ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば、幸いです。
m(_ _)m


個性『新秩序』②

 

 

―――『スターアンドストライプを相手に、真っ当な勝利はない』。

 

彼には私には見えていない“勝利”が見えていた。唯一、残った同胞。ステインを失い。レディ・ナガンを弔い。気が付けば私の周りに残って居たのは“彼”だけだった。

私の周りには信奉者(シンパ)が大勢いる。

私の側にはトガヒミコが引っ付いている。

しかし、同胞と呼ぶべき生粋の(ヴィラン)は、最早、彼しかいない。

そんな彼の言葉に命を賭けることに否はない。

 

「真っ当な勝利がないのなら、真っ黒な勝利はあると言う事ですからねえ」

 

ヒーローの本場。アメリカの№1(ナンバーワン)、スターを前に身体の震えを同胞(とも)の言葉で武者震いに変える。

私は臆病な人間だ。何時だって強敵に挑む時は恐怖し震えてきた。

その震えを“怒り”で塗りつぶすことで戦い続けてきた。

しかし、今回だけはそれが出来ない。

 

「貴女は()()()だ」

 

湧き上がる怒りが、目の前の相手への恐怖に耐えられない。

正直に言って直視に堪えない。風に靡き、黄金色に輝く八本の髪束(しょっかく)。纏うコスチュームは星条旗(アメリカの象徴)

アメリカはヒーローの本場であると共に(ヴィラン)の本場だ。

彼女の存在は、そんなアメリカという国にとっての抑止力。

かつて、この国がオールマイトを失い混乱した様に、彼女という存在を失ったアメリカの未来を想像することは容易い。

世が乱れれば、傷つくのは弱き者。それは私の望むことではない。

 

理性では、彼女を傷つけたく無いと思ってしまう。

しかし、個性『ギロチン』は光り輝いている。当然だ。ギロチンの刃は聖人の首も落とす。

判断基準は只一つ。人を殺したか否か。

 

「・・・スター、貴女は今まで殺した(ヴィラン)の数を、覚えていますか?」

 

「つまらないことを聞くね。当然、覚えているさ。彼らの死を私は生涯、忘れることはないだろうよ」

 

「ふ、ハハッ、ええ、やはり貴女は()()()()()()()()()だ。貴女とオールマイトの差異は、きっと環境でしかない。オールマイトはヒーロー留学時代、只の一人の(ヴィラン)を殺す事なくアメリカ留学を終えたが、彼がもし活躍の場をアメリカとしていたのなら、そんな不殺(甘さ)も長くは続かなかったでしょうからねえ」

 

それ程までにアメリカの(ヴィラン)事情は苛烈だろうと、知ったような口を利く私を嘲笑いながら、スターは言った。

 

「いいや、アンタはまだ(マスター)の凄さを知らないようだから言っておくけど、たとえ(マスター)がアメリカに根を下ろしていたとしても、今と同じく誰も殺さずに№1ヒーローになっていたさ。(マスター)の甘さは弱さじゃない。強さの証明なのさ」

 

「随分と影響を受けているのですねえ。アメリカの№1ともあろう方が、こんな島国のヒーローに」

 

「あの二本の触覚に憧れてヒーローになった者は世界中に大勢いるよ。だから、“平和の象徴”と呼ばれている」

 

「そう、ですねえ。きっと、その通りなのでしょう。では・・・いえ、いえいえ、そうではない。()()()()()()()()()()

 

額に手を当て、(かぶり)()る。

 

「ッ、頭痛が、痛い」

 

語彙が壊れる程の偏頭痛。目の前にいるのは、殺すべき罪人。彼女の手は血に染まっている。

血の匂いが、その事実を伝えている。

故の正義執行に何の矛盾もありはしない。ギロチンの刃は差別なく落とされる。

判断基準は只一つ、人を殺したか否か。

答えは“是”。私の個性『ギロチン』はとっくに答えを出している。

しかし、私の理性が彼女の手で救われた多くの命を瞳に映す。

 

「千、いや、万か、億か、貴女は今まで自分が救ってきた人の数を、覚えていますか?」

 

これ以上の彼女との会話は危険だ。

そう判断しているのに口から出てしまった質問に彼女は少しだけ驚いた表情を見せたが、直ぐに淀みなく答えた。

 

「まだ私は夢の途中にいる。だから、数えるのはこれから救う人の数だけさ」

 

「それ、ッ、・・・―――」

 

言葉はなかった。これ以上の会話は()()だと、理性もまた判断した。

言葉無く、四肢にギロチンの刃を形成し、クラウチングスタートの姿勢を取る。

 

「その構え、横浜で(マスター)()したアレだね。最初から、クライマックスって訳だ」

 

私に合わせてスターも構えをとる。片腕と片足を引く、堂々とした迎撃の構え。

私の全力に彼女は全力で答えてくれる。

その姿(強さ)に恐怖する。この恐怖は怒りで越えられるものではない。

同胞(オーバーホール)の言葉が脳裏を過る。確かに“真っ当な勝利”はありえない。

事実、私の正義はアメリカの自由に打ち負かされている。

 

彼女を殺す事。それは彼女がこれから救う人々を殺す事と同罪だ。

 

その事実が心を締め付ける。捨てたはずの迷いが顔を出す。

 

「―――それでも尚、それでも尚と、吠えたのだろう。()()()()()()()

 

誰にも聞こえない声の独り言。私を鼓舞する私の声。

共に肩を並べた親友(ステイン)はもう居ない。

背中を圧してくれた最愛の人(レデイ・ナガン)も弔っている。

 

「二人とも、私が殺したんだ」

 

押し寄せる後悔。喉をせり上がる吐瀉物の味。目が眩み身体が震える。

火伊那が最後だと思っていたのに、また現れてしまった心が殺したくないと叫ぶ相手。

それを、その恐怖を拭い去るために私は叫んだ。

 

「オールマイトと、同じになる為に‼」

 

退路はない。たとえ目の前に広がる道が茨だとしても、前に進み続けるしかない。

足を止めるタイミングはあった。

それでも一歩踏み出した責任を私は負い続けなければ成らない。

 

“正義の象徴”に成るために殺したくない相手も、殺す。

 

「“逆襲鬼(アベンジ・ザ・ブルー)”‼」

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトを(マスター)と仰ぐからこそ、彼女は何度もその戦闘を見返していた。幸いにして他ならぬ(ヴィラン)が引き寄せたマスコミの手によって、その戦闘はネットTVにも流れていた為、アメリカで情報を集めるのにも苦労はなかった。

 

横浜でムーンビーストがオールマイトと伍した戦闘。

アレこそがこの(ヴィラン)の最高到達地点だと彼女は慧眼を以て看破する。

 

(飛ぶ斬撃。空間を削る(やいば)。全てはその姿の副産物に過ぎなかった)

 

逆襲鬼(アベンジ・ザ・ブルー)”。

ムーンビーストが只の二度だけ見せた必殺技にして最終形態。

海上での三つ巴では目にすることがなかった脅威を前に、彼女はそれをチャンスと捕らえる。

 

全身に形成したギロチンを利用した不規則な動き。大気中の塵すらも足場とした三次元の猛襲。しかし、その代価にその姿は遠距離攻撃を捨てていた。

 

「飛ぶ斬撃は来ない。派手に見えてもッ、ソレは只の体当たり!」

 

しかし、それでもスターはその攻撃を侮らない。

 

彼女は、()()()は、その“必殺”を知っている。

超常以前の古い大戦。歴史の教科書に記された四文字に抱いた恐怖を、未だに彼女の祖国は忘れていない。

 

私たち(アメリカ)は、この国のその在り方を恐れていた!)

 

玉砕特攻(カミカゼ)”。

逆襲鬼(アベンジ・ザ・ブルー)”はカウンターを考慮しない()()()()

過去に二度、ムーンビーストはソレを繰り出している。

玉砕特攻を行いながら、彼が二度の生還を果たしたのは相手が日本のヒーローだったからだ。

 

「この国のヒーローは(ヴィラン)にも優しい。その事実が、お前にそんな風にしちまったんだろう!わかるよ!甘いって思うのも!でもね、教えてあげる!それは甘さじゃなくって、強さなのさ!ムーンビーストォオオオオ‼」

 

玉砕特攻(カミカゼ)を止める。

それにどれだけの強さが必要なのかを、ムーンビーストは知らない。

死ぬ気で来る相手を殺さずに止める強さを彼は持ち得ないから、簡単に命を投げ出す。

彼女はその強さを持ったヒーローに嘗て救われたことがあるから、命を大切にしたい。

 

「無駄死には、させないよ」

 

ヒーローは誰かを守る為に命を賭けるが、(ヴィラン)は誰かを傷つける為に命を賭けるだろうか。命を賭けて誰かを守る事は美談だが、その逆を誰が(こと)()ぐだろうか。ありえない。あり得たなら、それは呪詛だろう。

 

“正義”とは真逆のモノだと彼女は断言できた。

 

「誰かを殺すために賭けていい命なんて、この世にはないのさ!忘れているなら、思い出させてあげる!」

 

この国の在り方を、その精神を、祖国を守る為に散っていた英霊たちを、ヒーローとして、そして、軍隊を預かることの出来る特別指揮権を持つ者として心の底から尊敬していた。

その上で言い切れた。

 

玉砕特攻(カミカゼ)は、間違っていた。

だから、スターアンドストライプは全力でムーンビーストを“止める”。

 

「【大気】」

 

個性『新秩序(ニューオーダー)』。

闇の帝王(オール・フォー・ワン)にして、“個性”を逸脱した児戯のような無体な個性(チカラ)と言わしめた。

AFO(ワン・フォー・オール)を除けば間違いなく最強の個性。

その能力は“対象に触れ名を呼ぶことで好きにルールを付与できる”。

彼女の『個性』の覚醒を以て、個性は遂に概念まで掌握するに至っていた。

 

その手に触れた【大気】に付与する新たなルール(新秩序)

 

「【これより私の50M先の大気は凍る】」

 

瞬間、ムーンビーストは周囲の大気ごと凍り付いた。

スターは間髪入れずに走りだし、氷の中にいるムーンビーストの眼球が彼女を捕らえた時には、既にその手が氷に触れていた。

 

「【氷は砕けない】」

 

ムーンビーストを殺さずに捕らえる為の氷牢(ひょうろう)

その中に捕らえたムーンビーストを見ながら、スターは言う。

 

(マスター)に頼まれた。アンタを殺さずに捕らえて欲しいってね。・・・これが、私が出来る最大限の()さだよ。これも砕くっていうのなら・・・」

 

概念を掌握する個性『新秩序(ニューオーダー)』。しかし、そのチカラにもルールはある。

同時に付与できる個性は二つ。そして、生命(肉体)に対しての強化には限度がある。

氷牢はその二つを逸脱していない。本来なら、破れるはずがない。

 

しかし、それを―――

 

「―――ぁ、ぁあ、は、はは、アハハ、ハハハハハハハ‼」

 

―――ムーンビーストは砕いて見せた。

スターに動揺が奔る。

 

「ダメか・・・氷の耐久力の強化上限に引っかかった。信じられないけど、(マスター)並のパワーってワケ!」

 

「私のパワーがオールマイトに伍している?何を馬鹿なッ、これは只の理科の授業です!氷は砕けずとも溶けるモノ‼ギロチンの刃を擦る摩擦熱で溶かしたに過ぎませんねえ!」

 

「べらべらと戯れ言を言うじゃないか!五月蠅い男は嫌いだよ!」

 

「アッハハッ、いえ、HAHAHA‼彼に憧れた少女(キャシー)がッ、性癖は隠すモノではありませんよ‼」

 

「HAHAHA、簡単に憧れと性欲を結びつけるんじゃないよ。【マサヨシ・シュダイ】‼」

 

ギロチンと拳がぶつかり合う。それは嘗てのムーンビーストとオールマイトの再現。しかし、違う点がある。ギロチンの刃が、スターの拳を半ばまで断っていた。

 

上空から二人の戦闘を映す報道ヘリ。テレビ越しにそれを見た人々が悲鳴の後に息を呑む。

 

スターとオールマイトの違いは一つ。殺人の有無。オールマイトの前では切れ味の良い包丁程度のチカラしか発揮できなかった個性『ギロチン』は、スターを前にその威力を十全に発揮している。

 

アメリカ(自由)の拳が、裁かれていた。

 

しかし、スター()は尚も笑う(瞬く)

拳は半ばで断たれたが、彼女は()()()()()()()()()()

 

「【シュダイ・マサヨシの心臓は停止する】」

 

死ねと言った。だから、死ね。

それを可能にする無体な個性(チカラ)

 

「ぐっは・・・」

 

突然の発作。ムーンビーストは胸を押さえて苦しみだした。心停止からの蘇生成功率は適切な救命処置が行われるのが一分以内であれば95%、三分以内であっても75%。出来る限り殺さずに捕らえて欲しいというオールマイトの願いを、スターは彼への尊敬の念を持って最大限に叶えるつもりでいた。それを加味しても悪くないギャンブル。

 

「・・・でも、これでも駄目なワケね」

 

苦しむムーンビーストの動きが止まる。代わりに聞こえるのは耳を劈く金属音。()()()()()()という異音が、ムーンビーストの体内から響いていた。

そして、手負いの獣は立ち上がり、空に向かって咆吼していた。

 

「『ギロチン』という個性の応用。・・・それでは説明が付かないか。ウチの“個性”専門機関の報告じゃ、アンタとトムラは最早、人の手に負えない段階まで来ているって話さ。つまりは何が起きても不思議じゃない未知領域(アンタッチャブル)。心臓が止まっても動き続けるくらいじゃ、驚けないってワケね」

 

“個性”を越えた児戯に等しい無体なチカラを以ても殺しきれない獣を前に、それでもスターは笑う。

 

「HAHAHA、良いね。此所までしたんだ。(マスター)もわかってくれるはずさ。此所から先は手加減なんて出来ない。だから、死にたくなきゃ、死ぬんじゃないよ」

 

「キャシー、いや、キャスリーン・ベイトォオオオオ‼‼」

 

二人のぶつかり合いは、星の衝突に等しい。一撃ごとのぶつかり合いで空気が震えた。ギロチンの刃が、徐々にスターの身体を削りとっていく。

対してスターの身体から血が失われる度に“新たなルール”がムーンビーストを殺していく。

意地(プライド)矜持(プライド)

正義と自由。

退かぬが故に退きはしない。

譲らぬが故に揺らぎはしない。

 

その天秤は、しかし、蝶の羽ばたきによって傾いた。

 

現在、神野区の上空では巨大な積乱雲が急速に発達していた。

ムーンビーストとエンデヴァーとの戦いによって熱せられた空気が、スターの“氷牢”により一気に冷やされ、その局所的温度上昇によって発生した対流と南西からの熱帯低気圧が合流したことによって発生した異常気象は“天の采配”。

 

ギロチンの刃で身体を削りとられながらも、スターは空に手を伸ばした。

 

後に彼女はこう語る。

 

『狙ってやったワケじゃない。只、此所に来る予感があった。だから、“気が付けば身体が勝手に動いていた”』

 

その予感は正しく、“神の力”がその手に落ちてくる。

 

「【雷は、掴める】」

 

あまりに静かに告げられた宣告(ことば)に、ムーンビーストは耳を疑った。

しかし、目の前には雷を掴んだヒーローがいた。

 

「アア・・・これほど、とは・・・」

 

児戯に等しい無体なチカラ。それを振るうヒーローは、正しく少年少女が思い描くコミックの中のヒーローだった。

運命は、ヒーローの勝利を望んでいた。

 

「更に【雷は連なり落ちる】‼」

 

それは人造を用いた偽物ではなく、正しく嘗て大神が振るった雷の力。

束ねられた落雷がヒーローの手によって(ヴィラン)に向けて、裁きの雷として落とされた。

 

 

 

ゼウスの雷霆(ケラウノス)‼」

 

 

 

瞬時に人体を炭化させる熱量(パワー)。避けられる筈のない速度(スピード)。そして、(ヴィラン)運命(デスティニー)

ムーンビーストは瞬きをする暇もなく、目映い光に包まれたのだった。

 

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