ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです。m(__)m






個性『なし』

 

荼毘が死んだ。その直後、近くで匂っていた香しき血の匂いが消えた。間違いない。死柄木弔を取り逃がしてしまった。

そのことに落胆こそすれ、死柄木弔より近くに居た荼毘を優先したことに後悔はない。

人殺しという罪に大小はない。

一人殺しても、百人殺しても、同じ人殺し。

裁かれるべき罪人である事には変わりが無いのだ。

 

溜息を吐き、上着の内ポケットの中に入れていた煙草を取り出そうとするが、そもそも探るべき内ポケットがなかった。当然だ。私は何時もの牧師服ではなく、灰色の病衣を着せられていた。それも荼毘との戦いで裾が焦げてしまっている。

 

「取りあえず、何時もの服を取り戻し、一服するとしましょう」

 

そして、その後に死柄木弔を追わねばならない。

そう考えて歩き出そうとした私の目の前に何ともちぐはぐな印象を受ける三人組が現れた。

 

「・・・おや、オーバーホールにトガヒミコ。それに後継。何故、貴方たちが肩を並べているのですかねえ」

 

オーバーホールとトガヒミコはいい。しかし、そこにオールマイトの後継である緑谷出久が加わると違和感が凄い。

いや、トガヒミコと緑谷出久の組み合わせは彼らが曲がりなりにも彼女彼氏(アオハル)な関係であることを鑑みれば違和感などないのかもしれないが、そうすると極道の復権を目論む紛れもない(ヴィラン)であるオーバーホールが其処に居るのは場違いだろう。

異物はオーバーホールか。緑谷出久か。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えて、二人を繋ぐ(かなめ)となっているトガヒミコに視線を向ける。

 

すると、なんとも天真爛漫な笑みを向けられた。

 

「神父様が目を覚ましてよかったのです。皆で心配していたのですよ」

 

「・・・貴女に心配されるとは、私も堕ちたものですねえ」

 

「酷い言い草です。私とオバホが居なかったら、神父様は出久君のお友達にやられていたのですよ?」

 

偽物の初恋の相手(ミッドナイト)に魅せられて、不覚をとった事を思い出し、顔を顰める。

確かにアレはヤバかった。私特攻と言っても過言ではない完璧な作戦だった。

其処を救われたというのなら、感謝の一つもするべきだろう。

しかし、私は忘れない。

その作戦自体、トガヒミコの個性『変身』の協力がなければ実行できないものだった。

つまり彼女の存在があったからこそ行われた作戦で危機に陥った私は、彼女とオーバーホールに救われたのだ。

酷いマッチポンプもあったモノだと嫌味を言えば、「囚われの私が神父様と合流するにはそうするしかなかったのです」と返される。

返す言葉はなにもない。

 

溜息を吐く私に、オーバーホールが煙草を投げつけてくる。無言の労りに感謝しながら、煙草に火を付ける。

紫煙を燻らせ、緑谷出久に目を向けた。

 

「それで後継は何故、此所に?いえ、分かっていますとも。大方、トガヒミコに無理矢理連れて来られたのでしょう。であるのなら、早く帰った方がいい。皆、心配している筈ですからねぇ」

 

私の本心からの労りに、しかし、緑谷出久は首を横に振った。

 

「その、確かに勢いで連れて来られたけど、今は自分の意志で此所に居ます。ムーンビーストさん。僕は貴方と、話がしたいです」

 

深緑色の眼が真っ直ぐと私を射貫く。

その目に秘められる強い意志を感じて、私は煙草の火を消した。

 

「・・・場所を変えましょう。目覚めたばかりでお腹が減りました」

 

「そういうことなら、着いて来い。場所と食事は用意してある」

 

オーバーホールが返事も待たずに歩き出す。私たちはその後に続き、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーバーホールの案内でやって来たのは見知らぬ街の見知らぬ食堂。其処で私は思いがけない再会を果たす。

 

「こ、この匂いは間違いなく()()麻婆豆腐‼」

 

驚きながら厨房に視線を向ければ、見覚えのある料理人が厨房に立っていた。

間違いない。私が行きつけにして居た中華料理店の店主だ。

 

「なぜ、彼が此所に?」

 

私の疑問にオーバーホールが答えた。

 

「このご時世だ。どこからお前の情報が漏れるかわからない。保護させてもらっている。どのみち店の営業など無理だからな。お前の為に飯を用意して欲しいと言ったら、快く引き受けてくれた。・・・いろいろな奴に好かれているな、お前は」

 

オーバーホールは何故だか呆れていた。

 

「それはそれは、ありがたい話ですねえ。では、冷めないうちに頂きます!」

 

麻婆豆腐は出来たて熱々の内に食べる。それが麻婆豆腐に対する最低限の礼儀だ。

至福を味わう私に三人の視線が突き刺さっている。私は若干、迷いながらに尋ねた。

 

「・・・食べます?」

 

「「「いらない(です)」」」

 

「こんなに美味しいのに、不思議な人たちですねえ」

 

首を傾げながら、私は麻婆豆腐を完食した。

 

腹が膨れれば、人は幸せになれる。世界の紛争の大きな原因の一つが飢餓だ。

そして、もう一つが宗教。何を信じ、何を守ろうとしているのか。人種によって違うから、世界から争いは絶えない。辛く悲しい事だ。私は差別を無くしたいと常日頃から考えている。

 

口の中の辛みをコーラの甘みで拭い去り、緑谷出久へと視線を向ける。

 

「お待たせしました。それで後継、話とはなんですかねえ」

 

奇しくも彼と初めて語り合った夜の再現だ。あの日の彼は酷く弱っていた。

しかし、今日の彼の目には強く秘められた意志がある。

それが何を語り、何を成そうとするのか。

興味はある。

 

「・・・前に僕に言ったことを、覚えていますか」

 

「さて、何でしたかねえ。様々な事を言ったような気もしますが、オールマイトの後継である貴方の心に響くような事を、この私が口に出来るとは思いませんが?」

 

「ヒーローが自分を打ち倒すことを望んでいると、言ったんです。その意味をずっと考えていました。けど、わかりませんでした」

 

「でしょうねえ。所詮は(ヴィラン)の戯れ言。ヒーローである貴方が真剣に考えることではありますまい」

 

「でも、死柄木弔と話してわかったんです」

 

ピクリと片眉が上がるのが自分でもわかった。

緑谷出久の言葉に引っかかりを覚える。

 

「話したんですか?魔王(オール・フォー・ワン)の後継者である彼と、英雄(オールマイト)の後継である貴方が?戦いもせずに?」

 

「はい。話し合いました。どうすれば()()()()()()()()()()()を」

 

―――なるほど、やられた。その言葉を呑む。

そして、視線をチラリとトガヒミコに向ける。彼女は私の趣味ではない。しかし、どうやら傾国(けいこく)の素質を持っていたようだ。

次世代の英雄である緑谷出久の心を、彼女という存在が動かしていた。

私が死ねば、トガヒミコは泣くだろう。それくらいのことはわかる。

緑谷出久はそれを阻止したいと考えている。女の為に男が頑張る。悪くない。どころかとてもいい。私は女の為に頑張る男を健全だと思う人間だ。私が彼くらいの頃、同じように頑張っていた。

 

「雄英への進攻は、僕の目からも無謀に見えました。オール・フォー・ワンを斃した貴方は、あの場で死んでも良いと考えていた。違いますか」

 

「・・・確かに。しかし、勝てれば良いなとも思っていましたよ?そうすれば私の正義は多くを裁けた。そうすれば大勢の人間の心が救われた。その考えに嘘はなかった」

 

「でも、それは十字行(じゅうじこう)。天国への行進だった!貴方は死んでッ、象徴に成ろうとした!」

 

緑谷出久はテーブルを叩き立ちあがった。

その目に涙はない。怒りが、籠もっていた。

 

「・・・・・・・・・死んじゃ、駄目です。自分の罪から、逃げないでください」

 

「・・・・・・・・・逃げるつもりは、ありませんでした。本当です。私は只、命ある限り復讐という正義の為に生きると決めたのです。故にこの身にどんな危機があろうと、歩みは止めない。それが貴方の目には“逃げ”と見えたのなら、謝罪はしましょう。しかし、それでも私は、止まりはしない」

 

「生きて、罪を償うことも出来るはずです!」

 

「殺人という罪は、何をしても償えるモノではありません。他ならぬ私がそう説いた」

 

「でも、貴方が今まで戦って来た相手は凶悪な(ヴィラン)です!その、だから良いって訳じゃないけど、でも、情状酌量の余地は―――「ありますまい」―――ッ⁉」

 

それ以上の言葉を緑谷出久に言わせる訳にはいかなかった。彼は偉大なる脅威(オールマイト)に憧れた少年であり、その(こころざし)を正しく継ぐことの出来るヒーローだ。

 

本来、彼は私と関わるべきではなかった。

トガヒミコなどという(ヴィラン)の少女に心を引かれるべきでは無かったのだろう。

しかし、それは若気の至りだ。仕方が無い。

そして、だからこそ、これ以上、私を憐れませてはならないのだ。

 

「貴方は知らないのです。私が女子供も情け容赦なく殺す(ヴィラン)であることを」

 

(ヴィラン)以外の人間。法にてらせば情状酌量となる罪人も、私は多く殺している。

 

「でも、それは…」

 

「人間でない、人などいませんよ」

 

私が殺した全員が、確かに”人間“だった。

 

「聖人も罪人も、善人も悪人も、奇人も変人も凶人も、勿論、ヒーローも(ヴィラン)も、皆、人間です。だから、私は許さない。人殺しを、差別などしない。守る為の殺人も、奪う為の殺人も、みな等しく、裁かれるべき罪科に過ぎない」

 

人を殺した人間は、何者であれ、裁かれ死ぬべきなのだ。

 

「私は私の罪も赦しはしない。最初からそうだった。裁判所の前で無罪を勝ち取った人殺しを殺した時から、私の個性(ギロチン)は私を殺せと言っていた」

 

だから、ムーンビーストとしての私の人生は、執行猶予だったのだ。

 

「あは、アハハッ、それにしては幸せだったという自覚はあります。故に貴方に憐れまれる謂れは何もない」

 

緑谷出久は身体から力が抜けて座ってしまった。

 

テーブルの上に置かれた手の震えが、彼の心の混乱を表していた。

私の事がわからないといった彼の言葉。

それでいいのだ。それが正解。正義とはなにか。

私は復讐こそ正義という答えを見出したが、本来、そこに答えなど無いのだ。

 

「他に、何か言いたいことは?」

 

「・・・・・・・・・」

 

緑谷出久は黙り込んでしまった。

トガヒミコはオロオロするばかりだ。

私は二人から視線を外し、緑谷出久と話をしている間はずっと静かにビールを飲んでいたオーバーホールへと視線を向ける。

 

彼は私が一歩も譲らぬことをわかっていたのだろう。

酷く平坦な口調で事実のみを口にした。

 

「お前に今、死なれては困る。この国にはまだお前が斃すべき相手が居る」

 

「・・・ほう、誰ですかねえ」

 

「言うまでも無く死柄木。そして、スターアンドストライプ。この二人はお前が居なければ相手にできない」

 

「それが貴方の目指す極道の復権という未来の為に邪魔だから、殺せと?」

 

「そうだ。どの道、お前が立ち止まらないならいずれはぶつかる相手だ。文句はないだろう?」

 

「ええ、ありませんねえ。貴方は私を使うのが実に上手い」

 

「それを理解していて乗るお前がイカれているんだ」

 

オーバーホールは立ち上がり、オロオロしているトガヒミコの後頭部を叩いた。

 

「イタッ⁉なにをするのですかー!」

 

「その停止(パンク)した彼氏を再起動させろ。死柄木は別としても、日米No.1ヒーロータッグが相手だ。そいつにも働いて貰わなければ勝機はない」

 

オーバーホールから唐突にでた言葉に私は取り乱してしまった。

 

「ち、治崎ッ⁉な、何を言っているのですか!後継をヒーローと戦わせるなど!そんな事をすれば彼が(ヴィラン)認定を受けてしまう可能性があります!それは私の望む事ではない‼」

 

()()()。お前が俺たちの意見を聞き入れないなら、俺たちがお前の意志を汲む必要も無い。俺たちは俺たちのやりたい様にやるだけだ。そうだろう。()()

 

オーバーホールの言葉でトガヒミコに頭を撫でられていた緑谷出久が立ち上がった。

そして、上げられた顔とその瞳を見て戦慄(ビビ)る。

震えた手は混乱していた訳では無く、内に秘めていた怒りを表していたようで、緑谷出久の私を見る目は明確な怒気を孕んでいた。

 

「は゛い゛!」

 

なんだかとっても怖い。私は若干、青ざめながらトガヒミコに訪ねる。

 

「ど、どうしてあんなに怒っているのですかねえ?」

 

「怒っている出久君もカッコいいのです!」

 

私の話など聞いちゃいなかった。

その後、私は有無を言わせぬ雰囲気のまま店を連れ出されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、三日後。

 

『此方、神野区上空より日月放送の報道ヘリがお伝えします‼』

 

『オールマイトの勇退を称え建てられた“オールマイト像”!未曾有の大災害以降、話題に事欠かなかったその場所に今ッ!多くのヒーローと(ヴィラン)が集結しております!』

 

『皆様!コレは現実の光景です!あのオールマイトがッ、像と変わらぬ全盛期の姿で再び立っています!その横にはなんと全米№1ヒーロー、スターアンドストライプの姿もあります‼並の(ヴィラン)であれば裸足で逃げ出す光景‼しかし、その前に立ちはだかるのはムーンビースト‼更にオーバーホールの姿もあります‼』

 

『そうです‼今まさに、ヒーロー陣営と灰色勢力の最後の戦いが始まろうとしています‼我々、日月放送は全力を以て中継いたします!おっと、一旦、コマーシャルに入りますが!』

 

 

 

『チャンネルは、そのままで‼』

 

 

 

 

 




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また誤字脱字報告をしてくださる方にこの場を借りて、お礼を申し上げます!(^^)
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