ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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クリスマスなのでイチャイチャを書きたかった。
皆様の暇潰しになれば、幸いです。
m(_ _)m




個性『百足』

 

 

タルタロス陥落から二日、七カ所の刑務所が脳無とタルタロスの“ダツゴク”の襲撃を受け、そのうちの五カ所より凶悪な(ヴィラン)が解き放たれた結果、都市部はパニックに陥っていた。

 

その“未曾有の大災害”を防ごうとした者たちは数多く居た。

(ヴィラン)連合と異能解放軍が結びつき結成された“超常解放戦線”に対して戦ったヒーロー達。捜査協力に尽力した警官隊。社会の裏側に眼を光らせていた公安委員会。

しかし、その全てが目覚めの魔王のひと()でで、崩壊した。

 

オール・フォー・ワンの後継者-死柄木(しがらき)(とむら)

かつてUSJにて死柄木弔と対した時、ムーンビーストは彼を歯牙にもかけてはいなかった。

彼が連れていた脳無にこそ危険性を感じて、先に殺害した。

その判断の結果、USJにはオールマイトが駆けつけてきて、ムーンビーストは死柄木弔を殺害することが出来なかった。

 

―――あの時、殺しておけばよかった。

 

何度、したかも分からない後悔を引きずりながらムーンビーストは曇天の中で、瓦礫の町を重い足取りで歩いていた。

被災地域、蛇腔市。

僅か三日前に起きた“超常解放戦線“とヒーロー達の戦いの舞台となった街。

 

アスファルトには乾いて黒ずむ血の跡があった。

地面に落ちた子供用の人形の眼がジッとムーンビーストを見ていた。

 

ムーンビーストは泣かない。

代わりに雨が降り始めていた。

 

後悔があった。それはムーンビーストの勝手な後悔だった。

かつて憧れた目映い彼ら、ヒーローが(ヴィラン)に負ける筈が無いと勝手に信じていて、だから、勝手に裏切られた気分になっているだけだった。

 

“どうして負けたのか”なんて、“なんで守れなかったのか”なんて、三日前の戦いに居合わせる事も出来なかった人間が言って良い言葉では無い。

ムーンビーストも理解していた。

ヒーロー達は懸命に“未曾有の大災害”に抗い。

 

負けただけ。

 

「ああ、ああああああああああアアああア、アアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアああア嗚呼ああアァァッ‼」

 

雨脚がムーンビーストの叫びを掻き消すほどの豪雨となった時、泣くことも出来ないちっぽけな獣の前に、その女性は現れた。

ピンクとダークブルーのバイカラーの髪を見た時、ムーンビーストは思わずかけだしていた。

 

「ナ、ナガ、ナガンッ!かい、かいな・・・火伊那(かいな)ッ‼」

 

レディ・ナガンが此所まで弱ったムーンビーストを見たのは初めての事だった。

ムーンビーストの活躍は常にピンチと隣り合わせにあった。

口元に微笑を携えて、そのピンチとチャンスに変え続けてきた姿にこそレディ・ナガンは惹かれていた。

 

出会った時から、ずっとムーンビーストは笑顔でレディ・ナガンを雁字搦めにしていた鎖を打ち砕いてきた―――

 

『今宵もおッ、月があッ、綺麗ですねええエエッ‼』

『尚のこと、救わねばなりますまい!』

 

しかし、常に前を向き己の命を賭して信念を練り上げていた黄金に等しき男は既に見る影もない。

此所に居るのは雨に打たれ弱り切った負け犬だった。

 

なら、レディ・ナガンはムーンビーストに失望するだろうか。

いや、それはない。

レディ・ナガンはムーンビーストを抱きしめる。

 

雨に打たれ震える身体を力いっぱいに抱きしめる。

レディ・ナガンは病める時も、悲しみの時も、貧しき時も、ムーンビーストを愛し敬い、慈しむと決めていた。

 

「私はッ、失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。あたしは失敗した失敗した失敗した失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。失敗した失敗した失敗したあたしは失敗」

 

「・・・ああ、そうかも、知れないね」

 

「ッ!?ああッああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

「でも、生きている」

 

愛する事とは、慈しむ事とは、甘やかす事じゃ無い。

一緒(とも)に歩む事だと―――レディ・ナガンは、信じている。

 

「あんたも私も生きているからさ、足掻こうよ」

 

ムーンビーストには、それが出来ると信じている。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私らが、そいつらを殺すんだよ。(かたき)を、()とうよ」

 

復讐せよ。

 

「亡き者の無念を思い、最早果たせない復讐をあんたが遂げるんだろう」

 

報復せよ。

 

「第三者が遺族に寄り添い遂げる報復が正義なんだろう」

 

これは逆襲の物語。

 

「ムーンビースト。あんたが()らなきゃ、誰が()るのさ」

 

雨が止む。曇天が晴れる。

瓦礫のチャペルで二人は口吻(キス)をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトアイ事務所。

常に冷静沈着であり頭脳明晰。個性『予知』で未来を見通すオールマイトの元相棒。

未来を変える為に抗うサラリーマンヒーロー-サー・ナイトアイは柄にも無く荒れた口調で電話の向こうの相手を罵っていた。

 

「私はオール・フォー・ワンの即時死刑執行を進言していた。あれはオールマイトでさえ、殺しきれなかった危険な(ヴィラン)だったからだ。それを蹴ったのは公安の上層部だ。・・・・・・・・・数多の個性を持つオール・フォー・ワンを殺す術が無かった?いいや、処刑の刃は直ぐ其処にあったはずだ。あなた方はムーンビーストを利用する事を恐れた。だから、私はムーンビーストを利用することを選んだのだ。・・・その結果が、コレだ‼」

 

ナイトアイの相棒(サイドキック)である水色の肌と青い髪がトレードーマークの頑張り屋さん-バブルガールはその様子に「ヒィッ⁉」と美少女にあるまじき表情で怯えていて、もう一人の相棒(サイドキック)であるムカデ頭の紳士-センチピーダーは、そんなバブルガールを落ち着かせながら、ナイトアイが荒れる気持ちも分かると思っていた。

 

数ヶ月前に行われようとしていた作戦。

ナイトアイの個性『予知』を用いてムーンビーストから未来の情報を得て未曾有の大災害を未然に防ぐという作戦は、ヒーローが(ヴィラン)に協力を仰ぐという性質上、世間からの批判も考え内密に行われる筈のものだった。

ナイトアイ事務所でもまだ若いバブルガールには知らされず、センチピーダーだけが知っていた。

しかし、情報がどこから漏れたかは不明だが、ムーンビーストが秘密裏に紫安刑務所から別の刑務所に移された事で作戦は失敗した。

ナイトアイはムーンビーストがどこの刑務所に移されたのかを調べていたが、警察上層部の圧力により捜索は難航した。

それでもナイトアイは諦めずに、オールマイトの相棒(サイドキック)時代の伝手を頼り、ある刑事に警察内部から情報を得られないかと足掻いてた矢先、(ヴィラン)連合と異能解放軍の結びつきが発覚し、ナイトアイはヒーローとしてヒーロー公安委員会主導の大規模作戦に参加せざる得なくなった。

 

そして、起きてしまったのがムーンビーストの予見していた“未曾有の大災害”。

 

“超常解放戦線”と覚醒した死柄木弔の前にヒーロー公安委員会の大規模作戦は失敗に終わる。

同日、対“個性”最高警備特殊拘置所(タルタロス)が陥落し、オール・フォー・ワンが解き放たれた。

オール・フォー・ワンはタルタロスに収監されていた死刑囚達を掌握し、ダツゴク(手駒)とした。

そして、紫安(しあん)刑務所。九陰(くいん)刑務所。婆柩(ばあぐ)刑務所。他、四カ所の刑務所がニア・ハイエンドと呼称される強力な脳無とダツゴク達による襲撃を受け、内の五カ所から受刑者が世に放たれた。

 

人々は(ヴィラン)に襲われる恐怖に怯えている。

それなのに、ヒーローが減っていた。

 

センチピーダーは事務所の机に置いてある新聞の見出しに目を向ける。

 

【ヒーローの敗北ッ!神野区の悪夢は繰り返されたッ!】

【タルタロスが崩壊。政府は緊急事態宣言を発令】

【№8ヒーロー-ヨロイムシャが神速の引退表明】

【有名ヒーロー達が次々と引退ッ!責任逃れに怒る市民の声ッ!】

【№1ヒーローーエンデヴァーと敵連合-荼毘との関係。記者会見の日取りが決定】

【ムーンビーストは救世主(メシア)だった?予言されていた”災害“】

 

【“私は来ない”】

 

ヒーロー公安委員会の大規模作戦の失敗は、多くのヒーロー達の心を折った。

そして、(ヴィラン)の活性化でヒーローを責める市民の声が現在進行形で多くのヒーロー達を引退に追い込み、ヒーローが減ることにより更に(ヴィラン)が活性化するという悪循環に陥っていた。

センチピーダーとて、あの日以来、何度か守るべき市民から石を投げられたことがある。

百足(むかで)という異形の姿が謂れ無き畏怖と嫌悪を呼び、投げられた小石は小市民の悲鳴だと理解しながらも、今も尚足掻くヒーローを側で見ていなければ心が折れて居たかも知れないと思いながら、センチピーダーはナイトアイを見る。

 

ナイトアイは口調を落ち着かせながら、電話の向こうの相手に告げていた。

 

「オールマイトが築き上げた平和は・・・失われてしまった。だが、これで終わりでは無い。元気とユーモアのある社会を取り戻す為に、私は出来る限りの事をさせて貰う」

 

電話を切ったナイトアイの完全に冷静さを取り戻した黄色の瞳がセンチピーダーとバブルガールを見る。

 

「センチピーダー。バブルガール」

 

「はい」

「はヒィっ」

 

「大阪出張の準備をしてくれ。これよりナイトアイ事務所は大阪ヘ向かい、関西で目撃情報があった治崎廻、(ヴィラン)名-オーバーホールを捜索する」

 

「ナイトアイ。オーバーホールについては、現地のヒーローであるファットガムに任せる予定だったのでは?」

「そ、そうです。今、事務所を空けるのは・・・その、批判が・・・」

 

ムーンビーストとの協力が出来なくなった後もナイトアイ事務所では別件の事件の為、オーバーホールの行方を捜していた。

その際、関西にて目撃情報があった為、親交のあった現地のヒーローであるファットガムにオーバーホールの捜索依頼を出していた。

公安委員会の大規模作戦後、ファットガムは地元である大阪へ戻った後もヒーロー活動に尽力しながらオーバーホールの捜索を続けてくれているという連絡を先日、受けたばかりだった。

だから、訝しむセンチピーターにナイトアイは言う。

 

「・・・今の電話で情報を得た。襲撃された刑務所の内、受刑者の脱走を防げた二つの刑務所の一つである九陰刑務所にムーンビーストは収監されていたらしい。ムーンビーストは受刑者の脱走を防ぎ、姿を消したそうだ」

 

「あ、あの・・・脱走を防いだというのは、つまり、その・・・」

 

「窃盗や詐欺などの軽犯罪で収監されていた受刑者を除き、全員が殺害されている。受刑者とダツゴクの死体で出来た山の上には、ニア・ハイエンドの死骸を捻じ曲げて作った逆十字が掲げられていたそうだ」

 

「ヒィ!?」

 

凄惨な光景を想像してしまったバブルガールが青い顔を更に青くする中でセンチピーダーはナイトアイの考えを悟る。

 

「ニア・ハイエンドとダツゴクをたった一人で、やはりムーンビーストは恐ろしい。その恐ろしきチカラを利用するつもりですか?その為にオーバーホールと接点を得る必要が?」

 

「・・・ムーンビーストは(ヴィラン)だが、私たちは共通の相手を敵としている。打倒オール・フォー・ワンの、あのチカラは強大な戦力になると私は考えている」

 

「捜査協力、(どころ)の話ではありません。ヒーローが(ヴィラン)戦力(チカラ)を当てにしていると知られれば、世間の批判は免れないでしょう。私も、()(がた)いと思う」

 

センチピーダーのスーツの上の百足部分が蠢く。紳士であり真摯なヒーローでありたいと思う彼からすれば、ヒーローが(ヴィラン)の手を借りることは許しがたいことだった。

 

ナイトアイとセンチピーダーの間に流れる緊張感にバブルガールは息を呑む。

ハラハラするバブルガールを余所にナイトアイはセンチピーダーの元に近づき、事務所の机の上にあったリモコンでテレビを点ける。

 

映されたニュースには教会に避難する人々の姿が映されていた。

 

それを見ながらにナイトアイは語る。

 

「街の教会にシェルターは無い。避難するなら、もっと良い場所が数多くある。それなのに、あの人々が教会を選び、十字を切るのは何故だと思う。信仰心か?神の救いを信じているのか?いいや、違う。キリスト教徒でも無い人々が、大切な人の手を引き教会を訪れ祈るのは、それが只一つ(すが)()()であるからだ」

 

ナイトアイの眼鏡の下から、涙が流れていた。

彼は口調を変える事も無く、悔し涙を流していた。

 

「オールマイトはもう居ない。我々ヒーローは失敗した。だが、奴が、奴だけが、悔しいが認め無ければならない。凄惨に積み上げた死体の山が、血に塗れた十字架だけが、今は人々に安心を与えている。人々から求められる者をヒーローだと言うのならば、今は奴だけがヒーローをやっている」

 

「・・・・・・・・・悔し泣きするくらいなら、言葉にしなければいいでしょう」

 

「あんな奴がオールマイトと同じものかッ‼」

 

「誰もそんなこと言ってないでしょう。バブルガール。コーヒーを煎れて貰えますか?とりあえず落ち着きましょう。落ち着いたら、大阪出張の準備をみんなでしましょう」

 

「は、はい!」

 

センチピーダーは眼鏡を外しハンカチで流れる涙を抑えるナイトアイを見ながらに思う。

 

(オールマイトの元相棒(サイドキック)であるナイトアイからすれば、(ヴィラン)を認めるなんてことは、私以上に許せない事なのでしょう)

 

それでも認め無ければならない時は認める。

清濁併せ呑む器を持たなければやっていけないのが社会人。

 

(難儀な人だ。しかし、その目はしっかりと未来を見据えている)

 

センチピーダーはずっとナイトアイのそんな姿を見ていたから、心が折れずにいられた事を思い出す。

 

「ナイトアイ。取り戻しましょうね。元気とユーモアに溢れる明るい未来を」

 

涙を拭い終えたナイトアイは眼鏡を戻しながら、強い意志を込めた声で答える。

 

「当たり前だ」

 

バブルガールはそんな男二人のやりとりを見て新しい性癖の扉を開きかけていたのだった。

 

 

 




“サー・ナイトアイ”
オーバーホールが灰色連合化したので生存中。
どうにか活躍させたいヒーローの一人。
スーツの下がムキムキマッチョなのが、とてもカッコイイ!!

“センチピーター”
百足紳士。PCゲーム装甲悪鬼村正をプレイ以来、百足は大好きな昆虫です!
装甲車みたいでカッコイイ!!

“バブルガール”
下乳丸出しの頑張り屋さん。しかも青色の肌というぶっ壊れ。個人的にすごくかわいいと思います。
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