、安い挑発ですねえ。わ、私に通じる筈もない・・・」

 

「なら、顔に浮き出たその静脈(青筋)は何だ?図星を指されて怒るくらいなら、人のプライベートに踏み込むべきじゃあないな。どうしてもしたいならユーモアを含ませるべきだ」

 

サー・ナイトアイは眼鏡を外し、ハンカチで眼鏡を拭き始める。

思春期に刺さる煽り方をされて内心で荒れている私に対して、余裕綽々な態度が気に食わないとは思うが、それではサー・ナイトアイの思うつぼだと心を落ち着けて着席する。

 

「ともかく、貴方には私の協力を拒む理由は無い。貴方への益ならば、起きうる未曾有の大災害への情報で十分な筈ですからねえ」

 

お互いに協力した方が協力しないより良い結果に成ることはわかりきっている。

 

「囚人のジレンマなどに、囚われる貴方ではありますまい」

 

「・・・囚人の貴様が言う、その言葉には、ユーモアがある。いいだろう。協力はしよう。だが、一つ問題がある」

 

そういうサー・ナイトアイが語るのは“社外秘”。

彼の個性『予知』に関することだった。

曰く、普段のチカラでは出力が足りずに遠い未来まで予知することは出来ない。

未曾有の大災害が何時起こるのかが、わからない以上、予知をする術がないという。

ならば、未曾有の大災害を防ぐ為に個性『予知』は使えないのかと落胆する私にサー・ナイトアイは言う。

 

「“例外”があった。詳しくは伏せるが、私はある人物の遠い未来を一度だけ『予知』したことがある。その時のチカラをもう一度、使えるのなら、あるいは」

 

「その時の出力を再び扱えれば未曾有の大災害を予知できると?しかし、条件がわからないのでしょう?」

 

「ムーンビースト。お前を見ていて気づいたことがある。お前の個性『ギロチン』は今まで何度かの成長。いや、“覚醒”とも呼ぶべき段階を何度か踏んでいるな?」

 

「“社外秘”を私に晒した貴方だ。私も隠しませんが、答えはYESですねえ」

 

私の個性『ギロチン』は、最初は四肢にギロチンの刃を形成するだけの個性だった。

それが一度目の“覚醒”を迎え、人殺し()の匂いを嗅ぎ分けられる嗅覚と人殺し()の重さに比例する刃の鋭さを得た。

愛を捨てた二度目の“覚醒”で薄蒼いギロチンの刃を全身に形成できる“逆襲鬼(アベンジ・ザ・ブルー)に至った。

そして、今の私はその先に居る。

 

私の話を聞いたサー・ナイトアイは拭き終えた眼鏡をかけ直しながらに言う。

 

「恐らくは強い思いが個性を成長させるのだろう。子供ほど個性の伸びが良いのはそれが理由かも知れない。大人になるほど、()()になることを鼻で笑い、()()な振りをしたがる」

 

「ユーモアとは、駄洒落のことなのですかねえ?」

 

サー・ナイトアイに思いっきり睨まれた。

私は話を戻す。

 

「今の貴方は懸命になれますか?」

 

「ユーモアで、ありたいとは思う」

 

サー・ナイトアイは立ち上がり背を向けて面会室から出て行く。

その背中を信じても良いのだろうかと悩む私にサー・ナイトアイは背を向けたまま言う。

 

「“大丈夫だ”。・・・()しくも、お前の言うとおりだ。一度、思ってしまえば忘れる事などできない。私は、まだ・・・彼の為になりたくて此所に居るのだから」

 

 

「彼が築き上げた平和を壊させてたまるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サー・ナイトアイとの面会から三日後、私の身柄は秘密裏に別の刑務所へと移される事となった。

四肢を縛る拘束具を着せられ目隠しと防音ヘッドホンを付けさせられた私には、自身がどこの刑務所に移送されるのかは知らされて居ないし知る術もないが、対“個性”最高警備特殊拘置所(タルタロス)で無い事は確かだろう。

二度目に逮捕された時と同じく、私の個性と死刑囚の坩堝(るつぼ)であるタルタロスの相性の悪さを(かんが)みて、警察の上層部が私をタルタロスに入れるのを躊躇しているらしい。

故に二度目の逮捕の際、私は世間には公表されぬままタルタロスには劣るが最高クラスの警備能力を持つ紫安(しあん)刑務所に入れられた。

その情報は警察と公安の上層部。そして、プロヒーロー専用の情報共有サービスであるHN(ヒーローネットワーク)の上位クラスの情報を見ることの出来るトップヒーローしか、知ることが出来ないそうだ。

 

だから、脱獄の協力者など現れないと得意顔で話していた暢気な看守は元気だろうかと紫安刑務所から出て行く時には考えていたが、それも直ぐに忘れた。

私には考えなければならないことがある。

紫安刑務所から別の刑務所への秘密裏の移送。

タイミング的に考えて、それは間違いなく私とサー・ナイトアイの接触が原因だろう。

それが警察や公安の上層部が私とサー・ナイトアイの結託を疑っての事なら、良いだろう。

サー・ナイトアイほどの切れ者のヒーローが、私を利用こそすれ、利用される訳がないという事実に目を瞑り、彼らの危機管理能力の高さを褒め称えてもいい。

しかし、そうでないのなら。

私とサー・ナイトアイの結託を恐れたのは、警察でも公安でもない組織ということになる。

加えて、その組織は私の身柄をどうこうできる権力を持っているということになる。

 

「・・・“闇の権力者”。オール・フォー・ワンと、繋がりが無い訳がありません」

 

「おいッ!喋るなッ‼猿轡(さるぐつわ)をされたいのかッ‼」

 

「アハハ、申し訳ありません。ただ無事に目的地に付けるのか、心配でして。意図せぬ第三者の介入が、無ければ良いのですが・・・」

 

「わ、我々を脅しているのか⁉」

 

「いいえ、貴方達の身を案じているのです。私の所為で罪無き人々の命が散るのは、嫌ですからねえ」

 

「な、何を言っているんだ・・・」

 

彼が疑問の答えを得ないまま何事も無く終わるのが一番だという私の願いが通じたのか、私の身柄は無事に次の刑務所に移された。

私が果たして国内に七つある紫安刑務所と同レベルの刑務所のどこに居るのか、最早、HNの上位クラスの情報にアクセス出来るトップヒーローにも秘匿されるのだろう。

そうでなければ、この移送には意味が無い。

 

ともかくとしてコレで私とサー・ナイトアイの協力関係は強制的に絶たれてしまった。

 

最早、サー・ナイトアイの個性『予知』で私が予見する未曾有の大災害の内容を知る術はない。

 

意思(悪意)を感じる。強大なる意思(悪意)が、此の国に渦巻いている。

それら全てが“未曾有の大災害”の成就に動いている予感がする。

 

私の社会からの“退場”は、早かったのだろうかと後悔を覚えそうになる。

オーバーホールの言うとおり、神野区に駆けつけ無ければ逮捕される事はなかった。

偉大なる脅威(オールマイト)が無き後の社会をオーバーホールと共に裏社会から牛耳り、“正義の象徴”として存在感を発揮し続けることが正解だったのだろうか。

 

そうすればコレより起こる“未曾有の大災害”に対して、私自身で対処することも出来ただろう。

だが、しかし、それは出来なかった。

神野区の悪夢を見過ごすことなど、出来るはずも無かったのだから、それは無駄な後悔だ。

それなら、今の私に出来ることは一つしかなく―――

 

「信じましょう。ヒーローを、かつて私が焦がれた目映い彼らは、消して悪に屈することなどないと」

 

窓の無い独房の中で頭上に上がっている筈の月を思いながらに願う。

血に塗れた手で祈ることの出来ない私のコレが願いだ。

 

「明日という日も、安心して眠れる日でありますように」

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後、私が居た九陰(くいん)刑務所は脳無達とタルタロスの脱獄囚と思われる者たちの襲撃を受けて破壊された。

私は脳無達の残骸とタルタロスの脱獄囚と九陰刑務所から脱獄を図っていた殺人犯の死体で築き上げた山の上で、新月の夜に吠えるしかなかった。

 

それは何も守れなかった馬鹿な負け犬の遠吠えだった。

 

 

 






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