皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
得意教科は“法律”だった。
流石は一流の進学校と言ったところだろう。雄英高校には多種多様な選択科目があって生徒は自由に選ぶことが出来た。
一般教科と並行して戦闘訓練があるヒーロー科ではカリキュラム的にも難しい選択科目を選ぶことができるのは、普通科の特権だった。
私は雄英高校で少しだけ“法律”を学んだ。
無論、それで論者を語る気は無い。
所詮は高校生が習う“法律”の授業だ。この国最難関の国家資格の、上辺をなぞるだけの授業でしか無かった。
しかし、関心をひかれて未だに覚えて居るものもある。
刑法第三十九条。
少年保護法。
そして、国内で起きた重大事件の一つ。
三府県を舞台に起きた連続リンチ殺人事件。主犯格を含む不良グループが四人の男性を殺害した事件は、その手口の残虐性で世間を戦慄させたが、この事件が高校の法律の授業にも例題として取り上げられるのは、その残虐性だけでなく、逮捕後の主犯格である少年三人の振る舞いだった。
主犯格の少年三人は強盗殺人・殺人・死体遺棄・強盗致傷・傷害致死・監禁などの罪で逮捕されたが、裁判の場で彼らは全く反省の色を見せず、被害者遺族を嘲笑う態度に終始したという。
―――自分達は少年法に守られている。死刑になる筈がない。
その腐った考えが、しかし、覆された。一審で検察は死刑を求刑。すると少年三人は掌を返して被害者遺族に向けて謝罪の手紙を送るが、遺族がそれを受け取る筈もなく、結果、地方裁判所は一人を死刑、あとの二人を無期懲役の判決を下した。
しかし、“正義”は其処で終わらない。
それに対して被害者遺族と弁護側、検察がともに不服として控訴。
最終的に三人全員に死刑判決が下された。
しかし、その話を聞いた時、学生時代の私は静かに歓喜した。
今思えば、それこそが個性『ギロチン』を持つ私の特質だったのだろう。
罪は確かに裁かれる。命への償いは命でしか贖えない。
そして、何よりも、時として“正義”は“法律”を凌駕する。
その曲解を以て、私は此所にギロチンを振るう。
法律を犯して尚、成さねばならぬ正義があると信じて。
「少年法という“悪法”に、正義が打ち勝った事実がある。―――
林間合宿にて明かされた過去の闇。
魔王の甘言。
それが事実だと裏付けた後も私は確かに彼らを信じていた。
雄英教師陣。私の尊敬した先生方が、私に久図草太郎の存在を隠したのにはナニカ理由が有ったのだと、信じていた。
そして、待っていた。
それは一つの運命を変えてしまえる出来事だった。
刑務所の中で私はその出会いを待っていた。待ち続けていた。
しかし、来なかった。
あの人は、来なかった。
「ならば、私も、最早信じて待つだけの子供では、居られません。迎えに行かねばなりますまい。彼らでさえ、払えなかった深き闇。加害者に与えられた守られる権利等という、汚泥を払わねばッ、この私がッ、この
もしも会えていたのなら、あの人はなんと言ったのだろうか。
きっと何も言えないから、私に会うことが出来なかったのだろう。
言うべき事はわかっていても、言えない優しさを持っていた人だった。
そんな人だからこそ、私は恋をしたのだ。
その初恋を美しい思い出のままにしてくれたあの人には感謝しか無い。
本心だ。
ミッドナイトが言わねばならないことは、世間が既に言っている。
大衆の味方を謳う者たちが、テレビの中で言っていた言葉を思い出す。
『―――罰?』
『―――うん、そう』
それは、かつてテレビで行われた。事件のニュースの一幕。
『難家コメンテーター。それはどういう意味でしょう?』
『ムーンフィッシュが
『ムーンフィッシュがこれまで侵してきた犯罪の責任の一部は、首台家の人々にも有ったと言うのですね』
『うん。だって、ムーンフィッシュは未だに逮捕されていない。まだ何の罪にも問われていないんだ。それじゃあ、あまりにムーンフィッシュに殺された被害者達が可哀想すぎる。首台家は、こんなことになる前に、自分達からムーンフィッシュの親類縁者で有ることを名乗り出て責任を取るべきだったんじゃないかなあ。それが道理ってものじゃないか』
『しかし、それは首台家の人々へのバッシングに繋がるのでは?』
『いやいや、別に
『なるほど、難家さんはムーンフィッシュに殺された被害者達の事を深く考えているのですね!』
『うん。私は弱い者の味方だからね』
『そんな弱者の立場から、一つ言わせて貰えるならさ、
『“あの家族は殺されても仕方なかったと思いますよ”』
気がつけば世界が茜色に染まっている。
赤色よりずっと美しい茜色は、私の哀愁を呼び起こす。幸せだった過去。温かかった
しかし、それは永遠には続かない。
日は落ちる。
そして、耐えがたい
「罪を許せと、
茜が消えた黒の世界。
冷たく寂しい夜の中で、私は唯一輝く
「今更、貴女がどんな言葉を投げかけたとしても―――
私は地面に転がる芦戸三奈の身体を踏みつけながらに言う。
―――言葉などでは、止まらぬよ」
「芦戸さんッ‼」
後継-緑谷出久が叫ぶ。流石の私もそれを無視することは出来ず、視線を緑谷出久へと向けた。彼は私を敵意と悲しみを混ぜた目で見ながらに言う。
「ムーンビーストさん、その足を退けてくださいッ!」
「・・・踏み潰される覚悟も無く、私の前に立ったと?」
「僕らは、貴方に立ち止まって欲しいだけだ!」
「知っていますよ。青臭い。如何にもあの人の好みですねえ。故に馬鹿にはしませんし、無視もしません。只、対立するだけです」
私は緑谷出久を指さして、その立場の違いに境界線を引く。
「後継、貴方たちはヒーローだ。対して、私は
ヒーローには言えない事を、
「この世界には生まれてくるべきでは無かったゴミがいる。それを掃除してあげようというのです。何も難しく考える必要はありません。善人に被害はない。美しくなった世界はさぞ生きやすいことでしょう。無論、其処には私もいない。これでも自覚はあるのですよ。私が殺す
最後に自身も十字架に磔にされるからこそ意味があるという私に対して、緑谷出久は歯を食いしばりながら真っ向からその考えを否定する。
「違う!僕には、あなたが他の
真逆の言葉に私は目を丸くする。口元に手を当て、その言葉の意味を思案する。
“平和の象徴”。全ての人々に降り注ぐべき光である
その緑谷出久が私という
一番考えられる要因はトガヒミコに毒されたという可能性だろう。
トガヒミコが私に対して少なくない好意を寄せていることは知っていた。同族意識の類いだろう。
私としては迷惑でしか無い話なので無視してきたが、トガヒミコと深い関係になった緑谷出久には無視できない。
故にトガヒミコが緑谷出久に対して、「神父様を助けて欲しいのです」とでも頼んだのかとも考えたが、恐らくそれは無い。
彼女は
ならば、その流儀を無視する筈もない。
緑谷出久と共に生きたいのなら、私という存在は邪魔でしかない。
ならば、他にどんな理由が有るのだろうかと少しだけ考えて、答えが出なかったので思考を放棄する。
どんな理由があったとしても、私は止まらないのだから、どうでもいい。
「少し・・・お喋りが過ぎましたねえ。日が落ちてしまった。急がねばなりますまい」
私は懐からスマートフォンを取り出して、あらかじめ打ち込んでおいたメッセージをある方々へ発信する。
その様子を警戒しながら見ている彼らに向けて、笑顔を向ける。
「奇しくも残った貴方たちの中には私が警戒せざるを得ない五人もいます。“後継”、緑谷出久。“ショート”、轟焦凍。“ツクヨミ”、常闇踏陰。 “ヴァイン”、塩崎茨。そして、梅雨さん」
その五人とその他の生徒達。私は彼らを軽視しない。
私のギロチンを錆びさせた芦戸三奈のように、彼らの『個性』は私に届きうると考えている。故に彼らを相手に無双じみた真似をする気は無い。
少年少女のみで私の前に立ちはだかった事を漫画的だと言った身からすれば、そうしたいのも山々だけれど、今更に気分で危険を冒す気は無い。
「
それは―――人質だ。
私のメッセージを受け取った
建物の陰。ビルの中。電柱の裏。果てはマンホールの下に潜んでいた彼らは、それぞれが首から
彼らを前に私は謳う。
「“正義”とはナニカッ!答えなど無き問いの中でッ、しかし誰しもが信じられる柱を打ち立てたッ‼逆襲と報復ッ。奪われたモノを取り戻すッ‼復讐という名の正義をッ‼」
唐突な演説に驚く緑谷出久たちとは違い、
彼らは見事、私の命令を果たして見せるだろう。
「さあッ、我が
私はそれを自覚することを避けていた。何故なら、それに頼ってしまえば、民衆を扇動する
しかし、もう
恋しい
きっと何を犠牲にしたとしても、彼女達は、彼らは、私を信じて居てくれるだろう。
「
「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ‼」」」」」」」」」
灰色の夜は終わり、黄金の月は落ちた。
落月の時。
ここから先は、真の闇だ。
緑谷出久は信じられないモノを見た。あの日、あの夜、ヒーローと
人殺しだけを殺す
法に照らせば“悪”である彼は、しかし、人としては確かに“善”を孕んでいた。
しかし、今、この瞬間に、太陽に代わり闇を照らしていた
「そんな・・・あの人が、一般人を、巻き込むなんて・・・」
ムーンビーストの熱に浮かされる
正義を叫びながら、気絶したクラスメイト達に振り下ろされる角材がある。
それを庇うクラスメイト達に対して、信仰を謳いながら、振るわれる拳がある。
理不尽に、無遠慮に、恥知らずに、ヒーローと
当事者とは関係ない他人が振るう“義憤”。
第三者の“正義感”。
曰く善人達は”正義”を御旗に暴力を振るう。
これが“正義”と呼べたのなら。
これが“正義”だと言うのなら。
「それに、こんな・・・、貴方が、これを正義と呼ぶのならッ、許せない。許さないぞッ‼
怒りに満ちた緑谷出久の言葉に対して、遠ざかっていくムーンビーストが振り返るが、何も言わずに一瞥するだけで、直ぐにまた遠ざかっていく。
「ああ、ああああああああッ!ムーンビーストッ‼‼‼」
緑谷出久の視界が、怒りに染まる。信じていたから、信じていたかったから、裏切られたという気持ちは簡単に人の心を焼く。
その怒りに火を付ける様に、緑谷出久はムーンビーストの言葉を思い出す。
『・・・踏み潰される覚悟も無く、私の前に立ったと?』
あの時の表情は、こういうことだったのかと思い知る。
覚悟なら有った。作戦に参加した全員が持っていた。信念を持つ
しかし、それは名前も顔も知らない誰かに叩き潰されていい覚悟では無かった。
「緑谷さん!常闇さん!塩崎さんはムーンビーストを追ってくださいッ‼」
怒りで視界が狭まりかけた緑谷出久は、この状況でも冷静さを失なっていなかったクラスメイト-八百万百の声で我に返る。
相手は暴徒化しているが、一般市民。中には女子供の姿もある。怪我をさせずに彼らを無力化するには、それに適した個性を持つ生徒がこの場に残らねばならない。
八百万は個性『創造』で催眠ガス弾を用意しながら、次々に指示を出す。
「轟さんは氷で彼らの動きを止めてください!骨抜さんは地面を柔化させて足止めをッ!」
「OK。塩崎。任せたわ」
「わかった。緑谷、常闇。頼んだ」
「うん‼」
クラスメイト達に振り下ろされる武器を蹴り砕きながら、緑谷出久はムーンビーストの後を追う。常闇陰踏と塩崎茨もそれに続いた。
第一防衛線『希望』は暴徒化した
続く第二防衛線『責任』。
そこで足止めをされている筈のムーンビーストを追って、緑谷出久と常闇陰踏と塩崎茨の三人は走り出していった。
超人社会の
今の彼に
格闘技術のみでイレイザーヘッドと渡り合う事が出来た、同じく
だから、第一防衛線『希望』を越えた先の第二防衛線『責任』でイレイザーヘッドが待っていた時、ムーンビーストは訝しげに顔を顰めた。
月明かりに照らされる通学路。遠くには既に雄英高校のある小山が見えて居る。
ゴールまで目と鼻の先までやって来たムーンビーストは、上機嫌でイレイザーヘッドに話しかけた。
「愚か、ですねえ。可哀想に、よもやあの頃と同じ気分で来てしまったのですか?私の脅威が
ムーンビーストの嘲る声に対して、イレイザーヘッドは静かに返した。
「・・・それでも、責任と言うものがあるだろう」
「教師としての、ですか?アハハッ、何を今更。果たすのが三年ほど遅いですよ」
「大人としての、責任だ」
イレイザーヘッドがそう言うとムーンビーストの背後にもう一人、ヒーローが現れた。
背後から聞こえた足音に反応して振り返ったムーンビーストは、その姿を捕らえると
「あは、アハハ、アハハッ、なるほど、なるほど、そう来ますかッ!確かにそれならッ、アハハッ、相性は最悪だと言わざるを得ませんねえッ!ハハハ、アハハッ、アハハッ‼」
ムーンビーストを前に立っていられる大人のヒーローは少ない。只の一度でも、彼に敗北したヒーローは彼の前に立てはしない。あるいは敗れていなくとも、彼の期待に応えられなかった大人達の存在を彼は決して許しはしない。
故に布かれた第一防衛線『希望』は、生徒のみで構成された。
だが、その計画立案のみで大人が責任を果たしたのかと聞かれれば否だろう。
故に雄英教師陣の中で唯一、ムーンビーストに敗北していないイレイザーヘッドは後遺症を負っていて尚、やって来た。
そして、もう一人。
ムーンビーストが
トガヒミコから得られた情報の中で、現れた彼女の名前を聞いた時、イレイザーヘッドは思わず顔を顰めたが、確かに彼女なら今のムーンビーストとも対等にやり合えるだろうと納得した。
そのヒーローは、笑っていた。
「HAHAHA、テレビやネットで姿は見てたけど、こうして直に会うのは初めてだな‼」
オールマイト以上に笑顔の似合うヒーロー。
オレンジ色のバンダナ。
スマイリーフェイスが描かれたコスチューム。
イレイザーヘッドとは旧知の仲であり、助け助けられを繰り返す内に相思相愛になったと本気かジョークか分からない事をいう彼女は確かにムーンビーストに対する
トガヒミコがヒーロー陣営に齎したムーンビーストの情報は、大半が意味を成さないモノだったが、“その情報”だけはムーンビーストの性格を考えれば非常に有益なものだった。
現に彼女と同じ
彼が
「イレイザーヘッド!この戦いが終わったら、結婚しようぜ」
「しない」
「しないのかよ‼ウケる!」
彼女は夜なのに太陽のような笑顔で笑いながら、言う。
「じゃあ、この戦いが終わったら、健全なお付き合いから開始だな‼」
実にやりにくい、とムーンビーストは冷や汗をかきながら、
ヒーロー名-Ms.ジョーク。個性『爆笑』。
人を強制的に笑わせて思考・行動を鈍らせる。
彼女の