ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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場面転換。一方その頃、ムーンビーストのお話です。

わかりづらくて申し訳ありません。
皆様の暇つぶしになれば幸いです。m(_ _)m




個性『変身』④

 

余子浜市。大奈(だいな)区。

 

今宵は満月。

満月の夜には雨が降ろうが槍が降ろうが散歩をするのが私の日課だ。

満月は良い。例え曇天で美しい月の姿が見えずとも血潮が沸き立つ感覚がある。

事実として月の引力により海の潮の満ち引きが決まるように、満月の引力は人体に影響を与えているというのが私の持論であり、経験論だ。

事実として私の人生において特別なイベントは、全て満月の夜に起きている。

香山先生に振られたのも、レディ・ナガンと出会ったのも、ミルコに見つかったのも、全てが満月の夜のことだった。

 

私にとって満月の夜とは、良き出会いと良き別れの日。

だから、今宵も、もしかしたら良き出会いが有るかも知れないとドキドキワクワクで夜の散歩を楽しんでいた私が出くわしたのは、痩せ細った中年男性と襤褸切れを纏った少年の痴話喧嘩だった。

アブノーマルな趣味を持たない私としては、この時点でテンションが駄々下がりだったのだが、雨降る中で喧嘩をしている様子の中年男性と少年の声に聞き覚えがあったので、思わず足を止めてしまった。

 

倒壊したビルの中から飛び出していこうとする少年を止める痩せ細った中年男性の声は、オールマイトに良く似ていた。

 

「待ちなさい‼ご飯、食べてないだろう・・・‼」

 

そう言いながら弁当箱を差し出すオールマイトに良く似た声の中年男性を、襤褸切れを纏った少年は振り返る事なく拒絶していた。

 

「オールマイト。もう、大丈夫です。ついてこなくて」

 

オールマイトに良く似た声の中年男性は、オールマイトだった。

一軒家の屋根の上から二人のやりとりを盗み見していた私が目をこらせば、確かに痩せ細った中年男性の顔は神野区で一度だけ見た事のあるオールマイトの真実の姿(トゥルーフォーム)だった。

一度殴り飛ばしている身としては、あの状況でテンションが上がっていたとはいえ、あんな弱々しい状態の人間を全力で殴り飛ばしたのかと自分に嫌気がさしたが、そんな私の自己嫌悪を余所にオールマイトと襤褸切れの少年の話は続く。

 

「僕はもう、大丈夫ですから」

 

襤褸切れの少年がオールマイトを嫌っている訳ではないことは、態度を見れば直ぐにわかった。

むしろ襤褸切れの少年はオールマイトを(おもんぱか)っているのだろう。

関係性としては師弟が妥当かと推察する野次馬の私からは、褸切れの少年に拒絶されショックを受けるオールマイトの表情がよく見えた。

オールマイトのあんな顔を見たのは初めてのことだった。

 

「そういうワケには・・・「僕はもう!反動なしでオールマイト(100%)と同等の動きもできます!」・・・ッ!?」

 

「だから―――

 

襤褸切れの少年が振り返る。

その目はかつてのオールマイトと同じ光が朧気ながらに宿っていた。

 

―――だから、心配しないで」

 

()っ・・・」

 

飛んで去って行く襤褸切れの少年に伸ばしたオールマイトの手は届かなかった。

弁当箱をひっくり返し転ぶオールマイトの姿をもしステインが見ていたら、どう思っていたのだろうかと思案する。

どうでも良いときは脳裏に過るくせに、答えが欲しい時に限って、心友(しんゆう)ステインは姿を現さない。

だから、私にとって都合の良い部分だけを切り取って作り上げられたイマジナリーフレンドでは無い生前のステインがどうしたのだろうかと考える。

 

オールマイトのことが大好きなくせにツンデレの彼のことだ。

嫌みの一つや二つでも言いながら、打ちひしがれるオールマイトを鼓舞するのだろう。

 

では、私はどうするか。

どうしたいと思っているのかを考えて、打ちひしがれるオールマイトよりも飛んでいった襤褸切れの少年に視線を向ける。

 

馬鹿では無い私は事前にレディ・ナガンが集めて得ていた情報と、今の断片的な情報を組み合わせて、あの襤褸切れの少年が“未曾有の大災害”にてトッププロヒーローに混じり、死柄木弔と戦っていたという“存在X”だと仮定する。

恐らくはオールマイトの弟子。

“平和の象徴”の後継者と言ったところだろう。

 

「で、有るならば、“後継(こうけい)”である彼の心労は計りきれますまい」

 

神野区でのオールマイトの引退は見事だったが、その後の展開が早すぎた。

少年の域を出ない彼がオールマイトから精神性などを含めた()()を引き継ぐ前に社会は荒れ果ててしまっている。

そして、オールマイトを誰よりも恐れていたオール・フォー・ワンは必ず後継である少年にも魔の手を伸ばしているに違いがない。

 

「追い詰められた少年は、身近な誰かを傷つけさせない為に孤独(ひとり)になる。ああ、なんと魔王好みの筋書きか。私が嫌いな展開ですねえ」

 

少年が一人になった隙をオール・フォー・ワンは必ず狙うだろうが、不幸なのは少年がオールマイトの後継と認められる程度の力を有している点だろう。

 

並の刺客程度なら返り討ちにできてしまう実力が、更に少年を孤独(ひとり)にする。

 

「で、あるならば、私が何をするべきか。考えるまでもありませんねえ」

 

私は襤褸切れの少年を追う為に両足にギロチンの刃を形成し、刃を落とす反動で空を()()

 

「彼に教えて差し上げねばなりますまい!貴方はまだ!孤独(ひとり)になる必要など無い!子供なのだと言うことをッ‼」

 

襤褸切れの少年を追いながら、私は大笑する。

そんな私に気がついたオールマイトが遙か下の地上でナニカを叫び青い顔をしていたが、気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『次は、君だ』

―――それが、オール・フォー・ワンとワン・フォー・オールが緑谷出久に残した呪いだった。

悪意と言う名の病巣(ガン)と期待と言う名の重圧。

オールマイトより個性を引き継ぎ、個性『ワン・フォー・オール』の九代目の継承者となった緑谷出久にとってオール・フォー・ワンと個性『オール・フォー・ワン』を引き継いだ死柄木弔の打倒は宿命だ。

運命と言い換えてもいい。

どちらにせよ命を賭けて、成し遂げなければ成らないことだ。

 

「僕がやらなきゃ、ならないことだから、・・・だから、()()()()()()()()()()()()()

 

それはある意味では傲慢な考えだ。

オールマイトでも、相棒(サイドキック)であったサー・ナイトアイが居た頃の方がヒーローとして活躍できていた。

ムーンビーストなど、誰かに背中を押されなければ立ち上がれない負け犬だ。

オール・フォー・ワンでさえ、支配という形で他人の力を借りている。

 

この世に一人で何かを成し遂げられる人など居ない。

もしそれができてしまった時、人は人では無いナニカになる。

 

そんなナニカになるために血と汗と泥に塗れ襤褸切れのようになったヒーロースーツを纏い、マスクで恐れも疲労も覆い隠し、孤独(ひとり)(ヴィラン)を倒し続ける緑谷出久の前に、その男は雨雲に隠れ見えもしない満月を背負い現れた。

 

「今宵も月がッ、綺麗ですねエエ‼」

 

「ムーン、ビースト!」

 

一度見れば忘れない、貼り付けた様な微笑。

雨に濡れた長い金髪を右手で掻き上げながらに晒す赤い眼鏡の下の瞳は僅かに開かれ、金眼で緑谷出久を見下ろしていた。

 

「おやおや、“後継(こうけい)”である君が私の事をご存じとは、“光栄(こうえい)”ですねえ」

 

「・・・」

 

「・・・今のは“後継”と“光栄”をかけた駄洒落(だじゃれ)だったのですが、伝わりませんでしたか?ハハッ、どうやら後継()は真面目であるらしい」

 

「面白くない、冗談です」

 

「アハハッ、これはなんとも手厳しいッ!しかし、どうか許して頂きたい。柄にも無くテンションが上がっているのですよ。偉大なる脅威(オールマイト)の弟子。“平和の象徴”の後継(こうけい)。その実力、是非見たいッ‼」

 

瞬間、既にムーンビーストは間合いを詰めていた。

眼前で振るわれる右腕を前に緑谷出久は後方へと跳ぶ。

それを追うムーンビーストが更に間合いを詰めてくるのを見て、緑谷出久は蹴撃での迎撃を選んだ。

ムーンビーストの右腕と緑谷出久の右足はぶつかり合い、両者は等しく弾き飛ばされた。

 

「ハハッ、まずまずの威力。尺度としてはオールマイトの40%程度ですがねえ」

 

「ッ!?四割とはいえ、オールマイトのチカラだぞ」

 

余裕を見せるムーンビーストに対して、緑谷出久は追い詰められた表情を見せていた。

 

「何を驚いているのです。後継(こうけい)であるなら、ご存じとは、思いますがねえッ‼」

 

ムーンビーストの三度の跳躍を前に緑谷出久は次の一手を切る。

いや、切らされたと言うべきだった。

ムーンビーストは更に速く空を()()

間合いを詰めたムーンビーストが放つのは右ストレートを囮にした左アッパー。

顔面に迫る右ストレートに対して首を動かす最小限の動きで避けた緑谷出久の視界外から、顎を打ち抜くアッパーが放たれる。

緑谷出久はそれを『危機感知』で避けて見せた。

 

「ああああああッ‼」

 

「ぐハァッ、ハハッ、やりますねえ!」

 

完全に決まったと慢心した一撃を避けられた事で隙を晒したムーンビーストの胸部に叩き込まれる緑谷出久(オールマイト)(40%)

しかし、それでも尚、倒れずに立つムーンビーストに緑谷出久は恐怖する。

 

「効いて、ないのか・・・?」

 

「ええ、まったく。舐めないで頂きたい。私は(かつ)てッ、オールマイトと()した男ッ!この程度ッ、ダメージの内に入りませんねえ!」

 

無論、それはムーンビーストの強がりだった。

オールマイトの40%を胸部に叩き込まれて無傷で居られる者なんて居ない。

オール・フォー・ワンだろうと直撃は避ける攻撃を受けたムーンビーストの肋骨は何なら二、三本折れていた。

しかし、それでも余裕を崩さないムーンビーストの態度が、緑谷出久を追い詰める。

 

「・・・どうしたのですか?気持ち、足が後ろに下がっていますよ?」

 

「ッ!?そんな訳、ないだろ」

 

「ええ、そんな訳、有りませんよねエエエ!オールマイトならッ、引き下がる訳も無く!むしろ前進して然るべく!何故なら、“(ムーンビースト)”が此所に居る。(ヒーロー)は其処で、(ヴィラン)は此所だ。なら、前へ」

 

ムーンビーストが一歩前進する。

緑谷出久は動けなかった。

 

「どうしたのです?もう、孤独(ひとり)でも大丈夫なのでしょう?オールマイトも必要ないのでしょう。然らば、前へ。前へ。前へ。前へ。前へ。前へ!」

 

「あ、どこから・・・どうして、それを・・・」

 

それを嘲笑うようにムーンビーストの口が三日月のような弧を描く。

 

「前へええええええええええええええええええ‼」

 

「うわあアアアアああアアアアアアアアアああ‼」

 

『危機感知』に始まり、緑谷出久には出来ることが多い。

バリエーションのみで計るなら、オールマイトよりも優れていた。

聖火の如く力を火継ぎする個性『ワン・フォー・オール』。

緑谷出久はその九代目の後継者。

彼はオールマイトとは違い過去に『ワン・フォー・オール』を持っていた人々の個性を受け継いでもいる。

個性『危機感知』(四代目)だけで無く、個性『発頸』(三代目)個性『黒鞭』(五代目)個性『煙幕』(六代目)個性『浮遊』(七代目)までを扱える今の彼には出来ないことの方が少ないだろう。

しかし、ムーンビーストは今の緑谷出久が持つ全能感を一蹴する。

 

「所詮、個性(チカラ)など人を形成する一部に過ぎません」

 

やたらに振るわれる『黒鞭』を斬り捨てながらに前に進む。

 

「どれほど強大な個性(チカラ)を持とうと人は人以上の存在になど成れぬもの」

 

視界を遮る『煙幕』を踏み込みによる震脚(しんきゃく)で霧散させる。

 

「無双系などフィクションの産物。絶対に負けない主人公(誰か)など、何処にもいないのです」

 

『発頸』で空へ跳んだ緑谷出久を追い跳んだ。

 

不世出の英雄(オールマイト)でさえ失敗をした。“困っている人間を遍く救うスーパーヒーロー”になど、誰も成れないと痛感しました」

 

そして、『浮遊』する緑谷出久の手をムーンビーストは確かに掴んでいた。

 

「だから、貴方も()()()()()()

 

それを振りほどこうとする緑谷出久にムーンビーストは言う。

 

(ヴィラン)が怖くていい。(ヴィラン)に負けてもいい。子供が何もかも背負って戦おうなどと、思わせる社会が間違っているのだと、貴方は言い訳をするべきです」

 

緑谷出久の手を引いてムーンビーストが家主を失った家の屋根に着地する。

ムーンビーストは緑谷出久の手を握ったまま見下ろす世界を共に見て欲しいと言う。

 

「見なさい。雨降る夜に、明かりを灯す家が無い。歴史の授業で習った超常黎明期、悪意に目を付けられない様に人々が息を潜めるだけの日々。この光景は言うまでも無く異常です。だから、日常を取り戻そうとする君は確かに正しい。それがチカラ有るものの義務なのかも知れません」

 

「・・・そうです。僕は、オールマイトからチカラを貰った。僕がやらなきゃ、僕にしか出来ないことだからッ、皆が困っているから!使命があるから!だからッ、この手を離してください!」

 

「けれど、それを貴方一人に背負わせる社会もまた異常なのですよ」

 

手を振りほどこうとする緑谷出久に対して、ムーンビーストは更に力を込めて手を握る。

義務があると言うのなら、大人には子供を守る義務があるとムーンビーストは考えている。

無論、ムーンビーストは子供であろうと容赦なく正義執行する(ヴィラン)ではあるが、正義の義務と大人の義務がぶつかり合わない限りは、大人の義務を全うしようと思える位にはまともだった。

 

「確かに貴方は強い。先ほど見せて頂いた複合個性、それこそ新時代の個性(チカラ)なのだと戦慄しました。時代は変わるのでしょう。今の貴方たちのような子供達が大人になる頃には、私程度では相手になら無いのかもしれません。しかし、今は私の方が強い。なら・・・いえ、そうではありませんねえ。私は強がりたいのです。子供を前線に立たせ、安全なところから見ているだけの格好の悪い大人にはなりたくない。だから、例え貴方が私より強かったとしても私は貴方にこう言いましょう」

 

 

 

「君を孤独(ひとり)で心置きなく戦わせなんてしない。私が居る」

 

 

 

ムーンビーストは(ヴィラン)だ。その事実は揺るぎない。

例え人殺ししか殺さない人殺しであったとしても、人殺しには変わりない。

だが、しかし、彼はあまりにも優しかった。

誰かの為の復讐が、彼の正義が、他人の涙を思いやり成されるものの時点で、きっとそれは揺るぎない。

それに気がついたとき緑谷出久は涙を零さずには居られなかった。

 

緑谷出久は今まで数多くの(ヴィラン)と戦ってきた。

その多くが血と闘争を求めるだけの者たちだったが、中には自分だけのものでは無くなった夢の為に戦っていた(ヴィラン)も居た。

多くの人を傷つけ殺してきた(ヴィラン)にも理由が有る事を今の緑谷出久は知っている。

だから、せめて、その心の奥底を知りたいと願いながら戦ってきた緑谷出久にとってムーンビーストは、初めて流してきた血に見合うだけの理由が有ったのだと納得してしまう(ヴィラン)だった。

 

復讐という正義。

人を殺せば人に殺されるのだという事を啓示(けいじ)し、人を殺した人を殺し続ける事で人が殺されない社会を作ろうとした。

 

そのイカれた思想がもし彼個人の復讐を契機(けいき)とせずに、理不尽な社会に抗う為に走り出したものだとするのなら。

一歩。ただ一歩、足を踏み外していなければムーンビースト(ヴィラン)ジャスティスマン(ヒーロー)に成っていた。

雄英高校の先輩として、後輩達を導いていたかもしれない。

 

そのことに気がつき緑谷出久が静かに涙を零していることにムーンビーストは気がつかない。

ヒーローがマスクの下で流す涙の理由を知らぬまま、愚かな(ヴィラン)は自分の言葉に納得してくれたのだと勝手に解釈して手を引いて歩き出す。

 

「無論、だから共に戦いましょうなどとは口が裂けても言いますまい。私は(ヴィラン)で貴方はヒーローなのだから。しかし、共に食事をする(いとま)くらいは許される筈です。私がお気に入りの中国料理店があるのです。貴方もお腹が減っているでしょう?」

 

夜の暇。一夜の夢。

緑谷出久とムーンビーストは夕食を共にすることとなった。

 

そして、その場には何故か、トガヒミコの姿もあった。

 

 

 

 





緑谷出久。

原作におけるオーバーホール編の消失により、右腕の爆弾が帳消しになっておらず戦闘力減。また爆豪勝己が渡米して居る影響で精神的にも原作より不安定になっている中で、ムーンビーストの口車に乗せられてホイホイ着いて行ってしまった原作主人公。
これから彼には地獄も生ぬるい激辛麻婆豆腐の洗礼が待っている。


トガヒミコ。

トガちゃんカワイイヤッター。


ムーンビースト。

お節介ヴィラン。かつて雄英を飛び出した頃の自分と今の緑谷出久を重ねて見てしまった結果、無理矢理にでも彼の手を引いて美味しい料理を食べさせてあげる事に決めた物語の主人公。
ただデク君が原作より追い詰められているのは、だいたいコイツの所為なので只のマッチポンプ。



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