ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

49 / 66

皆様の暇潰しになれば幸いですm(_ _)m




個性『崩壊』

 

高速道路での煽り運転。二人死亡。危険運転致死傷罪。

 

懲役、わずかに18年。

 

世間を賑わせたニュースでさえ、その結末を知る者はあまりにも少ない。

人を二人殺していても、死刑にはならない。

人々はその事実から、目を逸らしたくて仕方が無いのだと私は考えている。

この国の国民性は他力本願。

目の前に間違いが転がっていたとしても、誰かがそれを正すことを待っている事しかしない。

他国のデモを動物的だと笑い。暴力では何も変わらないと分かった様な顔で言いながら、()()()()()

()()()()()()()

結局、正義を信ずると言いながら拳を振るう覚悟がないのだろう。

力なき者はそれでも良いだろう。

傷つき嘆く被害者遺族に(ナイフ)を持てと言うほどに、狂っているつもりは無い。

だけれど、しかし、その他の人々はどうなのだろう。

混乱する国。

乱れる世の中で大人がヒーローの卵とはいえ、子供に希望を託す社会が本当に正しいのだろうか。

 

「そう、考えずにはいられませんでした。“後継”。彼と出会い、思いは知った。覚悟もあった。しかし、麻婆豆腐を食べて悶える彼は、只の子供にしか見えなかった」

 

旧大日本帝国海軍の駆逐艦。

未だに私は誰かの力を借りねば戦場に立てない。

これほどに巨大なモノを捧げる程に私の正義を信じてくれている誰かが居る。

その限り、私は月を目指して跳び続けようと決めている。

 

胸の前で右手の拳を強く握り、右腕にギロチンの刃を形成しながら、目の前の敵達の名を呼ぶ。

 

「オール・フォー・ワン。死柄木弔。そして、スターアンドストライプ。貴方たちは、何故、人を殺すのです」

 

私の質問に対する答えは誰からも無かった。

答えなど期待していなかった私は言葉を続ける。

 

「何故殺し、何故奪う。生命とはその人だけに与えられた、たった一つのかけがえのないモノ。説明せずとも理解出来る筈なのに、容赦なく奪いッ、悦にいたるッ!なんだ、それ?なんなのだッ。貴方たちは少しでも殺された者の痛みとッ、遺族の思いを考えたことがあるのかッ‼」

 

個性を使い浮かぶオール・フォー・ワン。

飛行形脳無の背に乗る死柄木弔。

ホバー飛行するステルス戦闘機に立つスターアンドストライプ。

 

自分より高いところに居る彼らに向けて、涙ながらに訴えかける。

甲板が軋み金属片が舞い上がる。

私は只、天に居る彼らに空を目指して跳ねるしかない弱者の思いを知って欲しかった。

しかし、彼らは一様に私の言っていることが理解することが出来ないという視線を向けてくる。

頬を涙が伝う。

私の言葉は届かなかった。私の心は響かなかった。

ならば、最早、正義の為にギロチンを振るうほかに無く、私は犬歯を剥き出しにしながら、両足にギロチンの刃を形成する。

 

「正義ッ、執行ッ‼」

 

語るべくことは、もう他に無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

“狂気のムーンビースト”。

その(ヴィラン)の存在をアメリカNo.1ヒーロー-スターアンドストライプは認知していた。

若干、二十歳の青年が、彼女が(マスター)と仰ぐオールマイトと伍したと聞いた時は何かの間違いだと信じて疑わなかった。

そして、今もスターアンドストライプはムーンビーストの戦闘能力がオールマイト並であるとは思わない。

 

「フィスト・バンプッ!トゥ・ジ・アース‼」

 

個性『新秩序(ニューオーダー)』で創り出した大気の巨人が、駆逐艦の甲板から跳んだムーンビーストを不可視の巨拳で甲板(振りだし)に戻す。

甲板に叩きつけられたムーンビーストから、潰れた蛙のような悲鳴が漏れている。

それを鼻で嗤うスターアンドストライプの隙を突こうと次に飛び出して行ったのは死柄木弔だった。

大気の巨人の前に遠距離戦は不利と悟った死柄木弔が接近戦をスターアンドストライプに仕掛けようとするが、彼女は逆に近づいてきた死柄木弔を水平線まで殴り飛ばした。

 

「殴り合いは―――望むところだ!トムラシガラキ」

 

「ガッハッ⁉」

 

「昔、日本から来た留学生に救われた。家族でサンタモニカピアに行く途中だった。逃走中の強盗が私たちの車に襲いかかってきた。“せめて妹だけでも・・・”、死を覚悟したその時に―――“彼は来た”」

 

それがスターアンドストライプの“原点(オリジン)”。

超人に憧れた少女は、超人になって日本にやってきた。

 

「彼は心の師‼彼の作ったこの国の平和に貢献する為に()()()()ッ‼」

 

偉大なる脅威(オールマイト)の弟子は他に居るッ!彼を差し置きッ、貴女程度が“平和”を語るなッ!スターアンドストライプ!厳粛なる死刑執行(ジャスティス・オブ・ジャッチメント)ッ‼」

 

起き上がったムーンビーストが甲板から放つ空間を削る飛ぶ斬撃に対処するため、スターアンドストライプは個性を発動する。

対象は先ほど()()()()()()()()()()()()

 

「おまえこそ、馴れ馴れしいよ。“シガラキトムラはムーンビーストに向かい旋回する”」

 

水平線まで殴り飛ばされようとしていた死柄木弔の身体が旋回し、慣性をそのままにムーンビーストに向かい飛んでいく。それはさながら人間ミサイル。

()()、両方がぶつかり合い肉団子になっても構わない状況でしか使えない個性の使用は、ムーンビーストの迎撃と死柄木弔ヘの追撃を合せた合理的なものだった。

 

「なッ⁉・・・や、止めろぉ!私に男に抱きつかれて喜ぶ趣味はッ、ぐあああッ⁉」

「ざっけんなぁ⁉巫山戯るなよッ!スター、テメエエエエエエッ、ああああッ⁉」

 

ムーンビーストと死柄木弔がぶつかり合いながら、甲板の上を転がる。

常人であれば肉団子になる衝撃を受けて尚、人の形をしたまま甲板の上を転がって行った二人に舌打ちをした後、スターアンドストライプは残りの一人に視線を向ける。

 

オール・フォー・ワンはムーンビーストと死柄木弔の不様な姿を嗤いながら、彼らを一蹴したスターアンドストライプを称える様に拍手をしていた。

 

「ブラボー、流石は最強の女だ。君の前ではあの二人がまるで子供だぜ・・・!その“個性”、是非欲しいな。君の個性を()れたら、後は消化試合だ」

 

「奪えるものなら奪ってみな。ただし、おまえはその頃には八つ裂きになっているだろうけどね」

 

日本No.1(ヴィラン)とアメリカNo.1ヒーローは、空中でぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スターアンドストライプに一蹴されたムーンビーストは甲板にギロチンの刃を突き刺してブレーキをかけ、海に落とされることは何とか堪えて舞い上がる砂煙の向こう側を見る。

そこにはムーンビーストと同じく何とか甲板から転げ落ちることを堪えた死柄木弔が息を上げながらに立っていた。

死柄木弔を前にしてムーンビーストのギロチンの刃が疼く。

目の前の首を刈れと“正義(個性)()”が訴えかける。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、二兎追うものは一兎をも得ず、ですかねえ。スターアンドストライプとオール・フォー・ワンの前にまずは、一番弱い貴方から正義執行させて頂きましょう」

 

「ハァ、ハァ、ハァ?お前、今、俺のことを雑魚って言ったか?動画見てないのか?今の俺は、あの時と同じじゃねえんだぞ」

 

「同じですよ。貴方はオール・フォー・ワンという親から、与えられた個性(チカラ)ではしゃぐだけの、只の子供(ガキ)だ」

 

「言ってくれるなぁ・・・。ああ、むかつくなあッ!イライラする。苛つきが止まらないッ!お前を殺せば気持ちは晴れるか?俺は最初からお前の事が嫌いだったんだッ!ムーンビーストッ‼」

 

「気が合いますねえッ‼死柄木弔ッ‼」

 

触れれば容赦なく首を刎ねる刃と触れたものを崩壊させる手。

互いに近距離での必殺を持つ者同士の戦いは、互いの必殺を警戒し合い、中距離(ミドルレンジ)での探り合いに成るのが戦いの常識だ。

しかし、二人は常識(それ)を意に介さない。

 

「手を伸ばせば届く所に貴方がいる。私がギロチンを振るわない理由は無い」

 

「小細工は無しだ。先生のチカラには頼らない。俺の個性でお前は殺す」

 

「正義執行ッ!」

 

「崩れて死ねッ!」

 

互いに必殺を備えるが故に一瞬で勝負がつくはずの戦闘での近距離での刃と拳の応酬。

それを可能にするのは互いに『個性』に対して最適化されつつある肉体と()()()()()()()()()

ムーンビーストが持つ第六感に等しき危機感知能力。

そして、対ムーンビースト用にオール・フォー・ワンが死柄木弔に与えた個性『念視(ねんし)』。

物体の残留思念を読み取る個性で死柄木弔はムーンビーストが肌身離さず身につけている聖ペテロ十字(逆十字)のロザリオを読み取り、未来視に等しき精度でムーンビーストの動きを予測する。

互いに同じ武器を持つ者同士の戦い。必殺に(こだわ)る故に(おとず)れる千日手(せんにちて)

百にも上る応酬。近距離で戦い続ける限り決着は無いと両者は悟り始める。

そして、悔しげに歯を食いしばりながら一歩、足を退()いたのはムーンビーストだった。

 

その一歩が明暗を分ける。

 

ムーンビーストが離した距離の分、死柄木弔が即座に距離を詰める。

 

「なっ⁉」

 

完全に読まれたムーンビーストの後退。

追う者と追われる者の間に生じた一瞬の隙を突き、死柄木弔の右手がムーンビーストの左腕を掴んだ。

 

「獲ったッ!」

 

個性『崩壊』の五指が振れ、ムーンビーストの左腕が崩れ始める。

死柄木弔は勝利を確信して邪悪な笑みを浮かべ、それに対してムーンビーストは嘲笑を返した。

 

「いいえ、獲られたのですよ」

 

ムーンビーストは左足を振り上げる。

死柄木弔を遠ざける為の蹴りは、同時に崩れ始めていた自身の左腕の肘から下を切り落とす。

ムーンビーストの躊躇のない左腕の自切(じせつ)

そして、蹴りにより追う()()()()()()()()()()()は、既に切り替わっていた。

 

「囮にッ、自分の腕だぞぉ⁉」

 

「此所が、私の最終章ッ‼」

 

今、一歩を退いたのは死柄木弔。

踏み込みとともに必殺のギロチンは振るわれる。

 

「私がぁッ、負けるはずが無いでしょうッ‼」

 

「あああああああああああああアアア⁉た、()()()!脳無ッ‼」

 

死柄木弔と共にスターアンドストライプに殴り飛ばされて以来、海中に潜んでいた飛行型脳無が飛来しムーンビーストと死柄木弔の間に割って入る。

ムーンビーストの必殺は飛行型脳無に妨げられ、飛行型脳無を両断し、死柄木弔の薄皮一枚を斬るに止まった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・ハハ、ハハハ!」

 

左腕を犠牲にした必殺を防がれた。

しかし、それでも尚、ムーンビーストは笑っていた。

死柄木弔を嘲笑っていた。

 

「結局、頼るのですねえ。オール・フォー・ワンから与えられた脳無(チカラ)に。今一度、断言いたしましょう。貴方はあの頃から、USJの時と同じく、何も変わっていない」

 

「・・・黙れ」

 

「与えられたチカラに甘えるだけの、子供(ガキ)だ」

 

「黙れよおおおおおおおおおおおおおおお‼お前ッ、黙れよおおおおおおおおおおおおおおお‼」

 

死柄木弔の身体を中心に暴風が吹き荒れる。甲板の機器を吹き飛ばす衝撃波は、言うまでも無くオール・フォー・ワンが死柄木弔に与えた個性群。その複合形。己の個性(チカラ)でムーンビーストを殺すと言った死柄木弔の意地は最早、そこには無い。

切り落とした自らの腕が飛んでいくのを笑うムーンビーストの左腕からは、血が噴き出している。

薄皮一枚を斬られ僅かに血を流す死柄木弔と比べれば、ムーンビーストの劣勢は明らか。

だが、しかし、この戦いを支配しているのが、どちらなのかは誰が見ても明らかだった。

 

「・・・違うと言うなら、命を賭けなさい。吐き出した言葉は、飲み込めぬもの。だから、子供(ガキ)だと言うのですよ。死柄木弔。私を殺すと言った言葉すら、嘘で無いと言うのならッ‼」

 

ムーンビーストが一歩踏み出す。

死柄木弔はそんなムーンビーストを睨み付けるようにみて、浮かべている涙に表情を失った。

 

「お前、なに泣いてんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、なに泣いてんだ?」

 

私は泣いて等、いない。これは涙腺から滲む汗だ。

個性『ギロチン』の何度目かの覚醒。それに伴う感覚器官の超人化。

齎された新たなチカラは“血の追憶”。私のギロチンは、血を浴びた罪人の過去を刃に映す様になっていた。

そうしてみた死柄木弔。いや、志村(しむら)転弧(てんこ)の過去。個性を暴走させて家族を殺してしまった少年の身に起きた悲劇は、精神を病んでしまっても仕方がないものだろう。傷つく()を救うことを他人任せにしてしまった現代社会を、死柄木弔が恨むことも理解が出来る。

だが、それだけだ。

私では志村転弧の傷痕(過去)に寄り添えない。

死柄木弔を殺すことしかできない。

故に“血の追憶(これ)”は、只いたずらに私の心を抉るだけのものだ。

 

“人殺しにも理由が有る”。

“正義でない理由は有る”。

 

それをムーンビースト()は、認めはしない。

 

「貴方は、欠片も可哀想ではない。トガヒミコと同じです。同情するに値しない」

 

「急に泣きながらなに言っているんだ。キモいな」

 

「貴方は家族を殺した後悔を、他者を殺す事で薄めようとしているだけの、イカれた(ヴィラン)だ。可哀想というのは、貴方に崩された姉の様な子を言うのですよ」

 

「・・・ハハ、ハハハ!なにを知ったのか知らないが、俺を勝手に当てはめるなよ!ほんと、苛つく。むかつくなあッ、ムーンビースト!殺す!根絶やす!手段なんて、もう選ばねぇぞ‼“空気を押し出す個性”(プラス)“炎撃”、ベギラマッ!ってか!ハハハ、知ってるぜ!熱に弱いんだってなあッ!」

 

死柄木弔から放たれる炎撃を右腕のギロチンで切り飛ばす。

しかし、その熱量はエンデヴァーの熱量(それ)に匹敵していてギロチンの刃が熱で歪む。

 

「だから、なんだというのですかねえ。むしろ、その炎で左腕の傷口が焼かれ止血できましたよ。ありがとうございます」

 

「ッ⁉痛覚とか無いのかッ、お前は!」

 

「ありますとも。熱くて痛くて涙がこぼれる。ああ、しかしッ、―――

 

両足にギロチンの刃を形成し、甲板を蹴り跳ぶ。死柄木弔という大量殺人犯を前にギロチンの強度は強化され、その速度は既に第二宇宙速度に匹敵していた。

全盛期のオールマイトに匹敵する速度で動く私に死柄木弔の反応が遅れる。

ギロチンの刃が死柄木弔の右腕を豆腐の様に抵抗なく切り飛ばす。

 

―――痛みで私が止まるはずが無いでしょう」

 

死柄木弔は切り飛ばされた右腕を個性で再生させながら、後退した。

 

「ため無しでオールマイト並とか、巫山戯るなよ!それは青くならなきゃ無理じゃねぇのかよ!」

 

「元より“逆襲鬼(アベンジ・ザ・ブルー)“は個性の強制的な覚醒。大量殺人犯(貴方)が相手なら、無理をする必要もない。只、普通に正義執行すれば事足りるのですよ」

 

「チート野郎が」

 

「超再生を持つ貴方に言われたくありませんねえ。やはり、四肢では意味が無い。首を切り落とす他にありませんねえ」

 

四肢にギロチンの刃を形成してクラウチングスタートの姿勢を取る。真正面からの突破を示す姿勢の私に対して、死柄木弔は両手を突き出す迎撃の姿勢を見せる。

 

「止めとけよ。カウンターで終わるぜ」

 

死柄木弔の言葉は正しいのだろう。“衝撃反転”。“防壁”。あるいは“超反射”か。真正面からの特攻を潰せる個性をオール・フォー・ワンが集めていないとは考えにくい。

それはつまり死柄木弔にもそれらの個性を有している可能性があるということだ。

そして、カウンターで次に“崩壊”の五指に触れられれば、私は次こそ終わりだろう。

流石に両腕を失って勝てるなどと奢るつもりはない。

 

だが、しかし、私のカウントダウンは止まらない。

 

3.2.1.―――そして、0。

 

「私と同じく素で空を飛ぶ術を持たない貴方は、足場である船を崩す事が出来ない。個性“崩壊”は、此所では本領を発揮しない。貴方には、後は何がある。オールマイト並のパワー。オール・フォー・ワンから与えられた数多の個性。それだけだ。()()()()()()

 

オールマイトとオール・フォー・ワン。

二人を超えればいいのだろう。

超えてはならぬと壁をした。

しかし、壁を壊さなければ届かないなら、私は超えよう。

 

"更に向こうへ"。

 

「・・・ハッ、マジかよ」

 

私は仰向けに倒れる死柄木弔の胸部を踏みつけにしながら、彼を見下ろす。

彼の四肢は既に切り落として達磨にしている。

腕と足が再生する度に、身体を踏みつけている足から放つ飛ぶ斬撃で切り落とす。

 

「先人とは、常に超えるべき壁でしかない。そうでしょう?死柄木弔」

 

「“個性特異点”。世代を経るごとに、より強力に、より複雑化していく“個性”。ドクターの持論は正しかったって訳かよ」

 

「相性が悪かった。大量殺人犯を相手に私の“個性(チカラ)”が、負けるはずが無いでしょう」

 

個性『ギロチン』。

四肢にギロチンの刃を形成する。その刃の強度と鋭さは執行対象とする相手の罪の重さに比例する。

敵が殺した人の数が多ければ多いほど、私は比類無き強さを得る。

 

それは逆説的に言えば、私は相手がどれほどの危険人物であろうと人を殺すまで全力を出せないと言うこと。思えば事前に悲劇を防ぐべきヒーローに、これほど似つかわしくない“個性”はない。

私の個性は事後でしか動けない。だから、事後は、復讐は完璧に熟すと決めた。

 

「死柄木弔。貴方は殺しすぎた。貴方の命を奪った所で、天秤の傾きが正されるのは誤差の範囲でしょう。だから、直ぐに殺しはしませんでした。貴方には最大限、苦しんで死んで欲しかった。しかし、どうやら貴方には痛覚が無いようですねえ」

 

「あるよ。けどな、痛いくらいで泣くわけねぇだろう。ガキじゃねぇんだからなあ」

 

「ああ、先ほどの意趣返しですか。そういう稚拙さが、子供(ガキ)だと言うのですよ」

 

「青筋が浮いているぞ。ウケる」

 

「うるさいですねえ」

 

踏み込み死柄木弔の胸骨を砕く。死柄木弔は吐血するが、それでも彼は嗤っていた。

口の周りを血塗れにしながらも嗤う姿は正しく(ヴィラン)

 

そうか。

私の姿は他者からはこう見えていたのかと、死柄木弔の死に様を俯瞰する。

そして、私の涙腺からは、再び汗が出てきていた。

 

 

 

 

 

 

 

なに泣いてんだ?と、死柄木弔は再び思った。

四肢を切り落とし踏みつけにするというヒーローからはほど遠い鬼畜の所業。

それを涼しげな顔をしながらやった奴が、今更、何故泣いているのかが死柄木弔には分からなかった。

 

ムーンビーストは殺すことに欠片の罪悪感も抱いてはいない。

それを死柄木弔はしっかりと理解している。

USJでの初対面で殺されかけた。

だから次の林間合宿では殺しに行った。

殺し殺そうとする間柄でしかなかった。

死柄木弔がムーンビーストを殺したい程に苛立たしい様に、ムーンビーストも死柄木弔が殺したい程に憎いことは明らかだった。

 

それなのにムーンビーストは泣いていた。

死柄木弔は降ってくる不快な(それ)を顔に受けながら、理解する。

 

共感できないが気がついた。

 

()()()()()()()()()()()()

一番可哀想なのは、()ちゃん。

 

「ハハッ」

 

ムーンビーストが言っていたグゥの音も出ない正論に死柄木弔は思わず吹き出した。

何故、自分のオリジンをムーンビーストが知っているかは死柄木弔には分からない。

目の前の相手が死柄木弔のオリジンを知り、志村転弧の悲劇を直視して、それでも尚、死柄木弔がやって来た事に欠片の同情もしていないことに気がついた。

いや、ムーンビーストの掲げた正義に当てはめるなら、個性を暴走させて人を殺した時点で、子供であろうと志村転弧は正義執行対象だった。

事故も故意も分け隔てなく裁く事で抑止力であろうとする。

それは言うまでもなく泣いている子供を斬り捨てると言うことであり、間違っている。

 

それに気がついて居ながらも進むしかない血痕(けっこん)道標(しるべ)

赤い月に染められた世界で遠吠えする孤独な獣。存在せず行使する。

正義という実在しないものを求めるイカれた(ヴィラン)は、目を逸らさず死柄木弔(嘗ての被害者)を見るからこそ、泣いていた。

 

ムーンビースト。彼が掲げた"覚悟"を知った。

 

(いも)るなよ。ダセェなぁ」

 

「・・・芋?」

 

「お前じゃねぇ。俺の話だ。"覚悟"が無かった。未来を奪う俺が、未来の心配をしちまってた。…止めだ。なあ、ムーンビースト。復讐を誰にも委ねないお前は、カッコいいよ」

 

「何を言っているのですかねえ」

 

「なあ、“後継”って緑谷出久だろ。あいつが食べた麻婆豆腐って、そんなに辛いのか?」

 

「いいえ。辛味と旨味が絶妙に絡み合う旨辛です。って、なんの話をーーー⁈」

 

油断があった。

ムーンビーストの明確な隙。

その隙に再生させた死柄木弔の再生された五指が甲板に触れていた。

 

駆逐艦は崩壊を始める。

 




感想・誤字脱字報告、ありがとうございます!
全てに目を通しています。
とても励みになっています!(^^)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。