ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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デク君とトガちゃんのイチャイチャを書くのは楽しいですね(^^)

皆様の暇潰しになれば幸いです。m(_ _)m




個性『ギロチン』⑥

 

これはOFA(ワン・フォー・オール)AFO(オール・フォー・ワン)の戦いだった。

其処に獣が横槍を入れる。

―――君を孤独(一人)で戦わせたりしない。

ムーンビーストに笑いながらにかけられた優しげな言葉が、嘘でなかったことを緑谷出久がテレビの前で絶望しながらに知る。

 

《神野区より日月放送が中継にてお伝えしていますッ!見えますでしょうかッ!オールマイト氏の功績を称えて神野区に立てられたオールマイト像!社会の混乱を契機に様々な悪戯の被害に遭い、『I AM NOT HERE』の看板が首から提げられた姿が日常になりつつあったあの像に現在ッ、かけられているものは看板ではありませんッ!》

 

其処には生首がかけられていた。

その顔に緑谷出久は見覚えがあった。顔面蒼白に成りながら、自然と歯が鳴る。

 

《生首です!まるでネックレスのように生首が下げられています!しかも、我々が独自に取材した警察関係者によるとあの首は、タルタロスを陥落させ、この国を混乱の渦に落としたあの“オール・フォー・ワン”のものである可能性が高いとのことです!》

 

緑谷出久はムーンビーストとの邂逅とトガヒミコとの出会いの後、クラスメイト達との衝突の末に雄英へと戻っていた。一人で全てを背負い込もうとしていた少年は、先を進む大人の背中と肩を並べて歩いてくれるクラスメイト達の存在によって救われた。年相応に誰かの力を借りることが出来るようになった。

お湯の張られた湯船で泥や血の汚れを落とし、柔らかい布団で眠ることができた。

 

緑谷出久が少年として当然の権利を受けている間に、ムーンビーストは大人として言葉通りに責務を果たしていた。

 

《そうですッ、ムーンビーストです!ヒーロー達が手を(こまね)いて居る間に、ムーンビーストがオール・フォー・ワンを討ち取ったのですッ!》

 

女性アナウンサーの興奮がマイク越しにも伝わってくる。オールマイト像の周りを映す映像は更に酷い。オール・フォー・ワンの生首を回収しようとする警官隊とムーンビーストの偉業を称えてそれを邪魔しようとする市民達の間でぶつかり合いが起きていた。

テレビの画面はそれをモザイク無しで映している。

 

《我々、日月放送は過去に難家コメンテーターの配慮に欠けた発言が原因で、局をムーンビーストに襲撃されるという事件に見舞われました。しかし、この場を借りて我々、日月放送の公式発表をさせて頂きますッ!》

 

それは一個人の(ヴィラン)に社会が(おもね)ろうとしている現実を克明に伝えていた。

 

《全ては誤解ですッ!全ての責任はムーンビースト()に不快感を与えた難家コメンテーターにのみあります!我々、日月放送はムーンビースト()の敵ではありません!混乱する社会の中、正義を成す貴方をッ!我々は社を上げて応援することを誓いますッ!以上、神野区より日月放送がお送りました!(なお)、このあと十時半よりNNNサービス、ジャスティスTVとの合同制作番組『ムーンビースト-正義の軌跡』をお送りします!チャンネルはこのままでッ!》

 

中継の終わり、女性アナウンサーの姿が見切れた後に映されるのはオール・フォー・ワンの生首を首から提げるオールマイト像というショッキングな映像。そして、日月放送があえて触れなかっただろうオールマイト像の側の張り紙に書かれた文字が映される。

 

―――罪人、ホークス。次はお前だ。震えて眠れ。

 

 

 

 

 

放送の直後、雄英高校にて緊急会議が開かれた。

会議室に集められたのは雄英教師陣とエンデヴァーを筆頭とする残存ヒーロー陣営。スターアンドストライプが率いる残留米軍。OFA(ワン・フォー・オール)継承者、緑谷出久。そして、ムーンビーストに名指しで殺害を予告されたNo.3-ホークスだった。

 

「いやー、俺のために緊急で集まって貰ってすみません」

 

軽い口調で喋るホークスだが、その眼差しは堅い。緊張していると言うわけでは無いが、普段の“軽さ”は、なりを潜めていた。

 

「若輩者ですが、当事者なんで、この場を仕切らせて貰います。皆さん、テレビは見ましたよね?オール・フォー・ワンがムーンビーストに斃されました。スターさんとの戦いで重傷を負ったオール・フォー・ワンの行方についてはずっと追っていたんですが、無駄になった形ですね」

 

ホークスの視線を受けて、画風の薄い美女姿のスターアンドストライプは腕を組みながら、不機嫌な様子を隠そうともしていない。

 

「野良犬に獲物を獲られた猟犬の気分を味わったよ。恐らくオール・フォー・ワンが殺されたのは私と戦った直ぐ後だろうね」

 

「でしょう。いくらムーンビーストといえ、万全のオール・フォー・ワンと戦い無事で済むはずがありませんから。だから、オール・フォー・ワンが斃れた功績の半分以上はスターさんにあると思いますよ」

 

「下手くそな慰めだね」

 

「すみません。若輩者なもので」

 

「あの・・・ちょっと、いいですか?」

 

朗らかさを装いながら交わされる大人同士の会話に緑谷出久は手を上げながら、入り込む。

 

「あの死体は、本当にオール・フォー・ワンのものなんでしょうか?それにあの、ホークスさんを、その、あの文字は本当にムーンビーストさんのものなんですか?誰か、偽物の可能性はありませんか?」

 

緑谷出久とムーンビーストは月が曇天で覆われた夜に邂逅している。

それが一人で敵連合と戦う為に出て行った緑谷出久が雄英高校へ戻る切っ掛けの一つになった事を知っているホークスは、しかし、希望を遮るように真実を告げる。

 

「首のDNAとタルタロスに残されていたオール・フォー・ワンのDNA情報が一致している。犯行声明も、以前にムーンビーストが残したものと筆跡が一致した。アレは間違いなくオール・フォー・ワンの死体で、次は俺を殺しにくる」

 

「そんな・・・どうして、オール・フォー・ワンはまだしも、ムーンビーストさんが、どうしてホークスさんを狙うんですかッ!」

 

「それは・・・」

 

ホークスは公安所属のヒーローだ。ヒーロー社会の維持のため、汚れ仕事を熟してきた。

ムーンビーストが狙う理由には枚挙に暇がないが、それをどうオブラートに包んで緑谷出久に伝えようかと考えているホークスに代わり、エンデヴァーが答えた。

 

「それはコイツが分倍河原の殺害を記者会見で認めたからだろう。あれは被害の拡大を抑える為にヒーローとして必要な判断だったが、ムーンビーストがそれを認める(ヴィラン)ではないことはお前も知っているだろう」

 

ホークスの肩に手を置くエンデヴァーには、以前のような周囲を威圧する雰囲気は無い。

オールマイトの引退後、この国の平和の維持に努めながら、家庭内暴力という過去の闇を(ヴィラン)名-荼毘。本名、轟燈矢(とうや)。実の息子に暴露され、世間に責められ、肉体的にも追い詰められて、全てを失った男はそれでも再び出来る限り背負い直す為に立ち上がっていた。

それを支えてくれたホークスの肩をエンデヴァーが持つのは当然のことだったが、この場でのエンデヴァーの言葉には全てのヒーロー達が同意していた。

個性『倍加』という一国を落とせるかも知れない個性を持った(ヴィラン)-トゥワイスをホークスがあの時に無力化しなければ、“未曾有の大災害”はこの国を終わらせた災害になっていても不思議ではなかった。

 

「奴は、人を殺めた人を殺す(ヴィラン)だ。其処には人々を守る為に戦ったヒーローも含まれる。スターも狙われたと聞いた。デク、お前はムーンビーストに何度か救われた事があるのだろう。だが、それはお前が奴の敵では無かったからだ。敵と定めたなら、奴は女子供であろうと殺す。そういう(ヴィラン)だ。わかるだろう?」

 

「・・・はい」

 

エンデヴァーの言葉に緑谷出久は頷くしか無い。現にムーンビーストは女子供も殺害している。故意に人を殺めた人だけで無く、事故であろうと許さないとコーラを片手に語るムーンビーストの姿を緑谷出久は覚えてもいる。

 

―――理解出来なくて良い。相容れないから、ヒーローとヴィランだ。

 

緑谷出久は不意に死柄木弔が言ったという言葉を思い出す。

ムーンビーストは確かに緑谷出久では理解出来ない(ことわり)に添って行動し続けている。しかし、理解出来なくとも救われた。その思いが緑谷出久の中にはある。

だから、拳を強く握りしめた彼の手を、柔らかく白い手が握った。それは指同士を絡ませ合う恋人繋ぎだった。

 

「私の彼氏を虐めないで欲しいのです」

 

「トガヒミコッ⁉ど、どうして君が此所に⁉」

 

本人曰く、気配を消す技術によりトガヒミコが緑谷出久の側に何処からともなく現れた事に驚こうとしたエンデヴァーやスター達だったが、誰よりも緑谷出久が驚いていたので驚くタイミングを逃したばつの悪い表情を浮かべていた。

 

「な、なんで君が、留置所に居るはずじゃ。あ、あと、手、離してください・・・」

 

(やー)。出久君の手、身体の割にはおっきいよね!それに・・・とってもカタくて、キモチイイのです」

 

トガヒミコに耳元で囁かれた緑谷出久の顔が真っ赤に染まり、身体が硬直する。周囲の視線を感じて直ぐに再起動はしたが、トガヒミコの手を解くために振る手には勢いが無い。

その様子を熱っぽい視線で見ているトガヒミコ。年齢相応の姿を見せるヒーローと(ヴィラン)の姿に周りの大人達が何も言えないでいる中、一番彼らに近い年齢のホークスが咳払いをしてピンク色の空気を元に戻した。

 

「あー、実は公安の方で彼女と司法取引をして、仮出所させました」

 

「へえ?この国にしては仕事が速いね。日本(ジャパン)じゃ、自己負罪型の司法取引は、禁止だろう」

 

「“今までは導入が見送られてきただけ”と主張する連中が政府内にいましてね。利用させて貰いました。何しろ彼女は敵連合のスパイとして灰色勢力に所属していた。現在、彼女以上に有益なネタ元はないでしょう」

 

ホークスの言葉にその場の全員の視線がトガヒミコへと集まる。

その視線の多さに慌てたトガヒミコは緑谷出久の背後に回り、背中から抱きつき、顎を右肩に乗せる密着体勢で迎撃態勢を取る。緑谷出久からすれば背中全体でトガヒミコの女らしい部分全てを感じてしまう体勢だ。

 

「フトモモッ⁉」

 

その遺言を残して彼の精神は天に召された。

そんな中でも話は進む。

 

「・・・私、敵連合で活動していたのは最初期だけで、後はオール・フォー・ワンに命じられて神父様にくっ付いていたので、弔君の事はあまり知らないのです」

 

「それでも構わない。オール・フォー・ワンが亡き今、最も欲しいのはムーンビーストの情報だ。奴について知っていることを全て話して欲しい」

 

エンデヴァーの言葉を受けて、トガヒミコは暫く考えた後、彼女から見たムーンビーストという(ヴィラン)の全容を語る。

 

「神父様の好きなものは辛いものと甘いもの。激辛麻婆を加糖コーラで流し込む変な味覚の持ち主なのです。好きな女性タイプは年上です。この場にいる人だと・・・多分、バーニンが一番、神父様好みなのです。食べものの好き嫌いはありません。人の好き嫌いは、一つだけ。“血の匂い”がするかどうか」

 

はじめこそ何の関係も無い話をするトガヒミコだったが、次第に重要性を帯びていく言葉にエンデヴァーは反応する。

 

「“血の匂い”。奴がそう言っているのを何度か聞いた。意味はそのまま人を殺しているか否かでいいのか?」

 

「はい。神父様の個性『ギロチン』は、対象の罪の重さで切れ味が変わる。此所までは周知の事実でしょうが、それだけではないのです。目の前の相手が人を殺しているかどうかを嗅ぎ分ける超嗅覚とも言うべき“血の匂い”。それを用いて神父様は敵の攻撃を第六感じみた反応で避けるのです」

 

「奴の戦闘技術の高さは、それが理由か」

 

「他にもナイフで刺された位じゃ気にも止めない身体の頑丈さを“正義の心”。殺人犯以外にも全力を出す為の技術を“逆襲鬼(アベンジ・ザ・ブルー)“と呼んで格好つけていたのです」

 

「以前、奴がギロチンに炎を纏わせているのを見たことがある。奴は炎も操れるのか?」

 

「そんな事は出来ないと思いますよ。多分、ガソリンか何かをギロチンの刃にかけて火を付けたのを、やせ我慢していたのじゃないかと思います。曰く、“正義の心”があれば炎もまた涼しなのです」

 

「なるほどな、いくら決定打を打ち込んだと思っても立ち上がってきたのは、その身体の頑強さ故か。だが、“血の匂い”については個性の範疇に収まるだろうが、“正義の心”とやらは個性『ギロチン』に付随するものであるとは思えないのだがな」

 

「それについては神父様には自覚が無かったみたいなのです。代わりにレディ・ナガンが調べていた様子でした」

 

「先輩が?」

 

元公安直属ヒーローだったレディ・ナガンの名前が出た事に反応したホークスの方を向きながら、トガヒミコは犬歯を見せる笑みを浮かべ続ける。

 

「はいです。あの女性(ひと)は、本当に優秀でした。私が敵連合のスパイであることに半ば気がついて居た様ですし、神父様の成長を促す為にあえて放置されていた気もします。そんな彼女が立てた仮説は、『ギロチン』という個性に適応する為に肉体が成長し続けているというものでした。奇しくもそれは、今の弔君の状態と良く似ています」

 

死柄木弔の名前が出た事で天に召されかけていた緑谷出久の精神が肉体に戻って来た。

 

「つまり、ムーンビーストさんと死柄木弔が、同じってことッ⁉」

 

「個性は世代を経るごとに複雑かつ強力になっている。その最先端に神父様は居る。それがレディ・ナガンの結論でした」

 

それはムーンビーストの肉体の我慢強(頑強)さを、消し去る術はないと言うことだ。

仮に全ての個性に対する切り札(ジョーカー)とも言えるイレイザーヘッドの個性『抹消』であっても、ムーンビーストの身体能力を下げることは出来ない。

 

「・・・ムーンビーストをよく知るお前に問おう。この場にいるヒーローで、ムーンビーストに勝てるものはいるか?」

 

エンデヴァーの問いにトガヒミコはジト目を向ける。その視線は持っている情報の全てを差し出す事も無く、分析を押しつける大人を責める子供の目だった。

エンデヴァーは思案した後、スターアンドストライプに視線を投げかけた。

スターアンドストライプは一度、頷いた。

エンデヴァーがトガヒミコにムーンビーストが更なる成長を遂げている可能性について伝える。

 

「ムーンビーストは、尚も成長を遂げている。スターと米国特殊部隊、オール・フォー・ワンと死柄木弔の三つ巴の戦いで、奴は空間を削る斬撃を可能にしていたと言う。オール・フォー・ワンを斃した現在、更なる成長を遂げている可能性もある。それも踏まえて、お前はどう考える?」

 

トガヒミコは無意識に緑谷出久の首筋に齧り付きながら考える。犬歯で破った薄皮から滲む血を啜りながら、脳細胞を回して現在のムーンビーストの姿を想像する。

 

トガヒミコの頭に一つの疑問が浮かんだ。

 

(オールマイト像に掛けられたオール・フォー・ワンの生首。それはとても()()()のです。神父様はきっと、怯える人々の希望に成ると信じて首級(しるし)を掲げた。でも、ホークスへの犯行声明。あれは、()()()ない)

 

犯行声明をホークス個人にする必要がないとトガヒミコは思う。“()()()罪人よ”にする方が、殺人への抑止力に成るだろう。それが正義の象徴としては正しい判断だと、トガヒミコは思う。

 

(今の神父様は、正しい判断が出来ていない?いえ、レディ・ナガンが側にいるから、それはありえないのです)

 

なら、次の標的をホークス(ヒーロー)にする事に意味があるということになる。

その意味とは何なのだろうかと考えるが、トガヒミコにはいくら考えても分からない。

ムーンビーストは確かに人を殺した人間なら、誰であろうと殺す。しかし、優先順位はある。海上での三つ巴の戦いでスターアンドストライプよりオール・フォー・ワンや死柄木弔を優先したように、人殺しのヒーローと人殺しの(ヴィラン)なら、後者を先に正義執行対象にする。

その判断が出来るからこそ、灰色勢力は存在していた。

 

「トガヒミコ。ちょっと、痛いよ」

 

「出久君。ごめんね。もう少しだけ、我慢して欲しいの」

 

「うん。わかったよ」

 

トガヒミコは緑谷出久の首に更に深く犬歯を差し込みながら、(ヴィラン)らしい表情で(ヴィラン)-ムーンビーストの思考のトレースを試みる。

 

(やっぱり犯行声明をホークスに限定する必要性はないのです。なら、やっぱり神父様は正しい判断が出来ない状態にある?レディ・ナガンが側に居ないなら、神父様は案外馬鹿なのです。人殺しがヒーロー面しているのが気に食わないとか、子供じみた理由でホークスを狙う可能性はあるの。でも、それをレディ・ナガンが止めない理由がない。レディ・ナガンが神父様を止めない。止められない。好き同士が、側に居ない理由)

 

自分と緑谷出久のように(ヴィラン)とヒーローの関係性では無い。

(ヴィラン)(ヴィラン)である二人を別つ壁は無い。

それこそ自分なら、死が二人を別つまで、恋人(出久君)の手を離す事は無いだろうと考えて―――トガヒミコは答えに至る。

 

「・・・・・・・・・あ。レディ・ナガンを、殺してしまったのですね」

 

トガヒミコの言葉に周囲は騒然とする。

 

「待て、どういうことだ!ムーンビーストは、レディ・ナガンも殺害しているのかッ!」

 

「そう考えれば辻褄が合うのです」

 

トガヒミコが語るのは常人には理解出来ない(ヴィラン)の理屈。それこそ確認する術の無い。今は彼女の妄想でしか無い。しかし、もしそうだとするのなら、灰色勢力はレディ・ナガンというストッパーを失ったことに成る。正義執行以外に興味が無いムーンビーストに代わり、信奉者(シンパ)を統率していたのがレディ・ナガンであることは周知の事実だ。其処まで考えて、エンデヴァー達の脳裏にはオールマイト像の前で警官隊とぶつかる市民の映像が浮かぶ。

 

青ざめる大人達を余所に、トガヒミコは緑谷出久の首筋に付けた歯形を舌で舐めながら、更なる爆弾を投下する。

 

「神父様はステ様を殺す事で正義の為なら好きな人でも殺してみせることを証明しました。そして、今は正義の為なら愛した人も殺してしまえる怪物に成り果てた。復讐という正義を、最優先する現象。そうなっていても、不思議はないのです」

 

この場にいるどのヒーローなら、ムーンビーストに勝てるのか。

ムーンビーストに勝つためには、どのヒーローの犠牲が必要なのか。

どれだけの犠牲を伴えば、ムーンビーストを斃せるのか。

エンデヴァーが聞きたかったのはそれだった。

それが自分であれば、それこそが現№1ヒーローとしての責務だと燃える心があっただろう。

しかし、トガヒミコが出した答えは大人の心を砕く。

 

「血に塗れた大人じゃ、多分、もう神父様の視界にも入れないのです」

 

トガヒミコの予想は当たっていた。

既にムーンビーストの個性『ギロチン』は、罪人を視界に入れた瞬間に首を刈る装置へと成り果てた。

だから、大人ではムーンビーストと戦えない。既に彼は()()()()()()()()()()()と思いつつある。親友(ステイン)を殺し、恋人(レディ・ナガン)を殺し、家族(産まれる筈だった命)すら殺したムーンビーストの精神は、自覚の無いまま壊れつつある。

自分を含めた全ての大人達に絶望しつつある。故にこの世から殺人者を抹消した世界を次代(子供)に託すことを考えている。

其処に(ヴィラン)連合を止める事が出来ずに、社会の崩壊を防げずに、()()()()()()()()()()()()()“オール・フォー・ワン”()()()()()大人(ヒーロー)達が現れればどうなるか。

その時、比喩では無くムーンビーストは月を切り落とし世界(地球)を壊すだろう。

 

だから、ギロチンという装置を前に立つ者は罪なき者で無ければならない。

大人に怪物は殺せない。それは少年漫画の王道だ。その戦いに大人は介入できない。

世界を救うのは常に子供で無ければならない。

 

「神父様を斃せるのは、出久君たちだけなのです」

 

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