ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m




個性『爆笑』

 

 

 

「HAHAHA、ウケるッ‼」

 

「アハハッ、アハハッ、アハハッ‼」

 

顔面への掌底を紙一重で避ける。反撃の回し蹴りには威力乗っていなかった。故に容易く片手でガードされ、鳩尾に膝蹴りを叩き込まれた。

 

「グハッ、ハハ、ハハハ、アハハッ‼クソ、かふぃ⁉‼

 

息を整えなければ成らないはずなのに笑い声が止まらない。

呼吸を求める身体に打ち込まれた膝は、更に肺の中の酸素を吐き出させる。涙で霞む視界の中で、Ms.ジョークは笑っている。笑顔で暴力を振るわれる恐怖。確かに狂気だ。

本能が身体に後退を進言している。低酸素状態である脳味噌が勇気ある後退が必要だと判断するが、笑うことが止まらない。

おぼつかない足取りは払われ、地面に背中が叩きつけられる。

直ぐに立ち上がろうとするが、その前にMs.ジョークにマウントポジションを取られた。

 

「さて、気分はどうだ?一方的に殴られるなんて、久しぶりだろ?」

 

「アハハッ、アハハッ、最高、ですねえ。貴女の様な美人に、ハハハ、乗って頂けるとはッ!アハハッ、アハハッ‼」

 

「マジかよ。余裕だな。ウケるッ‼」

 

マウントポジションから、顔面を殴られる。殴られる度に飛び散る血がMs.ジョークの顔に掛かるが、彼女は気にした様子も無く殴り続ける。

笑いながらに殴る彼女と笑いながらに殴られる私。これが特殊プレイだったら良かったのにと、強がりながらにマウントポジションを抜け出し、距離を取るために足にギロチンを形成しようとするが失敗する。

私とMs.ジョークが戦っている間、私が個性を発動使用とする度に相澤先生の『抹消』がそれを阻む。

片目を失った相澤先生の『抹消』は、その使用時間を大幅に制限されたというのに、的確なポイントで私の反撃を潰していた。

それに歯噛みする私に対して、相澤先生はこともなげに言う。

 

「お前に戦闘の基礎を叩き込んだのは教師陣(俺たち)だ。まさか、忘れたわけじゃないだろ?反撃のタイミングは、見ればわかるんだよ」

 

「・・・やはり余子浜で、ステインにお願いをしたのは正解でしたねえ。あの場に貴方がいれば、私は負けていたでしょう」

 

「そうなるべきだった。あの日、お前は逮捕されていればよかった。不様な夢を、叶えてしまう前にな」

 

「・・・不様?私の、願いが?アハハッ、アハハッ、アハハッ笑えない、アハハッ、笑えませんねえ!アはハハハ、ヒヒ、ヒヒヒ、くそ、個性を止めろッ!アハハッ、Ms.ジョークッハハハ‼」

 

「止めるワケねーじゃん。ウケる」

 

Ms.ジョークの笑っているのに冷ややかな目が私を射貫く。片目しか無い相澤先生の視線が、私を捕らえて放さない。それがまるで不様を嘲り、嗤われているようで思わず頭が沸騰しかける。

顔面に振り下ろされるMs.ジョークのパンチに合わせる形で、頭突きでのカウンターを実行する。

 

「チィッ⁉HAHAHA、イッテーなあ‼」

 

Ms.ジョークの右拳の骨が折れる音が私の頭蓋骨を通じて耳に届く。タイミングがズレれば脳震盪を起こして戦闘不能(リタイア)だった。しかし、危険を冒したお陰でマウントポジションから脱することの出来た私はMs.ジョークと相澤先生から距離を取る。

 

「アは、アハハ、アハハッ、この距離でも、駄目ですか、アハハ」

 

肩で息をしながらも笑う事が止められない息苦しさ。個性『爆笑』が此所まで凶悪な個性であることを知らなかった無知を恥じながら、何とか状況の打破を試みる。

腹を抱えて笑う姿勢から、ノーモーションから放つ飛ぶ斬撃。空間を削る絶技(ソレ)は、しかし、発動しない。

相澤先生に個性での攻撃の瞬間、ピンポイントで個性を抹消されている。

私が先生方に戦闘訓練をして頂いたのは、もう何年も前の話だ。それ以降、私は独学での戦闘技術を培っている。攻撃のタイミングが読めると言っても、誰が此所まで完璧だと考える。

私は悔しさを滲ませながら、相澤先生を睨むが、返ってくるのは無言の重圧(プレッシャー)だ。

磨き上げた個性(ギロチン)は抹消される。

爆笑(狂気)の格闘技は私を凌駕している。

 

少し前まで学生相手に調子に乗っていた事が恥ずかしい。

相澤先生とMs.ジョーク。確かにこの二人なら、どんな窮地(ピンチ)も助け助けられて切り抜けて来たと言われても納得しか無い。

発動型の個性で二人のコンビネーションを破れるものは居ないのかも知れない。

もし此所に(ステイン)あるいは彼女(レディ・ナガン)がいればと、思わずには居られない。居てくれたのなら、二人なら、あの二人にも勝てただろう。

 

しかし―――

 

孤独(ひとり)だ」

 

そんな私の考えを見透かしたように、相澤先生の左目は私を見る。

 

「託すこと無く捨ててきた。だから、お前は孤独(ひとり)だ。ムーンビースト」

 

「アハハ、託す?なんです、それ?言い訳をすることですか?ハハハ、ヒヒ、ヒャハハ」

 

「言い訳も出来ないほど、窮屈な人生を歩んで来たのか。難儀だな。そんな風だから窮地(ピンチ)の時に一番居て欲しい奴等を、自らの手で殺す事になる」

 

「アハ、ハハハ・・・今日は一段と、手厳しいですねえ」

 

「ハッキリ言って、俺はお前が嫌いだよ。不合理の極みだ」

 

「嫌われている自覚はありましたが、アハハ、其処まででしたか。ヒヒ」

 

「今まで誰も言ってこなかったのだろう?なら、俺がハッキリ言ってやる。お前は、ダークヒーローなんかじゃない。危険思想を持った只のイカレた(ヴィラン)だ」

 

危険思想を持ったイカレた(ヴィラン)

 

出来の良い息子だったという自覚がある。優秀な生徒だったという自負がある。

(ヴィラン)となった後も私は()()()()(ヴィラン)だったから、在り方を(なじ)られたことはない。

しかし、相澤先生はまるで出来の悪い生徒を叱るような口調で言う。

 

「どうしてお前は、お前が心から憎む奴らと同じ穴の狢になった。()()()

 

息を呑むほどの正論だ。復讐の手段に殺人を選んだ時点で、私は心の底から憎む者たちと同じになった。その自覚はあった。

しかし、それを他人から指摘されると胸に汚泥が湧き上がる。

 

「法律では裁かれない罪人がいる。それは許されることではないでしょう」

 

「法律を変えたいなら、政治家になれ」

 

「誰かが正義を示さねば成らなかった!絶対の正義を!」

 

「正義を語りたいなら、聖職者になれ」

 

「被害者の無念!残された者たちの涙を晴らさなければッ、救われぬ者たちを、助けたかった‼」

 

「誰かを助けたいのなら、ヒーローに成るべきだった」

 

「・・・・・・・・・は?・・・・・・はは、・・・アハハ、アハハッ、アハハはハハハハハ‼成れたのならッ、ヒーローに成れたのならッ、どんなに良かったのでしょうねえ‼成れなかったのですよ。私は、ヒーローに、僕は、ヒーローに、・・・ヒーローに、成れなかったんだ‼」

 

()()()()ッ、()()()()()()ッ‼」

 

相澤先生が近づいてくる。義足でおぼつかない足取り。逃げることは簡単なのに足が動かない。左目は個性を発動し赤く光っている。

 

「理不尽を飲み込めッ‼大人になればよかったんだッ‼」

 

眼帯の下の潰れた右目からは涙が零れていた。

それを見て言葉を失う私の襟首を相澤先生は掴み上げた。

 

「俺は無駄なことはしない。学生時代のお前の特訓に付き合ったのは、ヒーローに成れると思ったからだ。山田も同じだ。校長は教育委員会を説得して事件後、復学後のヒーロー科編入を認めさせた。そして、何より、誰よりも、お前を信じた人が居たことを、忘れたわけじゃないだろう」

 

私を信じてくれていた人々。

相澤先生の瞳の中に最早、戻らない望郷を見た。

 

「どうしてお前は、(ヴィラン)になったッ‼」

 

相澤先生は少し息を吸った後、思いっきり頭突きをしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭突き。イレイザーヘッドが普段の冷静な態度からは考えられない泥臭い攻撃をしているのを見て、Ms.ジョークは腰に手を当てて呆れていた。

意中の男の意外な一面を見ながら、冷めない恋心を少し恥ずかしく思いながら、それ以上に恥ずかしい頭突き合い(泥仕合)()(ぱじ)めた男二人を見守る。

端から見ると馬鹿みたいな光景だが、当人達はしごく真面目な様子で目が本気(マジ)だった。

 

「マジで、ウケる」

 

腹を抱えて笑いながらに、思い出すのはこの戦いに赴く前のイレイザーヘッドの真面目な顔だ。彼はムーンビーストについてMs.ジョークに語っていた。

 

始まりは復讐だった。道中には正義があった。

裏切られて、疎まれて、嫌われて、憎まれて。

堕ちて。破れて。壊れて。

それでも誰かを助ける事を止められなかった。

 

かつての教え子の話。

ヒーローに成れなかった物語。

 

ムーンビーストに未来は無い。

彼は既に人を殺しすぎている。

 

混乱する社会の中で、ムーンビーストを英雄(ヒーロー)視する人々が増えているが、そんなモノは一時の気の迷いだとMs.ジョークは切って捨てる。

平和を取り戻した時、民衆は確実にムーンビーストを切り捨てる。

平和とはそう言うモノだ。人々の平穏は獣を切り捨てる事でしか訪れない。

 

「・・・イレイザーは、それが笑えないから、戦っているんだよ」

 

―――これ以上、誰にもムーンビーストを利用させない為に此所で斃さなきゃ成らない。

 

そう言った男は、文字通りの満身創痍でありながら、責任感から此所に立っている。

此所で斃れる事がムーンビーストにとっての幸せだと、Ms.ジョークは断言できた。

イレイザーヘッド以上に、ムーンビーストを思い戦えるヒーローはもう居ない。

 

「・・・だから、とっとと負けちまえよ」

 

零れた言葉に、もう笑いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の身体の事は自分が一番、よく分かっていた。

とうの昔に限界を超えていた。血を流し過ぎている。身体を動かすエネルギーが足りていない。

そんな身体を動かし続けていたものは、これまで奪って来た数多くの命だった。

 

“血の追憶”。

死柄木弔との海戦で覚醒し、数分後に失った個性の覚醒は身体を動かすためのソレを残して消えていた。

 

 

「人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」人殺し」ひとごろし」人殺し」人殺し」

 

 

私が正義執行(殺害)してきた人々の怨嗟の声が身体の中で木霊している。

目を瞑る度に身体にまとわりつく血塗れの手の幻覚を見る。

“血の追憶”により、私は今まで殺してきた人々の記憶を垣間見た。その多くが死んで当然の屑だったが、中には裁判に成れば情状酌量を言い渡される者たちも居た。

そんな彼らの怨嗟の声が、助けを求める血塗れの手が、纏わり付いて離れない。

言い訳をする気は無い。差別無き正義を掲げた故に、私は無差別殺人者だ。

男を殺した。女を殺した。子供を殺した。老人を殺した。赤子を殺した。

 

(ヴィラン)を殺した。

味方を殺した。

そして、家族を殺した。

その果てに――――“正義”を信じた。

 

()()()()()()()()

 

果たして、何度額を打ち付けただろうか。

血塗れの幽鬼のような顔で相澤先生は私を見ている。

そして、私もまた同じなのだろう。違いがあるとするのなら、一つ。

私にはもう赤色()は必要ない。

今も尚、身体が『個性』に適した形を模索し続けている。

 

血も涙も、必要ない。

必要なのは、別のエネルギー。

怨嗟の声に紛れて聞こえる小さな声。

 

()()()()()()()()()()

 

―――なあ、なんであんたは(ヴィラン)になった?

 

小さな声が聞こえた。枯れたはずの涙が、零れそうになるほどに愛しい声。

私が奪った()()の命。

()女は()()()を撫()()()()()、笑う。

そんな妄想(ユメ)を見る。

 

無為だと遠ざけた。手に余る幸福だった。私は私の異常性を認識している。

そんな私を彼女は愛してくれたけれど、だからこそ裏切る事は出来なかった。

彼女が愛してくれた私で居るために、私は狂い続けなければならない。

狂信の果ての正義を信じろ。

掲げた十字架に殉じろ。

“正義の象徴”。

 

―――なんだよ、それ。イカレてるな。

 

()()()、笑ってくれた。()()()()、泣いた夢を・・・、彼女は、笑ってくれた。背中を押してくれた。共に歩んでくれた。()()()()()()()()()()()。・・・だから、だからッ‼」

 

「ッ⁉此所までだイレイザーッ‼様子がおかしい‼手ェ、出すぞッ‼」

 

「あは、アハハッ、アハハッ、アハハッ、ヒィ、ヒヒヒ、ヒャハハッ!アーッハッハッ‼」

 

個性『爆笑』が発動する。私の二つ名が霞むほどの狂気的な個性が再び私の身に襲いかかる。

息も絶え絶えの身体にMs.ジョークの拳が叩き込まれる。

それを掴んで止める私を見て、Ms.ジョークの笑顔が凍る。

 

()()()()

 

「ッ⁉」

 

「おや、素敵な笑顔が台無しですよ?」

 

「生憎と身持ちが堅いからなァ‼」

 

Ms.ジョークは足払いで私の身体を地面に倒すと、その勢いのまま足を取って足四(あしよん)字固(じがた)めを極めてくる。

 

「やれッ!イレイザー‼」

 

流れるようなプロレス技に抵抗むなしく無力化された私の眼前に、相澤先生の拳が振り上げられる。

 

「終わりだッ!ムーンビースト‼」

 

この姿勢での頭部への打撃は、頭部が拳と地面にサンドイッチされることを意味する。

致命の一撃だ。

 

しかし、それが振り下ろされることはない。

 

()()()()()()()()()()()()

 

私の殺害。相澤先生にそれが出来ない事は最初から、分かっていた。

殺人は非合理の極みだと、言ったのは彼だ。彼は自分の言葉を違えない。

私の死は裁判の結果として有るべきだと、彼は考える。

 

「だから貴方に、私は殺せない」

 

振り下ろされた拳はあまりに非力だった。額が割れる事も無く、相澤先生の手が血で汚れただけで終わる。

Ms.ジョークは信じられない目で相澤先生を見ていたが、彼女もきっと本当は理解していた筈だ。

相澤先生が実は生徒思いの素晴らしい先生であることを。

 

「貴方は除籍を言い渡した生徒にも、結局はチャンスを与える。・・・優しすぎましたねえ」

 

個性『抹消』の効果が切れる。振るわれる個性『ギロチン』は、容易く二人を吹き飛ばした。

個性『爆笑』も慣れてしまえばなんていうことは無い。元々、私は笑いながらに人を殺せる凶人なのだから、笑いながらに呼吸する方法さえ見つけてしまえば枷は軽くなる。

 

「あと一手、足りませんでしたねえ。この場にエンデヴァーかホークスが居たのなら、私を殺しきれたでしょうに。貴方たちでは殺しの境界線を越えられなかった。いえ、分かっていました。分かっているから、殴り合いに応じたのです」

 

私に吹き飛ばされた二人の目から、闘志は未だに消えていない。

しかし、その目に殺意を宿せない以上、私が殺されない限り止まらない以上、此所から先の戦いは分かりきっている。

だから、立ち上がる二人を目にしても笑みを浮かべながら、ギロチンを構える。

 

「この戦いにおいて、先ほどの一撃だけが、私の命に届き得た。それを振るえなかった優しい先生方には、申し訳ないですが、力不足です。この先は守る為の戦いではありませんよ?殺す為の闘争です。では、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

「――――――――え?」

 

信じられない声を聞いて振り返る。

其処には、居るはずの無い女性(ひと)が居た。

 

雄英第三防衛線―『英雄』。始動。

 

 

 

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