ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m





個性『兎』

 

 

 

士傑高校。地下会議室。

オーバーホールがレディ・ナガン死亡説を電話越しにトガヒミコから聞いた時、思わず受話器を握りつぶしそうに成った。これほどまでに腸が煮えくり返ったのは、アマテラス製薬に組長(オヤジ)が襲われ、壊理が誘拐された時、以来だった。

降ってわいた怒りの矛先を容赦なく電話の先に居る少女に向ける事をいとわない(ヴィラン)であるオーバーホールは、怒鳴りつけるように言った。

 

「どうして止められなかった‼ムーンビーストがレディ・ナガンを失うことの意味をッ、頭の軽いお前でもッ、分からないわけじゃ無いだろう‼」

 

《―――ッ⁉耳がキーンとするから、電話越しに怒鳴るのは止めて欲しいのです》

 

自分の怒りが頭の足りない少女には伝わっていない。そう思わせる暢気なトガヒミコの声を聞いて、オーバーホールはテーブルの上にあったコップを壁に投げつけた。

物に当たらなければ話も出来ない様な状態だった。そんな余裕のないオーバーホールの姿は彼の側近であり、幼少期より長い時間を共にしてきた玄野針もはじめて見る。

玄野針は冷や汗を流しながらも、右手を強く握りながら自分以上に怯えている壊理を安心させるため、オーバーホールに声を掛けた。

 

「廻。何があったかわかりませんが、少し落ち着きやしょう。壊理が、怯えてやす」

 

玄野針の言葉で我に返ったオーバーホールは、玄野針の手を握りながら怯えている様子の壊理を見る。オーバーホールが何に変えても守ると決めた少女は、怯えながらも声一つあげること無く自分の事を見上げていた。自分に向けられる視線に気がつき、小さな口が何かを言おうとして迷いの後に閉ざされるのを見て、オーバーホールは完全に冷静さを取り戻す。

深呼吸を繰り返した後、テーブルの上に受話器を置いて電話のスピーカー機能をオンにした。

ここから先の会話はこの場に集めた全員に聞いて貰わなければならないものだと言う判断だった。

たとえ、それが壊理の心に傷を与えるものだったとしても、オーバーホールは真実を隠さない事を選択する。彼はそう言う男だった。

 

「・・・悪かった。トガヒミコ。レディ・ナガンは、本当に死んだんだな?」

 

《死体の確認はしていません。でも、確信的に()()なのです》

 

トガヒミコの返答に壊理は小さな悲鳴を上げていた。今は抱きしめてやれない義妹を横目で見ながら、オーバーホールは腕を組んで考える。

レディ・ナガンの死。それ自体は、彼女に懐いていた壊理は悲しむだろうが、オーバーホールにとっては都合の良いことだった。彼女を失えば、ムーンビーストの信奉者(シンパ)達を束ねるものはいなくなる。それはムーンビーストの最も厄介な部分とされた影響力(カリスマ)が陰ると言うことだからだ。

 

オーバーホールもいずれは、レディ・ナガンの殺害は止むなしと考えていた。

しかし、今は駄目だった。タイミングが最悪だった。

つい数時間前、オーバーホールの個性『オーバーホール』と壊理の個性『巻き戻し』により、(ヴィラン)にとっての偉大なる脅威、オールマイトが復活した。

リハビリに数日は費やすだろうが、強大な戦力がヒーロー陣営に復帰したのだ。

加えて、士傑高校関係者から聞かされていたアメリカ№1ヒーロー-スターアンドストライプの来日。

それはつまり数日後には日米№1ヒーローチームが結成される事を意味している。

やり過ぎたとオーバーホールは冷や汗をかいた。オーバーホールの計画ではオールマイトの対処は考えていても、スターアンドストライプのことは計算に入っていない。

ご都合主義(最強の脳筋)が二人もいれば、オーバーホールの計画は失敗しかねない。

それでも冷静でいられたのは、ムーンビーストの存在があったからだ。

超常解放戦線を亡き者にした後、ムーンビーストは必ず日米№1ヒーローチームとぶつかり合うだろうという目算があった。オーバーホールは其処でムーンビーストを討つつもりでいた。味方の振りをして近づいて、背後から刺す気でいた。さしもの№1ヒーローも、かなりの消耗を強いられるだろう。その場でスターアンドストライプも殺せれば最高だった。

 

しかし、レディ・ナガンの死で全ては絵に描いた餅に代わった。

オーバーホールはレディ・ナガンを失ったムーンビーストは必ず暴走すると考えていた。

その暴走は信奉者(シンパ)を道連れにした自爆に近い。策謀も無く。配慮も無く。逆十字架を掲げながらの巡礼。それが関西にいるオーバーホールの手では届かない関東で起ころうとしている。それが不味い。本来、超常解放戦線との戦いの後の戦後処理に使おうとしていた戦力が無くなる事を意味している。

 

「なら、お前がレディ・ナガンの代わりにムーンビーストをサポートしろ。俺が戻るまでの間だけでいい」

 

《フツーに()なのです。今の神父様に近づいたら、私は首チョンパです。それはオーバーホールさんも同じでは?それに・・・神父様にとって、彼女の代わりなんていないのです》

 

「・・・センチメンタルな話をする気は無い。ようはムーンビーストの暴走を止める方法は無いかと聞いている。此所で奴を失うのは惜しいんだ」

 

()()()()()()

 

スピーカーから聞こえるトガヒミコの声は、冷たくオーバーホールを責めていた。

 

《神父様の二度目の逮捕後、貴方は東京から逃げ出しました。壊理ちゃんを守る為に、仕方なかったのかもしれません。でも、貴方は神父様を見捨てたのです》

 

オーバーホールの眉間に皺が寄る。その苛立ちは誰にぶつければいいモノかわからない類いのものだった。確かにムーンビーストの二度目の逮捕でオーバーホールは灰色勢力を半ば見限った。新たな組織『奇跡の手』を作った。しかし、それは全てムーンビーストの後先を考えない行動に付いていけなくなったからだ。自分に落ち度は微塵も無いとオーバーホールは考えている。

 

「筋は通した。現にあいつを取り戻そうとした俺の部下達はまだ塀の中だ」

 

《筋も筋子(すじこ)もないのです。肝心なのは、貴方は神父様の側に居なかった。それだけ。もし側に居れば、神父様がレディ・ナガンを殺すのを貴方なら止められたかも知れませんが、もう過ぎた話なのです》

 

レディ・ナガンの死でムーンビーストが暴走するのを予見していたオーバーホールは、勿論、今回の最悪を想定していないわけでは無かった。しかし、限りなくゼロに近い可能性として捨てていた。

なぜなら、ムーンビーストがいる限りレディ・ナガンは死なないと考えていたからだ。

彼が彼女を、命に代えても守ると考えていたからだ。

オーバーホールは壊理に目を向けながら、独り言のように呟いた。

 

「奴は、レディ・ナガンだけは、殺さないと思っていた」

 

口でどれだけ言おうとも、オーバーホールはそう信じていた。

 

「だから、同類だと思ったんだ」

 

《・・・私もです》

 

トガヒミコの労るような声を最後に、電話が切れた。

オーバーホールはその場で、暫くの間、動くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローには自由が無い。正義の側である限り、ヒーローを縛る枷は無数に存在する。それを知る(ヴィラン)は、人質を手にヒーローの弱さを、舌を出して嘲り笑う。

それが彼女には耐えられなかった。

元々、頭で考えるより先に足が出る性質(たち)だった。

学生時代には非合法のファイトクラブに乱入を繰り返し、伝説を作った。

彼女は只、悪い奴を全力で蹴っ飛ばしたかっただけだ。

だから、ヒーローに成った。ヒーローに成れば、そう有れると思ったからだ。

けれど、そうではなかった。当然だろう。ヒーロー活動が国に認められたものである以上、ヒーローを縛る法律()は当然のように存在した。

彼女はそれを仕方が無いと諦め掛けていた。

我慢を覚えること。大人になるとはそういうことだ。

そんな時、出会った。出会ってしまった。

 

自らの正義(ルール)にのみ従い暴れる月の獣。

誰一人として彼を縛る枷は持たなかった。

 

自分が救いたい者を救済し、殺したい者を殺す最悪の(ヴィラン)の姿はヒーローに成る前の自分、兎山(うさぎやま)ルミにとって夢見に描いた理想像(ヒーロー)そのものだった。

 

だから、ミルコは全てを失いかけている彼の元に、跳んできた。

 

「―――けど、それはお前のそんな姿を見るためじゃ、ねぇぞ。ムーンビースト」

 

「・・・」

 

「ニュースを見た。お前がオール・フォー・ワンを()ったって知った時、スカッとした。私の選択は間違ってなかったって思ったんだ。それなのに・・・なんだァ、そのザマは?」

 

街を歩けば十人が全員振り返る美顔を凶暴的なまでの笑顔で歪ませながら、ミルコは千鳥足で雄英高校を目指すムーンビーストの前に立ちはだかった。

大通りを避けることもせず歩く指名手配の(ヴィラン)

残念ながら、現在、彼を捕らえようと動く者はいない。

 

無様(ぶざま)とは、随分な言い草ですねえ。貴女は私の味方だったのでは・・・?」

 

自分の言葉を自嘲するように笑うムーンビーストに対して、ミルコは舌打ちで返す。

これほど堂々としていながら、ミルコ以外の誰一人として、ムーンビーストを捕らえようとする者はいなかった。無論、それはムーンビーストの姿が誰にも見られていないと言うわけでは無い。

ムーンビーストの歩く後ろには、人々の集団があった。

その中には警察への通報義務がある市民はおろか、制服を着た警官の姿すらあった。

ヒーロー社会が崩壊し、多くのヒーロー達が職を辞した。民衆は、目を覚ました。

平和の象徴たり得た不世出の英雄は“偉大なる脅威(オールマイト)”の只一人であり、他のヒーロー達は自分たちの心の拠り所たり得ないと気がついた。

 

故に縋った。愚かにも最悪の決断をした。

ムーンビーストの後ろにいる人々は、彼ヘの殉教を持って自らの内にある恐怖を打ち消す事を選んだ者たち。

それらに不快感を隠そうとしないのは、ミルコだけでは無い。ミルコが正面から見るムーンビーストの表情にも在り在りと民衆に対する軽蔑が見て取れた。

 

彼は最初から言っていた。正義とは信じるモノでは無く、成すモノであると。

故にムーンビーストは正義(自分)に殉教を誓いながら、正義(自分)を疑う事も無く、信じることしかしない民衆(彼ら)に対する信頼が一切無い。邪魔にならないから、放置しているだけだった。

 

それに対して、ミルコには、拍手喝采を送りたいくらいだった。

 

雄英高校への道半ばにして、ようやく自らの前に立ちはだかった者を前に、ムーンビーストは歓迎するように両腕を広げて笑った。

 

「貴女も私のために駆けつけてくれたのでしょう?()()()()()()・・・」

 

そして、心にも無い言葉を吐く。

 

「ッ⁉、お前、マジで何考えてる?」

 

その(さま)が、その無様(ぶざま)が、ミルコには何より許せなかった。

 

「やりたく()ぇことは、やらなくていい。明日死ぬ覚悟で、自分の欲望のままに生きてもいい。私にそう示したのは、お前だろ。そのお前が、なにやりたくも()ぇことやってんだァ?」

 

「・・・何も、珍しい事でもありますまい。それこそ大人なら、誰しもがやっていることでしょう?行きたくも無い会社(場所)に行き、やりたくも無い仕事(こと)をする」

 

「お前にとって、正義ってのは仕事なのか?ああッ?信念なんじゃ、無かったのか?」

 

「無論、今のは言葉の綾ですよ。しかし、成果を上げねば成らぬと言う点では同じでしょう。貫けぬ信念を夢と呼ぶ。私は正義を夢物語で終わらせる気はありませんからねえ。()()()()()()()()()()()、私の行動、全てが“正義”だ」

 

「レディ・ナガンは、アイツはそれを(よし)としたのか?」

 

いぶかしげなミルコの言葉に、ムーンビーストは一時停止(フリーズ)する。

それを返答だと受け取って、ミルコは周囲を見渡すが、やはり何処にもレディ・ナガンの姿は無い。ミルコにはわかる。なにしろ、同じ異性(おとこ)を好きになった女同士だ。胸を張って断言する事が出来た。

今の彼を見たのなら彼女はこうすると、躊躇無くムーンビーストに対して拳を突き出す。

 

「アイツが見当たらねぇなら、仕方ねぇから、私がお前を蹴っ飛ばして正気に戻してやるよ。感謝しろよな!ムーンビーストォォオオッ‼」

 

勝ち気な(バニー)が月に向かって吠えている。その姿に感動して、その興奮を鎮める様に片手で顔を隠しながら、手負いの(ビースト)は、確かに笑っていた。

 

「ああ、ミルコ。(ヴィラン)に成ろうと、貴女は何も変わらず美しい。貴方の様な輝きが、私に希望を抱かせる。故に、今はッ、邪魔ですねえエエエエエッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が頂点に昇ろうとしている正午。月夜でのみ戯れあった彼女と対峙する。

健康的な褐色肌に魅力的で女性的な肢体。それに鼠径部の(きわ)どいコスチューム。

昼間の彼女は本当に目に毒だ。褐色と白のコントラストに目を奪われる。そして、繰り出される蹴撃は私を簡単に吹き飛ばして見せた。

 

「「「ムーンビースト様⁉」」」

 

家の塀に叩きつけられる私を心配する耳障りな声が聞こえる。

 

「貴方たちは、下がっていてくださいねえッ!」

 

私に盲目的に従うだけの烏合の衆にそんな勇気があるとは思わないが、万が一にも彼女との()()()()()を邪魔されることが無いように、そう命じながら右手で口から零れる血を拭う。

それを彼女、ミルコは面白おかしそうに笑っていた。

 

「なんだ?よく見りゃ、お前、左腕ないじゃんか!何処に落っことしてきたんだ?」

 

「先日の死柄木弔との戦いで海の藻屑と化しましてねえ」

 

「そうか、・・・私がいなくて大変だったんだな。大丈夫か?」

 

「問題ありませんよ。貴女の方は、壮健そうで何よりです。私の腕が無くなる位のことは笑い話ですが、美しい貴女の四肢が無くなる様な事があれば、笑い話では済みませんからねえ」

 

「ハハッ、相変わらず面白(おもしれ)ェ・・・けど、私はお前に手足の二本や三本くれてやる覚悟だよ。あんま、舐めんなよ?」

 

「舐めて等、いるはずが無いでしょうッ!貴女の脇なら、舐めたいですがねぇエエエッ‼」

 

「ブッ⁉クソッ、アハハッ、変態ッ!相変わらず元気な奴めッ‼」

 

背後の壁に片足を当て、そこから形成したギロチンの反動で空を跳ぶ。ミルコもまた同じように壁を蹴り、宙を飛ぶ。空中でぶつかり合う右手と右足。互いが弾き合い、繰り返される斬撃と蹴撃の応酬に口元が綻ぶ。

楽しいと感じることの出来る戦いは久しぶりだった。そうだ。私はこういうのが好きだったのだと言うことを思い出す。

元より私は香山先生にお近づきになりたいという純粋に不純な理由で本気でヒーローを目指したのだ。目の前で魅力的な女性が自分だけに意識を向けてくれることに、どうしようも無く興奮を覚えるどうしようも無い奴が私という男だった。

ミルコとの戦いで忘れかけていたことを思い出す。

目尻から涙が滲む。救われた様な気持ちになった。

 

()()()ッ!お前は―――()()()()()()()()!」

 

「ガッハ⁉」

 

強烈な蹴りと共に脳に直接、言葉を叩き込まれる。

 

「胡散臭い笑顔で胡散臭い言葉を並べてッ、本心でしか動かない奴だったッ!セクハラじみた言動を恥ずかしげも無く叫びながらッ、攻められりゃ赤面するッ!そんな―――どうしようも無く正直なお前がッ、好きだったんだッ‼ムーンビーストォォッ‼」

 

ああ、止めてくれと嗚咽が漏れる。これは、私と彼女の最後の逢瀬だ。目に焼き付けなければ成らないのに涙で前が見えなく成ってしまう。

 

「それなのにッ―――」

 

悲しげな表情を垣間見せた彼女の攻撃を、避けると言う選択肢は無い。

右頬を蹴り抜かれる。それを甘んじて受ける。

鳩尾に膝蹴りが走る。それを甘んじて受ける。

顎を蹴り上げられる。それを甘んじて受ける。

 

「―――らしくねぇこと、するんじゃねぇよッ‼」

 

宙に浮いた身体を地面にたたき落とされる。

 

月堕蹴(ルナフォール)ッ‼」

 

それを甘んじて受けいれる。

 

このままミルコとの戦いが永遠に続けば良いと思った。彼女に蹴られている間は幸せだった。辛いことも、苦手なことも、やりたくないがやらなければならないことも、何も考えないでいられた。

しかし、それでは駄目だと私の中の()が語る。

 

安寧は諦めた。幸福は許されない。

()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()

この地獄を駆け抜けると決めた。

月のように不毛な世界で、それでも()()はあると信じたから、恥ずかしげも無く正義を叫べ。

 

私は、正義の象徴(ムーンビースト)だろう。

 

正義執行(ジャスティス・ジャッチメント)ッ‼」

 

踵月輪(ルナリング)ッ‼」

 

弾き合い、距離を取る。それを即座に詰めるミルコに対して、カウンターの拳をお見舞いする。その美しい顔を傷つける感触に拳が痛むが、ミルコは鼻血に塗れても変わらぬ美しい貌で笑っている。

 

「ああ、ヒーローッ、ヒーローよッ!この私がッ、貴女をヒーローと呼びましょうッ!私は選択を間違えたッ!貴女を此方に引き込むべきでは無かったッ!しかしッ、それでも尚ッ、ヒーローであり続けた貴女にッ、溢れんばかりの賞賛をッ‼割れんばかりの喝采をッ‼」

 

溢れる涙を叫ぶことで押さえながら、私の前に立ちはだかってくれた彼女の勇姿を目に焼き付ける。

 

「信じて良かったッ!目映い貴女をッ、、ヒーローを信じて良かったッ‼。だって、最後に私は、迷うこと無く言い切れるのだからッ!―――()()()、最後に必ず勝つのだとッ‼」

 

「まさか・・・お前・・・ッ」

 

正義の最終審判(ラスト・ジャスティス・ジャッチメント)ッ‼」

 

ギロチンの刃を容赦なくミルコの身体に叩き込む。ミルコに対するギロチンの切れ味は、()()()()()()()()程度だ。それで彼女の鍛え抜かれた戦乙女(ワルキューレ)もかくやという肉体が斬れる筈がない。

しかし、狙い澄ませば意識を刈り取ることくらいは出来る。

崩れ落ちるミルコの身体を抱き留めることは、しない。

伸びかける手を止めて、地面に倒れていくミルコを見る。

 

心が痛む。嗚咽が漏れる。また一つ、歩みを止める訳にはいかない理由が出来てしまった。

 

「・・・貴女はいつも、言っていましたね。明日死ぬかも知れない命だから、今日も死ぬ気で息をするのだと。自らの死を覚悟しながら、()()()()()()()()()()()()、隙を晒してくれた優しい貴女。貴女には真実を伝えましょう」

 

独り言のように呟く小さな声。

しかし、個性『兎』の聴覚を持つ彼女には聞こえているだろう。

 

「その通りです。しかし、安心してください。死ぬなら、達成して死にます。“正義の象徴”。“人殺しのいない世界”。“正しき社会”。私はそれらを、夢物語では終わらせない」

 

たとえ、何人、殺しても。

たとえ、誰を、殺しても。

 

「私の手で、遠い場所に行ってしまった親友(ステイン)。彼への落月屋梁(らくげつおくりょう)の思いを以て、貴女とレディ・ナガンの気持ちに応えます。だから、どうか、笑ってみていて欲しいのです。私は・・・こういう馬鹿な奴だったと」

 

「ムーン、ビースト、やめろ。いくな。しにに、いくな」

 

朦朧とする意識の中で、私の足にすがりつくミルコの手を私は涙を零しながら足蹴にする。

 

「貴女は本当に、私には勿体ない女性(ひと)でした。さようなら、ヒーロー、ミルコ」

 

誰もいないと思っていた月の荒野に、跳んできてくれた月の兎はこれで落とした。

月の獣は、これで孤独(ひとり)だ。(これ)でいい。

最早、私には守るべきものが一つしかない。

“正義”だけだ。(これ)だけだ。

だから、きっと、誰にも負けない。負けられないんだ。

 

 

 

 

 

 






ムーンビースト。

死柄木弔との戦いで失った左腕が無い状態でも、ミルコと戦えるほどに肉体強度が上がっている。ついでに孤独になったことで、魂の強度も上がっている。
友達(なかま)はいらない。人間強度が下がるからッ!




ミルコ。

レディ・ナガンに代わりムーンビーストを止めようとした。ムーンビースト逮捕後も灰色勢力として活動し、ヴィランを非合法に蹴っ飛ばしていたが、最後の一線は越えていなかった。故にムーンビーストが失望する事無く、尊敬を覚えていたため、彼を止められたかも知れない数少ない大人のヒーロー。最後の最後で優しさ故に隙を突かれて敗北したが、彼女は間違いなくムーンビーストが思い描く理想のヒーローの一人だった。




オーバーホール。

同類だと思っていたムーンビーストが大切な人、レディ・ナガンを殺したことに驚き動揺している。同時にムーンビーストの危険性を再認識し、壊理に絶対に近づけさせる訳にはいかないと確信する。現在、関西にいるため、関東で暴れているムーンビーストをどうしようか考え中。




壊理さん。

レディ・ナガンの死を知り、ショックを受けている。ムーンビーストのことは、やはり怖くて嫌い。

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