久々の投稿となります。
投稿が止まっている間も感想を下さった方々にはお礼を申し上げます。
皆様のお陰で投稿する事が出来ました!\(^_^)/
今後も時間はかかると思いますが、投稿していこうと思います。
今後も皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
個性『蒼炎』
この一年で世界は変わった。オールマイトの引退を契機とした
そして、起きてしまった“未曾有の大災害”。蛇腔市の壊滅がヒーローへの不信を呼び、タルタロス陥落が民衆の心から“安心”を消し去った。ヒーローの存在によって保たれていた“安全”が崩壊した
たとえ、それが破滅の光であったとしても、人心は誘蛾灯に
雄英防衛線。ヒーロー陣営が布いた対ムーンビースト捕縛作戦の失敗から一週間後、社会は異様な程の静けさに包まれていた。
脱ヒーロー派によるデモ活動。
暴徒化した市民への対応。
ダツゴクによる犯罪。
残った数少ないヒーロー達が手を焼いていた事件の一切が、ピタリと止んでいた。
その理由はあらゆるネットメディアにより拡散された一つの
その噂は、始めは眉唾ものだと思われていた。
だが、事実として
そして、神野区のオールマイト像の周りに掲げられた逆十字に磔にされた
ムーンビーストの“狂気”が、死柄木弔さえも飲み込んだことを――――――
「緑谷、見ろよ。クソ面白くねぇ番組がやってんぞ」
病的な痩身と無造作な白髪が特徴的な
椅子に座っていた緑谷出久は表情に緊張感を滲ませながらも、瓶コーラを受け取り、お礼を言う。
「うん。・・・ありがとう」
その様子に死柄木弔は薄い笑みを浮かべる。
「まだ緊張してんのか?そりゃあ、散々殺し合った中だけどさ。いい加減に馴れたらどうだ?」
「・・・馴れないよ。馴れちゃいけないと思ってる」
「なんで?」
「僕は君を、許せないと思っているから。君の行動で、大勢の人々が傷ついた。それは簡単には許しちゃいけないことだよ」
「あー、まあ、そーかも。けどよ、その辺は初日に散々、話し合ったろ?俺には俺の、オマエにはオマエの言い分が合った。
「うん。・・・そうだね」
元来、緑谷出久と死柄木弔は相容れない。共に仲間を傷つけ傷つけられた間柄。宿敵と呼んでもいい間柄。その二人を繋げたモノは一人の少女。
一人の少女の選択によって世界線が書き換えられていた。
二人が瓶コーラの蓋を栓抜きなしで開けると同時に、部屋の扉が開いた。
部屋に入って来たのはオーバーホールとトガヒミコ。そして、
緑谷出久の隣に腰をかけた死柄木弔が、四人に語りかける。
「どうだった?俺たちの“救世主様”のご様子は?」
答えたのはオネエ言葉が特徴的な長髪サングラスの男-マグネだった。
「どーもこーもないわよ。アレでどうして生きて居られるのか、相変わらず不思議なだけ。三日間、ずーっと変わらず半生半死。叩いても何をしても起きやしない代わりに
数多くの罪を犯してきた武闘派のマグネにして、そう言わしめる状態に
「大丈夫だよ!出久くん!神父様は絶対に助かるから!」
「そう・・・だよね」
「はい!・・・そうですよね、オーバーホール」
緑谷出久に話しかける時とは打って変わって、刺すような視線と共に問われたオーバーホールは冷めた目で一回りは年が違う
死柄木弔が救世主などと皮肉り、トガヒミコから神父様と呼ばれる存在。緑谷出久が心配する彼の名は勿論、ムーンビースト。彼は現在、半死半生の状態にあった。
オール・フォー・ワンとの戦いで左腕を切り落とされ、ミルコによる
言葉の通り、ムーンビーストの肉体は
「アイツはいずれ目を覚ます」
人体生理学に精通し、外科に関しては医師顔負けの知識を有するオーバーホールはそう言い切れる。それに安堵する緑谷出久とトガヒミコだが、オーバーホールから言わせればそういうところがガキだった。楽観的にすぎるのだ。
幾多の死線を越えてムーンビーストは目を覚ます。堕ちた獣は翼を得て復活する。だが、果たしてその
オーバーホールは視線を死柄木弔の方へと向けた。
話を聞けば、死柄木弔もまた半死半生の状態から復活し、強大な力を得たという。それはオール・フォー・ワンの力と彼の協力者であった闇医者の膨大な研究の結果だと聞いたので、勿論、ムーンビーストとは過程が違う。
しかし、結果は似通うのではないかとオーバーホールは推測する。
死柄木弔は復活以降、自身の中に混じるナニかを自覚していた。彼はそれを先生と呼び慕うオール・フォー・ワンの意識だと考えていたが、それが
それが分からない限り、オーバーホールの緊張は解けない。
(既に状況は
死柄木弔が死んだところでオーバーホールの心は微塵も痛まない。
それを理解していない死柄木弔ではないだろうとオーバーホールは考える。
それなのに死柄木弔はオーバーホールの視線に気が付くと、小さく笑いながら手を上げてくる。
(死柄木弔の狙いが分からない以上、今、アイツが目を覚ますのはリスクが高すぎる。どんな策略があるか俺が見定めるまで、けして、目を覚ますなよ。ムーンビースト)
ステインもレディ・ナガンも居ない。ムーンビーストの周りに残って居るのは
自分がしっかりしなければ、なんてオーバーホールが柄にもなく兄貴風を吹かせる中で、彼は既に目を覚ましていた。
目を覚ましたら知らない天井が眼に入った。身体を起こそうと力を込めたところで、左腕を失っていた事を失念していた私はバランスを崩し、ベッドから床に転落した。身体に走る痛みはない。確認のため、頬を
痛覚が死んでいた。快楽とは痛みを水で薄めた様なモノと聞いた事がある。
「・・・おやおや、私の身体はもう
私に性の悦びを与えてくれる
「此所は・・・どこなのでしょうかねえ?」
知らない天井。見覚えのない部屋。しかし、香る血の匂い。そう離れて居ない場所に
それだけ理解出来れば十分だった。残った右腕は問題なく動く。身体の傷は未だに癒えてはいないが、痛みを感じない以上、問題なく立ち上がることが出来る。それだけで十二分。
最早、何かを考える余地も私の身体を縛る枷もない。
私はしっかりとした足取りで部屋を後にした。
差別が嫌いだ。真っ当な人間なら当然の感性だ。だからこそ、私はたとえ相手が命の恩人であっても手加減などしない。部屋を後にして香る血の匂いが導くままに中庭まで出てきた私を出迎えたのは焼け爛れた皮膚を持つ
荼毘は私の姿を見ると私を手で制しながら、意味ありげに笑った。
「少し待て。もうすぐに準備が終わる」
そういう荼毘の手元には
機械に疎い私はドローンが飛び立つのを見送りながら、首を傾げる。
「なんですか?あれ、私を殺す為の軍用ドローンにしては貧相ですが」
「そんな物騒なモノじゃないさ。只の撮影用のドローンだ。気にしなくて良い。それより、こうして顔を合わせるのは初めてだが、自己紹介は必要か?ムーンビースト」
「いいえ。要りません。荼毘。貴方の名としてきたことは知っていますからねぇ。貴方は正義執行対象だ。私が今、知るべき事はそれが全てです」
私は右腕にギロチンの刃を形成する。荼毘は「そうかよ」と言いながら、両手に青い炎を宿した。どうやら私と戦う覚悟はあるようだ。その姿勢に敬意を表して、一瞬で首を刈ってあげましょうと考えた私の好意を踏みにじりながら、荼毘は軽薄にも言葉を続ける。
「俺の動画は観たか?結構、バズってただろ。あれ」
荼毘の言う動画とは、彼の出自を暴露した動画のことだろう。レディ・ナガンと共に見たこと思い出す。亡くなった彼女との些細な日常の思い出に胸が痛むが、それだけだ。荼毘の出自や過去などに、私は微塵も興味がない。
「貴方が誰の息子であろうとも、知ったことではありませんねえ。いえ、誤解しないで頂きたい。エンデヴァーのことは尊敬していますとも、彼は素晴らしいヒーローです」
「おいおい、あのクソオヤジのことを知った上で、俺の前でそんな事をいうのかよ。大分、頭がイッているようだな」
自分が
そう言いたげな荼毘の言葉を真っ向から否定する気は無い。人格形成を行う幼少期に虐待を受けて育った子供の精神が歪む事は多々あることだろうとは思う。それを責めるのでなく、真っ当に育った子供を賞賛するべきだと考える私には僅かにだが荼毘に対する
「しかし、限度があるでしょうに・・・」
荼毘が受けた幼少期の虐待。エンデヴァーの歪んだ感情が生んだストレスを、エンデヴァー本人に返していたのならば、私の
「差別は、嫌いです。暗い過去があれば罪が許されるとでも?酷いことをされた人間は、酷いことをしていいとでも?そんな筈がないでしょう。過去など、知りません。
ギロチンの刃が輝き、荼毘は笑った。
「だから、可哀想な俺を殺すのか?」
「だから、可哀想な貴方を殺すのですよ」
殺したのだから、殺してしまおう。その正義に一切の矛盾はない。
次の瞬間、白銀の輝きと蒼炎の輝きが交差した。
恨みはあった。荼毘は過去をそう振り返る。過去は消えない。
荼毘の心を闇に堕とした父親の選択。望まれて生まれた弟と、望まれなくなってしまった己の
超人社会が生み出した“個性”という名の永遠の呪縛。
もし己に
だが、家族を想う感情の全てが“憎しみ”であった訳ではない。
始まりは
子供であれば多くの者が通る道。
大好きなお父さんに褒めて貰いたかった。
只、それだけだった。
「
線形の無数の炎がムーンビーストを襲う。
そして、返す刃で
「これがッ、お前の実力!エンデヴァーを前にしても出せなかった!本当のお前‼」
荼毘の心臓が高鳴る。全てが彼の計画通りだった。
(
オーバーホールから
“狂気のムーンビースト”。オール・フォー・ワンが亡き後、その後釜に座るのは死柄木弔かムーンビーストのどちらかだと
(正義の象徴!
重要なのは
(初めは
憎しみは過去に埋れない。善意や好意よりも悪意や嫌悪の方が心に根深く残るものだ。
そのことを何よりも目の前の存在が証明していると荼毘は笑う。
(お前にも、幸せな家族との記憶があったろう。俺にも、あったよ)
―――燈矢の才能は、俺を越えているかも知れんな。
(忘れられない幸せな記憶。大好きだったお父さんとお母さん。冬美ちゃん。
幸せな記憶。確かに幸福だった日々。だが、それを塗りつぶす程の憎しみ。
―――もうお前は、個性を使うな。
抱いてしまった。
(自分でも知っていた!ムーンビーストを見てより深く理解した!お父さんに俺の事を二度と過去にさせない為にはッ!
だが、もう一つあった。
燈矢を過去にしない方法を、荼毘はムーンビーストを見て思い付いた。
(より深い傷跡を
荼毘とムーンビースト。互いに片腕がない。状況は同じ。しかし、戦力差は歴然。
戦闘開始から僅かに二分四十五秒、荼毘は左腕も切り落とされた。両腕を失い、バランスを崩し、地面に倒れ込む。その隙を見逃す筈もないムーンビーストが迫っていたが、荼毘の視界にムーンビーストなど眼中になかった。
欲しかったのはこの状況。満身創痍の自分と迫り来る
荼毘は空を見上げる。視線の先には、この戦いを中継している撮影ドローンがあった。
「・・・ムーンビースト。礼を言う。お前のお陰で、コレは最高のショーになった」
荼毘から零れた言葉はムーンビーストに対する純粋な感謝だった。
たとえ、
現在のエンデヴァーを荼毘は知らない。
荼毘の知る
だから、別の形でエンデヴァーの心に傷跡を残すことにした。
「・・・ッ、あ・・・ああ・・・」
荼毘の顔から、笑顔が消えた。これは彼にとっての一世一代の
此所を
更に向こうへ。
限界を超えろ。
荼毘の涙腺が焼けた筈の眼から、透明な涙が零れた。
「たすけて・・・おとうさん・・・」
父親に助けを求める無力な子供。その首にギロチンの刃は無情にも墜とされた。
その光景はドローンによって全世界へと流された。
私は切り落とした荼毘の首を蹴飛ばし、空を飛ぶドローンを見上げる。
そして、カメラに向けて高らかに正義を謳う。
「正義執行‼どうかこの戦いを誰かが見ていてくれたことを願います!そして、どうか知って欲しいのです!罪は必ず裁かれる!人を殺した人間は、必ず殺されねばならない!だからッ!・・・人を殺しては、いけませんよ?」
何故だか、カメラ越しの誰かが、悲痛な叫びを上げている。そんな気がした。
まあ、きっと勘違いだろう。私は用済みのドローンを撃ち落とし、その場を後にすることにする。
「しかし、彼は一体なにがしたかったのでしょうねえ」
荼毘の考えていることが、最後まで分からない私だった。