ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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明けましておめでとうございます。
今年も皆様の暇つぶしになれば幸いです。m(_ _)m





個性『オーバーホール』⑥

 

大阪市、道頓堀。

 

「アカンやん」

 

江洲羽(えすは)市から遠くない位置にある食い倒れの街を食い倒しながら、“奇跡の手”についての情報収集に励んでいたファットガムは、手にしていた韓国風揚げチーズ棒(チーズハットグ)を落とす勢いで衝撃を受けながら、情報収集により得た情報に釘付けになっていた。

昔はゴリゴリの武闘派として名を馳せ、警察と協力して違法薬物の摘発に尽力し、裏社会をよく知る彼からしても目を逸らしたくなるほどに凄惨な情報が書かれた調査書には、考え得る限り最悪な()()()()()()()が羅列されていた。

 

「・・・カニ子の元気が百割減だった訳やな。警察だけで動けんのが悔しいて、泣いていたもんなあ!・・・アカン、熱くなりすぎは駄目や。どこまでも熱々が許されるんは、たこ焼きだけや」

 

かつて共に違法薬物の摘発に尽力し、今は警部補の地位に昇り詰めている道頓堀署の女性警官の表情を思い出し、チーズハットグを棒ごとかみ砕いたファットガムは、自らを落ち着かせながら資料を読み進める。

この資料は厳密に言えばファットガムが調査している“奇跡の手”とは直接的な関わりはない。

ただ“奇跡の手”と同じく、最近になり噂として出始めていた裏風俗店の情報。

タルタロスからの“ダツゴク”が関係しているというその店は、女性をモノのように扱うという。

それだけなら、まだ異常性癖(アブノーマル)として受け入れは出来る。

無論、女性店員と客とが対等な関係であり、あくまでそういうプレイとして行っている場合に限るが、今回のコレはそうではない。

その裏風俗店で働かされている店員は誘拐された一般市民だと言う。

しかも、店員の中には“女性プロヒーローもいる”と言う一文を見た時、ファットガムは資料を衝動的に地面に叩きつけていた。

 

「なんやねんコレ!リューキュウやネジレチャンには到底、見せられへんやんけ!」

 

資料を踏み躙るのはなんとか思いとどまり、怒りが収まらない様子で深呼吸を繰り返すファットガムは気持ちを落ち着けた後、スマホを取り出して“奇跡の手”を共同で調査しているサー・ナイトアイへ連絡する。

 

「もしもし!」

 

《もしもし、此方、サー・ナイトアイ。ファットガム、なにか進展があったか?》

 

「あった!」

 

《どんな情報―――》

 

「言葉では語り切れん!直接会いたいねんけど!」

 

《了解した。リューキュウと共に直ぐに其方―――》

 

「リューキュウは駄目や!環たちも置いて来い!大人の男同士で話がしたいんや!」

 

鼻息荒くまくし立てるファットガムに通話越しのサー・ナイトアイは気圧されながらも、しっかりとした口調で答えた。

 

《了解した。私一人で、向かう。どこへ行けばいい?》

 

「活ーき活っきプーリプッリでお馴染み『カニ道化』の道頓堀店や!二階個室で待っているから、急いでくれな!」

 

ファットガムはスマホを切ると地面に投げ捨てた資料を拾い、『カニ道化』道頓堀店へ向かう。

道頓堀に来た時には必ず立ち寄る馴染みの店で出るカニ鍋はファットガムの好物の一つであり絶品だった。

 

「こんな糞みたいな話は、美味いもんでも食いながらやないと舌が腐るわ!」

 

「ファーッ!(怒)」と怒り、黄色い巨体でドシドシと足音を鳴らしながら歩くファットガムは道すがら三人の(ヴィラン)を片手間で逮捕し、警察に引き渡した。

怒りに燃える彼に敵は居なかった。

 

そして、『カニ道化』道頓堀店でカニ鍋のカニを殻ごとかみ砕いていたファットガムの前にサー・ナイトアイはリューキュウを伴い現れた。

ファットガムがサー・ナイトアイの後ろから現れたリューキュウに驚きながらに言う。

 

「ファーッ!?リューキュウ、居るやんけ!ちょ、ナイトアイ!どういうことやねん!」

 

責め立てるフィットガムに対してサー・ナイトアイは眼鏡の位置を直しながら、冷たい視線で言う。

 

「どうもこうも私はリューキュウとも協力関係にある。なら、報告(ホウ)連絡(レン)相談(ソウ)の義務もある。ファットガムの考えもあるだろうが、リューキュウとの連携も不可欠だ」

 

「せ、せやかて工藤・・・」

 

「サー・ナイトアイだ。ルミリオン達は連れてきていない。それで納得してくれ」

 

サー・ナイトアイの正論に怯むファットガムに、仲間はずれにされかけたリューキュウは若干の不機嫌さを滲ませながらも個室へと入ると、ファットガムの向かいの席に座り、冷静な口調で言う。

 

「女性の私とねじれ達を置いてこいってナイトアイに言った時点で、どんな話題かの察しは付いているわ。でも、だからこそ、()()()()、出来ることもあるでしょう?」

 

カニ鍋の湯気の向こうで意志の強い眼をしているリューキュウを見て、ファットガムは身体を縮めた。

 

「すまん。その通りや。かんにんやで、リューキュウ」

 

「良いわよ。あなたが其処まで気を遣う事態なのでしょう?なにがあったか、聞かせて頂戴」

 

サー・ナイトアイも席に着き、ファットガムは手に入れた情報を語り始める。

 

「“奇跡の手”と関係が有るかは、わからんが、ダツゴクの情報や。そのダツゴクは女性を手当たり次第に攫って、移動型の違法風俗店をやっとるらしい。警察でも追い切れてない。協力者が多いのか、通報があって警察が駆けつけた頃には店はもぬけのからで・・・被害者が残されているだけらしいわ。被害者は、かなりの暴行を受けていて・・・死亡していることもあるらしい」

 

「・・・そう。その地域のヒーロー達は何をしているのかしら。警察ではカバーしきれない細かい範囲まで守るのが、地域に根ざしたヒーローの役割でもあるのに」

 

「・・・ダツゴクを追っていたヒーローが被害者になった事例も、あるんや」

 

「・・・そう。なるほどね。確かにインターン生に聞かせていい話じゃないわね」

 

普段は明るいファットガムが暗くなる程に胸くその悪い話題の中、サー・ナイトアイはカニ鍋のカニをカニスプーンで穿(ほじ)りながら、眼鏡の下の瞳に剣呑な光を宿していた。

 

「ダツゴクの情報は他にないのか?店の規模は?被害に遭ったヒーローからの情報は?今まで姿を現した場所の情報が欲しい。店を出す出店地域のパターンを割り出そう。警察との連携はどこまで取れている?警視庁の上層部には貸しがある。必要であれば関西警察に圧力をかけよう(私の名刺が意味を持つぞ)

 

矢継ぎ早に放たれる言葉にファットガムは慌てて頭の中を整理しながら答える。

 

「ま、マッテヤ!被害地域を纏めた情報は・・・ある!コレや!ダツゴクの正体は、確定やないけど手口からして(ヴィラン)名-ガールズバーが有力やと警察は言うとる。圧力いらん!ジブンは道頓堀署と仲が良いんや!」

 

「“ガールズバー”か。女を集めるのが生きがいと語っていたゴミだ。早急に逮捕しなければ、被害は増え続けるぞ」

 

サー・ナイトアイはファットガムから受け取った資料を見ながら、考えを巡らせる。

警察の捜査から逃げ切ると言っても簡単ではない。

サー・ナイトアイがずっと行方を捜しているオーバーホールのように“勢力”と呼ばれる程の巨大ネットワークを築いているのなら、わかるが、少し前にタルタロスから脱獄したばかりのガールズバーが警察の捜査網をかいくぐり続けているというのなら、違法風俗店の顧客だけで無く、特別な権力を持つ誰かの支援も受けていると考えるのが普通だと結論づけて、サー・ナイトアイは思考の海に潜っていく。

 

(素直に考えれば警察関係者の誰かがガールズバーと繋がり捜査情報を漏らしていることも考えられるが、それは平時の話。この状況で警察をやっている者ほど、信頼できる者たちはいない)

 

国に混乱が齎されヒーローの地位が落ちたように警官でいるメリットも失われつつある。

(ヴィラン)を取り逃がしたとヒーローと共に責め立てられ、あの日から休日は無いに等しい。

翌月の給与が支給されるかも怪しい情勢の中、それでも汗水を垂らして市民の安心と安全のために走り回っている今の警察官の中に(ヴィラン)と関わりのあるものがいるとは考えにくい。

だから、ガールズバーの協力者は警察関係者以外にいると考えるサー・ナイトアイにリューキュウが言う。

 

「協力者は、“超常解放戦線”と関係があるのかしら」

 

「オール・フォー・ワンの手のものか・・・、恐らくはそうだろうな。なら、そう簡単に尻尾は出さないだろう」

 

「警察の包囲網を掻い潜る相手を、ヒーロー三人でどないせいちゅうねん。人手が足らんで」

 

人手が足りない。それに尽きる。ヒーロー飽和社会と揶揄された少し前までは考えられなかったシンプルな問題が立ち塞がる中で、リューキュウが“おとり捜査”を申し出たのは自然なことだった。

 

この国の警察では、おとり捜査はグレーゾーンとされている。

過去、いくつかの裁判所ではおとり捜査の適法性について肯定的な判決が出されたこともあるが、基本的には特別な必要性が無い限りはおとり捜査を避ける傾向に有る。

仮におとり捜査に失敗し、実行した者への被害が予想される場合には行われないと言い切って良いだろう。

 

その前提があり、警察には出来ないおとり捜査はヒーローの特権とも言えたが、失敗した時のことを考えて反対した男性ヒーロー二人に対してリューキュウは「これが最善」と言い切ってみせた。

 

「オーバーホールの捜索もあるのよ。この事件だけに時間を掛けるわけには、いかないわ。

それにガールズバーに攫われた女性達を、同じ女性として放っておくことなんて出来ないもの」

 

リューキュウの意志の強い眼に圧されたファットガムがサー・ナイトアイに助けを求めるが、サー・ナイトアイは目頭を右手の指で揉みながら思案した後、頷いた。

 

「ファーッ!?ナイトアイ!?リューキュウを危険に晒す気かいな!?」

 

「ヒーローとしての申し出を性差で断ることは出来ない。無論、万全は期す。リューキュウ。()()()()()()()()()()()()。それでもし失敗の兆候が少しでも()()()なら、君にはこの事件から手を引いて貰う。それがおとり捜査の条件だ」

 

「ええ、わかったわ」

 

サー・ナイトアイの“個性”『予知』。

対象の一部に触れ、目線を合わせることで一時間の間、その人物の未来を視ることが出来る個性は、刑務所でのムーンビーストとの面会後、進化していた。

“未曾有の大災害”の未来を回避しようと懸命に個性を磨き上げた結果、サー・ナイトアイの個性『予知』は多大な眼精疲労と引き換えに()()()()()()()()()

 

リューキュウの肩に触れ、瞳を除き込むサー・ナイトアイの未来視は―――おとり捜査の成功とガールズバーの確保を映した。

 

「・・・ど、どないやねん。サー・ナイトアイ!成功か!大団円か!」

 

「ああ、おとり捜査は成功する。後はこの未来を確定するために積み上げるだけだ。万全を期す。やることは多いぞ」

 

「ヨッシャ!ヤッタルデー‼」

 

「かんばりましょう」

 

 

結果だけ記すなら、リューキュウのおとり捜査が功を奏し(ヴィラン)名-ガールズバーは三日後に確保された。違法風俗店は潰され、攫われていた女性達も保護される。

ヒーロー側、及び捜査に協力した警察側に被害は無く、完全勝利と言ってよかった。

 

だから、問題はガールズバーの確保後に起こる。

ガールズバーの身柄を拘束し、違法風俗店のテナントとなっていた廃ビルから出てきたファットガム達と警察を取り囲んだのは、市民達だった。

 

その市民達にフィットガム達は見覚えがあった。

彼らは被害女性達の家族たちだった。

 

娘を攫われた父親が言う。

 

「・・・その男を、引き渡してくれ。俺たちの手で・・・罰を与えたい」

 

数日前、父親の元に返ってきた娘は酷く衰弱していた。

明るく活発だった性格は見る影も無く、男の人影に怯えて夜も眠れないという。

彼女に起きた悲劇は口にした瞬間に舌が腐る類いのもの。

 

「例え命が助かっていても・・・奪われたものが多すぎた。俺たちは、その男を許せない。だから・・・引き渡してくれ」

 

その父親が既に正気では無い事はファットガム達も直ぐにわかった。

いや、娘を()()()()()わされて正気で居られる父親など、居ないことはヒーロー達にもわかる。

だが、しかし。

()()()()()()()

 

そんな事はできないとリューキュウは首を横に振った。

 

「あなた方の気持ちもわかるわ。けど、ガールズバーの身柄は警察に引き渡します。あなた達に罪を犯させる訳には、いきません」

 

「・・・なにが、わかるんだ?」

 

父親である男は心底、理解ができないという風に首を傾げる。

 

「おまえ達は、キレイだから、なにもわかってないんだ」

 

そして、ゆっくりとリューキュウへと詰め寄りながらに手を伸ばした。

 

「お前も、同じ目に遭えば、娘の気持ちが・・・わかるのか?」

 

リューキュウは恐怖した。

サー・ナイトアイが父親である男の手を横から掴み止める。

 

「これ以上は、いけない。私たちに貴方を拘束させないでくれ。娘さんの側に居てあげて欲しい」

 

サー・ナイトアイの言葉に父親である男は力を失い項垂れながらにポツリと言葉を零す。

 

「娘は、男が怖いと・・・俺も、側には居られない。娘の心は・・・壊れてしまった。・・・そうだ。“奇跡の手”に、治して貰おう。・・・奇跡なら、娘の心も癒やせる筈だ」

 

「探さなきゃ」と呟きながら父親である男は去って行く。

ファットガム達はそれを見送ることしか、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大阪市、砂倉田(さくらだ)区。

 

江戸時代から花街として栄え、現在は合法的な風俗産業に勤しむ店が多くある街の一角に、オーバーホールが隠れ家にしているラブホテルがあった。

その一室にはオーバーホールの他に、ガラスのテーブルの上に積み上げられた札束の数を数える男達、“鉄砲玉八斎衆”の窃野(せつの)トウヤと宝生(ほうじょう)(ゆう)の姿とダブルベッドに座り足を揺らしながらテレビを見ている少女-壊理の姿もあった。

 

堅気では無い風貌の男達と少女がラブホテルの一室に居るという犯罪臭の漂う現場だが、無論、そこにやましさなどない。

何故、彼らが此所に居るのか。

 

 

 

時系列を少しだけ遡る。

 

 

 

オーバーホールの所属していた灰色勢力は神野区でのムーンビーストの逮捕後、ムーンビーストの奪還に失敗しレディ・ナガンが逮捕されたことで組織としての力をほぼ失った。

続いて灰色勢力の最大の支援者(パトロン)である金蔵財閥の総帥と死穢八斎會の組長が逮捕された事が決定打となり、オーバーホールは警察の捜索を逃れるため、地下に潜り関西へ(のが)れた。

その後、このご時世でも関西で辛うじて生き残っていた暴力団の組長宅へ脅迫(お願い)しに行き、その地盤を引き継いで、力を蓄えることにした。

 

目的は無論、逮捕された死穢八斎會組長の釈放と極道の復権。

 

その為の権力と財力を手に入れるため、オーバーホールは壊理の個性を利用するという決断をした。

アマテラス製薬での事件以降、壊理を裏社会から解放し自由にする事も生きる目的としていたオーバーホールにとってそれは苦渋の決断だったが、壊理は「廻さんは毎日、私と一緒に寝ること!」を条件にオーバーホールの提案を受け入れた。

 

「寝苦しいだけだろう」と首を傾げるオーバーホールだったが、逮捕された組長(オヤジ)の釈放が壊理を自由にする事と同じく大切な事であったため、オーバーホールは壊理の個性『巻き戻し』と自身の個性『オーバーホール』を使い関西で勢力を拡大していった。

 

幸いにして、“平和の象徴(オールマイト)“と”正義の象徴(ムーンビースト)“を同時に失い、世はまさに(だい)(ヴィラン)時代。

壊理の個性コントロールの訓練に必要だった死んでも良い実験体(ヴィラン)は其処らに転がり、個性『オーバーホール』による()()を望む人や物は其処らに溢れていた。

 

そうして順調に勢力を拡大しつつあったオーバーホールに訪れた二度目の転機。

関東を“未曾有の大災害”を襲った。

 

群牙山荘から現れた()()()の大型(ヴィラン)がヒーロー達をゴミかナニカのように薙ぎ倒しながら進軍する光景をテレビで観ていたオーバーホールはヒーロー飽和時代の崩壊を悟り、市街地を荒野に変える死柄木弔の姿にオール・フォー・ワンを重ねて見た彼はタルタロスに収監されているはずの魔王の復活を誰よりも早く予見していた。

 

「思いもしなかった。二つの“象徴”が失われれば、社会はこんなに脆いのか」

 

そこから先の国の混乱は実にあっさりとしたものだったというのが、オーバーホールの感想だ。

ヒーローの地位は落ちた。そうして空いた“空白”に“侠客”が入る余地がある。

 

“極道は(ヴィラン)とは違う。八斎會は侠客であらねばならない”。

 

この時代において極道が生きる道を模索していた死穢八斎會の組長が願っていた(カタチ)を成す下地が出来つつある事をオーバーホールは素直に喜んだ。

 

「弱きを助け強きをくじく。失われた役割を全うすれば、極道(俺たち)侠客(ヒーロー)と呼ばれる時代が帰ってくる。ハッ、最高に馬鹿馬鹿しくて、最高に都合が良い。英雄症候群を患う者たちにとって、最低の結末であるところが最高だろう!」

 

その時の柄に無くテンションを上げているオーバーホールを見て、壊理は胸がドキドキした。

オーバーホールに従う鉄砲玉八斎衆の面々もオーバーホールの野望に口角をつり上げる。

 

“極道の復権”

“壊理が自由に暮らせる社会の実現”

そして、“逮捕された組長の釈放”

 

「無謀かと思われて居た夢は、俺たちがこの大敵時代を侠客として乗り切り、英雄症候群(ヒーロー達)から市民達の支持を奪い取れば、手の届く夢になった。なら、その為に、出来ることは何だってしよう」

 

弱きを助ける“侠客”として、怪我人を修復(なお)し、倒壊した家屋も修復(なお)す。

強きをくじく“侠客”として、(ヴィラン)達を解体(ころ)し市民を守る。

そして、市民からの支持を得るための最後のダメ押し。

もう一つ。この大敵時代で市民達の心の拠り所に成っている“象徴”。

“逆十字”に対抗するための新たな象徴をオーバーホールは作り出す。

 

“奇跡の手”は、あらゆる傷病を巻き戻し(無かったことにし)てしまう。

 

オーバーホールにとって壊理の殺害を予告しているムーンビーストは、利用し終われば排除しなければならない者だ。

ムーンビーストがオール・フォー・ワン打倒後にオーバーホールと壊理達に正義執行をすると決めている様に、オーバーホールもまたムーンビーストを解体(バラ)すつもりでいた。

その為に必要なのは“灰色勢力”以外の息がかかった協力者たち。

以前、ムーンビーストを殺すことは簡単だと語ったオーバーホールだが、幾度かの覚醒を迎えた今のムーンビーストを簡単に殺せると思うほど、オーバーホールは(おご)ってはいない。

しかし、罪なき善良な一般市民が味方である状況なら、ムーンビーストを倒せる算段がオーバーホールにはあった。

 

市民からの支持の強化。

そして、ムーンビーストへの切り札としての新たな象徴。

それがオーバーホールの作り上げた“奇跡の手”という噂の全て。

 

“裏切り者は誰だ”。

 

コレを裏切りと呼ぶには、ムーンビーストは、オーバーホールの大切な人(壊理)を傷つけ過ぎていた。

 

 

 

 

 

時系列が戻り、現在。

 

“奇跡の手”の噂は広がり、関西にて人々の新しい心の拠り所に成りつつある。

大金を積んででも『巻き戻し』を望む人々が増えてきた所でオーバーホールは無償奉仕を止めていた。

救いの代価の有無。それがヒーローと侠客の違いだ。

ヒーローが無償奉仕(ボランティア)で人々を守るのとは違い、侠客は庇護の代償としてみかじめ料(金銭)を求める。

それは自然なことであり、市民の支持が減ることはない。

むしろ、脱ヒーロー派の人々からは目に見える対価が有れば信用しやすいと評判が良かった。

 

しかし、そうして金持ち達から巻き上げた大金を数えて居た窃野は首を傾げていた。

 

「ねえ、若頭。この紙切れに使い道あるんスかね?今日日(きょうび)、スーパーもコンビニもやってないですし、尻拭く紙くらいにしかなりませんよ?」

 

窃野の疑問は正しかった。

オール・フォー・ワン。死柄木弔。“超常解放戦線”。脳無。ダツゴク。

あらゆる脅威により、秩序を失った外で営業している店は皆無と言って良い。

ヒーローへの信頼が厚い一部の地域では営業している店もあると言うが、大半は完全予約制となっていて信頼出来る相手への商いしか行っていない。

更に円の貨幣価値は暴落を続けており、以前までなら目も眩む様な大金を目にして居ても窃野はなんだか空しく成っていた。

 

それに対してオーバーホールは言う。

 

「その紙切れも価値をいずれ取り戻す。安く買い高く売るが、商売の基本だ。トイレットペーパーと同価格の札束でも、集めるだけ集めておけば、ワン・フォー・オール打倒後、円の価値が元に戻れば大金だ」

 

「確かにそうっスね。ハハハ、ウハウハだな!宝生!」

「そうだな」

 

元気を取り戻し、札束を数え直し始めた窃野と宝生をオーバーホールが「単純な奴らだ」と冷めた目で見ている中、ベッドに腰をかけてTVを見ていた壊理はオーバーホールの元へトテトテと可愛らしい足取りでやってくると困ったように眉を下げた。

 

「ねえ、廻さん。持ってきた“ぶるーれい”、全部、見終わっちゃった・・・」

 

「そうか。なら、少し外出して新しいのを探しに行くか?」

 

「うん!」

 

「わかった。窃野、宝生、俺と壊理は外に出てくる。何かあれば玄野に連絡をしろ」

 

「了解ッス」

「わかりました」

 

オーバーホールと壊理は手を繋ぎながら、拠点であるラブホテルを後にした。

 

 

 

 

 

その二人の姿を建物の陰から見ていた三人がいた。

 

「なあ・・・環。あの二人、怪しいんじゃないか?出てきた場所も、その、アレだしね!」

「・・・大人の男と幼女。事件の香りしかしない」

「ねえ、なんで?どうしてあのホテルから男の人と女の子が手を繋いで出てきたら怪しいの?不思議!」

「あー、それはね波動さん。ホテルにもいろいろな種類があるのさ!なっ、環!」

「俺に話を振らないでくれ!」

「ねえ、どうして天喰の顔は真っ赤なの?不思議!」

「止めて!のぞき込まないで!波動さん!」

 

敵名-ガールズバーの捜査から外された為、パトロールに勤しんでいた雄英BIG3の面々は怪しい二人の追跡を開始するのだった。

 

 





(ヴィラン)、ガールズバー”。

原作にてステインがタルタロスを脱獄する際に殺害していたヴィランを元ネタにしたオリキャラ。
「女を集められる」とか言っていたので恐らく最低の性犯罪者だろうと予測し、キャラ付けをした。
原作ステインに瞬殺されていたので、恐らく戦闘力は乏しいのだろうと戦闘描写は無し。
元々、ガールズバーが起こした犯罪描写も書こうと思っていたが、R指定に引っかかりそうなので断念。あと、単純に書いても楽しそうではなかった。



”サー・ナイトアイの『予知』”

ムーンビーストとの面会による個性の成長。並び、物語ないでの社会情勢により自らの個性に対する恐怖心を若干克服しつつある。
”未曾有の大災害”を事前に阻止出来なかった今のサー・ナイトアイには、”見る恐怖”より”見ることのできない恐怖”の方が強い。



”壊理の『巻き戻し』"
原作では行えない人体実験を繰り返し、個性のコントロールが可能になっている。
それは壊理が自らの手を血で染めた事を意味し、幼い彼女は治崎に喜んで貰えるなら、悪人の命を奪える程度には歪んでしまっている。

壊理を裏社会から解放したいと願う治崎だが、生来の価値観から壊理の”歪み”については特に問題だと思ってはいない。


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