皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
余子浜市榮区。
神野区での逮捕以前、私が
小さな口から覗く鋭く尖った犬歯。腫れぼったい目元に黄色い瞳と縦長の瞳孔。セーラー服にミニスカート。そして、ベージュのセーターの萌え袖。金髪を結い作られた二つのお団子が中国料理店の看板の前で揺れているのを見て、私は来た道を引き返したくなった。
しかし、萌え袖で
「あ!神父様!いらっしゃいませなのです!」
「何故、貴女が此所に居るのですかねえ。トガヒミコ」
牧師服に身を包む私を神父様と呼ぶ只一人の少女-トガヒミコは
「此所に居れば神父様に会えると思って店主さんに雇ってもらっていたのです!」
「貴女に接客が出来るとは思えないのですが」
「失礼です。それくらいのこと出来ます。けど、得意なのはゴミ掃除なのです」
「
チラリと横目で店先の隅を見れば血のついたバットやら欠けた日本刀やら、物騒なものが転がっていた。どうやらトガヒミコは店の用心棒として、雇われていたらしい。
確かに社会が混乱し営業している店の方が珍しい現在、夜に明かりを灯す飲食店を襲おうと考える
私もまさかこの店が普通に営業しているとは思わなかった。
「店主に頼み込んで店を開けて貰おうと考えていたのですが・・・貴女のお陰でその手間が省けたのなら、お礼を言わねばなりませんねえ。お陰で客人を待たせなくて済みます」
「お客さん?神父様、次はどんな年上美人を引っかけてきたのですか?」
「相変わらず失礼な物言いですねえ」
私のツッコミを無視してトガヒミコが私の背後に回る。
そして、私の背に隠れ見えて居なかったらしい“後継”を目にした瞬間、トガヒミコは黄色い悲鳴を上げた。
「キャー!出久くん!出久くんだよね!トガです、ヒミコです!こうして逢うのは二度目だね!ずっと逢いたいと思っていました!」
トガヒミコのテンションの上がり方に若干、引いた。
それは後継も同じようで助けを求める様な目で私を見てきていた。
トガヒミコの気が遂に狂ったかと心配になったが、そういえば気になる言葉を言って居たと“後継”の顔を隠すオールマイトをリスペクトして居るだろう二つの触覚が生えるマスクをまじまじと見る。
「イズク、くん?いずく、くん。はて、まさか、君は緑谷出久なのですか?雄英高校1年で相澤先生の教え子の?」
「えっと・・・はい。緑谷出久、です。気がついてなかったんですね・・・」
“後継”がマスクを外す。その顔は確かに何度か見たことのある緑谷出久のものだった。
私は衝撃を受ける。
「若者の成長は早いといいますが、これほどとは・・・私も年ですかねえ。その成長速度には追いつける気がしません」
「は、はあ・・・」
「出久くん!今日もボロボロだね!すごく格好いいね!あの、ちょっと触っても良い!良いよね!ちょっとだけだから!」
「あ、あの・・・離れてください。ムーンビースト、さん。助けて」
緑谷出久に助けを求められたので、彼との距離をグイグイ詰めていくトガヒミコの襟首を掴むと、次はトガヒミコから抗議の声が飛ぶ。
「神父様!離してください!前に押して駄目なら押し倒せと教えてくれたのは神父なのですよ!」
「TPOは弁えなさい。私たちは食事に来たのですよ。彼と良い雰囲気になりたい貴女を止める私ではありませんが、まずは私の前に麻婆豆腐を用意して頂きたい。話はそれからです」
「嫌です!私は今のボロボロな出久くんに触りたいのです!血を舐めたい!チウチウしたい!我慢は身体に毒なのです!」
「それはそうですがねえ」
襟首を掴んで持ち上げたトガヒミコがセーターのポケットから取り出したナイフを振り回す。それを器用に避ける私を見ながら、緑谷出久が妙な事を言う。
「えっと、二人は兄妹ですか?」
「エッ!出久くんには、そう見えますか!」
「うん。髪も目の色も似ているし、君は逆十字のアクセサリーを首から下げているし、それに言動もなんだか似ている気が・・・」
「エヘヘー、神父様!私たちは兄妹に見えるそうなのですよ!」
「何故、貴女は嬉しそうなのですか。気持ち悪いですねえ。後継、変な勘違いはしないで頂きたい。私と彼女は血縁などではありません。只の殺し殺されの間柄、
「殺し殺されの間柄って、あの、とても仲が良さそうで、そうは見えないんですけど」
「私は彼女に背後からナイフで刺されました」
「私は神父様に三回ほど首を斬られかけたのです!」
「えぇ・・・マジですか」
「マジですねえ」
「マジなのです」
緑谷出久がドン引きした所で取りあえず話の落ちはついただろうとトガヒミコの襟首から手を離し、店へと入っていく。
トガヒミコももうこれ以上、店の外で緑谷出久を困らせる気は無いようで、彼の手を引いて私の後へ続く。
緑谷出久はグイグイと距離を詰めてくるトガヒミコに戸惑いながらも抵抗する気は無いようで大人しくしていた。
「行こ、出久くん!此所の料理はとってもおいしいよ!でも、神父様の
トガヒミコの弾むような声は魅力的だ。私からは見えないが、浮かべているだろう笑顔が素敵で有ろう事も否定しない。
私は彼女の容姿だけは、手放しで褒めても良いと思っている。
そんな女子にグイグイ来られて嫌な気になる男子は居ないだろうと思う。
巷ではオタクに優しいギャルが
ただし、
既視感を覚える二人から目を逸らし、料理場に居る店主に軽く挨拶をして、テーブルに着いてメニュー表を開く。
私オススメの麻婆豆腐は
続いてオススメしたいのはネギとチャーシューの和え物なのだが、これはどちらかと言えば酒飲みに評判な大人の味。
緑谷出久の好みでは無いかと考えて向かいの席にトガヒミコと並んで座った緑谷出久にメニュー表を差し出す。
「何を食べます?」
「私はレバニラ炒め!血の味がしておいしいのです!」
「貴女には聞いていないのですが、まあ良いでしょう。大盛りにして皆で分けましょう。さあ、後継も遠慮せず頼んでください」
「えっと、じゃあ、ラーメンと餃子でお願いします」
「飲み物はどうします?」
「黒烏龍茶で」
「私はトマトジュース!」
「わかりました。店主!麻婆豆腐とレバニラ炒めの大盛りで!後、ラーメンと餃子と・・・炒飯も!炒飯は大盛りでお願いします!飲み物は黒烏龍茶とトマトジュースと、私はコーラを!取り皿もいくつか頂きたい!」
注文を受けた店主が厨房で鍋を振り始めた音を聞きながら、私は料理が運ばれてくる前に聞いておかなければならないことがあるとトガヒミコに問いかける。
「さて、トガヒミコ。貴女、林間合宿以降、何をしていたのですか?後継は貴女をあまり知らない様子ですし、
「色々と悩んでいたのです」
質問を受けたトガヒミコは口を尖らせながらに言う。
「神父様は知らなかったかも知れませんが、私、実は
今、明かされる衝撃の事実。
林間合宿にてトガヒミコに腹部を刺された理由について皆目見当がついていなかったが、
なるほどそうだったのかと衝撃を受ける私だったが、同じく衝撃を受けている様子の緑谷出久を前に格好を付けるため、平静を装いながら答える。
「は、ハハハ、何を言っているのですかねえ。私は気がついていましたよ。ええ、本当です。小娘に欺かれる私であるはずがないですからねえ」
「絶対に嘘なのです。でも、多分、レディ・ナガンには怪しまれていたのです。私が灰色勢力に合流して以降、あの人が隔離という名目で神父様の側を離れて居たのは、神父様を泳がせて私にボロを出させる為だったのだと思うのです」
更に明かされる衝撃の事実。
レディ・ナガンは私を囮にトガヒミコを釣ろうとしていた。
確かに彼女にはそういう所がある。そんなリアリストでミステリアスな部分も私は大好きだ。
「なら、尚更に腑に落ちませんねえ。林間合宿にて私と離れて以降、何故
トガヒミコが個性『吸血』に引っ張られる形で持つ
ステインに憧れていたという言葉にも嘘はないだろう。
ならば、
トガヒミコはそれを否定せず、しかし、首を横に振った。
「死柄木くんが壊す世界には興味があります。そうなれば、私の
トガヒミコが私をジッと見ながらに問いかける。
「ねえ、神父様。神父様はまだ、
“ミッドナイト”。“香山先生”。
神野区での逮捕以降、ずっと考え無いようにしていた単語がトガヒミコの所為で脳内をリフレインする。
香山先生は結局、逮捕された私の面会には来なかった。サー・ナイトアイの件を考えれば、何かしらの理由が有ったのだろうとは思うし、実際に来ていたとしても私は面会を断って居ただろうと思う。
オール・フォー・ワンから聞いた久図草太郎の件が真実であった以上、香山先生は私にとって憎むべき相手なのだろうとも思うし、今の私にはレディ・ナガンがいるのだから、初恋など過去でしかないのだろうとも思う。
しかし、それでも想っているかと問われれば、私はまだ香山先生のことが好きだ。
「恋より愛の方が強いと言う方も居ますが、私は別物と捉えます。愛は転じて憎しみとなりますが、初恋とは色褪せぬもの。あの
「後悔はしないのですか?辛くて苦しい筈なのです」
「後悔はしますよ。けれど、自分の気持ちに嘘はつけないですからねえ。アハハ、言葉にすればなんと女々しいのか。レディ・ナガンに対しても失礼だ。しかし、そんな屑な
私を騙していた香山先生を憎いとは思う。
けれど、殺したいとは思えない。
それは香山先生が人を殺した事の無い人であるからなのか、もしくは別の理由があるからなのか。
それは香山先生が殺人を犯さない限り、わからない。
わからないから、私は考えるのを止めた。
自分の気持ちに素直になった。
それだけのことだった。
「私はあの人を許すことにしました。ええ、特別扱いです。初恋の人ですよ?特別で何が悪いのか、説明できるのなら聞いてみたいモノですねえ」
「特別。うん。そうだよね。私、神父様を見ていて、気づいたの。特別が一番だって、気づいたの」
トガヒミコは何かを決心した様子で緑谷出久の方を見るとボロボロの彼の手を握った。
「出久くん!」
「は、はい!?」
「私、最近は誰も殺してないよ!お店に嫌がらせしに来た
それは今までは何人か殺してきたという告白に他ならない。
ヒーローである緑谷出久に対してそれを言うと言うことが、どういうことなのかも深く考える事はせずにトガヒミコは自分の気持ちを言葉に変える。
「血だらけでボロボロの出久くんが好き!神父様から守ってくれようとしてくれた姿、かっこよかったよ!好き。初めて見たときから、君が好き」
トガヒミコ。
彼女は緑谷出久に対して実に純粋で、
「出久くんが私の“特別”になってくれたら、私、変われる気がするの。出久くんが駄目って言うなら、他の人の血は吸わないよ。カアイイお友達にもなりたいと思わないよ。出久くんだけが、“特別”で居てくれればいいよ」
好意的で、
「だから、私に君を
だから、
「大好きだよ」
彼女の“
そう思いトガヒミコが緑谷出久の顔に伸ばした手を掴み止めようとした時、緑谷出久は私より速く自分の顔に向かって伸びてくる手を握り止めていた。
「トガヒミコ。君は、人を傷つけて、命を奪って来たんだね」
「うん」
「僕が側に居れば、もう誰も傷つけないって約束してくれるんだね」
「うん!出久くんだけだよ!だから、私の恋人になって!」
「・・・ごめん。君の気持ちに、直ぐに返事は出来ない。でも、もし君が、返事は君が罪を償い終えた後でいいって言ってくれるなら、僕は君が罪を償い終える日まで、側にいるって約束する」
トガヒミコの“
それは私にとってそれが理解の出来ないものであると決めつけていたからだ。
愚かな私がどれほど
“いずれ殺すと決めているから”。
そんな言い訳をして私は一人の少女から目を逸らし続けていた。
大多数の人間がそうするだろうと思う。
理解の出来ないモノから目を逸らし、自分とは違うモノは隅に集めて蓋をして見ない様にする。
大多数の人間がそんな愚かな人間だ。
しかし、中には大多数が閉めた蓋を開けて中に居る者に手を差し伸べる人もいる。
未だかつて私はそんな人間には出会ったことがないが、どうやらトガヒミコは出会えた様だった。
トガヒミコの瞳から大粒の涙がポロポロと流れていた。
緑谷出久はハンカチを取り出してトガヒミコに手渡しながら、微笑んだ。
「それでも、いいのかな」
「うん!いいよ!出久くん、大好き!」
抱きつくトガヒミコと顔を赤くして慌てている緑谷出久。
少年少女のイチャイチャの邪魔をしようなどと考える私ではないが、テーブルの側では店主ができあがった料理を手に困り顔で私を見ていた。
私は咳払いをする。
緑谷出久の身体が跳ねた。
トガヒミコには睨まれる。
「そろそろ、食事にしましょう」
「は、はい!」
「・・・はーい」
渋々という様子で緑谷出久から離れたトガヒミコに対して溜息を吐きつつ、麻婆豆腐を小皿に盛り、レンゲと一緒に緑谷出久の前へと置く。
「まったく、砂糖のように甘い光景を見せられる大人の気持ちも考えて頂きたい。甘いものは好きですが、
「アッハイ!頂きます!――――くぁwせdrftgyふじこlpッ⁈⁈」
「キャー!?出久くん、大丈夫ですか!?死んじゃだめー!?」
麻婆豆腐を口にして悶え苦しむ緑谷出久とそれを介抱するトガヒミコ。
私がトガヒミコに正義執行する日まで、二人には幸せでいて欲しいものだと思いながら、私は麻婆豆腐を口に運ぶのだった。
夜の暇。一夜の夢。
緑谷出久と共に警察に出頭するというトガヒミコを置いて、私は再び夜の道を行く。
その前に私には緑谷出久に聞いておかなければならないことがあった。
「後継。一つだけ、聞きたいことがあるのですが・・・
“未曾有の大災害”で多くのヒーロー達が犠牲になった。
続くオール・フォー・ワンの脱獄で彼らの死を悼む暇も無く、国は混乱した。
情報は錯綜し、今まで確かな情報を得ることはできなかった。
しかし、雄英の生徒である緑谷出久は知っている筈だと問いかければ、彼は真実を答えてくれた。
「群牙山荘から現れて市街地に進む
「そう、ですか。
「それは、違います!林間合宿であなたは僕たちを助けるために戦ってくれていた!」
「ええ、結果論だ。しかし、それもまた結論なのでしょう。私の存在が香山先生の亡くなる要因の一つであった事に変わりはありません。ならば、私は・・・ハハハ、私は私が許せない。なるほど、
雨が止んだ空を月に向けて跳躍する。
地上で此方を心配そうに見る緑谷出久に向けて、お礼を言う。
「ありがとう。真実を教えてくれて。私は大丈夫。笑っていて欲しいと願った人の死を糧に私はまた強くなる。だから、貴方は貴方自身と、その手に握る大切な人の心配だけをしなさい」
此所で私は己の結末を決めた。
「
感想・誤字脱字報告ありがとうございます。m(_ _)m
全て見させて頂いています。(^O^)
緑谷出久。
トガちゃんの可愛さに陥落しかけてしまった原作主人公。トガヒミコが贖罪を終えた後に彼女の気持ちに答えられるかは、彼自身もまだわからないが、もしそれが出来た時、殺人の贖罪は死しか無いとするムーンビーストの思想を完全否定する結果となる。
たぶん、それが正しい。
トガヒミコ。
自分のことを殺したいのに殺さないムーンビーストを側で見続けた結果、少しだけ我慢することを思い出した。押さえつけた思いは強くなり、溢れ出すが、その思いを全て緑谷出久に向ける事で解決できるかも知れない。
全てはムーンビーストが死した後こと。
ムーンビースト。
最近、自分の味覚の異常性に気づき始めている。結果、気に入った人物に自分の好物を食べさせて悶え苦しむ様を見ることに愉悦を覚えた始めたヴィラン。
ギガント・マキアの死体を素体に作られた脳無。ミッドナイトの死にムーンビーストが関与するために生み出された悲しき怪物。ネーミングは勿論、皆が大好き中二病の権化である
ミッドナイト。
首台正義の初恋のヒーロー。彼女は結局、ムーンビーストの面会には現れなかった。
その理由はその内に明かされる。原作とは違った形だが、”未曾有の大災害”にて死亡。